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中高6年間で英語力はどう伸びる?自分を表現する英語で将来の可能性を拓く

――東京成徳大学中学・高等学校が実践する英語教育

留学やICT教育、探究学習など、時代の変化に合わせて学びを進化させてきた東京成徳大学中学・高等学校。特にICT教育では、iPadを活用した創造的な学びが評価されAppleの認定校に選出。2021年度は中学受験者数も増加した。そんな同校における6年間の学びは、こちらの記事で紹介した通りだ。

本稿では、同校の志望理由に多い「英語教育」について深掘りしていく。6年間でどのように英語力が伸びるのか。ICT活用推進部長であり英語科教諭の和田一将教諭に寄稿してもらった。
和田教諭が受け持つ英語の授業

英語の授業を通して考えてほしい「自分とは何か」

私が現在、担任をしている高校3年生は、中学1年生から英語の授業を受け持った生徒たちです。中1の時、しどろもどろに英語を話していた生徒たちが、高2・高3になって海外の大学をめざしたり、英検で準一級に合格したりと、この6年間で英語力を伸ばす姿を見てきました。

英語力は、使う機会を増やせば伸びると思われがちですが、私はそうは考えていません。英語は言葉である以上、自分の伝えたいことを表現できてはじめて、その楽しさを味わうことができ、もっと学びたいと意欲的になれます。

そのため、英語の授業では「自分はどんな人間であるかを英語で表現し、自分の将来を広げる」ことを重視しています。言い換えれば、「誰とでも、どんな環境でも、⾔葉の壁を越えて⾃分を表現し、他者を受け⼊れる⼒」を生徒たちが身につけることを目標としています。

中学生でめざすのは、「身近な表現」から「意見の主張」

生徒たちは東京成徳の6年間でどのように英語力を身につけているのか。授業での取り組みを紹介します。

中学1年生:習慣として「英語で表現すること」に取り組む
中学1年生の英語レベルはまちまちです。最近では、幼少期に海外生活を経験した子もいて、全く異なる英語レベルの生徒たちが同じ教室で学ぶ状況も少なくありません。

そのため授業では、中1の段階から生徒たちに合わせた語彙の習得や発話力が獲得できるよう、「Small Talk(あらかじめ設定したテーマに沿った1分間のスピーチ)」や「Show and Tell(写真を見せ合いながら英語で紹介)」などの活動を取り入れ、自分を表現する機会を設けています。

生徒が作成した歴史上の偉人を英語で紹介したチラシ

また様々な教科の要素も英語の授業に取り入れています。たとえば、過去形の学習と歴史の授業をコラボレーションして「自分の好きな歴史上の偉人を、英語で紹介するチラシ」をiPadで作成しました。こうした学習を通して、「自分はこんなことも好きかもしれない」と生徒たちが気づく機会を設けています。

●中学2年生:内容理解にこだわる学び
中2は、まとまった英文を読む機会が増えます。学習内容も難しくなり、いかに英語を嫌わずに、長い英文を「読み・書き」できるようになるかが、その後の英語スキルに大きく影響します。

この段階で重視しているのは、長文を読んで素早くイメージを掴めるようになることです。一般的に英語の長文といえば、訳読(日本語に訳して読む)して内容を理解する学習が多いのですが、日本語に頼ってしまうため英語を理解するスピードが落ちてしまいます。

そこで私の授業では、長文を読んで自分の好きな場面を4コママンガに描いたり、教科書の単元を映画仕立てのビデオに撮影したりと、日本語を介さず、長文のイメージを掴むトレーニングをします。英語の感覚を養うとともに、個性的に表現することの大切さを学んでほしいからです。

生徒たちが挑戦したビデオ作り。英語長文を理解して動画でアウトプット

昨今、大学入試共通テストや英語外部検定試験などでも「大量の文章を瞬時に理解し、自分の意見や考えを的確に伝える力」を問う問題が増えています。英語を直接理解し、そのまま英語で表現することに中学生の早い段階から慣れることで、受験にも対応できる力を養います。

●中学3年生:自分の言いたいことを的確に伝える
中3になると、関係代名詞や現在完了を用いて長い文章が書けるようになり、プレゼンテーションに必要な英語表現も学ぶため、より高度なアウトプットに挑戦します。そのひとつが、公民の授業と連携して取り組む「模擬国連」です。

これは、生徒たちが各国の大使となって、国連を模した会議を英語で行なう取り組みです。ネット上の英語の情報や文献から幅広い知識・語彙に触れながら、リアルな社会課題に向き合い、自分たちの意見を英語で主張するのです。内容を的確に伝えるには、どう表現すればいいか。英語のスキルを伸ばしつつ、自分の視野を広げて社会や世界に対する興味・関心を高めていきます。

さらに本校では、中3でニュージーランドに3か月留学するプログラムもあり、本物の英語、世界を体験します。15歳の多感な時期に親元を離れて、海外で3か月間もホームステイする生徒たち。たくさんの自律体験や苦労を重ねて、見違えるくらい成長して帰ってきます。

模擬国連の様子
ニュージーランドに留学し国際交流

高校生は他者との関わりを通して英語を学び、視野を広げる

現在の高校3年生は、高校生になってコロナ禍に突入し、英語の学習も大きく変わらざるを得ませんでした。授業でも、コロナ禍の現状と向き合いながらさまざまなスタイルを取り入れ、生徒たちの英語力を伸ばしていきました。

●高校1年生:実践を意識した学び
活動が制限されたコロナ禍は、オーストラリアやモルドバの学校とオンラインでつなぎ、お互いの国や地域の様子を紹介し合うなど、オンラインでできるプロジェクトに取り組みました。

また、文化祭や体育祭が中止になるなか、生徒会主体で英語の「映画祭」を企画しました。さまざまな場所に散って撮影し密を避けつつ、英語での映画制作にチャレンジすることで、実践的な英語を使う機会が得られます。さらに、動画サイトやSNSを活用することで、海外にも英語で発信する機会を設けました。

こうした経験を通して、生徒たちは動画の視聴者などの“画面の向こうにいる人”に伝わる英語表現を、工夫しながら組み立てる力を付けていきました。

映画祭に向けて撮影
海外の学校とオンライン交流

●高校2年生:学び合いを通して英語の文章力を伸ばす
⾼校2年生は進路について考え出す時期です。「学び合い」の時間をたくさん取りながら、生徒たち一人ひとりに必要な英語力を習得させていきます。一例を挙げると、教科書の内容をイラストで描いてまとめながら、友人とストーリーを共有して理解を深めたり、教科書のレッスンごとに「私が考える疑問点や、調べたこと」などを英語の文章にして発表する、といった学習活動をそれぞれが行ないます。

学び合いで互いの英語力をさらに伸ばす

このような学び合いは、生徒たちが友人の意見や説明に耳を傾けるので、教師が一方通行で行なう講義型の授業よりも格段にスピードがアップし、さらに単元の内容理解を深められます。また教え合い、学び合いでは、難しい表現や読解問題などの学習定着率を上げていくことも狙いのひとつです。

一方で、教科書の内容や難しい部分の解説などは、あらかじめ資料や解説動画を配信して確認できるようにしておきます。生徒はそれを見ながら予習したり、授業の内容理解を深めます。

こうした学習を積み重ねた結果、英語検定やIELTSなどの外部検定試験で高いレベルの受験級に挑戦する生徒も出てきます。⾼校2年生の春に英検準⼀級を3人取得したことを皮切りに、現在では10~15人の生徒が準一級を毎回挑戦するようになりました。

もちろん、試験で高い点数を取ることや、より高い級の取得を⽬指すことだけが⽬標ではありません。「高校を卒業したらこんな大人になってみたい」「こんな研究をしてみたい」と、生徒たち同士が様々な意見や価値観に触れながら、少しずつ人生の目標を固めることも大切にしています。

英検準一級に合格した生徒たち

●高校3年生:それぞれのステージに向けて
いよいよ大学受験に向かう生徒たち。高校3年生は通常の英語授業に加え、大学入試の演習授業や夏期・冬期講習も充実します。また、今年度から海外大学指定校推薦入試制度もスタートし、日本国内のみならず海外進学も視野にいれながら自分の進路について考え、行動していきます。

例えば、ある生徒は中学生のころから継続的に取り組んでいた「英語でのビデオ作り」がきっかけとなり、様々な映画のロケ地として知られるオセアニアにある大学で映像制作について本格的に学ぶことを希望しています。

また、ある生徒はニュージーランドに留学した経験や、友人たちとLGBTをテーマにしたプレゼンテーションに取り組んだことで、多様な人種や価値観に触れながら学べる国内の大学に進学し「女性が世界で活躍しやすい社会を作る」ために役立ちたいと考えています。

このように、中学1年生から英語で自分を表現し、学び続けた生徒たちは、自律した学習者としてそれぞれのステージへ大きく羽ばたいていきます。

LGBTをテーマにしたプレゼンテーション

選択と表現の自由で、生徒たちの知的好奇心を刺激したい

東京成徳では、生徒自身が「自分にとって大切なものは何か考え、選択や表現ができる」ことを大切にしており、私もさまざまな表現活動や創作活動を授業に取り入れています。

何のために学ぶのか、将来を生き抜くためにどんな力が必要なのか、英語を使って自分は何ができるようになりたいのか。これらを常に意識をして学校生活を送ることで英語力が飛躍的に向上していくと、成長した生徒たちを見ていて感じます。

英語の授業以外にも、興味関心に合った講座を受講するダイバーシティゼミナールや、各自でテーマを決めて全国を調査する実施踏査研修旅行などを通じて様々な経験を積んだ生徒たちは、次第に学齢に合わせたそれぞれの明確な目標を見つけ、大きく動き出し始めます。

生徒たちの成長にとって鍵となるのは、「学ぶのが楽しい」と心から思える体験です。選択と表現の自由で生徒たちの「知的好奇心」を刺激し、それを育んでいけるような時間を授業という場でたくさん作りたいと、私は考えています。

※東京成徳中高では、6/26(日)に学校説明会の開催を予定しています。同校の学びを詳しく知る絶好の機会でもありますので、ご興味をもたれた保護者の方は是非ご参加ください。詳しくはこちらから。

和田一将(東京成徳大学中学校・高等学校 教諭)

東京成徳大学中学校・高等学校 ICT活用推進部長 / 英語科教諭。国際交流やiPadを活用したクリエィティブな英語の授業などを通して、多様な価値観の中で活躍できる創造的な人材育成に取り組む。Apple Distinguished Educator。