トピック

探究活動を支える教師の「同僚性」、生徒の力を引き出す協働とは

――聖徳大学附属取手聖徳女子高の実践から

探究活動は先生にとっても新たな挑戦である。どこから手をつければよいのか、どのように評価すればよいのか、様々な課題に直面し、先生1人で乗り越えるのは決して容易でなはい。

こうした中で、重要な鍵となるのが、先生同士の「 同僚性 」、すなわち、互いに対等な立場で支え合い、学び合いながら専門性を高めていく関係性である。

本稿では、この同僚性を重視しながら探究活動に取り組む、聖徳大学附属取手聖徳女子高等学校に注目。同校の亀川かすみ先生と増田瑞綺先生に、探究活動や同僚性の在り方について話を聞いた。

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聖徳大学附属取手聖徳女子高等学校

茨城県取手市にある私立学校。「和」の精神に則った「礼節(思いやる力)・知育(かなえる力)勤労(助け合う力)」の3つを伸ばす女子教育を教育理念に掲げる。設立は1983年。普通科と音楽科を設置している。

1人の生徒を教師の多面的な目で育てる

─取手聖徳女子高等学校(以下、取手聖徳)では、どのような生徒の育成を目指して探究活動を進めているのかを教えてください。

増田瑞綺先生(教育推進部 副部長 理科主任)

増田  本校では2018年度から学校改革として「探究」「グローバル」「協働」の3つを重視する教育方針を掲げ、探究活動を体系的に進めてきました。目指しているのは、 自ら探究する「学び屋さんを育てる」 ということです。

学び屋さんとは、「自らを知って自らの学びを適切に評価できる生徒」「他者を知り、どう協働するかを考えられる生徒」「社会を知り、自分がどう貢献すべきなのかを考えられる生徒」という3つを条件にしていて、そのために身に付けたい資質・能力として「12の力」を設定しています。自分・他者・社会という3つを掛け合わせることで自己実現と社会貢献ができる、それが本校の目指す生徒です。

具体的な探究活動としては、高1から高3まで週4時間で取り組む「聖徳プロジェクト」がメインになります。ただし、それだけでは「学び屋さんを育てる」という教育目標には足りないため、高2と高3で週2時間の教科探究や、通常の授業で探究活動を取り入れるように先生全員で工夫して取り組んでいます。あとは、希望者のみが参加する課外活動の探究もあります。

聖徳プロジェクトについては、高1は「他者と協働して悩みを解決するのは楽しい」というところからスタートして、グループで調査したり、発表したりします。高2は大学の講義を受けることで社会を知り、高2の後半からは、自分の興味・関心があるテーマで卒業研究に取り組むという流れになります。

「学び屋さんを育てる」探究活動と教師に求められるもの

─取手聖徳ではどのような経緯で先生方が「同僚性」を意識するようになったのでしょうか。

亀川かすみ先生(進路指導部 副部長 国語科)

亀川  探究を本格的に取り組むにあたり、生徒に必要な「12の力」を伸ばすためには、1人の生徒をさまざまな角度から見ることが大切です。そのためには先生の多面的な視点や多様な意見が欠かせないという考えから、意識改革や同僚性の向上に取り組んできました。

また、本校の生徒たちは、最初から積極的にグループワークや発表で活躍できたわけではありません。多くの生徒は、自己肯定感を高めながら少しずつ前に進んでいく子が多いんです。だからこそ、先生たちみんなで同じゴールを見据えたうえで、それぞれの生徒とどう関わっていくかを考えていく必要があります。

生徒にとって必要な経験を設けたり、互いに良い刺激を与える生徒同士を同じグループにするなど、先生同士で話をしながら、1人の生徒を多面的に見るように意識していきました。

同僚性を高めるために、職員室のレイアウトを変えたり、先生が学べる書籍スペースを職員室に設けたりしたのもその頃です。以前の職員室は役所のような感じでしたが、 先生同士が気軽に話し合える「学び合いスペース」が設けられて、対話する機会が増えていきました。

コミュニケーションは「報連相」から「雑相」へ
職員室に設けられた教師同士が対話できる「学び合い」スペース。こうした場をつくることで、「報・連・相(ほうれんそう/報告・連絡・相談)」という業務的なコミュニケーションにとどまらず、雑談やちょっとした悩みを相談する「雑・相(ざっそう/雑談・相談)」へと広がる対話が生まれる

増田  あとは、研修も結構やりました。大掛かりなものではなく、生徒のどういう力を伸ばしたいのか、付せんに貼りながら話し合ったりして、そこから授業をどう作っていくかと先生同士で意識する雰囲気ができた感じがします。2018年には全校にコミュニケーションツールとして Microsoft Teams(以下、Teams)も導入されて、情報共有がすごくやりやすくなりました。

同僚性を高めていこうという意識は若手で作りつつ、ベテランの先生方に協力してもらい、とてもうまく進められたと思います。

職員室に人と情報が集まる「雑談力」

─取手聖徳の先生方が「同僚性」の向上に向けた取り組みをうまく進められたのは、どのような要因があるのでしょうか。

増田   1人の生徒をいろんな先生で見る、 ということをどの先生もすごく意識していることだと思います。学年の先生たちで生徒1人1人の様子を見て、話し合いながら進めている感じがしますね。

たとえば、ほかの授業での生徒たちの様子を聞いて、自分の授業ではこのペアでやってみようとか、あるいは生徒たちが疲れている様子だったら、落ち着いて1人で考える時間を取ろうとか、授業の設計段階でほかの先生の話を参考にすることが多いです。

亀川  それに、そもそも 職員室の雑談が多い というのもあると思います。職員室でほかの先生の話が聞こえてくると、学年が違っても似たような経験のある先生が会話に入ってきてくれてアドバイスをもらえたりすることもありますよ。

増田  あとは、職員室の自席にいる先生が多いということもあると思います。先生は各教科の準備室もありますが、そこに居続けることはあまりなくて、基本的にはみんな、職員室にいることが多いんです。

私もそうなのですが、職員室にいた方が入ってくる情報も多いし、困ったときに相談できる人もいるのが良いですね。ほかにも、具体的な授業内容に関してはTeamsでの情報共有も活発で、その情報をもとに生徒たちに声がけすることも結構多いですね。

📌 同僚性を高めるためにできること

先生同士の対話と情報共有がオープンな雰囲気をつくる

─先生同士のコミュニケーションツールとして活発に使われているというTeamsですが、どのように活用されていますか?

亀川  クラスがチーム単位、教科はチャネルごとに情報共有をしていて、担当している学年の先生はすべての教科・授業、クラスのチャネルが閲覧できる環境にあります。ほかにも、チャネル上には、毎年、各教科で時期ごとに、どのような内容を教えてきたのかといった蓄積された情報を確認します。そうした情報から、もっと知りたい内容について先生に直接聞きに行って教えてもらうことも多いです。

増田  私は今、時短勤務なので朝の打ち合わせ時にはいませんが、連絡事項はTeamsに載っているので、それをチェックしています。気になったところがあれば、学年の先生に詳しく聞いています。

亀川  朝の打ち合わせや毎週の学年会、定期的な会議ならTeamsにスレッドを立てて議事録を載せますし、聖徳プロジェクトなどでは、先生同士の会話の流れで決まったことも、”じゃあ、今の話をTeamsに書いておきますね “という感じで記録を残しています。そうしておくことで、その場にいない先生にも情報共有しやすいですから。

増田  確かに、 Teamsはつぶやくレベルで入力している ような気がします(笑)。でも、 授業で困っていることは、状況を詳しく話さないといけないのでTeamsではなく、直接話すことが多い ですね。使い分けを意識しているわけではありませんが、自然にそうなっている感じです。

亀川  そうですね、本校は先生の人数がそれほど多くありませんし、それぞれ授業の枠もあるので、研修や会議のために先生同士の時間を合わせるのが大変なんです。ですから、できる限り、職員室での雑談やTeamsの情報共有をフル活用しています。

Teamsの新機能を見つけたら、“ねぇねぇ、これ知ってる?”と周りの先生に教えたり、 スクリーンショットをTeamsの使い方のスレッドに書きこんだりして情報共有をしていますし、ほかにも、“●●先生がこの機能を使ってこんなことをしていたよ”といったことも話題にしていますね。

─先生同士の会話とTeamsの両方で情報共有が活発に行われていますね。このような雰囲気は先生方の授業に良い影響を与えていますか?

亀川  先生同士が互いの授業見学をしやすい雰囲気であるのが良いことだと思います。私も授業の内容を変えたいときなど、 ほかの先生の授業をふらっと見学に行って参考にしていますし 、外部の方が授業見学をしたいと言われたときも見に来ていただいています。同僚同士でも、丁寧に断りを入れなくてもいつでも見に行って良いという前提になっています。

増田  担任を持っていたときは、自分のクラスの生徒がほかの先生の授業をどう受けているのかよく見に行って参考にしていました。自分の中で、授業でうまくいかないと感じることがあり、何が足りないのか言語化できないときに、ベテランの先生方の授業を見て参考にさせてもらったこともあります。人と話したり、授業を見に行くことで原因が見えたり、気づくことが多くあります。

亀川  あとは単純に、生徒の違う一面が見たいという理由でほかの授業を見にいってますね(笑)。自分が受け持っている現国の授業と、たとえば体育の授業とでは、同じ生徒でも見せる顔はまったく違うので、”あの子、あんな一面があったのか”とか、”あの子とあの子は意外に仲がいいから今度ペアでやらせてみよう”とか、そういう気づきがあるんですよね。

高い同僚性から生まれる新たな授業アイデア

─職員室での先生同士の会話がきっかけで新しいアイデアが生まれたり、課題が解決されたりすることはありますか?

増田  保健の先生から、「これ、ChatGPTで書いたレポートだと思わない?」と、とある生徒のレポートを見せてもらったことがきっかけで、高2生物基礎で生成AIを活用する授業をやることにしました。これから高3になって入試で小論文を書いたりする機会も増えるのでちょうどいいなと思って取り入れてみました。

亀川  私も、職員室で保健体育の先生が定期テストの小論文について話していたことをきっかけに、受け持っている現国の小論文のテスト問題を考えたことがありました。

保健体育の先生は毎回の定期テストに記述式の問題を出題していましたが、生徒が自分の考えを述べるときに、”1つ目の理由は~、2つ目の理由は~ “という形式でまとめることが多く、そこからステップアップさせたいと話されていたんです。それを聞いて、確かに国語の小論文でもその形式で書いている生徒が多いことに気づき、次のテストではその形式で書くことをやめて、どういう構成で書くか自分で考えてもらうようにしました。

ちょうど、同じ時期に生徒たちは聖徳プロジェクトでレポートの書き方の授業を受けていて、序論・本論・結論といった基本の書き方を学んでいたんです。そういう知識も組み合わせて考えてほしいという狙いもありました。

結果、生徒たちは自分で構成を考えて、自然と接続詞を使ったり、段落を分けて書くようになったり記述の方法が広がりました。

─生徒に対するほかの先生の課題意識が、教科を超えて向き合う共通の課題になることがあるんですね。

亀川  最初は、そこまで生徒たちが大きな改善をすると予想していなかったのですが、“これはいいぞ”と手応えを感じました。ほかの先生の困りごとを、自分の教科だったらどうアプローチできるかと考えることは、普段から先生が生徒の力をどのように伸ばしていくか、足りない力はなにかなど、意識的に会話していることがつながっていると思います。

先生同士の会話を通じて、生徒1人1人の解像度が上がったり、授業中の気づきや新たなアイデアを得られたりすることが、日々のマイナーチェンジにつながっていると感じています。現在は、特に「同僚性」を強く意識することは減りましたが、先生方は 日常的に自然とコミュニケーションを取り合っています。 そうした日々の対話が、結果的に生徒理解の深化や授業改善につながっているのだと思います。

📌 変化を起こす組織の特徴

時代の変化に合わせて組織の在り方も見直されつつある。これまではピラミッド型の組織が主流であったが、現在は価値創造を重視したオープン型の組織が広がっている。取手聖徳が同僚性の向上に取り組んだのは、まさに組織の在り方の転換だといえる。それぞれの教師がフラットにつながり、立場に関係なく意見を言い合う。そのような関係性の中でこそ生徒の力を引き出せるというのだ。

(出典:「職場の科学 日本マイクロソフト働き方改革チームx業務改善士が読み解く『成果が上がる働き方』」より)
📝対談まとめ

ひとくちに「同僚性を高める」といっても、教師の年齢も経験も異なる学校現場においては、決して容易なことではない。多忙な教師が時間を確保することも難しく、改まって何かを語り合う機会は限られているのが実情だ。

取手聖徳では、探究活動を軸に据えながら、同僚性の向上という教師の意識改革に同時に取り組んだ点に、大きな意味があるといえる。共通のゴールを描き、「どのような生徒を育てたいのか」を語り合うことから始める。それが、学校全体の方向性を共有し、チームとしての一体感を生む第一歩になるのかもしれない。

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