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GIGAスクール2年目のリアル、TeamsやFormsから学び方・働き方が変わり始めた学校現場

~埼玉県和光市教育委員会の事例

1人1台端末の「整備」から始まったGIGAスクール構想は今、「活用」のフェーズに入っている。しかし、その活用の中身は各自治体に委ねられており、教育のICT活用を力強く推進できている所はまだ多くない。全国的に見れば、コロナ禍をきっかけに休校時のオンライン授業からICTの利用を始め、今もさまざまな課題に直面しながら活用を模索している、という自治体が多いのではなかろうか。

そんな「GIGAスクール構想のリアルな今」を知るため、埼玉県和光市教育委員会に話を伺った。以前は児童生徒のICT活用は限定的であったという同市も、コロナ禍とGIGAスクール構想を経て、着実に学び方・働き方に変化が見え始めているようだ。同市の取り組みから、GIGAスクール構想2年目の今をお伝えしたい。

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“まずは使ってみる”というマインドを大切に

和光市役所

埼玉県和光市は人口約8万人、東京23区に隣接したベッドタウンで、市内には小学校9校、中学校3校がある。同市は、「生涯にわたる自発的な学びと、豊かで健やかな人生の実現を支援する教育」を基本理念に掲げ、子どもたちの確かな学力の習得や、デジタル技術の進化に対応した教育の充実に力を入れている。

「これだけ社会でICTが普及した今、子どもたちが授業や学校生活で日常的にICTを使えることは重要だと考えています。だからといって、すべての授業をICT化しましょうという話ではありませんが、子どもたちが日常的に文房具として使えるような環境・活用をめざして、GIGAスクール構想の取り組みを進めてきました」

そう話すのは、和光市教育委員会 学校教育課 副主幹兼指導主事 山中惇太郎氏だ。同市では、令和3年度に1人1台端末の整備が完了。以来、‟まずは使ってみる”というマインドを大切にしながら進めてきた。

その後、同年9月にはコロナ禍の分散登校を市内の全学校で実施。「子どもたちの学びを保障しようと、多くの教員がハイブリッド授業に取り組み、その結果、ICT活用も大きく進みました」と和光市教育委員会 学校教育課 課長補佐兼指導主事 岩﨑洋氏は振り返る。授業支援システムに組み込まれたWeb会議ツールを活用して、自宅にいる児童生徒と教室にいる児童生徒をつなぎ、授業を同時に進行。ICTを使わざるを得ない環境に直面したことで、教員の主体的な活用につながったようだ。

左:和光市教育委員会 学校教育課 副主幹兼指導主事 山中惇太郎氏、右:和光市教育委員会 学校教育課 課長補佐兼指導主事 岩﨑洋氏

和光市は、GIGAスクール構想でWindowsを選択。山中氏はその理由について、「教員の意見も参考にしつつ、世の中でシェアが多く、社会でも広く使われているOSを選びました。子どもたちもWindowsに慣れておくことが大切だと考えています」と語ってくれた。

機種は「Lenovo IdeaPad D330」を選択。小中学校の学習者用タブレット端末として6445台を整備したほか、授業を行なう教員に対しては教務用のタブレット端末「Lenovo 300e 2nd Gen」も390台導入し、手厚い環境を整備した。自治体によっては、教員が使える教務用タブレット端末がないためにICT活用が進みにくい、という課題もよく耳にする。その点、和光市はGIGAスクール構想当初から教務用タブレット端末の必要性に着目して整備しており、日常使いをイメージしていた証だといえる。

和光市が導入したタブレット端末。左が教員用「Lenovo 300e 2nd Gen」で、右が児童生徒用の「Lenovo IdeaPad D330」

授業支援システムで進んだ教員の活用児童生徒はPowerPointを使い、Formsで小テストも

このようなカタチで1人1台端末の活用がスタートした和光市。当初はコロナ禍という状況でICT活用が後押しされたが、現在はどのように取り組んでいるのだろうか。

まず、多くの教員が利用するようになったICTツールは、授業支援システムだという。

子どもたちのタブレット端末に課題を配信して問題を解いたり、それぞれの意見を大型提示装置に一斉表示して意見共有や発表をしたりと、双方向な授業にICTが生かされている。これにより、今まで手を挙げない子の意見も拾えるようになったと山中氏。

「ノートにいいことを書いているのに発表しない子っているのですが、ICTを活用することで全員の意見を取りあげやすくなりました。発表が苦手な子にとっても、自分の答えが前に映し出されるのは自己肯定感も高まりますし、またクラスの子がいろんな子の意見を知ることができるのもとても価値のあることだと感じます」(山中氏)。子どもたちの授業に対する参加感も増し、主体性も育んでいけるというのだ。

1人1台の端末を活用することで、全員の意見も取りあげやすくなった

また学校によっては、教科の学習や総合の学習の時間などで発表の際に、Microsoft PowerPointを使ってスライドを作成し、発表する場面も見られるようになってきたという。少し手の込んだものを作りたいときにPowerPointを選ぶそうだが、作るものや目的によって、ICTツールを使いわける場面も見られるようになってきた。子どもたちも、タブレット端末が自分の文房具である、という認識も少しずつ芽生えているようだ。

ほかにも、休み時間にタブレット端末の使用を許可している学校では、自主的にタイピングの練習に取り組む子どもも出てきているという。山中氏は「小学生であっても、すごい早さでタイピングができるようになっている子もいます。そういう姿を見ると、タブレット端末を触り、経験しながら学んでいく大切さを感じます」と語ってくれた。大人は操作を教えなければと考えてしまいがちだが、子どもたちに必要なのはタブレット端末を触る時間の方なのかもしれない。

さらに、和光市の教員の先進的な取り組みとして、Microsoft Formsを活用した小テストの事例も聞くことができた。Formsを活用すれば、生徒たちが提出した小テストは瞬時に採点・集計される。問題ごとの正誤率も把握できるため、授業中に間違いが多かった問題について解説するといったことも可能だ。山中氏は「丸付けは教員の業務の中でも時間のかかる作業の1つです。Formsを使うことで採点や集計作業がかなり効率化できると考えていて、働き方改革にも有効だと思っています」と語った。

学校によって取り組み方はさまざまだが、授業や休み時間、教員の働き方改革など、できる教員が、できることから始めるカタチで日常使いを浸透させていることがわかる。

Teamsの情報共有で時間とコストを削減、学校を超えたつながりも

子どもたちのICT活用だけでなく、校務でのICT利用も広がっている。使っているのはMicrosoft Teams(以下、Teams)。研修や会議をTeamsのオンラインで実施したり、学校によっては、Teamsで校務の連絡を行なったり、職員会議の資料をペーパーレスにして共有するといった事例も増えているという。これはまさにICT活用の王道といった使い方で、アナログで行なう場合と比べて、日々の移動時間や印刷時間を大幅に削減できることは、他の自治体や先進校でも必ずと言っていいほど聞くメリットだ。

また、多様な働き方にもICTが生かされている。コロナ禍では、教員は元気でも濃厚接触者となって学校に来られない場合もあり、こうした時は、教務用タブレット端末を自宅に持ち帰り、家から授業を行なう教員もいたという。

「GIGAスクール構想で、教職員の働き方改革も進みました。もちろん、先生方に自宅での作業を強制しているわけではありません。学校に来なくても、“家からでもできる”という方法を提供できたことで、働き方の選択肢を広げていきたいと考えています」と山中氏は語ってくれた。

ほかにも和光市では、学校を超えたつながりの場にもTeamsを活用。各種主任会やICT先進校のグループ、市内の全教職員が参加するグループなど、さまざまなグループをTeams上に作成し、学校を超えて教員同士がつながり、情報収集・共有できる場を提供している。他の教員のICT活用を見て参考にしたり、便利な使い方をやってみたらよかったとコメントを残したり、教員の口コミからICT活用が広がっていくような場をめざしている。

和光市ではリアルな教員研修も実施

デジタルとアナログの良さを生かした効果的なICT活用へ

このように、ICT活用が広がり始めた和光市。山中氏はこれまでの取り組みを振り返り、「ICTを活用することが少しずつ当たり前になってきていると感じています。ただし、これからはタブレット端末をいかに効果的に使っていくかが大切で、どのような場面で、どのように活用するのがより効果的なのか、試行錯誤しているところです」と語る。

具体的に和光市では、ICTの効果的な活用をめざして年間指導計画を作成し、その中にICTの活用欄を設けている。国語では「考えや意見の共有」「作文添削」「文章の要約」、社会では「情報収集・整理」「考えの類似意見の整理等」など、学習活動に即したICT活用を全教科に設け、“1日のうち授業時間内に2回以上使用する”、といった目標を設けている。もちろん、なんでもかんでもICTを活用するのではなく、教科の特性や学習内容に合わせて、意識的にICTを活用し、デジタルとアナログのそれぞれの良さを活かしたより効果的な学習を進めていく考えだ。

山中氏

また、今後の学習活動ではMicrosoft Whiteboardを広げていきたいと山中氏は話す。「さまざまな授業で意見をグルーピングして話し合いをする活動がありますが、模造紙は場所を取りますし、保存もできないのがネックでした。しかしWhiteboardでデジタル化できれば、“この前はこうだったよね”と話し合いの続きができ、思考の流れも見える化できます。教員もグループごとの意見や話し合いの結果を残しておけるので評価もしやすいと考えています。これから積極的に広げていきたいツールですね」(山中氏)

ほかにも、情報モラル教育にも取り組んでいきたいと山中氏。やってはいけないことは何か、ICTを活用するためには、どのようなスキルを系統的に身につけていくのか。これは、学校だけで年間計画をつくるのはむずかしいため、教育委員会と各学校の教職員とで連携して作成し情報を提供していくという。

一方で、現時点の課題はインターネットの速度だ。和光市はGIGAスクール構想の整備でローカルブレイクアウト(※)に切り替え、速度は速くなったものの、それでも今後、学力調査がCBT(Computer Based Testing、コンピューターを使った試験)になり、一斉にネットにアクセスする状況になれば、速度が課題になるというのだ。同様のことは和光市のみならず多くの自治体が直面しており、今後の対策が急がれる。

※インターネット回線を自治体で一本化せず、各学校単位で直接インターネットに接続すること。

ICT活用が進んでくると、新しいことを一気に広げたくなるが、まだまだ不慣れな教員や苦手意識を持つ教員も多いため、丁寧に、地道に活用を広げていきたいと山中氏。その一方で、教員にはどんどん新しいことにチャレンジしてほしいとエールを送る。「教員は新しいことになると、失敗してはいけないと考えてしまいがちですが、試行錯誤しながらやっていくことも大事です。ICTの場合は特に、子どもたちの方が飲み込みも速いので、子どもから学ぶことも恐れないでほしいですね」(山中氏)

GIGAスクール構想で1人1台端末が導入され、和光市のようにICTの日常使いをめざす自治体は多い。しかし、そうした考え方はこの数年で出てきたもので、まだまだ実現していくのはどこの自治体であってもむずかしい。地道に着実に、できることから少しずつ広げていく、学校の新しい挑戦を社会や家庭も理解を示しながら見守っていきたい。

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