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教育実践・事例

AmazonのSTEM教室、100番目が相模原の中学校に誕生!中高小をつなぐ学びの拠点に

レプリカキーの贈呈。左からAWSデータセンター運用部門 日本総責任者 ティム・レクスロード氏、AWSジャパン代表執行役員社長 白幡晶彦氏、相模原市立弥栄中学校生徒会長 戸来柊斗さん、相模原市立弥栄中学校校長 古屋礼史氏、相模原市長 本村賢太郎氏

 アマゾングループ(以下、Amazon)が相模原市立弥栄中学校にSTEM教育を支援するためのスペース「Amazon Think Big Space」を開設した。Think Big Spaceの開設は世界で100番目で、5月20日には贈呈式とともにThink Big Spaceを活用した技術家庭科の授業のほか、生徒会活動の様子が報道向けに公開された。

STEM教育を支援するスペース、Amazon Think Big Space

 Amazon Think Big Spaceは、Amazonが社会貢献プログラムの一環として世界各国の学校に寄贈して開設しているスペース。国内では、2023年9月に開設した千葉県印西市立原山小学校に次いで2カ所目となる。

教室にAmazon Think Big Spaceの文字
「教室を超えたスペース」を掲げる

 Think Big Spaceという名称には、「大胆な方針と方向性を持ち、広い視野で考え、可能性を追及していくことを目指す」という目的のほか、「利用する子供たちの可能性を最大化する」という思いが込められているという。

壁一面に投影できるプロジェクターを装備

相模原市弥栄中学校は、近隣にJAXAもある学校

 弥栄中学校がある神奈川県相模原市には、Amazonの物流拠点であるフルフィルメントセンターがあり、相模原市とAmazonの関係は深い。2024年11月には相模原市教育委員会とAmazonが連携し、女子中高生対象のSTEM体験イベント「AWS Girls'Tech Day」を開催している。

 また、弥栄中学校がAmazon Think Big Spaceの開設場所に選ばれた理由として、弥栄小学校と弥栄高校が隣接し、すぐ近くにJAXA相模原キャンパスや淵野辺公園があり、学びの拠点となる場所であることが挙げられる。

相模原市立弥栄中学校は、小学校と高校のほか淵野辺公園やJAXA 相模原キャンパスなどが隣接

 Amazonが弥栄中学校に寄贈したものは、Think Big Spaceとして活用する教室に装備する簡易可動式のホワイトボード、作業台、椅子、机、プロジェクター、電子黒板、3Dプリンター、PC、学習教材のレゴ エデュケーションSPIKE プライム、教育用マイコンボードのmicro:bit、GoProのカメラなどで、STEM教室として充実した環境が贈られた。

LEGO SPIKEを活用したもの作りで課題を解決

 当日公開された授業は3年生の技術科で、レゴ エデュケーションSPIKE プライム(LEGO SPIKE)と3Dプリンターを使って生活や社会課題を解決するものを作る取り組みだ。Think Big Spaceは、4月から授業で活用を開始しており、LEGO SPIKEを使った技術科の授業も数回にわたって進めている。

技術科の授業内容を振り返る内山教諭

 授業では、LEGO SPIKEのセンサーやモーターなどを使い、機械的な仕組みをプログラムを使って自動的に動かすことに取り組む。機構や部品を製作し、自動で動く製品モデルとしてまとめ上げることで、もの作りへの理解を深め、生産者としての工夫や責任、消費者としての視点を体験的に学ぶという。

LEGO SPIKEを用意し、組み立てを開始!

 これまでの授業で、解決すべき課題や構成、プログラミングなどはある程度完成しており、当日はプログラムの実装が行われた。生徒たちはホワイトボードにテーマや課題、解決方法、プログラム内容などを書き出しながら制作を進める。

ホワイトボードにテーマや課題、プログラムの内容などを書き出す
プログラムを動かしながら、気付いたことやポイントを追記

 LEGO SPIKEはレゴブロックがベースとなっており、セットのケースにはバラバラの状態で収められている。ほかのクラスも授業などで使うため、毎回、パーツの状態から組み直しをするのだという。生徒たちはChromebookとUSBケーブルで接続し、プログラムをロードしながら動作を試していく。

 生徒たちが考えた課題は、「自動でふたが開いて閉じるごみ箱」が多数。授業のテーマは「自動で動く」「製品の開発」だが、センサーとプログラムの組み合わせで別の動作や仕組みになるため、個性あふれる作品が目立った。

Chromebookの画面を大型モニターに投影して発表

 ごみ箱以外では、レゴのパーツをモーターで動かして体操の手助けするようなものもあり、生徒たちの工夫が感じられる。

トレーニングをテーマにした「エクササイズロボ」に取り組むグループも

 レゴのパーツだけで構成できないものは、3Dプリンターでパーツを作成。重みを感じるとふたが回転する仕組みを作るグループは、ダンボールやガムテープを使ってパーツを手作りしていた。

足りない部品はAmazon Think Big Spaceに備え付けの3Dプリンターで作成
教室内に複数台の3Dプリンターがあるので、複数グループで利用が可能

 授業時間中は、それぞれのグループで仕組みを作るとともに、ハブというモーターやセンサーを動かす中心となるパーツにプログラムをロードしながら試行錯誤が行われた。

Chromebookと接続し、動作を確認
ハブにモーターを接続、レゴブロックで作ったものを動かす
動作を見ながらプログラムを再確認
センサーを近づけるとモーターが動き、ダンボールのふたが開く仕組み

 公開授業の時間内で完成とはならないものの、モーターなどの稼働部分のプログラムの状態をチェックしたり、機構部分の動きに無理がないか調べたりするなど、生徒たちは課題を見つけながら制作に取り組んだ。

 最後にプログラムや経過をしっかり保存。ホワイトボードの内容を撮影して記録に残すほか、LEGO SPIKEをパーツに分解してケースに収め、授業は終了した。

授業が終わる前にホワイトボードを撮影

生徒会活動の話し合いの場でもThink Big Spaceを活用

 技術科の授業以外でもThink Big Spaceの活用は進んでいる。授業後に行われた生徒会活動では、学校の問題解決について、生徒会本部の役員をはじめクラスや委員会の代表が出席して話し合いが行われた。

生徒会活動の話し合いもThink Big Spaceを活用

 壁一面のプロジェクターに議題を投影し、各グループで解決策を話し合い、いったんホワイトボードに手書きで解決策を書き出す。ホワイトボードに挙がった項目を再度グループで話し合い、書記がスライドに記録していく。

グループごとに解決策を検討
いったんホワイトボードに意見を書き出す

 スライドにまとめた内容をプロジェクターに投影して、グループの代表が自分たちの考えを発表し、全体で意見を共有。時間を区切りながらさまざまなツールを効果的に使い、話し合いを進める生徒たちが何とも頼もしい。

話し合いの結果をスライドにまとめて発表

寄贈式を開催

 寄贈式では、Amazonを代表してAWSジャパンの白幡晶彦氏、弥栄中学校長、相模原市長、生徒を代表して生徒会長があいさつに立った。

寄贈式が行われ、Amazon Think Big Spaceでは生徒会本部役員が代表して並んだ
Amazonを代表してAWSジャパン代表執行役員社長 白幡晶彦氏が参加

 AWSジャパン 代表執行役員社長の白幡晶彦氏は、デジタルサービスを提供する理由について「テクノロジーが生活の品質や人々の幸せを向上させる。長寿化・高齢化・人口不足といった問題に直面する中で、社会インフラの品質を維持するには、デジタルを活用していかなければならない」と説明。さらに、Amazonが社会貢献活動として教育を重視することについて、「日本における教育、特にデジタル教育は長期的に日本のデジタル競争力を上げるという意味でも非常に重要だと考えている」と補足した。

 Think Big Spaceについては、「Amazonがとても大事にしている考えがThink Big。既存の常識や創造力を超えて、大きな視点から新しい未来を切り開くアイデアを考え出すことに毎日取り組んでいる。そして、その考え方を皆さんにも持っていただきたいという思いも込めている」と説明した。

相模原市長 本村賢太郎氏

 続いて、相模原市長の本村賢太郎氏は、Think Big Spaceの設置に感謝の言葉を述べるとともに、「弥栄中学の皆さん、これをチャンスだと思って、いろいろなチャレンジをしてほしい。いろいろな人の考え方を聞いて学んで吸収し、自分自身をスキルアップして、チャレンジした人生にしてほしいと思う」と呼びかけ、「Think Big Spaceで学んだことは、大きな経験になる。ぜひ相模原を引っ張っていってほしい」と、生徒たちに期待を寄せた。

弥栄中学校校長 古屋礼史氏

 また、弥栄中学校校長の古屋礼史氏は、「子供たちの可能性を無限に広げられる場所」とThink Big Spaceを評価してAmazonの関係者に感謝を述べた。
さらに、弥栄小学校と弥栄高校が隣接していることから「連携を図りながら、さまざまな取り組みを進めることで、子供たちが伸びる可能性がある。小学生も高校生も、これからの日本の社会を担う子供たちであるため、一体となった取り組みを考えている」とした。

 古屋氏は、技術科と家庭科、理科、保健体育科でThink Big Spaceを使いながら取り組みを進めているとし、「子供たちの目の輝き、前のめりになって学びを深めようとする姿勢、これこそがThink Big Spaceの効果だと強く感じている」と現時点での効果を語っている。

弥栄中学校生徒会長 戸来柊斗さん

 生徒からは生徒会会長の戸来柊斗さんが感謝の言葉を述べ「この地域で生まれ育った私たちが、これからThink Big Spaceを活用して先進的なSTEM教育を学ぶことで、相模原という地域の理解を深め、この地域を担う若い力としてさらに成長するように努力していきたい」と抱負を語った。

自分なりの答えを導き出し、STEMで新たな価値を生み出す

 寄贈式の第2部では、特定非営利活動法人 東京学芸大学 研究員の田中若葉氏が、STEM教育の目的や意味について説明、同時に自身の研究者になるまでの経歴などを紹介した。

特定非営利活動法人 東京学芸大学こども未来研究所 研究員 田中若葉氏

 田中氏は、「STEM教育では問題を発見して課題を設定し、それをどうやって解決できるのかを考える。自分の思いを表現しながら、誰のため、何のためかを考えながら科学、技術、エンジニアリング、数学の力を使いながら1つの形にしていく」と説明。STEM教育で新たな価値を生み出す重要性を語った。

 また、教育学に興味を持った経緯も紹介。高校までモデルの活動をしていたが、大学で教育学に興味を持ち、小学校のもの作りや中学校の技術教員を目指す学科に進み、STEM教育に出会ったという。

 さらに第2部の最後にサプライズでドローンが登場。校舎の外と中を自在に飛び回るドローンが校舎や教室を生中継し、多くの生徒たちがドローンに向かって手を振り、学校内は多くの歓声に包まれた。

田中氏の講演が終わると、サプライズで校内に2機、ドローンが飛び立った
ドローンは校舎の中と外を飛び回る

 生徒たちは、Amazon Think Big Spaceにあるツールを自然に使いこなしており、グループで協力しながら課題や活動に取り組んでいた。単に知識や技術を学ぶのではなく、さまざまなツールを活用して自分たちで設定した課題を解決する取り組みは、子供たちの好奇心や可能性を深める大きなきっかけとなるだろう。小学校や高校を含めたSTEM教育の拠点となることを期待したい。

Amazonのスタッフを交えて記念撮影
正田拓也