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STEAM教室で高性能PCを活用した動画編集とオンライン交流を実施 埼玉県鴻巣市

鴻巣市立中央小学校「のすっ子未来教室」で行われた公開授業

1人1台端末が整った今、学校のパソコン教室の使い方が変わってきている。一例として、高性能PCや大型モニター、3Dプリンターを整備し、子供たちがより高度なデジタル制作や創作活動に取り組めるよう、STEAM教育の場として整備をする自治体や学校もある。

埼玉県鴻巣市もそうした自治体のひとつ。同市では2022年11月に株式会社内田洋行とPBL型学習の事業連携協定を締結し、インテル株式会社も加わって、鴻巣市立中央小学校(以下、中央小)に最先端のICT機器を整備した学習空間「のすっ子未来教室」を構築した。2023年10月には、同教室の高性能PCを活用した公開授業が実施されたので、その模様をレポートしよう。

グループで動画を編集に取り組む小学5年生

のすっ子未来教室で公開された授業は、5年生の総合的な学習の時間「れんげタイム」。中央小は2024年度に近隣の常光小学校との統合を控えており、「みんなが仲良く統合を迎えることができること」を学習のゴールに、PBL型授業を進めてきた。

この日は、これから迎える常光小の児童に向けて作成した「中央小の特色や良いところ」をまとめた動画の中間発表。両校をオンラインでつないで発表を行い、皆でアドバイスを送り合いながら、成果物の修正に取り組む。

発表を行ったのは2グループで、近所の神社やファミリーレストラン、学校行事の会場となる音楽ホールを紹介する動画を発表した。教室前方にある130インチの大型スクリーンには児童が制作した動画と、中央小の発表を見る常光小の児童の姿が投映されている。

常光小学校の5年生に動画を発表する児童たち

発表後は両校の児童が意見や感想を伝え合ったり、改善点のアドバイスを付箋に書いて発表したグループに手渡していた。

動画の良いところ、アドバイスについてリモートで意見を交換

発表のフィードバックを受けた後は、児童自ら机のレイアウトを変更して、グループワークの形態に。集まった付箋を「すぐ出来ること」「やれなそうなこと」と分類していく。児童から集まったアドバイスには、「テロップの文字色を統一したほうがいい」「画面の切替が早い」「ナレーションのスピードが早い」など、さまざまな内容が飛び交った。

分類したアドバイスを手に、児童は高性能PCを囲んで動画の修正に取りかかった。音楽ホールを紹介する動画を作ったグループはまず、テロップの文字色を変更。何色にすれば文字が見えやすいか、グループで相談しながらカラーパレットを開いた。途中、写真のタイルに文字が重なって読みにくいことに気づくと、教員のアドバイスを受けてテキストボックスの上に文字を重ねる方法を試していた。

高性能PCを囲み、指を差しながらテロップの入れ方を吟味

児童たちは、編集が終わると再びスクリーンの前に集まって、動画の改善点について発表。修正前と修正後の動画を見比べながら、改めて意見を交換した。その後、ルーブリックを使って1人ひとりが授業の振り返りを行い、授業は終わった。

友達と協働で課題解決に挑戦することを喜びを感じる児童たち

「れんげの時間」を通してPBLに取り組んだ生徒の変容として、鴻巣中央小学校 研究主任 岩城英美佳氏は令和4年度9月と令和5年度7月に実施した児童のアンケート結果を紹介した。

それによると、「れんげの時間は楽しいですか?」という問いに対して肯定的な回答をした児童が98%に上ったという。また、「友達やいろいろな人と関わって、自分の考えを広げることができる」という問いに対する肯定的な回答は、88.7%から91.9%に向上。この結果を受けて、岩城氏は「主体的に、友達と協働して課題解決を図ることに、喜びを感じている児童が増えた」と実感を述べた。

「れんげの時間」に対する、児童の変容に関するアンケート結果

また、教科横断的な視点では、「他の教科で学んだことを『れんげの時間』に生かしている」という問いに、令和5年度7月の時点で90.3%の児童が肯定的な回答をした。各教科で得た学びを、プロジェクトで主体的に活用する様子が増え、岩城氏は「課題解決の中で児童はさまざまな考え方に触れ、考えを広げ、深める経験を積むことができる」と語った。また、その一方で課題の設定を難しく感じる児童が複数いる点について言及した。

約9割の児童が、教科の学びが「れんげの時間」に生かされていると回答

子供たちの想像力と表現力を無限に伸ばす未来への投資

公開授業に先立って、鴻巣市、内田洋行、インテルの3者で記者発表も行われた。鴻巣市はGIGAスクール構想で、教育ICT基盤をフルクラウド化し、強固なセキュリティや校務の完全電子化を進めてきた一方で、教科横断的なプロジェクト型学習や教育データ利活用などにも力を入れている。

同市長の並木正年氏は「のすっ子未来教室」について、子供たちの想像力と表現力を無限に伸ばす未来への投資であり、「教科横断的なPBL学習の推進拠点として、児童は最先端のICT機器を使って協働的な学びに取り組んでいる」と語った。

のすっ子未来教室のスペック一覧。大型モニターが20セット備えられ、3Dプリンター、動画や画像の編集ソフトといった最新の機材を設置しているほか、可動式の机や椅子が導入されている

鴻巣市では令和4年度に「鴻巣市学校教育情報化推進プロジェクトチーム」を立ち上げ、総合的な学習の時間を中心に、市内各校で実践がなされるよう、授業計画等を作成・周知してきた。

同市教育委員会 指導主事 矢野 貴氏は、こうした取り組みを進めるうえで、インテル社が提供するIntel Teach Program教員研修が市内の教員のPBLに対する理解を深めることに役立っているとコメント。

また、教育活動充実のためのデータ支援・活用の取り組みとして内田洋行と共に行っている「児童生徒のICT活用に係るアンケート」や「鴻巣市学校教育情報化に係る進捗状況整理シート」、月例「学習者用端末起動回数」の調査についても紹介。学習者用端末の使用頻度や活用の幅を見取ることで、学習の質の向上を図っていると述べた。

内田洋行と連携して、データ支援・活用による教育活動の充実をはかっている

今回授業が行われた「のすっ子未来教室」では、アドバイスが書かれた付箋をテキパキと整理しながら、高性能PCで動画編集に打ち込む児童の姿が印象的だった。離れた場所にいる友だちと大きな画面で交流をしながら、短い時間で動画をブラッシュアップさせていく児童たち。こうした学びのスペースが全国の学校に広がっていくことを願う。