トピック

小中学校のアフターGIGA、“端末の入れ替え”だけではない環境整備や活用のポイントとは

2020年春、GIGAスクール構想による1⼈1台端末が最初に導⼊されて以来、3年が過ぎようとしている。

「アフターGIGA」とも呼ばれる現在、学校で端末を使うことが当たり前になり、本格的な活⽤の段階に⼊った。一方で、GIGA端末の更新や入れ替えの時期も近づいており、自治体によっては検討委員会などの立ち上げも始まっている。学校現場のICT活用を進めながら、次のICT環境整備も進めなければならず、頭を悩ます自治体は多い。

そこで、各地の教育機関でICT活用やGIGAスクール構想についてアドバイスを行なう、柏市教育委員会教育研究専門アドバイザーの西田光昭氏に、アフターGIGAに自治体や学校が取り組むべき課題や準備すべきICT環境整備について話を聞いた。

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全国に1人1台端末は行き渡ったが、自治体間で活用の差が広がる

柏市教育委員会教育研究専門アドバイザーの西田光昭氏

まずは、GIGAスクール構想の現状について触れておこう。

文部科学省が公開している「端末利活用状況等の実態調査」(令和3年7月末時点)によると、全自治体のうち、96.2%にあたる1744自治体で端末の整備が完了した。全国の公立の小学校の96.2%、中学校の96.5%が「全学年」または「一部の学年」で端末の利活用を開始しており、1人1台端末で学ぶ環境は全国的に広がった。

こうしたGIGAスクール構想の現状について西田氏は、以前に比べてICT活用に取り組む教員が増えているものの、「自治体や学校による差が目立ってきています」と語る。1人1台端末を積極的に活用している自治体とそうでない自治体、ICT活用に対する経験の差が広がりつつあり、経験豊富な自治体は教育の質も高まってきているようだ。

また西田氏は、GIGAスクール構想のビジョンに対する認識の差も、自治体間の活用の差につながっていると指摘。

「GIGAスクール構想では、個別最適な学びと協働的な学びの実現をめざす一方で、クラウド活用やデータ活用も重視しています。これを理解せずに、オンプレミスの感覚で、従来の授業での指導のためのツールとして端末を使っているだけだと活用を広げていくのがむずかしい」(西田氏)。GIGAスクール構想は何をめざすものなのか、改めて理解することが大事であり、最近は管理職に対し「CIO(Chief Information Officer/情報統括役員)研修」を実施する自治体も増えているという。

ほかにも、端末導⼊とともに運⽤・保守などのサポート体制を整備した⾃治体とそうでない⾃治体があった。やはり、運⽤⾯の負担を現場にかけない整備をした自治体は活用が進んでいる。

次にやるべきことは“端末の入れ替え”だけではない

GIGAスクール構想のロードマップはどうなっているだろうか。

文部科学省の資料「GIGAスクール構想の最新の状況について」によると、学習者用端末の整備は2022年度(令和4年度)中に完了し、並行して『BYODへの移行を見据えつつ、「デバイス」の考え方や施策方策の在り方を整理』とある。また、GIGA端末の入れ替えという大きなイベントがやってくるだけでなく、デジタル教科書・教材の導入、CBT化など、新たな施策も継続して対応が求められている。

こうした状況を見ると、ついつい“端末の入れ替え”というモノに注目しがちであるが、西田氏はアフターGIGAでは“教育データを活用する”という視点が重要だと指摘する。

背景にあるのは、児童生徒・家庭環境の多様化だ。「一億総中流」と言われた時代は終わり、学校はさまざまなバックグラウンドを持つ児童生徒が集まるようになった。従来通りの対応では現場が対処しきれず、個別最適な学びを実現するためには児童生徒の教育データ活用が欠かせない。

ほかにも、教員不足の問題にも教育データの活用が欠かせないと西田氏は指摘する。「教育現場の働き⼿が少なくなる中、ベテラン教師の退職により、経験を元にした教育は維持ができない、という課題も出てきています。豊富な経験や児童生徒の状況をデータ化することで、若⼿教師の⼈材育成や授業改善に役⽴てるといった活⽤も求められるようになるでしょう」(西田氏)。社会の変化によって学び方や教え方が変わりつつあり、対応していくためにさまざまな教育データの活用が重要だというのだ。

ただし、教育データの利活用については、個人情報の扱いなど不明確な部分も多く教育者も保護者も不安を感じているのが実情。教育データ活用が児童生徒にもたらすメリットの周知はもちろんだが、個人情報の保護とそれに伴うセキュリティ対策、情報利用に関するポリシーの整備が、自治体や教育サービス企業には今後求められるだろう。

アフターGIGAのICT環境整備のポイント

では、アフターGIGAのICT環境整備を進めていくにあたり、重要なのは何か。西田氏は2つのポイントを挙げた。

①オンプレミスからクラウドへの方向転換が鍵
教育データ活用を進める大前提として、クラウド活用が重要になってくるが、クラウドに対してはまだまだ不安に感じている教育関係者が多い。西田氏は「アフターGIGAのポイントは、オンプレミスからクラウドへの方向転換がうまくいっているかどうかが鍵です。GIGAスクール構想の立ち上げ時にそこまで取り組めていなかった自治体は思い切って再構築することも考えてみるべき」だと述べた。

それと同時に、クラウド活用を支えるサポート体制を見直すべきだと指摘。特に、ICT支援員の存在を挙げる。「⾃治体によってはICT⽀援員が孤⽴しているところもあり、教育委員会や学校・教師での状況の把握や共有が十分にできていないケースが発⽣しています。クラウド活⽤を⽀えるICT⽀援員の連携や情報共有の場を作っていくことが⼤切です」(西田氏)。

②学習系と校務系のネットワーク連携も重視
教育現場でデータ活用を進めていくにあたり、校務系と学習系に関するネットワークの見直しも重要なポイントだ。文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」においても、これからはネットワーク分離を必要としない認証によるアクセス制限を前提とした環境が目指す形として示されている。

ネットワーク分離を必要としない認証によるアクセス制御(出典:文部科学省「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」の第2回改訂に関する説明資料)

これについて西田氏は、「ゼロトラスト(※)の手法を含め、認証によるアクセス制限の実現は、企業側からの提案にもっと期待したい部分です。どのくらいの予算でどのようなシステムが作れるのか、教育委員会が問い合わせできるような体制も作っていただきたいですね」と話す。

※ユーザー・端末・ネットワークなど、すべてを「信用しない」前提で、重要な情報やシステムへのアクセスの安全性を常に検証して脅威を防ぐ、というセキュリティの考え方

また、CBT(Computer Based Testing/コンピューターを使った試験方式)の導入に向けてネットワークの拡充や子どもの認証方法も重要になってくるという。特に、文部科学省が整備し全国学力調査などで利用する「MEXCBT(メクビット)」でCBTを受ける場合、その認証も手厚いものが求められるという。

「全国学力・学習状況調査」だけでなく、県単位の多様な調査をMEXCBTに載せているケースもあり、データ活⽤などで履歴を⽣かしやすくするためにも、認証⽅法の早期構築に取り組む必要があると西田氏は指摘する。

アフターGIGAで自治体がやっておくこと「実績づくり」「教員のサポート体制の充実」「条例整備」

アフターGIGAでは、端末の入れ替えも大きなイベントであり、それに向けた準備も求められている。本稿執筆時点では、文部科学省から具体的な方針は示されていないものの、今の時点で自治体が取り組むべきことは何か。

西田氏は「まずは日々のICT活用の実績を積み重ね、教師や保護者・児童生徒が端末の必要性、活用効果を認識し、端末が欠かせないものというコンセンサスを得られるようにしておくことが⼤事です」と述べた。実際、端末の入れ替え時期になって予算を申請する際には、活用実績が求められる。今からでもICT活用に取り組み、端末を使った学びが大事だと言ってもらえることが重要だというのだ。

具体的な実践例としては、学校内だけでICT活用をするのではなく、学校以外の機関にもつなぐなど、多様な学びに挑戦することを挙げた。また「先生が教える」から「子どもたちが学ぶ」手法に近づいたことを認識できるような取り組みも良いと西田氏。こうした取り組みは、“令和の日本型教育”に向かうための第一段階になるという。

「このような変化に対して“教育改革”と言ってしまうと拒否感も強く出るかもしれませんが、改革も改善の積み重ねの結果です。今のことを少し変えたらどうなるかにトライすること。ICT環境がなかったらできなかったことが、GIGAスクール環境でできるようになった、という事例の積み重ねが大切です」と語った。

ほかにも西田氏は、自治体が取り組むこととして教員のサポート体制の充実を挙げた。

「校務系システムについては“先生方の働き方をサポートするもの”という意識を持つことも大事です。今は若い人が就職活動をする際、DXに取り組んでいる組織かどうかを見る時代です。教育の質を上げるためには、教員の働き方を見直すのは必須で、良い働き手が集まるように校務系のシステムも社会で⼀般的な活⽤に近づけるように⾒直すことも必要でしょう」と西田氏は語った。

さらに教員の働き方を変えていくためには、今まで当たり前のように守っていた条例や規程の見直しも必要になると西田氏。例えば、個人情報保護条例や文書管理規定などの縛りが非常に厳しいため、学校でしか仕事ができないという環境はまだ多くある。また校務だけでなく、学習面においても新しいアプリの導入ができない自治体もある。

「先生方がこれからの新しい学びを作るために、自治体や管理職は挑戦できる環境を用意する必要があります。これまでの教育委員会ではPDCAで計画を立て、しっかり練り上げてから実施していましたが、今は計画を立てているうちに状況が変わってしまいます。方向性が見えたらまずやってみる。良ければ続け、問題があれば相談する。そういうやり方に変えていくことも必要です」と西田氏は語った。

アフターGIGAの段階に入り、各自治体のGIGAスクール構想に対する経験値や課題も異なり、舵取りがますますむずかしくなってきている。活用が進んでいないところには次の予算を見据えた活用提案が必要であろうし、活用推進のためには、運用支援や支援員の効率的な活用や情報共有も大切である。

また、教育データ活用が次の鍵になることも改めて理解が必要だ。クラウド化とゼロトラストは避けて通れず、セキュリティに対する認識も変えていかねばならない。アフターGIGAは次の端末を入れることが目的ではなく、めざすは個別最適な学びと協働的な学びで、これからの社会を生き・つくる子どもを育てるというビジョンのもとに、ICT活用や環境整備を進めていくことが一層大切だといえる。

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