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マインクラフト教育最前線、ゲーム×教育が子供たちの探究心と想像力を育む

東京ゲームショウ2024「GALLERIA」ブースレポート

写真左から、NASEF JAPAN eスポーツ・スカラスティック・ディレクター 坪山義明氏、NASEF JAPAN理事・東京大学 大学院情報学環 客員研究員・常葉大学 造形学部 客員教授・マイクロソフト認定教育イノベーター FELLOW タツナミシュウイチ氏、立修館高等専修学校 情報教育担当 板垣聡美氏

日本最大のゲームイベント「東京ゲームショウ2024」が2024年9月26日から29日にかけて幕張メッセで開催された。株式会社サードウェーブのゲーミングPCブランド「GALLERIA」ブースでは、ステージイベント「探究学習をマインクラフトで ~マインクラフト教育の現在地~」を実施。その模様をレポートしよう。

東京ゲームショウ2024「GALLERIA」ブースの様子

登壇したのは、NASEF JAPAN理事・東京大学 大学院情報学環 客員研究員・常葉大学 造形学部 客員教授・マイクロソフト認定教育イノベーター FELLOW タツナミシュウイチ氏、立修館高等専修学校 情報教育担当 板垣聡美氏、NASEF JAPAN eスポーツ・スカラスティック・ディレクター 坪山義明氏の3名。

NASEF JAPAN(ナセフ ジャパン/特定非営利活動法人国際教育eスポーツ連盟ネットワーク 日本本部)が提供する教材を切り口に、マインクラフトを活用した授業実践や展望について議論が交わされた。

マインクラフトはクリエイティブプラットフォーム、高校と大学の実践を紹介

教育現場でも活用されているマインクラフト。NASEF JAPANは、高校の主要5教科で活用できる授業用教材「Classcraft」と、総合的な探究の時間や部活動で活用できる教材「Clubcraft」を開発し、NASEF JAPANの加盟校に無償提供している。

授業用教材「Classcraft」と、総合的な探究の時間や部活動で活用できる教材「Clubcraft」

今回登壇した板垣氏がeスポーツ部の顧問を務める立修館高等専修学校も加盟校の1つ。板垣氏は、「Clubcraft」の「郷土編」で生徒が制作した「ふぐ刺し」の作品を紹介。「生徒たちはマインクラフトを通して自然とチームワークやリーダーシップ、課題解決力を身に付けることができる」と語った。

立修館高等専修学校の生徒がマインクラフトで制作した「ふぐ刺し」。制作後、自分たちの作品について、水産卸業の企業に意見を求め、学びを深めたエピソードを紹介した
NASEF JAPAN理事・東京大学 大学院情報学環 客員研究員・常葉大学 造形学部 客員教授・マイクロソフト認定教育イノベーター FELLOW タツナミシュウイチ氏

ClubcraftとClasscraftの教材開発に携わったタツナミ氏は、マインクラフトについて「ゲームというよりも、クリエイティブプラットフォームであることが最大の特徴」と語った。

タツナミ氏は、大学におけるマインクラフトの活用事例として、学生が社会問題の解決方法をマインクラフトのワールドの中で具現化する授業を紹介。小学校などで行われているPBL教育や探究学習を、大学生向けにアップデートしたものとして、マインクラフトをゲームではなく「表現のプラットフォーム」として活用しているという。

タツナミ氏の発言を受けて、「高校では、その先に続く学びの入り口を作りたい」と語る板垣氏。

立修館高等専修学校 情報教育担当 板垣聡美氏

立修館高等専修学校では、マインクラフトで農業課題の解決に取り組む高校生向けのコンテスト「FARMCRAFT」に参加している。板垣氏は、それまであまり農業に関心のなかった生徒が、自身のアイデアを農業協同組合の職員にプレゼンテーションし、学びを深めたエピソードを紹介した。

板垣氏は「生徒たちが作った作品を自己満足で終わらせたくないという思いがある」と、生徒たちの学びを深めるための工夫を凝らしている。

NASEF JAPAN eスポーツ・スカラスティック・ディレクター 坪山義明氏

坪山氏は、生徒たちがFARMCRAFTを通して、日本の農業への関心を高め、実践的な学びにつなげたことを高く評価。

それを受けて板垣氏は「ゲームの中だけでなく、現実世界との違いを意識することで、より深い学びが生まれている」と語った。

マインクラフトは学びの入り口、子供たちを導く大人の役割とは

タツナミ氏は、幼いときからマインクラフトに親しんでいた子供が、大学生や社会人になってからも高度なものを作り出す例を挙げ、「マインクラフトでの経験が、創造性を育むための土台になっている」と語る。ワールドを作るだけで満足できないレベルに到達した子供が、Unityを使ってメタバースとVRの世界を自作し始めるなど、ファーストステップとしてのマインクラフトの価値を強調した。

さらに、「失敗を恐れずに、自分が納得するまで、満足するまでやり続けてほしい」とエールを送り、大人に対しては、ゲームへの偏見を捨て、エンターテインメントの中にある教育的価値を理解することが求められると訴えている。タツナミ氏は「子供たちは楽しみながら吸収したものを絶対に忘れない。大人はその環境を与えることが重要」と述べた。

一方、教員の役割について板垣氏は、「マインクラフトについて、大人が子供たちに教えることはあまりない。子供たちの方がうまいし、よく知っている。教員は、テーマに沿って正しく考えるように、ファシリテーター的な立場で管理をするだけで十分」と、子供たちの自主性を尊重する姿勢を示した。

最後にタツナミ氏は「令和を生きる子供たちは、エンターテインメントの中にある教育を吸収できる世代で、『楽しい』は学ぶうえで、とてつもないエネルギーになる。大人の皆さんにはその価値を理解して、子供たちに環境を与え、導いていただけるように協力をお願いします」と締めくくった。

NASEF JAPANでは、教材の提供のほかに小学校高学年から中学3年生を対象としたワークショップ「NASEF JAPAN craft LAB」(通称、ニジクラ)を実施している。内容は、マインクラフトで世界遺産を建築するもので、坪山氏は、今後全国展開も予定していると発表した。

マインクラフトで世界遺産を建築するワークショップイベント「NASEF JAPAN craft LAB(ニジクラ)」

「大切なことはゲームから学んだ」を体現する大人たちが集う、東京ゲームショウ2024。その一角で発信される、マインクラフト教育の現在地は、子供たちの創造性を刺激し、未来を生き抜く力を育てる可能性にあふれていた。教材やイベント、さまざまな形で提供される学びの機会が、より多くの子供たちに届いてほしい。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは幼稚園児&小学生の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。