レポート
教育実践・事例
探究学習20年の実績を誇る、京都市立堀川高校の事例に学ぼう
――大修館書店"アクチュアル"セミナー第2弾「探究の最新動向と堀川高校の事例紹介」レポート
2022年1月28日 06:45
2022年度から始まる高校の新学習指導要領では、探究学習が重視されている。「古典探究」や「日本史探究」「理数探究」などに加え、今まで実施されていた「総合的な学習の時間」も「総合的な探究の時間」に改訂される。現場では、どのように探究学習を進めればよいのか、頭を抱えている教員も多いだろう。
そうした中、2021年11月に高校教員に向けた探究学習のセミナー「探究の最新動向と堀川高校の事例紹介」が開催された。主催したのは大修館書店。同社では2022年度から探究学習が高校で完全実施されることを受けて、2022年4月にオンライン型探究教材の「アクチュアル」をリリースする予定だ。
セミナーでは、同教材の編集委員を務める関西学院千里国際中等部・高等部の米田謙三教諭と、京都市立堀川高等学校の紀平武宏教諭が登壇し、探究学習の動向や実践について語った。
子どもたちの経験は、大人が思っている以上に少ない
まず、関西学院千里国際中等部・高等部の米田謙三教諭が「探究の最新動向」について語った。
探究学習が高校で実施される背景のひとつとして、日本の高校生がアメリカ・中国・韓国と比べて「自治活動への参加意欲」や「政治・文化への関心」などが低いという報告があるようだ。
米田教諭は、子どもたちの経験は大人が思っているほど多くないのに、多いことを前提にして授業を行なっていないか。そして日本の子どもたちの社会への関心は低く、さらには自己肯定感が低いことも課題であると指摘。その懸念から、探究学習やアクティブラーニングの重要性が認識されるようになっており、探究学習では子どもたちと社会を上手く結びつける役割を担うべきではないかと述べた。
高等学校学習指導要領(平成30年開示)解説「総合的な探究の時間編」に記載されている探究学習の目的も、社会とのつながりを重視している。
そうはいっても、「探究的な学びは大切だけど、やっぱり受験があるからそんな余裕はない」という教育現場の懸念もある。しかし、実際に東京大学では、探究学習によって身につけられる姿勢を学生に求めており、他大学もそれにならう動きがあるという。それに対応すべく、高校によっては「探究科」を設置するなど、積極的に探究学習を導入する学校も出始めているのだ。また、全国学力・学習状況調査の結果を見ても、探究学習を実施した学校のほうが、すべての教科で平均正答率が高い傾向がみられると米田教諭は説明した。
20年の実績を誇る堀川高校の探究学習
続いては、京都市立堀川高校の紀平武宏教諭から、同校における探究学習の事例が語られた。堀川高校といえば、1999年に普通科に加えて「人間探究科」「自然探究科」を設置して以来、国公立大学への進学実績が急増し、「堀川の奇跡」と言われた時期もあった。今もなお、20年以上探究学習に取り組んでいる。
堀川高校は、中学生に向けて「すべては君の『知りたい』から始まる」というメッセージを発信し、「自立する18歳の育成」という最高目標を掲げている。また、堀川高校では”人は取り組みを通して成長する”という考えのもと、「失敗のススメ」を重視しているという。
また、学科に関わらず、すべての生徒のカリキュラムに週に2時間の「探究基礎」という授業が設置されており、1年半かけて探究活動を行なう。授業のほか、海外研修と委員会活動も探究学習の一部として位置づけられている。海外研修では、学校が用意するのは飛行機と宿泊場所と安全の半分だけで、生徒が目的を持って探究学習で調べたいことをもとにコースを考える。また、委員会活動も活発で、クラスの中から4人の生徒が探究基礎委員に選ばれ、探究基礎の授業の運営を行なっている。
堀川高校の探究基礎の流れは、「DIVE(入学直後2日間)」→「HOP(1年前期)」→「STEP(1年後期)」→「JUMP(2年前期)」となっている。最終的に、探究学習はグループではなく個人単位で行なうことになる。
入学直後のDIVEは、探究で何をやっていくのかを体験する2日間だ。1日目は3つのテーマのうち、与えられたテーマについて班で探究活動を行なう。そして2日目にその成果をポスターにまとめて発表する。ここで、生徒たちは答えは与えられるものではなく、自分で主体的に見つけていくのだと実感する。
続くHOPは、探究の「型」を学ぶ期間である。この期間に探究活動の進め方や、情報収集の方法、論文の形式や書き方、ポスター発表の方法や聞き手はどうすべきかなどを学ぶ。
その後、STEPで探究の「術」を学ぶ。関心のある分野について課題解決のために必要な知識や技能を習得し、2年生からの個人探究活動に向けた課題設定を行なう。堀川高校では、クラスごとではなく、約10人単位のゼミで活動を行なっており、ひとつのゼミには教師2名と大学院生1名が配置され、どのゼミを選択するのかは生徒自らが考える。この時期はちょうど2年生からの文理選択の時期になるのだが、ゼミの分野は文系・理系構わず選択できるようになっている。
そしてJUMPは、探究の「道」を知る期間である。「道」とは具体的に、できる限り先行研究を調べ、実験や調査を行ない、もし計画通りいかなければ、再度計画を練り直し、PDCAを回していく。JUMPになると個人で探究活動を行なうようになり、やることがひとりひとり違うので、毎回の授業では教員や大学院生との面談が中心になる。中間発表や論文執筆に向けてやることは山積みなので、段取り力も身についていくという。
「研究テーマはひとりひとり違いますが、教師や生徒同士の対話をとても大切にしています。生徒たちからは、友達との対話が励みになったとか、わからないことがわかったという声をよく聞きます」(紀平教諭)
さらに、JUMPでは2年生の9月中旬に探究基礎発表会という中間発表がある。ここでポスター発表を行ない、質疑応答を通じて自分の研究の評価を受けることで、自分の論の弱点を知ることができる。それが論文にまとめていくための助けになるようだ。
紀平教諭は生徒の様子について、「発表は緊張しますが、やってみるとやってよかったという生徒が多いです。発表することで考えがよりまとまりますし、自信がついて次に向かえる一歩になるように思います」と述べた。
探究学習は進路選択にも影響する
紀平教諭は、堀川高校における探究基礎の特徴についても述べた。
堀川高校では、探究基礎の指導は大学教員を呼ぶのではなく、あくまで堀川高校の教師が行なうことにしている。こうすることで、担任と生徒が日々の生活の中で探究基礎について話し合える機会が増え、教師は探究基礎の時間に普段の授業では見られない生徒の一面を見ることもできる。
また堀川高校の探究学習の目的は、手法を身につけることであり、成果を求めることではない、としている。つまり、何かコンテストに出場して賞をもらうことを目的としていない。大切なことは、生徒自らが学んでわかることをつかみ、わからないことに自ら気づくことだ。自分が何を知りたいのか気づくことが大切なのである。
さらに、グループではなく個人で一通りやりきることも特徴だ。最初から最後まで自分で調べて発表する。だからこそ、わからないことも「わからない」と言えるし、他人からのアドバイスも聞けるようになる。
2年生の前期で探究学習は終わるが、「探究学習で自分自身と向き合った経験があるからこそ、将来何をしたいかを真剣に考えられるようになっていく」と紀平教諭は語る。個人面談や進路指導の際も、生徒がどの方向に進むのが良いか、生徒の理解を深めるうえで探究学習は役立つという。
紀平教諭は堀川高校の探究学習について、「長年の実績から、システムがしっかり構築されており、過年度の資料を参考にすれば授業案ができるというメリットがあります。ただし、それは教師のかかわりがルーティンワークになりがちという落とし穴にもなってしまうので、教師も『探究』を続ける意識が大切だと思います。目の前の生徒を見ながら、問いかけを行なっていきたいと思います」と語った。
さまざまな学校で使えるオンライン型探究教材「アクチュアル」
ここからは、米田教諭や紀平教諭が編集委員を務める、大修館書店のオンライン型探究教材「アクチュアル」について、少し触れておこう。
探究学習を実際に教育現場で取り入れるにあたって、「具体的にどんなテーマがよいのか」「教師がどう関わればいいのか」と戸惑う声は多い。また、探究科という専門の科を設置するのか、それとも普通科の中で行なうのか。さらに学校の教師が指導するのか、外部の講師に委託するのか。学校によって導入の方法はそれぞれ違ってくるだろう。
しかし、アクチュアルはどの形式で行なっても対応可能だ。アクチュアルでは教師用の指導資料も用意されているので、初めて探究学習を実施するときも安心だ。また、教える側が頭を悩ませる探究のテーマも、あらかじめアクチュアルには用意されている。
デジタルなので教師は教材をアクチュアルにアップロードすればよい。また教師が生徒の学習履歴を簡単に確認できるうえ、蓄積された学習履歴を使って簡単にポートフォリオを作ることもできる。さらに、生徒側にとってもデジタルだからこそやり直しがききやすく、試行錯誤しながら行なう探究学習とは相性が良い。
アクチュアルの最大の魅力は、「ミニ探究」「ミドル探究」と呼ばれる教材の存在だ。ミニ探究は授業で2~3コマ、ミドル探究は5~10コマで終わる想定のもので、探究の「型」を身につけることができる。現在ミニ探究のテーマが16本、ミドル探究が5本用意されており、学校で好きなテーマを選んで実際に授業で使うことができる。テーマのラインナップは今後も充実させていく予定だ。
アクチュアルはこのミニ探究・ミドル探究を足掛かりに、次は調べ学習編、最後に課題研究編とステップアップして、2~3年使い続けられる教材となっている。調べ学習編では、ある程度の期間をかけて、生徒の興味・関心のあるテーマをきちんと調べるための教材が揃っている。そして、2023年にリリース予定の課題研究編では、社会科学的な課題解決やあらたな提案に向けた探究に取り組めるような教材を用意するという。
探究学習は現場の教師にとって、授業準備や教材研究など大変なことも多いだろう。しかし、進路選択を控えた高校生から見れば、自分の興味・関心を深堀りできる探究学習は、何か新しいことや面白さに気づける貴重な機会でもある。将来を意識し始める高校生がもっと主体的に学べる場として、探究学習が広がってくれることを願う。