【連載】高橋暁子の「親と先生の気になるネット」

なぜ暴行動画の投稿・炎上が続くのか、学校や保護者ができる対策とは

ネットは日々変化し、子供たちを取り巻く環境も大きく変わっています。本連載では、ITジャーナリスト・高橋暁子さんが、保護者や先生が知っておきたい最新のネット事情をわかりやすく解説します。

2026年1月4日、あるXアカウントに栃木県の高校のトイレにおける暴行動画が投稿されると、瞬く間に拡散、炎上状態に。加害者とされる高校生、家族や自宅などの個人情報も拡散され、一時期生徒の名前がトレンドワード入りする事態になった。その後も次々と中高生の暴行動画が拡散され、個人情報がさらされる羽目になっている。

「学校や教員に相談しても無駄だからSNSに投稿しているのでは」とも言われるが、なぜ暴行動画の炎上は続くのか。暴行動画投稿のデメリットとメリット、防ぐための方法を紹介する。

トイレの暴行動画が炎上、1億回以上の再生に

「レディ、ファイッ!」。栃木県の高校生による暴行動画には、無抵抗な生徒を一方的に回し蹴りしたり、殴ったりする様子が映っている。取り囲むほかの生徒たちは、楽しげで暴行を止める様子もない。いじめを疑うこの暴行動画は、あまりにショッキングなため、すぐさま拡散され、大炎上した。本稿の執筆時点では、1.1億回再生となっている。

動画の拡散が始まった翌日から、学校側は関係生徒への聞き取りを実施し、12月19日の清掃終了後に撮影されたものと明らかになった。「身体的な苦痛が伴うものでいじめの疑いがある」と認識し、1月8日の始業式後、いじめの状況把握のため全生徒にアンケートを実施したという。

警察も暴行事件として捜査を開始。生徒などに事情聴取したところ、暴行を加えた生徒は一人で、「申し訳ないことをした」と話したそうだ。

動画がどのような経緯で流出したのかはわかっていない。しかし、高校のトイレというプライベートな空間での動画であること、モザイクなどがかけられていないことから、同じ高校の生徒が撮影したことは恐らく間違いないだろう。

暴力行為やいじめがいけないことなのは間違いない。しかし、SNS上で拡散、個人を特定してさらすことはどうだろうか。「いじめが明らかになったのだからいいことだ」という意見もある一方で、「未成年に対してやりすぎではないか」という意見も多い。

なお栃木県警は、動画を把握した翌日に加害者などから事情聴取し、報道機関の取材にも応じている。誤った情報や人権侵害が広がることを防ぐためであり、通常、少年事件では関係者保護の観点から警察の介入なども秘匿されることが多いことを考えると、異例の早さでの対応となっている。

撮影・投稿できる環境が整っている

その後も、大分県内中学校の廊下や、福井県の高校内での教室内で無抵抗の生徒に殴る蹴るの暴行を働く動画が次々とSNS内で拡散、学校名や生徒名などの個人情報がさらされ、教育委員会や学校が謝罪する事態となっている。なぜこのような動画が次々と投稿されているのか。

まず前提として、多くの小中学校生は学校貸与端末を所持しており、インターネットにアクセスできる環境があることが指摘できる。学内でも撮影が容易であり、児童生徒がSNSを利用していることが一因となっていそうだ。事実、大分県内中学校での暴行動画は、 ほかの生徒が学習用タブレットで撮影した後、自分のスマホに転送したものだった

いじめなどは、ほかの児童生徒も目撃していることが多いものだ。おかしなことがあれば、いつでも撮影・投稿できる環境が整っている。 ただ単に撮影や投稿を禁じてもあまり意味はない というわけだ。

単純に撮影や投稿を禁じてもあまり意味はない

いじめ減少も、過剰な制裁になっていないか

現状、投稿された動画のほとんどは、拡散されて個人が特定されている。その結果加害者は、さらされたり罪に問われたりなどの制裁を受けている。これが成功体験となっていることも、大きな理由だろう。

一連の暴行動画は、ある暴露系インフルエンサーのXアカウントの投稿から拡散、炎上に至っている。その人物は自称「いじめ撲滅委員会」であり、いじめをなくすことを目標として掲げている。

そのアカウントの元には、『(おかげで)「学校でいじめられなくなった」というDMが毎日100件以上」届いているという。これが事実とすれば、いじめや暴行を働いたらさらされ、処罰されるということが知れ渡った結果、いじめが減っており、動画拡散にはメリットがあるということになってしまうのだ。

しかし一方で、当事者がすべて未成年であること、事実関係を確認せずに拡散されており、 事実誤認のリスクが残っていることには注意が必要 だ。

生成AIを使ったディープフェイク動画の可能性もある。東名高速あおり運転事件での誹謗中傷など、誤った人物名をさらすことで名誉毀損罪で訴えられたケースもある。 事実関係を確認する前に拡散などをすることは絶対に避けるべき だろう。

また、暴力行為が事実であれば、それ相応の処罰や指導が必要なのは当然だ。しかし未成年はそもそも未熟な存在であり、適切な指導や見守りを受ける必要がある。

一度ここまで炎上した以上、デジタルタトゥーになることは間違いない。しかし未成年にとって、自分の行為や個人情報が一生付いて回るデジタルタトゥーになることは、罰として釣り合うのか。逆に彼らの更生の機会、自分の罪と向き合う機会を奪うことになりはしないか。

ℹ️デジタルタトゥー
インターネット上で公開された投稿や画像などの情報のこと。個人が発信した情報が他者によって拡散されることで、完全に情報を削除できず、半永久的に残る現象を指す。

いじめを通報して被害者を救いたい、加害者を罰したいというだけでは説明できない事態も起きている。福井県の高校内での暴行動画は、高校によると2023年に撮影されたもので、すでにどちらの生徒も在籍していない生徒という。そのような動画をさらしものにすることが、本当に適切なことなのだろうか。

YouTuberなどが突撃をして動画を配信したり、まとめブログなどで家族名や自宅まで特定してさらす例もある。このすべてが純粋に正義感ゆえと言えるだろうか。

罪に問われ、迷惑を被る可能性を伝えよう

暴行動画は次々と掘り返され、投稿され、拡散されて、炎上している。しかしこれは明らかにやりすぎであり、いじめや暴行をやめさせるために最適な行為とは言えない。

現状は、加害者だけでなく被害者にとってもデジタルタトゥーとなってしまっている。学校には100件を超す抗議の電話が来ているといい、現場となった学校に通う受験生にも影響が出ているはずだ。周囲の無関係な家族、同じ学校に通うほかの生徒たちも迷惑を被っており、これは明らかなデメリットと言えるだろう

個人情報をさらすだけでなく、誹謗中傷しているケースも見かける。このようなものは、当事者たちから名誉毀損罪やプライバシー侵害などで訴えられる可能性も十分にある。

いじめや暴力をやめさせるにはもっと別の方法もあること。SNSに投稿したり拡散したりすることにはデメリットが大きいこと、 自分たちが罪に問われたり、迷惑を被る可能性も高いこと を伝えるべきではないか。

誹謗中傷するケースでは、当事者から名誉毀損罪やプライバシー侵害などで訴えられる可能性がある

匿名の目安箱、相談できる場の用意を

一連の騒動を受けて、こども家庭庁は一連の騒動を問題視し、関係省庁との緊急会議を開き、対策を発表している。

文部科学省には児童生徒へのアンケート調査、担任・スクールカウンセラーによる面談の実施により暴力行為やいじめが見過ごされていないか確認すること、事案が発生した場合には被害児童生徒の安全の確保と心身のケア、加害児童生徒に対しては警察などと連携し、学校教育法に基づく懲戒や出席停止などの措置を含め毅然(きぜん)と対応すること、SNSなどで人権侵害につながりかねない動画が投稿・拡散された場合は、速やかにSNS削除依頼をするなどとしている。

SNS上の暴力行為等の動画の投稿・拡散を受けたこどもの暴力行為・いじめに係る緊急対応について(出典:こども家庭庁 令和8年1月16日 いじめ防止対策に関する関係省庁連絡会議

元動画は次々と削除されてはきているが、一方で新しい暴行動画が投稿され、炎上は続いている。

「いじめ防止対策推進法」以来、学校内外で起きたいじめは隠されることなく、適切に指導されるようになってきているはずだ。それが児童生徒に十分に伝わっていない可能性が高い。

いじめや暴行を目撃し動画を撮影しても、 SNSに投稿しない こと。まず証拠として教員、または教育委員会に相談するべきだ。学校側は、相談する手段を伝えると共に、相談されたいじめや暴行は決して無視しないで対処することを児童生徒に約束として伝えてほしい。保護者もそのような事態を知ったら、学校側と連携して解決することを伝えてあげてほしい。

いじめを教員などに告げたら、今度は自分がターゲットとなることを恐れている可能性もある。そのような場合に備えて、匿名で相談できる目安箱を用意したり、 匿名で通報できるアプリ「STANDBY」といったもの を活用することも検討するといいのではないか。

児童生徒が専門の相談員に匿名で報告・相談できるプラットフォーム「STANDBY」(出典:STANDBYのWebサイトより)

そのほか、児童生徒一人一人に話を聴く機会を設けたり、校長室や保健室、スクールカウンセラー室などを相談できる場として開放するのもおすすめだ。

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α新書)、『スマホで受験に失敗する子どもたち』(星海社新書)ほか著作多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/