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ニュース×生成AIで「問いを自分ごとに」、TBSがEDIXで示した「AI for School」の授業活用
―「EDIX東京2026」レポート⑮
2026年5月29日 12:03
生成AIを使った学びは、子供たちにとって身近なものになりつつある。だからこそ、学校で使うAIには楽しく学べることに加え、誤情報への対応や情報源の確かさが欠かせない。
こうした課題に対し、株式会社TBSホールディングスは、放送局が届けてきた ニュースコンテンツを活用し、子供たちの問いに対して社会で起きている出来事をもとに学びを広げる学習支援ツール「AI for School(AIS) 」の開発を進めている。
5月13日から東京ビッグサイトで開催された「第17回 EDIX(教育総合展)東京」では、TBSがAISを展示し、文部科学省の生成AI実証研究事業における活用事例を紹介するセミナーを行った。
本稿では、AISの実証事例を中心に、TBSがニュースと生成AIをどのように学校現場の学びにつなげようとしているのかをレポートする。併せて、 修学旅行と探究学習を結び付ける教材「My世界遺産探究」 についても紹介する。
ニュース×AIで「自分ごと」の授業をつくる「AI for School」
AISは、JNN系列のニュースアーカイブ約40万件と生成AIを組み合わせたボード型の授業支援ツール。TBS系列局が取材・蓄積してきたニュースを、児童生徒の疑問や関心に合わせて届け、教科書の学びと社会の出来事をつなぐのが狙いだ。
ブラウザベースで動作し、専用端末は不要。小学校から高校まで、教科学習と探究学習のどちらにも使える。
同ツールは、文部科学省の「 学びの充実など教育課題の解決に向けた教育分野特化の生成AIの実証研究事業 」に採択され、2025年10月から2026年1月にかけて、東京都渋谷区、千葉県印西市、埼玉県行田市、兵庫県芦屋市、高知県須崎市、鹿児島県肝付町の全国6自治体・13校で実証が行われた。
授業では、教員が単元やテーマを設定し、児童生徒は自分の気づきや疑問をデジタル付箋に書き込む。するとAIがその内容や単元情報を読み取り、JNN系列局が蓄積してきた約40万件のニュースアーカイブから、関連するニュースを提示する。
AIの参照元は、TBS・JNNニュースなどのデータに限定されている。子供たちがAIに触れながら、社会で起きている出来事をもとに問いを広げられる点が特徴だ。
ブースでは、実際の授業を想定した指導案や操作画面を紹介。テーマは小学4年生社会の小単元「自然災害を防ぐ」で、「学校にいないとき避難訓練はどうしたらいいのか」といった問いの例が示されていた。
AIは入力内容に関連するニュースを提示し、児童は映像から得た情報をもとに、災害への備えを自分の家庭や地域の課題として考えていく。
授業設計の面でも、教員が一方的に教材を提示するのではなく、児童生徒の問いを起点にニュースが表示される仕組みになっている。付箋で思考の過程を可視化し、ニュースを見て考えを更新し、話し合いへつなげることが可能だ。
生成AIを「正解を出す道具」として使うのではなく、視点を広げるための入り口にしている点が印象的だった。
「なぜテレビ局が教育なのか」に対するTBSの答え
EDIX会期初日に行われた最初のセミナーでは、AISの実証事例が取り上げられた。
登壇したのは、TBSでエデュテインメント事業を担当する特任執行役員の熊埜御堂朋子(くまのみどう ともこ)氏、鹿児島県肝付町教育長の木村政文氏、札幌国際大学准教授の安井政樹氏。当時、同教育委員会で実証に関わった現・肝付町立内之浦中学校校長の福倉 遵氏も加わり、教育委員会・有識者・学校現場・TBSのそれぞれの視点から、実証を通じて見えてきた成果や課題が共有された。
熊埜御堂氏は、TBSが教育事業に取り組む背景について、「 ニュースやコンテンツの力を、教育の現場にも役立てられないか 」という思いが出発点にあったと語った。
一方で、TBSの教育事業については「まだ初心者マーク」と表現し、教育現場の実践者とともに学びながら事業を形にしている段階であることも強調した。AIの進化が速いなか、学校現場での活用を実証しながら考えていく必要があると判断したという。
同氏は、学校現場でのAI活用には校務の効率化といったさまざまな領域があるとしたうえで、AISでは 児童生徒が直接触れ、楽しく学ぶこと を重視したと語った。子供たちが自分の問いを入力し、AIが提示したニュースを手がかりに考えを広げる。この設計に、TBSがニュースコンテンツを教育に生かそうとする狙いがある。
小規模校の児童が「牛と避難するには」と問いを立てた
セミナーで中心的に紹介されたのは、鹿児島県肝付町の波野小学校で行われた小学4年生社会科の活用事例である。同校は全校児童が18名、4年生は2名(実証当時)という小規模校。授業では、地震や防災をテーマに、児童が災害時の行動を自分の生活に引き寄せながら、AISのボード上の付箋に疑問を書き込んでいった。
その中で、家族が肉牛を飼育している児童が書いたのが、「 牛と避難所に避難するときはどうすればいいのか 」という問いである。
この問いに対してAISが提示したのは、栃木県の高校で行われた牛の避難訓練を伝えるニュースだった。災害時にすべての牛を避難させることは難しいため、あらかじめ優先順位を決め、1頭でも2頭でも助かる命を増やそうとする取り組みだ。
ニュースを見た児童は、すべての牛を避難させられない現実を知ったうえで、「これからおばあちゃんにこのことを教えて、一番に逃がす牛を見つけておいてもらいます」とまとめた。この発表を聞いた教育委員会の職員を中心に、実際に肝付町でも牛の避難訓練を実施する検討が行われたという。
自分の家の牛をどう守るのか、町としてどんな備えができるのか。教室で立てた問いが、家庭や地域の具体的な行動へとつながっていった。
実証を終え、木村氏は、AIの普及によって「正解を急ぎすぎる」学びになりがちな今だからこそ、 時間をかけて考え、最後は自分ごととして捉える学び が重要だと述べた。
先生も一緒に学ぶ、AIS実証で見えた授業の変化
AISの実証では、児童生徒だけでなく、教員側の受け止めにも手応えが見られた。
福倉氏は、実証前の教員の反応について「最初は無理だろうという声も多かった」と振り返る。しかし、実際に触れてみると「どんどん使いたい」「ほかの教員にも使ってもらいたい」といった反応が生まれたという。教員自身もニュースを通して新たな情報に触れ、児童と一緒に学べる点に手応えがあったようだ。
一方で、実証を通じて課題も見えている。木村氏は、今後の活用に向けて、教科の中でどう位置付けるか、学びをどのように評価するかを整理していく必要があると述べた。福倉氏も、提示されるニュースが豊富であるからこそ、どの映像を選び、どのように学びへつなげるかという支援が必要になると語った。
安井氏は、生成AIが学校外でも使われる時代において、「学校でのAI活用を単に禁止するのではなく、どのように学びに位置付けるかが問われている」と指摘した。
AISについては、他地域のニュースを手がかりに、児童生徒が自分の生活や地域の課題として考え直せる点に着目。「 答えのない問いでも、自分ごとに引き寄せることで、自分なりの答えが見えてくる 」と語っている。
セッションの終盤、熊埜御堂氏は、AISが地域への関心を育む可能性について、社会科の米作りを例に挙げた。
教科書で米作りを扱う際、庄内平野など代表的な地域の資料を通して学ぶことがある一方で、AISを使えば、自分が住む都道府県や身近な地域の田んぼ、農家の活動を伝えるニュース映像から農業を学ぶこともできるという。同氏は、そうした学びには「 社会科の理解にとどまらず、地域への思いやふるさとへの思いにつながる広がりがある 」と語っている。
修学旅行を、100年後に残したい「My世界遺産」を探す探究へ
会場では、AI for Schoolに加えて、探究学習教材「My世界遺産探究」も紹介されていた。同教材は、TBSテレビの番組「THE 世界遺産」で培われた映像制作の知見をもとにしたプログラムで、修学旅行などと連動して実施する。
生徒は「 100年後の未来に残したいもの 」をテーマに、調査・撮影・編集を行い、約3分のプレゼンテーション動画を制作する。
同プログラムのセミナーには、「THE 世界遺産」チーフプロデューサーの佐野 香氏、My世界遺産探究のプロジェクトリーダーの門田庄司氏、同 プロデュ―サーの小川直彦氏、広尾学園小石川中学校・高等学校教諭 上原慎也氏が登壇した。
門田氏は、TBS社員の約2割が教員免許を持っていることに触れ、「教育で何かできることはないか」という社内の問題意識から、このプログラムが生まれたと説明した。世界遺産を学んで終わりにせず、100年後に残したいものを自分で探すことで、旅先や身近な地域を見つめ直す学びにつなげることを重視している。
修学旅行に限らず、自分の街で「My世界遺産」を探す地域探究など、全国を視野に入れた展開も想定しているという。
制作を担当した小川直彦氏は、同プログラムの設計について、番組制作の流れと探究学習のプロセスが近いことに着目したと説明した。
番組づくりでは、企画を立て、情報を集め、現地で取材・撮影し、編集して発信する。これを探究学習の「課題設定」「情報収集」「取材・撮影」「編集・発表」に重ね、修学旅行そのものを1つのロケのように捉えられるようにしたという。
修学旅行で同プログラムを導入した上原慎也氏は、生徒たちが撮影や編集の操作に大きくつまずくことはなく、動画制作そのものには慣れている様子だったと振り返った。その分、「何を100年後に残したいのか」「それをどう伝えるのか」という内容面に意識を向けやすかったという。
天候不良で計画通りに進まない班もあったが、生徒たちは行程や撮影内容を見直しながら臨機応変に対応。動画制作のスキルを取材や判断、表現につなげていた点が印象的だった。
佐野氏は、生徒が制作した首里城に関する動画について、単に歴史や復元の経緯を説明するのではなく、 自分たちが何に心を動かされたのかを軸に構成していた点 に注目した。
番組制作でも、どれだけ多くの情報を集めても、作り手自身が感動していなければ見る人には届かないという。 修学旅行先で見たもの、聞いたこと、心に残ったことを、自分たちの視点で伝え直す 。その過程に、「My世界遺産探究」ならではの学びがある。
AI for SchoolとMy世界遺産探究に共通しているのは、ニュースや映像を子供たちが自ら問いを立てるための入り口にしている点だ。
生成AIが短時間で答えを出す時代だからこそ、学校には、 身近な関心事を入り口に考えを深める学び が求められている。EDIX東京で紹介されたTBSの取り組みには、子供たちがワクワクしながら社会とつながり、問いを立て、考えを自分の言葉や映像で表現していくための工夫が詰まっていた。
5月13日~15日に開催されたEDIX東京2026の関連記事をまとめています。製品レポートや各社ブース、セミナーの内容など今年の教育トレンドをチェックできます。
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