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Canvaが描く教育とAIの未来──共同創業者が語る、日本の教育現場での展開
2025年7月28日 06:30
グラフィックデザインツール「Canva」を提供するCanva Japan株式会社は、2025年7月23日に都内で記者説明会を開催した。登壇したのは、同社共同創業者兼CPO(最高製品責任者)のキャメロン・アダムス氏、Canva Japan株式会社カントリーマネージャーの高橋敦志氏、同コミュニティリードのKT氏。会見では、グローバルおよび日本市場における成長戦略と教育分野での取り組み、そしてAIを活用した今後の展望が紹介された。
日本はグローバルでも注目市場に
Canvaは設立から12年ほどで、世界の月間アクティブユーザー数が2億4,000万人を突破。これまでに作成されたデザイン数は300億点以上、AI機能の利用回数は180億回、有料ユーザー数は2,600万人にのぼる(2025年7月23日時点)。日本でも成長は著しく、累計作成デザイン数は5億5,000万点を超え、グローバルでも最も急成長している市場の1つとなっている。
「日本では、デザインやレイアウトといった“見た目の工夫”に対する関心が高く、教育や行政の現場でも、伝わるビジュアルの重要性がますます認識されている」と語るキャメロン氏。
日本市場に向けては、写真素材やテンプレートのローカライズも進み、株式会社アフロや「いらすとや」との連携により、日本の文化や日常に即した素材の充実が図られている。また、ふりがなの自動付与機能など、日本語特有の課題に対応した開発も進めている。
Magic Studioが広げるAI×デザインの可能性
Canvaの使命は「誰もが簡単にデザインできる世界をつくること」。その考えを形にしているのが、AIを活用したデザイン支援機能「Magic Studio」だ。キャメロン氏は、CanvaのAI戦略は3つの柱で構成されていると説明した。
第1の柱は、自社開発によるAIモデル。ユーザーの操作ログやデザインデータをもとに、資料やビジュアルを瞬時に最適化する仕組みを構築している。第2は、OpenAIやGoogleなど外部AIとの連携。Googleの動画生成AI「Veo3」を使えば、説明文を入力するだけで、ナレーションや音楽付きの映像が自動生成される。第3は、他社のAIアプリがCanva上でネイティブに動作する開発者向けエコシステムの提供だ。
中でも注目を集めたのが、Googleの「Veo3」を使った動画生成機能だ。テキストプロンプトで指示すると、構成・ナレーション・音楽付きで映像が自動生成され、Canva上で自由に編集できる。プレゼンテーションでは、「登山者が山を登っている様子を、ドラマチックに描いた映像」を生成するデモが披露された。
さらにこの7月には、Anthropic社が開発した生成AI「Claude」との連携機能を実装。「Claudeコネクタ」によるチャット形式の対話を通じて、レイアウトや配色まで含めたデザインを自動生成できるようになっている。
「AIが資料の下書きづくりやレイアウト調整などの手間を引き受けることで、私たちはアイデアを考えたり、伝え方を工夫したりといった“本質的な思考”に集中できるようになる。『Magic Studio』は、そのためのパートナーです」とキャメロン氏は強調した。
世界で1億人以上の教員と児童生徒が利用、現場主導の普及も進む
日本カントリーマネージャーの高橋敦志氏は、日本の教育現場における広がりについて紹介した。世界中の教員や児童生徒を対象に「Canva for Education」の月間アクティブユーザー数が1億人を超える中、日本でも教育分野への取り組みが強化されており、自治体単位での導入が進むなど、学校現場での活用が着実に広がっていると語った。
具体的な事例として、厚木市立鳶尾小学校の成田潤也氏、埼玉県立本庄特別支援学校の関口あさか氏の実践を紹介。成田氏の授業では、生徒がAIのプロンプトを工夫し、出力結果をもとに改善を話し合うという探究的な学びを展開している。また、関口氏の授業では、文章だけでなくビジュアル表現を活用することで、個々の発想や表現の自由を引き出すツールとしてCanvaを活用しているという。
また、日本語教育に欠かせないふりがな自動付与機能など、現場のニーズに応じたローカライズも進んでおり、「単なるツール」ではなく「教員自身の働き方を支える存在」としての評価も高まっている。
一方、キャメロン氏は、日本の教育分野における特徴として、Canva 認定教育アンバサダー(Teacher Canvassador)をはじめとする教員同士のつながりの強さに感銘を受けたと語る。「熱意ある先生たちが現場で使い方を共有し、横のつながりから導入が広がっている点がとても印象的だ」と述べた。
また、Canva for Educationはトルコ、ポーランド、インドネシア、パキスタンといった国々では国単位で導入が進んでいる一方で、日本では教育委員会ごとに制度や方針が異なるため、自治体単位で1つずつアプローチする必要があるという。そうしたなかでも、教員コミュニティの自発的な取り組みが広がりを支えていることに深い関心を示している。
コミュニティ統括として、子供たちと教員の姿を間近で見てきたKT氏は、「不思議な空想の動物をデザインし、そこから言葉を学んでいった子供が、やがて地域のボランティア活動でプロジェクトリーダーを務めるようになった例もある」とCanvaの実践例について紹介。
自己表現の機会が、子供たちに自信と他者とのつながりをもたらし、社会への関わり方にも変化をもたらしていると語った。
また、「私たちは単なるツールの提供者ではなく、人の人生に良い影響を与える存在でありたい」と述べ、教育現場での取り組みや、教員たちが安心して活用できる環境づくりに今後も力を入れていく考えを示した。
教員同士がつながる「Teacher Voyagers」
説明会では、教職員コミュニティ「Teacher Voyagers」の施策も紹介された。この取り組みでは、Canvaを活用する教員が地図上に自校を登録し、近隣の教員同士がつながりやすくなる仕組みを構築。現在600名以上が登録しており、今後は教育版Canvaの設定画面からワンクリックで参加可能となる見込みだ。
KT氏は「“自分だけが使っているのではない”とわかるだけで安心して使える。Teacher Voyagersは、共感とつながりを見える形にする仕組みです」と語り、現場に寄り添ったコミュニティ形成の重要性を強調した。
キャメロン氏は、「Canvaは教育に関わるすべての人を“Empowerer(支援者)”にするためのプラットフォーム。教員や保護者、児童生徒それぞれが、表現する力を得ることが教育の未来につながる」と語り、今後も教育分野への取り組みを強化していく姿勢を示した。