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マイクロソフト、本格的な教育データ利活用に向けてTeamsや連携ソリューションを充実

日本マイクロソフトは12月12日、全国で進むGIGAスクール構想のICT利活用事例と教育データの利活用に関する説明会を実施した。

GIGAスクール構想も2年目を迎え、全国的にICT活用が進む中、教育データの利活用に注目が高まっているようだ。

Teamsの「Education Insights」ではじめる教育データ利活用

日本マイクロソフト株式会社 執行役員 パプリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏

日本マイクロソフト株式会社 執行役員 パプリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏は最初に、ICTの日常的な活用が進む自治体の先進事例を紹介。TeamsやOneNoteで教員と児童生徒が課題や学習内容を共有し、フィードバックを通して学習効果を高めている取り組みを挙げた。

また興味深い事例として、児童生徒や教員が互いに称賛を送るTeamsの機能「VIVAインサイト」を利用した効果も出てきていると言及。教員と児童生徒の関係や、子ども同士の関係において、コミュニケーションを促し、安心感が得られるなどの成果が見え始めているという。

絵文字やメッセージで互いに称賛を送る「VIVAインサイト」。児童生徒と教員の関係構築を助け、子どもたちに安心感を与える

また教育データ利活用について中井氏は、Teamsにはさまざまな学習ログや活動の履歴データを収集し、教育データとして分析して学習者支援につなげるソリューション「Education Insights」(無料)を標準機能として提供していることを紹介。児童生徒の学びや状態を可視化することで、1人1人の理解を深めるのに役立つ。

Teamsではさまざまな学習ログや活動の履歴データが蓄積され、「Education Insights」を通して可視化、分析できる
左側にある「Insights」をクリックして、アクセス

Education Insightsでは、クラスやグループごとの学習活動状況の確認が可能。またサポートが必要な児童生徒やクラスの傾向など教員が注目すべき活動を「スポットライト」として提示してくれる。たとえば、深夜によく作業をしている児童生徒の名前をスポットライトに提示するといった具合で、教員に気づきを促す。

さらに中井氏は、Teamsの標準機能として注目の機能を2つ紹介。1つ目は、AIを活用した音読の練習「Reading Progress」だ。英語や国語の音読で活用可能で、Windows端末だけでなくiPad、Chromebookでも利用可能。児童生徒はTeamsで配信されたテキストを音読し、録音して提出。音声はAIが自動採点し、児童生徒に返却される。

AIを活用した音読の練習「Reading Progress」。Insights「スポットライト」でつまずいた単語や正確性を可視化できる

2つ目は児童生徒の感情をキャッチする「Reflect」。生徒児童に対し毎日「今日の気持ち」を問うアンケートを行ない、個々の児童生徒・クラス全体の感情の揺らぎを可視化。丁寧な声かけや、円滑な学級運営に活用できる。

児童生徒の感情をキャッチするTeamsアプリ「Reflect」

つくば市と渋谷区、「教育ダッシュボード」を構築し教育データ活用へ

次のセッションでは、TeamsなどのMicrosoft 365 Educationから得られるデータだけでなく、その他の学習系システムや校務系システムのデータを組み合わせ、教育データを広く活用している2自治体の事例を紹介した。

児童生徒とデータをIDで紐づけ、目的に応じて幅広い活用を行う

1つ目は「子どもたち一人ひとりへの細やかな指導」を目指す茨城県つくば市。同市は「教育ダッシュボード」を構築し、市内の5校でテスト運用している。教育データの可視化には「Power BI」を活用。どのようなデータを何のために扱うのか、教育委員会と学校で密に協議し、「自律的な学習者」の育成をめざして教育ダッシュボードを構築している。

茨城県つくば市教育委員会の教育データ利活用の取り組み

2つ目は東京都渋谷区の取り組みだ。渋谷区ではデータ活用の目的として、「子供1人1人の幸せ(Well-Being)の実現」を掲げ、教員の子ども理解に基づいた指導による学校満足度の向上を目指している。教育ダッシュボードを「学校全体の俯瞰シート」「クラス状況シート」「児童・生徒個人状況シート」に分け、1人1人の児童生徒をきめ細かく、多面的に見られるようにした。

東京都渋谷区教育委員会が活用する教育ダッシュボードの「児童・生徒個人状況シート」

これら2自治体の取り組みを受けて中井氏は、「児童生徒に対して教員の共通理解が生まれ、話し合いの時間を短縮する効果も生まれている。子どもたちの感情や気持ちに寄り添い、早期の声かけにつながっている」とコメントした。

日本マイクロソフト株式会社 DX推進室長 阪口福太郎氏

一方で、同2自体のデータ利活用基盤に関しては、DX推進室長 阪口福太郎氏がコメント。「バージョンアップやバックアップがコスト最小で済むよう設計されており、5年~10年の間に作り直しが発生しない基盤を念頭に置いている」と紹介した。また渋谷区の事例に対して、これから注目されるキーワードは「内制化」と言及。世の中や子どもたちの変化に応じて、必要なデータを自治体自ら抽出し分析できることが大切だと語った。

渋谷区のデータ利活用基盤の構成図

マイクロソフトでは、Teamsの標準機能として使えるEducation Insightsのほか、学級を超えて、教育リーダーや教職員が組織全体のデータ活用に使える「Education Insights Premium」を有償で設けている。

有償版では学級を越えて、組織全体でのデータ活用が可能となる

さらに中井氏は教育データの利活用の効果を高めるツールとして、児童生徒の名簿情報をOffice 365に取り込む「School Data Sync」を紹介。これを活用することで児童生徒の情報が紐づき、学年全体、学校全体など広い範囲での学習データ分析が可能になるという。

School Data Sync

教育データの利活用の安全性を支える連携とソリューション

日本マイクロソフト株式会社 教育ICTソリューションスペシャリスト 山越梨沙子氏

教育データの利活用を進めるうえで、導入や運用の安全性は重要な課題の1つだ。最後のセッションでは、教育ICTソリューションスペシャリスト 山越梨沙子氏がデータ活用パッケージのセキュリティ面について説明した。同社はパートナー企業と連携したうえで、主に3つの面で安全性を強化している。

マイクロソフトは3つの安全性を強化

1つ目は、校務支援システムや学習アプリベンダーとのID連携。IDを1つに統合し、シングルサインオン連携を可能にしている。2つ目は文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」に対応した、ゼロトラストセキュリティ基盤。校務系・学習系を統合してクラウド化、必要な機能をMicrosoft 365 A5のワンパッケージで提供している。3つ目は安全なデータ分析・可視化基盤の提供に伴う、基盤構築パートナーとの連携強化だ。

今後もさらなる教育データ利活用の推進に向けて、マイクロソフトのウェブページでは、Teamsと連携している学習アプリや学習eポータル、校務支援システムなど各企業のソリューションを紹介した「Microsoft Education 連携ソリューションカタログ」も公開している。

カタログには、28のパートナーソリューションと日本マイクロソフトのソリューションを掲載

最後に中井氏は、教育データ利活用において、”データはお客様のもの”、同社が”広告目的で使用・共有することはない”などポリシーを説明した。

なお、今回のプレス説明会に合わせて教育データの活用に関するWebサイト「GIGA スクール時代の教育データ利活用を公開している。