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マイクラ×PBLの国際大会で世界1位、立修館高等専修学校が挑んだ「正解のない農業課題」

農業をテーマにしたマインクラフトの国際大会で、世界1位。この快挙を成し遂げたのは、農業専門の高校生でもない、マイクラ好きの生徒でもない。山口県・立修館高等専修学校の女子生徒4人だ。

舞台は、アメリカのNASEF(国際教育eスポーツ連盟ネットワーク)が主催する教育版マインクラフトを活用した国際コンテスト「 NASEF Farmcraft®2025 」。土地需要をテーマにした課題解決で、世界約1,700人の参加者を制した。

2026年1月30日に行われた表彰式と特別授業の現場から、その学びの軌跡を追う。

農業を切り口に、正解のない問いに挑む「NASEF Farmcraft®2025」

NASEF Farmcraft®2025は、 農業をテーマに教育版マインクラフトで課題解決に挑む国際コンテストである。対象年齢は8歳から18歳で、2025年のテーマは「 土地需要(Land Demand) 」。農業における様々な要素を比較・検討し、環境の持続可能性、経済的繁栄、食料安全保障の間に存在するトレードオフを考えながら、課題を解決する。

「NASEF Farmcraft®2025」(出典:NASEFアメリカ公式YouTubeチャンネルより)

コンテストは、「ビルドチャレンジ」と「レギュラーシーズン」に分かれる。ビルドチャレンジでは、農場や食料システムを構築しながら、ゲームの操作や農業の概念を学ぶ。続くレギュラーシーズンでは、3つの課題に挑み、その成果を英語によるプレゼンテーション動画として提出する。

同コンテストの難しさは、 単に作物を増やせば良いわけではないところ 。ゲーム内では、生産量、環境負荷、経済性といった指標が数値化されており、たとえば「食料を増やすと環境スコアが下がる」といった相互作用が生じる。高い数値が高得点という仕組みではなく、 全体のバランスを見極めながら、限られた土地資源をどう活用するかを考えていく 。さらに、その土地活用について英語によるプレゼンテーション動画の提出するという、非常にチャレンジングな内容だ。

水分量や土壌の状態など様々な項目が数値化され、適切なバランスを探していく

食料を増やしても人口は増えない?マイクラで考えるトレードオフ

今回、この国際コンテストで世界第1位に輝いたのが、山口県の立修館高等専修学校である。同校はNASEF JAPANの加盟校として、2022年から同コンテストに挑戦してきた。2022年に初出場で世界3位と4位に入賞して以来、着実に実績を重ね、2025年シーズンでついに頂点に立った。

優勝したのは、チーム「I LOVE ICE CREAM」の本田凪さん(3年)、関谷絢音さん(2年)、中谷未夢さん(1年)、中村ひなさん(1年)の4人。中谷さんは参加の動機について「 農業という未知の分野について調べ、考えることに挑戦したかった 」と語り、関谷さんも「 人と協力して取り組んでみたかった 」と振り返る。4人は役割分担を行い、本田さんが英語資料の読解とプレゼンテーションを担当。残る3人はゲーム内の作業を進めるという形で取り組んだ。

写真左から中村ひなさん、中谷未夢さん、本田 凪さん、関谷絢音さん

最初に挑戦したのは食料生産の課題だ。4人は「生産量を増やせばコミュニティは発展する」と考えたが、人口は伸びなかった。「家には木材、服には綿花が必要です。どちらかが不足すると人口は増えません。しかも作りすぎると廃棄が出て、環境スコアが悪化します。 このバランスを見つけるのが一番大変でした 」と中村さんは振り返る。どうすればバランスが保てるのか。4人は食料廃棄やCO₂排出といった現実の課題にも目を向け、食料生産がもたらす環境への影響についても調べ直したという。

また土地管理には、チームの連携も欠かせない。中谷さんは複数の畑の管理について、「食料や綿花、木材など育てる対象は多く、水や肥料を忘れないようにするのが大変だった」と話す。管理を怠れば収穫量が落ち、種の購入が増えて経済スコアにも影響する。気づいた人が声をかけ、すぐに補充へ向かう。そうした連携が日常的に行われていた。

複数の畑の管理が難しかったが、チームで協力して乗り越えた

ゲームを進めていくうちに、本田さんは農業と関わりが深い林業にも視野を広げた。ChatGPTを活用して林業の現状や課題を調べ、「植林から収益化までに長い時間がかかる点が、若年層が入りづらい理由になる」と考えプレゼンテーションに盛り込んだ。「 問題解決をするなら、きちんと調べることが大事だと改めて学べました。 日本の農業を英語で伝えるのも難しくて、言葉選びも工夫しました」と本田さんは語る。

コンテストを通して成長した点について尋ねると、「 協力する力 」「 周りを見る力 」「 まとめる力 」と4人は答えてくれた。「協力も大切ですが、自分がきちんと動いて司令塔になろうと意識していました」(中谷さん)、「みんなで協力することでコミュニケーション力が伸びました」(中村さん)、「協力することの大切さを感じましたし、自分が知らない下関の農業のことを学べてよかった」(関谷さん)と語ってくれた。 コンテストの結果だけなく、チームとしての協働の過程そのものが4人を成長させた

持続可能な農業モデルとして、人工照明や地熱を利用した「地下空間を利用した栽培」を提案した

ゲーム内に完結せず、現実の課題にたどり着く設計が魅力

立修館高等専修学校 eスポーツ部顧問 板垣聡美先生

eスポーツ部顧問の板垣聡美先生は、今回の受賞について「様々な数値を読み取り、チーム内で対話を重ねながら進めることが鍵だった」と振り返る。

「食べ物だけを増やしても人口は増えない。ではどうすればいいのか。食料が増えすぎれば廃棄やCO₂排出の問題が生じます。人を増やすには家を建てる木材が必要ですが、でも森林を育てるには人手がいる。なぜうまくいかないのか。 ゲームの中で起きていることを解決するには、実社会の課題も同時に考える必要がありました 」(板垣先生)。

その過程で、生徒たちは最適解を見い出し、一つの目標に向かって進むことができたという。4人は普段から元気にハキハキ話すタイプではないが、それでも話し合わなければ前に進めない。活動を通して、自然に声を掛け合い、自分の考えを言葉にするようになったというのだ。

「NASEF Farmcraft®2025」に取り組む生徒たち(画像提供:立修館高等専修学校)

生徒たちをサポートするにあたって板垣先生が大切にしたのは、あくまでも 伴走者に徹する姿勢 だ。生徒たちには最後までやり切ることを伝え、「生徒が悩んでいても極力何も言わず、見守ることを心掛けました」と語る。

板垣先生はFarmcraftについて「非常に質の高い教育プログラム」だと評価する。「取り組むうちに 必要な学びへ自然にたどり着く設計になっており、各国の社会課題や背景の違いが浮き彫りになる点も特徴 です」と語る。また、英語への抵抗感が薄れていく効果にも注目する。「最初は不安があっても、必要に迫られて辞書を引くうちに、単語が自然と聞き取れるようになっていきます」。部活動の時間が英語中心となり、いわば“ バーチャルプチ留学 ”のような環境が生まれていたそうだ。

「農業に興味があるかどうかは関係なく、『 何かを調べて、それを形にする 』。そんなことに興味がある先生がいらっしゃったら、ぜひチャレンジしてみてほしい」と話す板垣先生。生徒たちの成長に手応えを感じている。

生徒が先生にマイクラを教える「逆転授業」を実施

こうした活躍をした生徒たちを称えるべく、NASEF JAPANは立修館高等専修学校で表彰式と特別授業を行った。同校は、文部科学省の「高等専修学校における多様な学びを保障する先導的研究事業」の採択校で、2024年度よりNASEF JAPANと協力して「 スポーツとPBL(課題解決型学習) 」を掛け合わせた、新しい教育カリキュラムの開発に取り組んでいる。

2026年1月30日に立修館高等専修学校で開催された表彰式の様子
NASEF JAPAN 専務理事 大浦豊弘氏

NASEF JAPAN 専務理事の大浦豊弘氏は今回の受賞について、「eスポーツやゲームが単なる遊びではなく、 社会課題を解決する力を育み、生徒の未来を切り拓く強力なツールになり得る ことを、日本の高校生が世界に向けて証明した快挙」と称賛の声を送った。

2025年大会には、世界から約1,700名のエントリーがあったが、日本からの参加は3校だった。NASEF JAPANでは、加盟校に対して教育教材の無償提供や導入支援を行っており、大浦氏は「今後も、より多くの日本の学校がこのグローバルな舞台に挑戦し、世界と渡り合う経験をしてほしい」と語った。

表彰式の後には「マイクラ×PBL」の特別授業が行われた。この授業では、 生徒が先生役、教員が生徒役という立場を逆転 して行われ、eスポーツ部の生徒たちがファシリテーター役を務めた。

生徒が先生、教員が生徒に。立場を逆転したマイクラの特別授業

教員は3人1組となり、「 学校の裏庭に癒しの空間を作る 」をテーマに教育版マインクラフトで作品づくりに挑戦。ほとんどの教員が初心者であったが、生徒の手厚いサポートで作業を進めていく。ブロックの置き方や視点の切替を、真剣に練習する教員たちに、「全部教えるとパンクしちゃうから、まずはここからやりましょう」とやさしくアドバイスを送る生徒の姿が印象的だった。

教員たちの隣に立ち、マンツーマンで指導
マイクラで再現した立修館高等専修学校の校舎に癒し空間をつくった

ワークショップ終了後、先生役を務めた生徒の中村さんは、「 教える難しさを感じた。初心者の先生に伝わる言葉を選んでアドバイスした 」と話す。操作や手順を細かく説明するほど、相手の思考は止まりやすい。一方で、放任すれば進まない。どこまで口を出すかの判断が難しいことを実感したという。一方、先生たちからは「教えられる側の気持ちがよくわかった」「 生徒たちの発想力や説明の論理性にあらためて驚かされた 」といった言葉が聞かれ、マインクラフトを通して互いを知る充実した時間となった。

プレゼンテーションの様子。生徒役となった関谷理事長も作品を説明

「調べる・創る」楽しさが学びを加速し、世界へと導く

表彰式の記念イベントでは、NASEF JAPAN理事長の東京理科大学教授 柿原正郎氏と、NASEF JAPAN 理事の東京大学大学院 客員研究員/常葉大学 客員教授 タツナミシュウイチ氏が講演した。

柿原氏は、正解のない問題(Wicked Problems)について言及。現代の課題には唯一の正解がなく、学生は「何が正解か」「なぜ減点されたか」を気にしがちであるが、試行錯誤を繰り返しながら、正解がない中でより良い解を探求し続ける姿勢を育てることが重要だと述べた。

NASEF JAPAN理事長/東京理科大学教授 柿原正郎氏

タツナミ氏は、先生がマインクラフトの操作をすべて理解して教える必要はないと語った。「マインクラフトは失敗を恐れずやり直せるデジタルの砂場」だと表現し、大人はやり方を教えるより 環境を整える伴走者になってほしい と呼びかけた。

NASEF JAPAN理事/東京大学大学院 客員研究員/常葉大学 客員教授 タツナミシュウイチ氏

今回優勝した4人は、「協働すること」や「調べることの面白さ」に気づき、試行錯誤を重ねた先に、世界一という成果をつかみ取った。その姿は、PBLが目指す学びの理想像を体現していると言えるだろう。調べること、創ること、そして伝えること。そうした学びの原点ともいえる楽しさは、マインクラフトという仮想空間を起点に、現実社会の問いへと広がっていった。ゲームとPBLの掛け合わせは、楽しさを出発点にした主体的な学びが生まれることを示している。