トピック

STEAM教育とICTが切り拓く子供主体の学び、教師に求められる役割とスキル

マイクロソフト 教育DX対談企画(前編)

写真左より、日本マイクロソフト株式会社 ソリューションスペシャリスト パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 文教営業本部 青木智寛氏、茨城大学教育学部 副学部長/附属学校圏統括長 教授 毛利靖氏
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日々の授業の中で、子供たちに求められる問題発見力や課題解決力、創造力などをどう育んでいけばよいか、悩む先生は少なくないだろう。そうした課題へのアプローチとして、STEAM教育や探究学習、課題解決型学習といった教科を超えた横断的な学びが広がりを見せている。

AI時代を見据えて、これらの学びにどのように取り組めばよいか。長年つくば市で教育委員会や校長を務め、ICT教育やプログラミング教育など新しい学びに取り組んできた毛利靖氏と、教育を支えるテクノロジーの最前線を知るマイクロソフトの青木智寛氏による対談を企画した。これからのSTEAM教育や探究学習について可能性や課題、その実現に必要な具体策について語り合ってもらった。

【目次】

前編:STEAM教育とICTが切り拓く子供主体の学び、教師に求められる役割とスキル
後編:Copilotが拓く、教員の業務の効率化と教育の新たな可能性

子供の頃からICTの有用性を知り、使える発想を育てることが大切

日本マイクロソフト株式会社 ソリューションスペシャリスト パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 文教営業本部 青木智寛氏

 青木(以下、敬称略)  毛利先生はつくば市で長くICT教育を牽引され、「つくばスタイル科」と呼ばれる教科横断型の学びや、小学校6年間を通したプログラミング教育など、新しい教育に取り組んでこられました。このような学びは、子供たちの将来にどのような影響を与えるとお考えでしょうか?

 毛利  そうですね、もちろん、子供たちの将来のために役立つと思いますが、私自身はICT教育も、プログラミング教育も子供のうちから学ぶことが大切だと考えてやってきました。昔は大人になってからパソコンやプログラミングを学べばいいと言われていましたが、それだと脳の構造がもう固まっていますし、社会常識が身についてから学んでも、なかなか新しい発想は生まれませんよね。

 青木  仰る通りだと思います。子供たちが早くからコンピューターに触れて、その有用性を知っていることや、可能性が広がることが大切なんですよね。

茨城大学教育学部 副学部長/附属学校圏統括長 教授 毛利靖氏

 毛利  そうそう。だから、「コンピューターは学習の道具」ってよく言われますが、それは違うと思ってましたね。授業でよりよく使うのも大切だけど、社会に出てICTを活用したり、課題解決できるようになるためには、こういうときはこう使うという”使える発想”を育てておくことが重要だと思うんですよ。そういう考えだったので、つくば市ではICT活用とプログラミング教育は両輪で取り組んでました。

たとえば、つくば市の6年生が「SDGs プログラミングで地球を救え!」というプロジェクトに取り組んだとき、マインクラフト上でPythonのプログラムを組み立てながら表現する子もいれば、micro:bitで水生生物調査用のカウンターを使ったり、人命救助のドローンを考案したりする子もいました。ほかにも、私が校長のときはね、Microsoft Teamsもよく使ってましたが、子供に「先生、卒業文集のデータ、Teamsに入れておいたから書いてくださいね」と言われたことがあり驚きました。

みどりの学園義務教育学校でのプログラミング授業風景(写真提供:毛利氏)

 青木  すごいですね。情報活用能力が育っていて、子供たちもICTはこういう時にこう使えば便利だと分かっているんですね。課題解決力が求められる中で、子供たちからさまざまなアイデアや発想が出てくることって大切ですよね。

 毛利  社会に出れば、自分の判断でコンピューターを使うわけですし、先生がいなくても自分で学んでいくしかありません。ですから、早いうちから慣れるのは大切です。こうして小学生の頃からICTを活用しておけば、子供の人生も変わるし、社会も変わっていくと思いますね。

「ゴールがない学び」に必要な学習目的と自由の両立

 青木  毛利先生は、ICT教育、プログラミング教育をどのように授業に取り入れられたのでしょうか。よく、新しい学びを取り入れたくても時間が足りないといった先生方の声を聞きますが……

 毛利  そうですね、たとえばプログラミング教育の場合、多くの教員は未経験ですので現場の先生方と一緒にモデル授業を作り上げていきました。時間が足りないという課題については、教科と総合の時間を融合させて、教科の学習目的を明確に設定し、コンピューターを使う作業は総合の時間で行うようにしましたね。

小1国語で「スイミー」の紙芝居をプログラミングで作ったときも、国語の内容は教科の時間で学び、プログラミングは総合の時間で実施しました。ただプログラミングを行うだけでは、子供たちも飽きてしまいますから明確な目的が大切です。あとは、子供たちに小学校1年生から各学年で学ぶプログラミングの学習内容を伝えて、それより上のレベルはいくらやっても良いとしました。

小学2年生の図工「ふしぎなたまご」でプログラミング学習を取り入れた(写真提供:毛利氏)

 青木  なるほど。基礎的なプログラミングスキルを全員に教える一方で、もっと学びたい子供たちには、自主性に任せて自由に取り組める環境を用意されたんですね。それは、とても重要なことだと思います。子供たちは身の回りで気になったことや疑問を解き明かしたいという好奇心を持っていると思いますので、明確なゴールを設定せずに、それぞれの興味や意欲に応じて好きなところまで学びを進められるのは大事ですよね。

 毛利  そうですね。私はね、その「ゴールがない」という点こそ、プログラミング教育やSTEAM教育の魅力だと思っているんですよ。ペーパーテストはそれぞれの能力に差が出てしまいますが、これらの教育では子供たちの興味・関心に沿って進められるのが特徴です。子供たちの発想がなにより大事で、みんなが同じ目標に向かうのではなく、それぞれの進み方が尊重されるのが良いところですよね。

 青木  それでいうと、マイクロソフトが提供している「マインクラフト」もよく似た世界観で、基本的には自分の作りたいものを自由に作れます。最近は、現実世界の課題をマインクラフト内で再現して解決策を考える事例も増えていますし、小さなロボットをプログラミングで動かすなど現実世界との接点を持たせることも可能です。

教育版マインクラフトを使って課題解決学習に取り組む(写真提供:毛利氏)

Windowsパソコンには、ロボットをはじめとしたさまざまなデバイスに幅広く接続できるという特長があります。現実のモノに触れながら学ぶスタイルを支える存在として、教育現場での活用が広がっています。

一方で、子供たちの中には、作りたいものや解決したい課題があってもプログラミングが苦手な子もいると思うんですね。その点についても、生成AIのMicrosoft Copilotの登場で、自分がプログラムを書かなくても、Copilotに聞いて書き方を教えてもらうことが可能になってきました(※)。これまでプログラミングスキルの高い子供たちに限定されてた課題解決のスキルも、今後はもっと多くの子供たちが自分のやりたいことを実現できる世界観が見えてきましたね。

※生徒(13歳以上18歳未満)のCopilot(組織向け)の利用は現在プライベートプレビュー中です(2024年12月24日現在)。

教師の想像を超えることも!ICTで広がる子供主体の学び

 毛利  一方で、プログラミング教育やSTEAM教育、探究学習のようなゴールが決まっていない学習を実施するとなると、先生方が「時間内に終わらないのでは」と不安に思われることが多いと思うんです。

 青木  たしかに、そうですよね。

 毛利  でもね、基本的には子供たちが「これだ」と思ったことを、時間をかけてとことん取り組むのが良いと思っています。大事なのは、先生がテーマやグループを決めすぎないこと。私が小学校で探究学習をやっていたときは、30~40ある課題から子供たちが好きなのを選び、グループも自由にしました。1人でやりたい子は1人でやっていいんですよ。

そうすると、思いもよらない力を発揮する子が出てきます。たとえば、川の水質検査をしていた児童が、上流の状況も調べたくなって、上流にある小学校とテレビ会議をつないでテスターを送って調査を依頼したことがありました。意外にも上流の方が都会だったので、下流の方が浄化されていたことがわかったのですが、その児童が高校生になったとき、水環境のシンポジウムで会って、大学では、地球環境の研究をしたいと言ってました。

ほかにも、今は中2ですが、小5のときに祖母のために津波のハザードマップを作り始めた生徒がいて。祖母の家の近所を自分で測量していたら、それが市役所や大学の先生の目にとまり、協力が得られて測量のエリアが広がりました。中1のときは衛星のデータを貸してくれる企業も現れて、去年、茨城大学の「未来の科学者賞」を受賞しました。「祖母が逃げられるように」という想いで始めたことが、課題解決につながった好例ですね。

 青木  すばらしいですね。小学生でも興味をもったことを追求すると世界が広がりますね。こうした活動って、子供たちがICTを活用できる環境が非常に大きいと思います。

 毛利  本当にそうですね。ICTで子供たちの発想が広がるだけでなく、社会から子供たちを見つけてもらい、つながることも可能になりました。ほかの取り組みでも「Microsoft Bing」で英語に自動翻訳して、どんどん世界に発信したら良いとアドバイスしていますよ。普段から、こうしたツールが使える環境にあることは大きいと思います。

 青木  一方で、小学生くらいだと、自分が何に興味があるかわからないという子や、一つのことを突き詰めるのではなく、次から次へと興味が変わる子もいますよね。そういう子に対しては、先生方がサポートしやすいよう、子供の興味・関心などをICTを活用して見える化して、分かりやすく蓄積しておく仕組みも大事だと思います。

先日、つくば市立みどりの学園義務教育学校を視察させてもらったのですが、先生方が「Microsoft OneNote」を使って子供たちの成果を書き込み共有されていました。OneNoteなら文章や図版、手書きメモを一元的に保存できるので、先生方の情報共有や子供たちの活動記録に役立つと思います。ぜひ多くの学校で活用してほしいですね。

OneNoteなら自由に書き込みができて、情報共有もスムーズ

これからの教師に求められるもの、子供の可能性を引き出すスキル

 青木  STEAM教育や探究学習などの教科横断的な学び、決められたゴールがない学びを実践するにあたって、どのようなICT環境が必要だと思われますか?また、先生方にはどのようなスキルが必要だと思われますか?

 毛利  そうですね、今、パソコン教室をSTEAMラボにする動きがありますよね?STEAM教育や探究学習のために、そうした教室があるのもいいのですが、今の子供たちは動画や音楽、アニメーション、身体表現など、つくりたいもの、表現したいことがいっぱいあると思うんですよ。そんな、子供たちがSTEAMラボを自由に使って、「学校で好きなことが見つかった」と言えるような、そんな環境を作ってほしいですね。

 青木  それは、とても理想的な環境だと思います。そのためには、子供たちがさらにICTを活用して力が発揮できるよう、デバイスのスペックが重要になってきますね。充実したICT環境の中で、子供たちの可能性を広げていただきたいです。

 毛利  そう、その通りですね。あとね、先生に必要なスキルは、まさに子供の可能性を引き出すことですよ。先生は、子供の可能性が無限大なのにもかかわらず、どうしても子供に教えようとして、そのためのスキルを磨こうとします。STEAM教育や探究学習では、心理的安全性を大切にしつつ、コーディネーターとして子供を引き上げるスキルが重要になってくると思いますね。「いいね、いいね」って言ってあげたり、「どうしたの?」「なんで、そう思ったの?」と子供から話を聞いたり。

 青木  そうですね。子供たちの意欲が高まることを見つけてあげて、伸ばしてあげることはとても大事だと思います。ただ、新任の先生や経験の浅い先生などは、それを見つけるのがむずかしい場合もあると思っていて……

現場では先生同士で話をしながら、子供たちの成長を見守られていると思いますが、仕組みとして、いろんな先生が子供たちの状況がわかるようになると、さらに良くなるのかなと思います。たとえば、ベテランの先生がMicrosoft Teamsに生徒の変化を書き込んで、若い先生がそれを見て質問をするとか。ノウハウの共有、気づきの共有が子供たち1人1人の学びを深めていくために重要なってくるだろうと考えています。

 毛利  ノウハウの共有は大切ですね。あとね、先生方も子供と一緒に学ぼうとするスキルや、先生同士で褒め合うスキルも必要です。先生って謙遜する人が多くてね(笑)。もっと、先生同士が褒め合ってもいいですよ。

後編では、新しい学びを実践するために無視できない教員の働き方改革について、それを叶える校務DXをテーマに対談の続きをお届けする。


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