トピック

タブレット端末が文房具になった公立小学校が実践する、探究学習の姿

~つくば市立吾妻小学校の取り組み

伝えたい内容、作りたいものによってタブレットと紙を使い分ける児童たち

小中学校では、1人1台端末を使って学習する機会が増えている。タブレット上で問題を解いたり、調べた内容をスライドにまとめて発表したりと、国語や算数、理科や体育など、さまざまな教科で活用が広がってきた。

一方で、課題解決型学習や探究学習などに取り組む「総合的な学習の時間」はどうか。昨今はICTを活用した探究学習やSTEAM教育について教育者の関心も高まっており、学校現場でどのような学習が行なわれているか気になるところだ。本稿では、つくば市立吾妻小学校の4年生「総合的な学習の時間」の様子をレポートする。

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地域と関わりながら、ごみの削減問題の探究学習に挑む

茨城県つくば市の公立小中一貫校・吾妻学園つくば市立吾妻小学校。児童数は638人

吾妻学園つくば市立吾妻小学校(以下、吾妻小学校)は、市立吾妻中学校と共に、義務教育9年間を通して学ぶ公立小中一貫校だ。「未来に向かい、たくましく生きる児童・生徒の育成」が教育目標に掲げられている。

つくば市では、すべての小学校において4年生の「総合的な学習の時間」には、「ごみ」をテーマにした学習に取り組む。今回取材した吾妻小学校の4年1組でも、「エコ生活のすすめ~ごみをへらそう~」と題した探究学習に取り組んでいた。夏休みをはさんだ数か月に及ぶプロジェクトで、児童たちは「ごみ問題」について学んだことを発表したり、地域の活動に参加したりしながら、環境問題に対する理解を深めていく。

4年1組「総合的な学習の時間」の様子。テーマごとに班に分かれて活動している

4年1組担任の岩田江理子教諭によると、これまで児童たちは関心あるテーマごとに班に分かれ、ネット上の情報収集や調査に取り組んできた。また7月には地域のお祭りである「吾妻まつり」で、ごみ分別ステーションを設置し、来場者に分別の大切さなどについて呼びかけた。さらにお祭りでは、プログラミングツール「Scratch」で作ったごみ分別を学ぶためのオリジナルゲームも披露。事前にやってもらうことで、当日6種類以上もの分別にも慣れてもらうことができた。11月には、自分たちの学びを広げるため他学年に対してプレゼンテーションを行ない、活動を広げていく予定である。

児童たちがお祭りで「ごみ分別ステーション」を設置したり、Scratchで作ったオリジナルのゲームを披露したりした

デジタルとアナログ、それぞれの得意を生かしたアウトプットを実現

取材当日の4年1組では、これまでの経験や学んだことを踏まえて、ごみの削減を周知する作品づくりに取り組んでいた。手描きのポスター、デジタルポスター、動画制作、Scratchによるクイズやゲーム制作など、児童たちの表現はさまざま。伝えたい内容やそれぞれの得意に合わせて、より効果的にアウトプットできるものを自分で選んでいるという。

児童たちが使っている端末は、Windows端末である2in1 PC「dynabook Kシリーズ」。Microsoft 365 Educationをはじめ、さまざまなソフトが授業や学校生活で使われている。

GIGAスクール構想に伴い、全児童に2in1「dynabook Kシリーズ」が導入された

動画制作のグループは、ビデオ録画ツール「Flip」や授業支援システムを使って動画の撮影・編集に取り組んでいた。児童たちは台本も作り、演者と撮影者に分かれて制作。撮影をしては班のメンバーで動画を再生しながら、「“レジ袋いりません”の台詞はもっと強調した方がいいのでは?」といった意見を出し合っていた。

動画作りではしっかり台本も作り、演者と撮影者に分かれて制作

また、Scratchを使ってごみに関わるクイズやゲームを作っている児童が多かったのも印象的だ。これは、つくば市全体で「SDGsに関するScratchのアニメーション制作」が夏休みの課題として出ていた影響もあるとのこと。学んだことをプログラミングで動きのある作品へと表現できるのは素晴らしい。

Scratchで作品づくりに取り組む児童が多い

他にも、授業支援システムを使ってデジタルポスターづくりに取り組む児童や、かるたの読み札はタブレットを使って制作し、絵札は紙に手描きする児童もいた。さらには、今までの学習からもっと知りたいことが出てきたと、Webブラウザーで情報収集や資料探しに取り組む児童の姿も見られた。

その一方でタブレットを使わずに、紙に色とりどりのペンで絵や文字を描き、表現豊かにメッセージをまとめている児童もおり、個性が感じられる。アウトプットの方法としてさまざまな選択肢があり、幅広い発想をもって表現できる学習環境は、児童の学ぶ意欲を刺激しているように感じた。

授業支援システムを使ってデジタルポスターづくり
かるたの読み札はデジタルで制作
Webブラウザーを使って資料探しも積極的に行なう
表現したいアウトプットに合わせて児童がデジタルと紙を自由に選ぶ姿が印象深い

環境問題を「自分ごと」として捉え、行動に移せるようになってきた

4年1組担任の岩田江理子教諭

このような総合学習を実践している岩田教諭。児童の様子を見ていると、デジタルとアナログをそれぞれに上手く活用しているが、どのような指導をしているのだろうか。

「みんなの想いが伝わる方法を考えてごらん、と声かけをしています」と岩田教諭。「子どもたちは一連の活動を通してごみ問題に対する“想い”や“伝えたいこと”を持っており、それを、どのようなカタチで表現したいのか考えてほしいと思っています。また情報を発信するときも、教室で広げるときは何を使えば良いか、学校全体や、他の学校に広げるときには何を使えばいいか、目的に応じて使うツールを考えられるよう声かけをしています」と語る。

作品を作った児童は「Microsoft Teams」(以下、Teams)で共有し、学年で共有できるようにしているという

また、ICTを活用した総合学習を通じて、児童の環境問題に対する意識や行動自体にも変化が見られるようになったという。「子どもたちはこれまで、正しいことは言えても、それを実行に移せない場面がありました。しかし、今は、ネットを使って幅広いテーマや情報にアクセスできるようになり、子どもたちの興味あるものを調べ、探究しやすくなりました。そのため自分ごとになりやすいのか、少しずつ行動に移せるようになってきたと感じます」(岩田教諭)。

一方で、ネットやタブレットを使うことが目的にならないよう、探究学習では実生活につなげることや、実体験を重視すること、また、自分から課題が生まれるような促し方を大切にしていると岩田教諭は語る。

「子どもたちの興味は広く、教師1人ではカバーできません。環境問題について、プラスチックやクジラを調べたいというピンポイントの児童もいます。そのため、教師が児童一人ひとりの内容に深く関わることはむずかしいですが、検索のやり方や情報が正しいかどうかなど声かけはできます。ICTを上手く活用しながら、教師は実体験や実生活との結びつきを大事にしていきたいですね」と語ってくれた。

休み時間の利用もOK。担任に申告すれば、持ち帰りも自由

教務主任の内田 卓教諭

吾妻小学校全体におけるICT活用について、教務主任の内田 卓教諭にも話を伺った。

まず驚いたのは、同校では休み時間にタブレット端末の使用を認めていること。係の活動をPCで工夫したり、興味のあることをネットで調べたり、児童の判断で休み時間も使用できるというのだ。「教科や単元によっては端末を使わない授業もあるので、ひょっとすると休み時間の方が使っているかもしれないですね」と内田教諭は語る。

また担任に申告すれば、児童の判断で持ち帰りが可能だ。一律の持ち帰りを実施している学校はあるが、児童が自分の判断で決められるという学校は多くはない。4年1組でも「授業の続きを家でやりたいから、タブレットを持って帰っていいですか」と聞く児童もいた。こうした話を聞くと、タブレット端末が文房具として定着していることがよくわかる。

タブレット端末は担任に申告すれば自分の判断で持ち帰ることができる

Windows端末を使うメリットについて内田教諭は、校務用パソコンとの連携のしやすさや、教師が端末の操作に慣れていることを挙げた。「教師も、知らないことは怖いものです。その点、普段から使い慣れているWindows端末なら指導する際も安心ですし、管理の立場からいえば教育委員会との連携もとてもスムーズにできるので助かっています」と話す。

端末の導入で多くの子どもの意見が可視化され、共同作業も効率化

今回取材した授業以外でも1人1台端末で、学習はどのように進化しているのかを伺ってみた。

岩田教諭は「授業中、児童全員の意見を一斉表示できるようになり、他の人の意見がとても見やすくなりました」とコメント。手を挙げない子の意見も目に入るようになり、どの意見も埋もれず取り上げやすくなったという。

また、共同作業がしやすくなったのも1人1台端末の大きなメリットだ。「新聞を作るときは、分担作業で取り組み、最後に1人がデータを集約すればグループでまとめることができます。紙だと得意な子が進めてしまいますが、端末で作業すると文章や絵などそれぞれが得意なことに分業しやすいのも良い点です」と説明。

タブレット端末を使うことで共同作業もしやすくなった

さらに、内田教諭は「それまで目立たなかった児童がプログラミングで活躍してみんなから注目された」といった事例や、コロナ禍の中、オンラインで授業を受ける児童に対して、「Microsoft Teams」経由で連絡事項を簡単に共有できるなど、教師側の時短にもつながっているとコメント。岩田教諭も「文字を書くのが不得意な子がタブレット端末に書き込んだり、連絡帳の黒板を撮影して端末を持ち帰るなど、今まで学校でつらさを感じていた児童たちのフォローがしやすくなりました」と語った。

プレゼンテーション能力の向上と、本格的な探究学習に注力

同校では現在、プレゼンテーション能力の向上をめざして、朝の会に夏休みに楽しかったことをタブレット端末で発表する機会を設けているそうだ。本当に伝えるためにはどのように表現するのが良いか、全校あげて取り組んでいるという。

その進歩がめざましいと岩田教諭。「夏休み前の授業中のまとめのプレゼンは文字だらけだったのに、夏休み後の朝の会の発表ではすっきりとした、人を引きつけるものを児童たちが作っています。写真も多用して、足りない素材はインターネットを参照したりと工夫も十分。友達の発表を見て触発され、自宅に端末を持ち帰って作業したりと、非常に良い影響を受けています」とのこと。やはり、子どもたちの中に伝えたいものがあり、それを叶える表現ツールがあると主体的な学びに変わるようだ。

岩田教諭と内田教諭。後ろの模造紙は、来年度のカリキュラム・マネジメントを整理したものだという

さらに同校では、実質的にはすでに探究的な学習が行なわれているが、来年度からは全学園でより探究的な学習を取り入れる予定だという。「教員研修を通して、学校でもカリキュラム・マネジメントできるところはないか、総合の授業を軸にして他の教科との関連も探っている」と内田教諭。今後もICTを日常的に使いながら、探究的な学習を通して、さらに充実した学びを提供していく考えだ。

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