レポート

教育実践・事例

翼とエンジンを組み合わせた「マイ飛行機」は空を舞うか?JALが提供するSTEAM教育を体験

飛行シミュレーターでSTEAM教育を体験できる「JAL STEAM SCHOOL」

さまざまな形の翼やエンジンを自由に組み合わせ、自分だけの「マイ飛行機」を飛ばす──そんなワクワク体験ができる「JAL STEAM SCHOOL」。JALグループが提供するこのプログラムでは、「JAL SKY MUSEUM」の見学も含まれており、空と飛行機の世界を五感で楽しめる。

飛行機や乗り物が大好きな子供はもちろん、大人にも人気の同プログラムは、STEAM教育の視点から飛行機や空の不思議を学べる体験型授業だ。10月19日にリニューアルされたので体験してきた。

組み合わせは1000通り以上!マイ飛行機のフライトを解析

JAL STEAM SCHOOLのプログラムは、約55分。シミュレーターを使って、機体の種類・翼・エンジンを組み合わせながらマイ飛行機をつくり、離陸・速度・安定性の3つの観点から飛行機の性能を評価する。1人3回ずつシミュレーションを行い、その結果をチェックシートに記録、最後にレビューで振り返る流れだ。

飛行機をデザインし、離陸・速度・安定性の3つのシーンで飛行特性を解析する

選べる機体は、スモール(ボーイング737)かビッグ(エアバスA350)。どちらか好きな機体プレートを選び、翼を取り付ける。選べる翼は11種類。翼の形状だけでなく、取り付ける位置や翼の向きで幾通りものマイ飛行機ができる。

全11種の翼から1枚を選び、好きな位置に取り付ける

翼を機体に設置すると、上部にあるカメラが読み取り、飛行機の分析をスタート。画面に機体名や翼面積、主翼位置、翼幅などのデータが反映される。続いて機体に取り付けるエンジンと、搭載する貨物の重心位置を選択する。

飛行機の燃費を1リッターあたりのメートル数で比較したり、エンジンのファンの直径の大きさや推力の違いも紹介された

シミュレーションでは、飛行機の性能に加え、飛行機への風向きも重要となる。飛行機は通常、風に向かって離着陸する。これは、風上からの風を翼に受けることで、より大きな揚力を発生させる仕組みによるもの。滑走路は最も多い風向きに合わせて設計されているという。

画面に飛行時の風向きが表示され、適切な滑走路と離陸方向を選択する。ここで誤った選択をすると、飛行機は離陸できない

滑走路の選択は、シミュレーションで一番難しく、飛行機の特性を考える面白いポイントとなる。当日は大人も多数参加していたが、その中で小学生が迷いなく滑走路を選択する姿が印象的だった。

滑走路を選択すると、分析は完了。自分が選んだ飛行機が、どのように飛ぶかを予想し、飛行シミュレーションを開始する。

すべての選択を終え、滑走路を選んだら分析は完了。[進む]をタップして離陸!

「ポーン」というサイン音が離陸を告げると、スムーズに離陸できたかを解析。揚力や推力、機体重量のバランスが重要となる。続いて、予定通りの時間に到着するための速度のほか、強風や悪天候で安定した飛行を保っているかを評価。着陸後に達成度とコメントが4点満点で表示される。

飛行機の安定性が低いと、横風で機体が揺れる“ピッチ”が発生することも

1回目のシミュレーションが終わると、2回目・3回目へ。翼だけでなく機体も変更可能で、画面には各回のフライトデータが表示される。飛び方やスペックの違いのほか、翼の形状と飛び方の関係性、翼の法則に関するヒントが役に立つ。

フライトデータは写真のみ撮影可能だが、紙での出力はない。参加者には「シミュレーションチェックシート」が配られ、手書きで結果を記し、持ち帰りが可能。

選んだ翼の形や、スコアを「シミュレーションチェックシート」に記入して持ち帰る

当日は、4点満点を目指して翼を選ぶ小学生のほか、あえて「0点になる条件」を考え、真剣に画面を見つめる大人の姿もチラホラ。JALで長年整備士を務めていた講師は、「ベストスコアを取ることが目的ではなく、どうしたら0点を取るのか探究することもJAL STEAM SCHOOLの醍醐味(だいごみ)」と語る。

3回のシミュレーションを終えると、参加者に修了証と組み立てて楽しめる「PAPER AIRPLANE」が配布される。

参加者に配布されるJAL STEAM SCHOOLの「修了証」
オリジナルの飛行機作りを楽しむ「PAPER AIRPLANE」

JALグループのロゴ「鶴丸」や、スクールで使用した翼と同じ柄の「デカール」のデータをダウンロードできる二次元コードが案内されるので、自宅に帰ってからもオリジナルの飛行機を作って楽しめる。

自宅で早速、6歳の次男と一緒にオリジナルの「PAPER AIRPLANE」を作成、小4の長男は自力で完成させていた

このように、JAL STEAM SCHOOLでは飛行シミュレーションを通して、飛行機を安全に飛ばすことに楽しくチャレンジしながら、STEAM教育を体験できる。

航空会社ならではの発想でSTEAM教育の5つの領域にアプローチ

空の歴史を学び、格納庫で本物の飛行機を体感

JAL STEAM SCHOOLで学んだ後も特別な体験が続く。まずは、「JAL SKY MUSEUM」の見学だ。人気の施設をじっくり見学できるのがうれしい。

「JAL SKY MUSEUM」を約1時間半見学できる

JAL SKY MUSEUMは、空の仕事やJALの歴史に触れ、本物の飛行機を間近で見ることができる体験型ミュージアム。入場してすぐ目の前に広がる「スカイランウェイ」は、滑走路をイメージしたエリアで、運航乗務員や客室乗務員、航空整備士などの仕事を紹介するコーナーや、実際に座って触れるコックピット・客室のモックを展示している。

航空整備士の仕事内容を紹介するコーナー
「JTA737」のフライトシュミレーターとして活躍したコックピット
コックピットの中の機器は、実際に触れることができる

「アーカイブゾーン」には、JALと日本の空の歴史に関する貴重な展示が並ぶ。客室乗務員の歴代制服や、歴代航空機12機をすべて同一の縮尺で並べたモデルプレーン展示など、見応えたっぷりだ。

客室乗務員の歴代制服
歴代航空機のモデルプレーン展示

展示エリアのほか、ミュージアムショップも充実。体験時間内に買い物も可能で、ここでしか手に入らないオリジナルグッズを購入できる。

JAL SKY MUSEUMの見学を終えたら、専用のヘルメットを被り、いよいよ格納庫ツアーへ。展示エリアから格納庫に通じる扉が開き、目の前に広大な格納庫と滑走路が広がるワクワクと感動を、ぜひ実際に体験してもらいたい。

格納庫では早速、整備中の飛行機がお出迎え。白い垂れ幕の向こうでは、飛行機の塗装が行われるという

格納庫では、実際に整備士が飛行機をメンテナンスしている様子や、現役の飛行機を普段見ることができない距離・角度から眺めることができる。この日はちょうど、「JAL Fantastic Journey Express」の就航直前。東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」をテーマにした特別塗装機を間近で見ることができて、テンションがMAXに!

特別塗装機「JAL Fantastic Journey Express」

普段立ち入ることができない格納庫で、飛行機の大きなエンジンを目の当たりにし、現場で働く人々の姿を見学する感動はもちろんだが、実際にその場に立って感じるのは、滑走路を飛び立つ飛行機の巨大さと風の音だ。

シミュレーション後に飛行機を眺めると、あらためてエンジンの大きさを実感
普段眺めることのない角度・距離から飛行機を見上げる

JAL STEAM SCHOOLで画面越しにシミュレーションした飛行機を、今度は五感で感じることで、滑走路の風向きや翼・エンジンの大きさを実感できる。座学で学び、手を動かし、最後に目で見て肌で感じることができるのは、同プログラムならではの魅力だろう。

空のSTEAM教育で子供たちに夢と学びの入り口を届けたい

日本航空株式会社 総務本部 ESG推進部 社会貢献グループ 主任 岡 愛梨氏

JALグループは、次世代育成プログラム「空育(そらいく)」を展開しており、これまでも子供向けに、さまざまな体験型プログラムを提供してきた。JAL STEAM SCHOOLもそのひとつで、2017年に開講している。

今回のリニューアルについて日本航空株式会社 総務本部 ESG推進部 社会貢献グループ 主任の岡 愛梨氏は、「子供と一緒に保護者が楽しむ姿が印象的で、大人も含めて楽しめるプログラムにしたかった」と語ってくれた。

従来のプログラムでは、シミュレーション時に翼の形状や位置を選ぶだけだったが、今回は飛行機への風向き、荷物の搭載位置、エンジンの大きさなど、さまざまな要素を加えてパワーアップしたという。

岡氏は、「飛行機の翼を自由に変えられるのは、シミュレーターならでは。試行錯誤しながら、実験する楽しさを味わってほしい」と語り、同プログラムが、子供たちにとって夢を作るきっかけや学びの入り口となることに期待を寄せた。

JAL STEAM SCHOOLは、JAL SKY MUSEUMで毎週月曜・土曜に定期開催している。対象は小学1年生から大人で、参加費用は1,500円。予約はJAL SKY MUSEUMの公式サイトで、体験希望日の1カ月前より受け付けている。また岡氏によると、今後は外部施設でのイベントや、学校・団体向けのプログラムなども検討中だという。

「好き」や「強い関心」をきっかけとして、大人が予想しないスピードで子供が学び始める瞬間がある。筆者は小学4年生と年長の子供がいるが、子供が自ら「学びたい」と思う“種”は、実際に足を運び、体験する中で生まれることを感じた。JAL STEAM SCHOOLは、多くの子供たちにとって好奇心を刺激する体験となるだろう。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやアプリを中心としたゲーム雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは幼稚園児&小学生の母。親目線&ゲーマー視点でインクルーシブ教育やエデュテインメントを中心に教育ICTの分野に取り組んでいく。