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自律した学習者を育む授業とは?生徒も教師も大切にしたい「遊び心」
――東京成徳大学中学・高等学校が実践する理科教育
- 提供:
- 東京成徳大学中学・高等学校
2025年2月14日 06:30
子供たちが自らテーマや問いを見つけ、主体的に学ぶ探究学習が広がりつつある。その一方で、学びの入り口となる知的好奇心や興味・関心をどのように引き出すのか、ますます重要な課題となっている。
こうした中、ひとつのアプローチとして理科教育に力を入れているのが東京成徳大学中学・高等学校(以下、東京成徳中高/東京都北区)だ。同校の理科教育は「遊び心を大切に」をモットーに、生徒の興味・関心を広げながら、学びの土台ともいえる知的好奇心や多様な視点を育んでいる。生徒の成長につながる授業とはどのようなものか。同校の理科と社会の授業を紹介しよう。
生徒も教師も、「遊び心」を大切にした理科教育
東京成徳中高が目指すのは、「自律した学習者(Distinguished Learner)」の育成だ。創造性と主体性、チャレンジ精神を重視した人材育成を教育目標に掲げ、英語教育・グローバル教育・ICT教育などに力を入れている。またApple認定校としての強みを活かした先進的な教育や、多様なプログラムを提供しているのも特徴だ。
そんな東京成徳中高では2023年度から理科教育を充実させるべく、6年間のカリキュラムを刷新した。
理科主任の中村千鶴教諭は「生徒たちの“やってみたい”、“この実験をやったらどうなるだろう”など、知的好奇心を引き出しながら生徒たちが主体的に学ぶためにはどのような授業をすればいいか。そのモットーとして、『Playfulness(遊び心)』を掲げました」と語る。生徒はもちろん、教師も遊び心を持って多様なアプローチで理科の授業づくりを行う狙いが込められている。
スタートは、生徒たちが理科を好きになることから。そのため中学生に対しては、実験や観察の時間を多く設け、興味・関心を引き出す授業を重視している。中1は「身のまわりにある科学に気づこう」、中2は「みんなで科学しよう」、中3は「自ら科学しよう」と段階的に理科の視野を広げ、主体性を伸ばすカリキュラムが構成されている。
授業自体もユニークで、理科の学習というよりも、生徒たちのワクワクが先にくるような内容で面白い。
例えば、中1「単子葉植物・双子葉植物」の単元では、「ハトの餌ってなんだろう」という問いから始まる。トウモロコシや小麦、ソバの実などさまざまな穀物と種がブレンドされたハトの餌を教室のベランダで2週間栽培し、発芽した双葉や根を比較し観察した。また「葉のつくり」の単元では、単に名称をインプットするのではなく、葉脈標本を作成。生徒が標本づくりを通して五感を刺激し、観察しながら学べる活動を取り入れている。
また、中2の「気象のしくみと天気の変化」では、生徒たちが日常的に利用する「天気アプリ」を題材として取り上げた。気温や気圧、湿度などの他に、「体感温度」「空気質」「視程」といった項目も天気アプリに表示されるが、それらの情報がどのようにデータ収集され、どのように生活で役立てられるのかを調査。その結果をスライドにまとめて、新たな「○○指数」を提案するという活動を行った。
「天気は、生徒たちにとってあまりにも身近な話題であるため、興味や関心を引き出すのが難しいのですが、視点を変えて考えることで面白さを感じられるように工夫しました」と中村教諭。最後には、生徒たちが考案した「○○指数」の中から、最も生活に役立つと思われる指数を投票で選ぶ場面もあり、実生活と関連することで理科の面白さが味わえる授業を行った。
このように、遊び心を取り入れながら、生徒の興味・関心を広げるカリキュラムや授業を実施し始めたことで、生徒たちの理科に対する姿勢にも変化が見られるようになったという。生徒アンケートの結果によると、カリキュラム変更後に「理科がきらい」と答える生徒の割合が減少し、理科に対して前向きな態度が見られるようになったというのだ。
「不自由な自由研究」で自走力を身に付け、高校の探究ゼミへ
ほかにも、東京成徳の理科教育で特徴的なのは、中学生が取り組む夏休みの課題だ。「不自由な自由研究」と呼ばれるもので、研究の進め方にあえて“制限”が設けられている。中1は「3つ以上のものを比較する」、中2には「結果を数値化する」という条件を付与し、中3になってはじめて生徒が自分でテーマを選び、グラフ化を条件とした自由研究に取り組む。
中村教諭は「最初からすべてを生徒に委ねるのではなく、学年に応じたガイドを設定しながら生徒の探究心を刺激し、自ら課題を見つけ、解決していく力を育む。それが、理科教育が目指す『主体的な学び』の出発点です」と語る。生徒は観察や実験方法、データの取り方などの理科の素養を段階的に見に付けながら、自分で探究できる主体性を養う。
こうして、中学3年間の理科教育を通じて興味・関心を広げた生徒たちは、高校でその専門性をさらに深めていく。その中心となるのが、高校1年生全員が取り組む探究学習「Diversity Seminar(以下、ゼミ)」だ。同ゼミでは、生物や化学、社会、芸術など幅広い分野の講座が用意されており、生徒たちは自身の興味に応じたテーマを選び、1年間にわたり探究学習に取り組む。
ゼミの内容も独特だ。2024年度は「おいしいコーヒーの入れ方」を科学的に探究する講座や、生ゴミを堆肥にする「もったいないゼミ」を開講。全5講座あるゼミの中で4講座を理科の教員が担当しているという、理科教育はゼミの大きな柱となっている。
中村教諭は、生徒たちが自律した学習者になるためには主体性を伸ばすことが重要だと語る。「生徒たちが多様な考え方ができるように、たくさんの種をまきたいと思っています。その先に自分でどう考えるか、それができるようになってほしいですね」と語った。
自分なりに解釈できる力を育む、考えることがいっぱいの歴史の授業
東京成徳中高では、理科に限らず、自律した学習者の育成を目指して、他の教科でも独特な授業が行われている。
中川琢雄教諭が担当する中学1年生の歴史も、そのひとつだ。知識のインプットに偏りがちな歴史の学習において、中川教諭は「選ばれる史料によって歴史の像は多様になり、解釈は人によって異なる」という重要な視点を、中学1年生の段階から体感できる授業を実施している。
例えば、鎌倉時代について学ぶ学習では、生徒たちが歴史上の出来事をそれぞれの視点でストーリーに表現し、解釈の違いを体験できる授業を実施した。
グループで「冒頭」「発端」「山場」「クライマックス」「結末」というストーリーラインに沿って、鎌倉時代の出来事を並べて物語をつくるというアプローチだが、モンゴル帝国の趨勢に注目するグループ、鎌倉幕府の誕生から滅亡に焦点を当てるグループなど、同じ鎌倉時代でもストーリーに選択する出来事が違うためグループによって異なる視点の物語ができあがる。
生徒たちを見ていると、ストーリーの作り方が異なることに気づく。クライマックスから考える生徒もいれば、事件のはじまりとなる「発端」から考える生徒もいて、グループ内でも議論が活発になっていく。どのような結末に持っていくのかもむずかしいようで、「フビライ・ハンは結局最後どうなった?」「ちょっと他のグループを見てみようよ!」と互いの意見をまとめていく姿が印象的だった。
「生徒には誰かが教えた歴史をそのまま覚えるのではなく、自分で史料を読み取って問いを持ち、自分なりの解釈を見つけ出せるようになってほしいと考えています。そのためには、中学1年生の段階から、自分で考えて、自分で判断するという体験が重要だと考えています」と中川教諭は語る。
授業の後半では、完成させた物語をもとに動画を作成。ライブビデオを使ってナレーションを入れ、創造性を刺激するアウトプットに挑戦した。
また高3の歴史も担当する中川教諭は、高校生にはさらに深いテーマを投げかけている。太平洋戦争を取り上げた授業では、「どの段階ならば戦争を防ぐことができたのか」というテーマについて生徒たちが生成AIを活用して自分なりの解釈を出す活動に挑戦した。
「今まで歴史の授業では、知識をインプットしてから議論をするカタチで進めていたので、前段階として多くの時数や説明が必要でした。ところが生成AIは、生徒たちが知識を補うための『相談相手』として利用できるので、ざっくりとした問いを投げかけ、そこから主体的に自分たちの考えを深めていくことができるようになったと思います。授業は社会で必要なスキルを培う場でもあり、未熟でも構わないので、生徒が自ら課題を見つけ、解決策を模索できるような授業をつくりたいですね」と語っている。
中高6年間の学びを通じて、生徒の自律や主体性を育むためには、自分の考えや世界を広げていくことが欠かせない。東京成徳中高の取り組みは、生徒自身の興味・関心や経験、学びから生まれる「問い」を軸に、自律した学習者へと成長する土壌を丁寧に育んでいる点が魅力的だといえる。こうした校風や学習環境で育った生徒たちが、社会で活躍する未来が楽しみだ。