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自律した生徒が育つから入試が変わった、Apple認定校が始めた新しい中学入試

――東京成徳大学中学・高等学校における新入試の取り組み

2022年2月から中学入試版AO入試を取り入れた東京成徳大学中学・高等学校

自分の将来について真剣に考え、目的意識を持って大学に進む――そんな生徒を評価するのが大学入試における「総合型選抜(旧AO入試)」であるが、中学入試でこうした試験を始めた学校がある。

東京成徳⼤学中学・⾼等学校はICT教育や語学留学、探究学習などさまざまな教育改革を実施し、生徒の可能性を広げる学びに力を入れてきた。そんな同校では2022年2月の中学入試から新たな取り組みとして、“⾃律した学習者”の資質を見い出すことが目的の新入試「Distinguished Learner選抜入試」を実施した。その内容や試験の様子を紹介しよう。


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長年の教育改革が、ようやく実を結び始めた

東京成徳大学中学・高等学校(東京都北区)

東京成徳大学中学・高等学校(以下、東京成徳中高)は、「徳を成す人間の育成」という建学精神のもと、グローバル人材の育成をめざして、創造性とチャレンジ精神、主体性を育む教育に力を入れている学校だ。

同校は、2017年度からiPadによる1人1台端末の導入をスタートし、それ以来、ICTを活用した授業改善や創造性・表現力を伸ばす学習活動の充実など、さまざまな教育改革に取り組んできた。それが評価され、Appleの認定校である「Apple Distinguished School(ADS)」にも選ばれている。

iPadを使った授業の様子。ノートやプリントも併用しながらiPadを活用

同校 ICT活用推進部長/英語科 和田一将教諭は、ADSに選ばれたことが学校に与えた影響は大きいと語る。

東京成徳⼤学中学・⾼等学校 ICT活用推進部長 /英語科 和田一将教諭

「Appleが掲げるiPadを学びに活かすための4つの要素、『つなげる』『協働』『クリエイティビティ』『パーソナル』は、本校の教育理念に一致するもの。ADSを目指す中で、本校の教育内容を見直しながら、これからの教育に何が必要かを考えられたことは、学びを変えていくうえで良い視点となりました」と和田教諭は語る。

生徒全員がiPadを持っていることで何の教育価値を生み出すことができるのか。iPadの活用を進める中で、教育の本質的な部分に向き合えたことが、今の東京成徳中高の学びにつながっているというのだ。

実際、2022年度からは学習のカリキュラムを大きく刷新。新しい語学留学や探究ゼミ、実地踏査型宿泊研修といった教育活動も開始し、生徒たちが社会とつながり、可能性をさらに広げられるような多様な学習を実現。6年間で自分の好きなこと、得意なことを見つけて進路につなげてほしい、そんな学校の想いをカリキュラムに落とし込んだ。

ニュージーランド留学
探究学習(ダイバーシティゼミナール)

こうした地道な教育改革の結果、同校は2022年度の大学入試で、総合型選抜や学校推薦型の難関大学への進学者実績を過去最高まで伸ばすことができた。一例として、2022年卒の渡部りささんは、ニュージーランドでの留学を経験し、探究ゼミで「LGBT」をテーマにした活動に取り組んだことで、多様な人種や価値観について学びたいと目的を持つようになり東京外国語大学 国際日本学部への合格を果たした。ほかにも、渡部さんのように自分の好きなことや目的意識を持って大学を選び、合格を手にした生徒を多く輩出できたという。

渡部さんが探究ゼミで作成したパンフレットやグッズ。渡部さんはLGBTに対する理解者を広げる活動として、中学生向けのセミナーの開催、教師からの寄付金募集、グッズの制作・販売などに取り組んだ

和田教諭はこうした生徒たちの姿に、「自分で決めて、自分でやる経験を積み重ね、生徒は自身の成長を実感します。彼ら彼女らの強みは、学ぶ面白さを見つけ、高いモチベーションを維持できたこと。東京成徳中⾼での6年間の学びで自律した学習者になった姿を見て、本校が取り組んできた教育改革は間違っていなかったと感じています」と手応えを述べた。

6年間で成長が期待できる資質を見抜く、新入試を実施

東京成徳中高の6年間で生徒を伸ばすことができる。その手応えを感じた同校は、学びの“入り口”となる中学入試の改革に乗り出した。

教科型の筆記試験で生徒を評価するのではなく、同校がめざす「Distinguished Learner(自律した学習者)」の資質を持つ生徒を見い出したい。そんな想いで生まれたのが「Distinguished Learner選抜入試(以下、DL入試)」という新入試だ。2022年2月に実施された初のDL入試には、「ごみのアップサイクル」に関するテーマが出題され、初年度にも関わらず男女あわせて計26名の出願があり、9名が受験した。

2022年2月に実施された「Distinguished Learner選抜入試」の様子。個人パートの時間

DL入試は、個人パートとグループパートの2段階で構成されている。与えられたテーマに対して、個人パートでは自分で考えた課題解決のアイデアを企画書にまとめて、採点者の前で発表。その後、採点者のフィードバックを受けて再考し企画書を改善していく。グループパートでは他の受験者と話し合い、課題解決につながるアイデアをひとつにまとめて発表する、というのが一連の流れになる。

グループパートの様子。他の受験者と話し合いながらアウトプットをしていく

自分のアイデアを企画書にまとめるのは、紙とデジタル、どちらの手段を用いてもよい。センターテーブルには、はさみやテープなどの文房具が置かれ、受験生が自由に使えるようになっている。また、ネット上の資料や画像を印刷したいときは、サポート役の教員に頼むことも可能。試験中は、受験者が採点者に話しかけることはできないが、サポート教員に対しては自由に話しかけることが許可されており、iPadの不具合や使い方などを聞くこともできる。

グループでの話し合いは、男女のどちらかが1人なって萎縮することがないよう、グループ内における男女比に細心の注意を払い、どの受験生も発言しやすい環境に配慮したという。またグループ活動では、リーダーシップを発揮できたり、声の大きい受験生が有利かと言うと決してそうではない。

和田教諭は、「DL入試は企画書やプレゼンテーションの出来栄え、iPadの操作を評価するものではありません。あくまでも東京成徳中高の学びで成長が期待できる資質を見るための試験です」と強調する。学校としては、リーダーシップを発揮する生徒ばかりを求めているわけではなく、様々な役割を担えることも評価していると語った。

DL入試の最後はグループによる発表。プレゼンテーションの上手さやポスターの出来栄えを評価するものではないと和田教諭

「自分を試してみたかった」とDL入試を振り返る生徒

そんなDL入試の合否判定について、同校では、“自律した学習者”に適した資質を公平に評価するために独自のルーブリックを設けている。ルーブリックでは特に「主体性・創造性・チャレンジ精神」の3観点を重視しており、3名の採点者が5段階で評価を行った。

DL入試の評価方法。3つの観点(主体性・創造性・チャレンジ精神)をそれぞれ4つの項目を用いて、5段階で採点を行う方式。ルーブリックの5段階において各項目で3以上が合格の目安となる。

ルーブリックの作成に携わった和田教諭は、どの教員が採点しても点差が開かないように、評価基準を細かく言語化し、公平性を担保できる精度に仕上げたと語る。そのうえで、このルーブリックは教科試験で行う一般選抜とは全く異なる学力観を評価できると述べている。

「算数や国語の力は、入学してからでも十分身につけることができます。大切なのは生徒が本来持つ資質を見抜き、いかに伸ばせるかということ。本校の教育理念に合致した資質を持つ生徒を見つけて、主体性や創造性、チャレンジ精神を発揮してくれることが、学力向上や進路にもつながってくると考えています」(和田教諭)。

中学1年生の松本小夜さん

一方、DL入試で入学した生徒は試験をどのように感じていたのだろうか。1年生の松本小夜さんは、DL入試を選んだ理由として、「教科試験では測れない力が自分にどれだけあるのか挑戦してみたいと思ったから」と語っている。試験を振り返り、「緊張感もあったが、筆記試験とは違い、自分の意見や考えを発表できるという楽しさがあった」と感想を聞かせてくれた。

現在、和田教諭が担任をしているクラスにもDL入試で入学した特待生が在籍している。不安定になりがちな中学1年生のなかで、特待生がクラスの中心として仲間を支え、勉強や部活に前向きに取り組む姿を見せているという。

初年度のDL入試を振り返り、和田教諭は「まだ規模は小さいながらも、DL入試を通して、学校のビジョンから“学びの入り口”を作ることができました」と語ってくれた。

“学びの入り口”すなわち“入試”を再定義することは新たな挑戦で、簡単なことではない。しかし、東京成徳中高は6年間の学びを通して、自分の将来を切り拓く生徒を育てられるという確信があったからこそ、DL入試を実現させることができたのだ。

「iPadをトリガーにしながら興味・関心に基づいて学ぶことで、生徒たちが学びを自分事化し、将来を切り拓く力が備わると考えています。進学実績は数字ではなく、生徒1人ひとりの6年間のストーリー。これから本校で学ぶ生徒にもそれを実感してもらいたいです」と和田教諭は語っている。

自分の興味・関心あることを大切にしながら、学びを深め、進路を探していく生徒たち

中学受験であれ、大学受験であれ、点数で評価される試験が一般的であるとわかりつつも、多くの保護者は、筆記試験の点数だけで我が子を評価しないでほしい、と思っているだろう。ゆえに、東京成徳中高が実施したDL入試に関しては、子供の良いところを見て伸ばしてほしいと思う親の気持ちにも応えてくれているように感じる。子供、保護者の想いと学校の教育理念が重なる入試が、両者にとって望ましいカタチの試験であるといえる。

★東京成徳大学中学・高等学校 イベント情報
東京成徳中高では、下記のイベントを予定しています。同校の学びを詳しく知る絶好の機会となりますので、ご興味をもたれた保護者の方は是非ご参加ください。詳しくは、「受験生向け特設サイト」まで
●体験フェア 7月29日~31日
●文化祭 9月23日~24日
●学校説明会 10月22日/11月19日
●オープンスクール 10月14日/11月11日
●校舎見学会&体験授業9月10日