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万博は学びがいっぱい! 親子で訪れたい人気パビリオン4選、フランス館・サウジアラビア館ほか

大阪・関西万博の人気パビリオンを、子供と一緒に楽しむポイントを紹介!

連日、大賑わいの大阪・関西万博(以下、万博)。お盆を過ぎても来場者は1日15万人に迫り、国内外から集まる人々で会場の熱気は増すばかり。10月の会期終了まで、この勢いは衰えそうにない。そんな中、人気パビリオンを巡るメディアツアーに参加した。

訪れてみて改めて感じたのは、万博が 「学びの宝庫」 であるということ。文化や技術の展示が、大人にとっては新たな発見となり、子供にとっては世界を広げるきっかけになる。今回はフランス館やサウジアラビア館、クウェート館、シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」を訪れ、親子で一緒に体験してほしい見どころを紹介する。


フランス館、“本物の美”に触れる体験を親子で楽しめる芸術空間

前衛的な“カーテン”向こうに、心躍る美しい世界が広がるフランス館。正面に立つ男女一体の像は、互いの小指が赤い糸で結ばれ、柔らかな曲線が印象的だ。

フランス館のテーマは「愛の賛歌」。ピンクゴールド色の螺旋スロープを白いベールが覆い、入り口は開放的な劇場をイメージ。一見すると大人向けの雰囲気だが、ここは “本物の美” に触れる体験を親子で味わえる場でもある。

入ってすぐに目に飛び込んでくるのは、天井まで届く巨大なタペストリー。題材は宮崎駿の『もののけ姫』だ。 「フランス館でジブリ?」 と思わず首をかしげるが、実はこれ、フランス中部オービュッソンにある国際タピスリーセンターで制作された作品。 ユネスコ無形文化遺産 に登録されている伝統技法を用い、ジブリ作品を6点織り上げるプロジェクトの第1作がここに展示されているのだ。

タペストリー「呪いの傷を癒すアシタカ」、森の深い緑の濃淡、木々の間から差し込む光が表現されている

縦5メートル・横4.6メートルの大作は、 すべて手織り とは信じがたい完成度。近づけないため肉眼では織物と気づかないほど緻密だ。子供にはカメラでズームして見せてあげると、細部の技が伝わりやすい。フランスの職人技と、日本のアニメ文化が広がりを同時に体感できる展示に期待が高まる。

カメラでズームすると、縫い目それぞれの繊細さがよく伝わってくる

もうひとつの見どころはタペストリーの前に置かれた ノートルダム大聖堂のキマイラ像 だ。これは2019年に起きた火災の難を逃れた現物で、大聖堂の南翼廊に置かれていたものだという。ディズニーオタクでもある筆者は、映画「ノートルダムの鐘」を思い浮かべ、映画を観ながら「本物を見たね」と、親子で語り合いたくなった。

ノートルダム大聖堂のキマイラ像にも注目!

フランス館では、Louis Vuitton・Diorといったフランスを象徴するファッション文化に触れることができる。

Louis Vuittonのエリアでは、84個もの大きなトランクが積み重なり、空間全体を大胆に演出している。その中央にあるのは、有名な彫刻「考える人」で知られる ロダンの作品「カテドラル(大聖堂)」 。2つの手が合わさった彫刻を囲み、映像と音楽が広がる。

ブランドを象徴するワードローブトランクが、床から天井まで積み重ねられている
トランクを開けると、靴やジュエリー、時計、香水の製造工程を紹介する映像が現れる演出
伝統的な大型の旅行用トランク90個を巨大な球体に組み立てた「トランクのスフィア」は、さまざまな色彩に変化し、思わず歓声があがる

Diorのエリアに並ぶのは、エレガンスを象徴するトリコロールカラーのスーツと香水瓶。そこから白一色の、洗練された空間へと続く。

青・白・赤の順に並んだアイコニックなスーツ

壁一面には、オートクチュールの制作過程を象徴する “トワル”(シルエットのスケッチを立体的に表現したもの) が紹介され、世界最高峰の服づくりの舞台裏を垣間見ることができた。ミニチュアのドレスは遊び心を感じさせ、親子でデザインや色の違いを話題にしながら楽しめるだろう。

美しいシルエットのスーツやドレスと、クリスタルの椅子のコントラストが見事
1点ずつ異なるデザインのスケッチに囲まれ、時間が許す限り眺めていたくなる

さらに、パビリオンの中心には「奇跡の庭」が広がる。鏡のような水面に静かに佇むのは、フランスから空輸された、樹齢1000年を超えるオリーブの木。「こんなに大きな木を、どうやって飛行機で運んだのだろう…」。当たり前のように広がる素晴らしい展示の裏側に、想いを馳せる。

360度、どこから撮影しても映える「奇跡の庭」

最後の展示は、島をかたどった「群島をたどって、響く鼓動」。 世界遺産「モン・サン・ミシェル」と「厳島神社(広島)の大鳥居)」 を注連縄(しめなわ)で結ぶ「息づく島」では、神聖なモチーフの頭上で、光の洪水が降り注ぐ演出が美しかった。

世界遺産「モン・サン・ミシェル」と「厳島神社(広島)」の共演。フランスのモン・サン=ミッシェル市と広島県廿日市市は、2009年に観光友好都市提携を結んでいる


サウジアラビア館、まるで冒険? 圧倒的スケールで魅せる未来国家のビジョン

真夏の太陽がじりじりと照り付ける万博会場に、突如現れたオアシス・サウジアラビアパビリオン。パビリオンの入口前庭はサウジアラビア原産の植物で彩られており、訪れた瞬間から乾いた大地の気配や異国情緒を感じさせる演出になっていた。

日本語堪能なサウジアラビア館のスタッフが、にこやかにお出迎え

前庭を抜けると、狭い白壁の通路が続き、迷路の中を探検しているような気分になる。建物の隙間からふと見上げれば青空が広がり、現地の村を歩いているようなワクワク感がある。 パビリオン全体が冒険の舞台 となり、子供たちも夢中で歩き回りそうだ。

細い通路を抜けて展示エリアを巡る、冒険の始まり

中央の「サウジ広場」では、さまざまな催しを開催。夜には建物の壁がスクリーンとなって、 プロジェクションマッピングと音楽のショー で昼間とは異なる魅力を放つ。

サウジ広場の中央は、床がせりあがってステージになる
「サウジ広場」で行われるナイトショー「水の物語」(公式写真より)

さらにうれしいのは、日本語が堪能なスタッフが多いこと。小さな子供や英語に自信がない子供でも安心して声をかけやすい。中東という普段なかなか接点を持ちにくい国の人々と交流できる機会は貴重で、親も「話しかけてみたら?」と勧めやすい。

展示エリアは、「文化と遺産」「科学と技術」「経済繁栄と投資」「観光と持続可能性」をテーマに、主に6つの建物を巡る 「発見の旅」 で構成されていた。

臨場感あふれる大スクリーンで、未来の都市計画に魅せられる

なかでも、筆者が「これはぜひ子供に見せたい!」と惹き込まれたのが、 3Dプリント技術でサンゴ礁を復元するプロジェクト だ。キング・アブドラ王立科学技術大学の研究員による解説動画と共に、3Dプリンターと実際にプリントされたサンゴの骨格を展示していた。

「持続可能な海」の展示。人工のサンゴ骨格は、海中に設置すると自然の生息環境を模倣する構造となり、サンゴの定着と成長を支える“土台”となる。こうした取り組みによって、海洋生態系の回復が期待されているという

教育現場でも身近になった3Dプリンターが、地球環境の再生にまで活用されている。その展示は、科学とイノベーションによって環境問題に向き合おうとするサウジアラビアのもう一つの顔を強く印象づけた。

サウジアラビアで広がる マンガ文化 を紹介する展示も楽しい。現地作家の原稿や作品が並ぶ様子に、アニメや漫画文化に対する熱の高まりを実感! また、音楽スタジオではライブを開催していて、盛り上がりを見せていた。 伝統楽器を使った生演奏l を楽しめるのは、万博ならではの特別体験だろう。

大規模なアニメイベントを開催しているサウジアラビア。ギフトショップ「スーク」では、サウジアラビアの漫画本を販売している
めずらしい伝統楽器の生演奏に感動!「床に敷かれた絨毯はさぞや高級なのだろう…」と考えてしまう主婦目線と共に

ちなみに、次の万博はサウジアラビアの首都・リヤドでの開催が決定している。未来の先進的な世界を想像しながらサウジアラビアのビジョンを体感する展示は、 2030年リヤド万博 への期待を高めてくれるものだった。


子供に人気のクウェート館を再訪、知っておきたい日本との絆

光る真珠の形をした球体スクリーンのショーで始まるクウェート館

前回、子連れで楽しんだクウェート館への再訪も叶った。入口の真珠型スクリーンに迎えられ、展示を進むと交易の歴史を紹介するコーナーにたどり着く。カゴの蓋を開けると、地図にシルクや真珠のルートが浮かび上がり、子供が夢中で次々に試したくなる仕掛けだ。

真珠、コーヒー、乳香など、クウェートの特産品の交易ルートを紹介

前回子供と訪れたときは、蓋を開けたり匂いを嗅いだりするだけで終わってしまったが、今回は 上に映し出される地図 にもしっかり目を向けることができた。「こんな国とやり取りしていたんだね」「日本からクウェートって遠いんだ」と親子で会話しながら眺めれば、新たな学びにつながるだろう。

さらに印象に残るのは、 東日本大震災でクウェートが日本に約400億円相当の原油を無償供与したエピソード 。子供にとっては規模が大きすぎる話かもしれないが、「遠い国が日本を助けてくれたんだよ」と伝えることで、国際社会のつながりを考えるきっかけになる。大人もまた、改めて両国の絆を実感できる展示だ。

東日本大震災の支援を始め、クウェートが行った人道支援を紹介する展示


身体で感じるアート「better co being」、最後は自分の感性がアウトプット

続いて訪れたのは、シグネチャーパビリオン「Better Co-Being」。シグネチャーパビリオンは、日本国政府・博覧会協会による特別テーマ館の総称で、万博全体のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」をより深く掘り下げ、未来の課題と可能性を“体験”で伝える場として設計されている。

日本を代表する建築ユニット・SANAA(サナア)が設計した「Better Co-Being」

屋根も壁もない開放的なパビリオン は、自然と人を包み込む空間設計。ここで配られるのは 「echorb(エコーブ)」 と呼ばれる石のようなデバイスだ。来場者は1人ずつ手に持ち、アート作品を巡ることになる。

グリッド状のキャノピーがアート作品を包み込む

このechorbには3Dハプティクス技術が搭載されており、自分の意思とは関係なく 手が引っ張られるような感覚や、アートに共鳴して震えるような感触 を体験できる。

振動し、音や光でアートと共鳴する体験を提供する「echorb」

体験中は、echorbとあわせて専用のアプリを使用。興味のあるテーマを選択すると、echorbに赤や黄色の光が灯る。

「共鳴マップ」に自分や他の参加者が選んだテーマが表示され、つながりを感じることができる

アートをただ眺めるだけでなく、身体を通して感じることで感性が刺激され、展示の理解がぐっと深まりそうだ。

「人と人との共鳴」をテーマにした「言葉の丘」(塩田千春)。赤い糸で愛や繋がり、生命の力強さを表現している。作品内の白い文字が夕日に照らされ美しかった
「人と世界の共鳴」をテーマにした「Counter Voice Networl – Expo2025」(宮島達男)。一見するとなだらかなスロープが続く散歩道だが、進んでいくと左右から世界の言語で「9、8、7…」とカウントダウンが鳴り響く
「人と未来の共鳴」をテーマにした「Embracing Diversity 最大多様の最大幸福」(宮田裕章 with EiM)。約400本の繊細なワイヤーが張られ、それぞれにサンキャッチャーが取り付けられている。この日は天候に恵まれ、虹が広がる様子を楽しむことができた

さらに最後には、自分が選んだテーマや共鳴したアート作品の思考が、1つの球体となって色で表現される “まとめ”の演出 がある。参加するグループによって異なる色に変化し、子供にとっても「自分はこう感じたんだ」と実感しやすい仕組みになっている。

アート作品を見て、アプリに入力したみんなの「いいね」が球体の色となって反映される。筆者が参加したときは、「健康とウェルビーイング」を表す青色に変化した

体験の終了後には、パビリオン特製のお土産が配布された。バッグの色は全7色で、何色がもらえるのかは、その時次第。中には、生命エネルギーをコンセプトとしたパビリオン限定のプロダクト「Wellness Energy」が入っていた。

来場者に配布されるパビリオンギフト


おまけ。念願の万博グルメ!子供なしで、ちょっと贅沢した…

余談だが、 前回「子連れ日帰り」をテーマにした弾丸万博 を試みた筆者。パビリオンを周ることを第一としたため、“万博グルメ”を楽しむ余裕がいっさいなかった。今回は、スペイン館のレストランで食事をすることができ、その無念を晴らすことができた。入店まで約2時間並んだが、それでも本場の食文化をパビリオンの一角で堪能する体験は素晴らしかった。

レストランは、木材とタイルを組み合わせた温かみのある内装
ピンチョスやチーズケーキを堪能した

ちなみに万博では、パビリオンの展示だけでなく、各企業や団体、国が期間限定のイベントを次々と打ち出している。夏休み期間中は、子供向けのワークショップや自由研究企画、ツアーが充実していた。また子供とも再訪したい、次はこんな回り方をしてみたい──そんな欲求が次々と湧き上がってくるあたり、自分でも気づかぬうちに『万博沼』の入り口に足を踏み入れていることを実感した。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは小学生兄弟の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。