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GIGA端末のバッテリー劣化問題を解決、自分の席で端末を充電できるモバイルバッテリー
Lenovo LocknCharge Power Pack
2024年4月22日 06:30
GIGA端末は、すでに2020年の導入から4年が経過しようとしており、バッテリー劣化の問題が顕在化している。端末を朝から使用していると午後の授業では、バッテリー駆動ができない生徒もいたりとバッテリー劣化対策は重要だ。
モバイルバッテリーパックと充電ステーションで構成される「Lenovo LocknCharge Power Pack」を取り扱い、千代田区などへの導入実績を持つLock and Charge Japanの山川雅弘氏は、「授業での端末活用が進んできた中で、バッテリー劣化によって端末使用が制限されてはならない。自治体の導入担当者は、次期端末選びも大事だが、いまの端末を更新時期まで使い続けられる方法を考えてほしい」と語る。
自分の席で充電しながら端末を使える
Lock and Charge Japanが発売している「Lenovo LocknCharge Power Pack(以下、LLPP)」は、Lenovo のモバイルバッテリーである「Lenovo Go USB Type C ノートブックパワーバンク 20000mAh」を12個と、それらを同時に、最短5時間で フル充電できる急速充電ステーション「BOLT 12 USB-C PD Type-C」をセットにした製品だ。
本体正面には、各スロットの充電状態を示すLEDインジケーターを装備し、保管庫を開けなくても返却や充電完了の状態が一目でわかる効率的な運用。さらに、フロントドアには盗難防止用のシリンダー錠を装備しており、使用していない時間帯のセキュリティ面にも配慮している。
山川氏は、「LLPPを教室に設置すれば、必要なときに、モバイルバッテリーを取り出し、充電しながら自分の席で端末を使い続けることができる。バッテリー劣化によって、生徒や先生の端末が使えなくなるといった心配が減り、端末の持ち帰りの際に自宅で充電を忘れた生徒にも対応できる」と語る。
千代田区では、2023年度に、区内の小中学校のすべてのクラスにLLPPを導入して、バッテリー劣化問題と、生徒の充電忘れの課題に対応している。導入前までは、教室内に充電コーナーを作って、充電忘れの生徒たちは、そこに席を移動して充電しながら授業を受けていたという。
一方で、授業での端末利用が増加するに従い、午後の授業でバッテリーが持たない生徒が増加。さらに、バッテリーの経年劣化も重なり、5~6時間目になると、教室の隅にある充電コーナーに生徒が何人も集まってしまう状況が起きていたという。
「端末を積極的に利用するほど、バッテリーの劣化が進み、バッテリー切れが発生する回数が増え、授業が中断されるケースが頻発している。緊急措置として、1台の端末を2人の生徒が一緒に使ったり、充電コーナーに生徒を集めて授業を行ったりしていたが、生徒の学習効果を高めるためには、1人1台環境で、グループ学習の際にも自由に端末を持ち歩ける環境が重要である。生徒も先生も端末の活用に慣れ、授業への活用が促進される段階に入っているが、その流れを、バッテリー劣化が理由で止めてはいけない」と指摘する。
千代田区の小中学校では、これまで充電忘れの生徒は、先生に申告。先生は毎朝、その対応に追われていたが、今は充電忘れの生徒も自らモバイルバッテリーを取り出して充電を開始。また、授業中にバッテリーが少なくなった生徒も同様に、自分でモバイルバッテリーを充電保管庫から取り出して、授業を続ける環境が整い、端末を利用した授業が、終日、スムーズに行えているという。
モバイルバッテリー1個で、Chromebook3台分の充電が可能
実際、ここにきて、端末のバッテリー劣化は、多くの教育現場で問題となっている。とくに、GIGAスクール構想の早期に導入した学校や、それ以前から端末を導入している現場では、朝はフル充電の状態でも、午後の授業までバッテリーが持たない状態が複数の端末で発生しており、授業に支障をきたす場面も少なくないという。
これらの問題を解決するにはいくつかの方法がある。
ひとつめは、端末そのものを買い替える方法だが、これは、予算の関係上、実現は難しい。しかも、Next GIGAによる新たな端末の導入が本格化するのが2025年度とされており、まさに更新時期が目前に迫っているだけに、それまでの延命措置をどうするかという考え方が先行している。
そうした状況を踏まえた対策のひとつがバッテリー交換である。だが、これらの作業には多くの費用がかかること、導入台数が多いため、コストだけでなく、交換にかかるスケジュールが長期化する課題が指摘されている。
「バッテリー交換を想定して予算を確保していた自治体でも、ここ数年の部材価格の高騰により、当初想定していた予算内ではバッテリー交換ができない課題も発生している。また、バッテリー交換を行うメーカー側も多くの台数に対応できる作業体制が整っていない実態もある」という。
3つめの方法は、教室内に延長コードを這わせて、電源タップを使って、ACアダプターを接続しながら授業を行う方法だ。手軽に解決できる方法ではあるが、タコ足配線となることや、教室内を移動して学習する場合、生徒が床に這わせたケーブルに足に引っ掛けてしまう危険性などがある。千代田区のように、充電コーナーを設ける手もあるが、バッテリーが劣化した端末が増えれば、運用も難しい。
そうしたなかで注目を集めているのが、4つめの方法となるモバイルバッテリーの利用である。
教室内や職員室内に充電ステーションを配置し、そこから充電済みのモバイルバッテリーを取り出して、バッテリー切れした端末に接続すればいい。誰でも簡単に利用でき、生徒は自分の机でバッテリーパックから充電しながら授業を受けられる。
また、生徒が持ち回りで利用できるため、生徒人数分のモバイルバッテリーが必要ではないこと、充電ステーションも小型化しており、設置が容易であり、工事不要で、作業スケジュールにも柔軟性を持たせられることもメリットとなる。メーカーや機種、保管台数によって導入コストには差があるが、20万円台~40万円台で導入できる。
たとえば、LLPPでは、満充電のモバイルバッテリー1個で、3台のChromebookを充電できる容量があると試算。1教室6個程度で、安定した運用が可能だとする。また、先生向けには、職員室に充電保管庫を1台設置すれば運用が可能だとみる。「充電保管庫は、小型電子レンジのサイズに近く、コンセントに差し込めばすぐに使える。職員室でも場所を取らない。まずは職員室に設置して、先生が利用したり、生徒に貸し出したりという運用から開始しているケースもある」とする。
また、「学校に配備するため、災害時の非常用電源としての役割も自治体からは期待されている」という。
懸念されているのが、モバイルバッテリーの寿命だ。リチウムイオンバッテリーを使用した一般的なモバイルバッテリーの場合、500回の使用で、充電性能は半分に劣化するといわれている。LLPPで用いられているLenovo のモバイルバッテリーでは、500回の使用で、20000mAhの容量が、10000mAhにまで劣化することが想定されている。
だが、「授業日数が年間約200日とすれば、2年半で使えなくなってしまうと言われるが、500回という数字は、ゼロから100%にまで充電したときの回数であること、また、仮に500回使用後も10000mAhの容量が残っている。使用頻度は現場によって違うために一概にはいえないが、4~5年程度は使えるだろう」とする。
日本で商品化されたユニークな背景
Lenovo LocknCharge Power Packは、PCメーカーであるレノボのモバイルバッテリーと、オーストラリアで誕生したLocknChargeの急速充電ステーションを組み合わせたダブルブランドの製品であるが、実は、日本で商品化されたというユニークな背景がある。
レノボは、PCメーカーとしては世界トップシェアを持ち、日本のGIGAスクール構想の導入実績でもトップシェアを持っているのは周知のとおりだ。
一方、LocknChargeは、オーストラリアの充電保管庫の専業メーカーであり、1998年に設立。オーストラリアの教育市場では90%以上のシェアを誇っているという。海外では30カ国以上に展開し、米国市場での実績が最も大きいほか、英国に拠点を持ち、欧州での販売も拡大しているところだ。アジア地域では、日本に唯一の拠点を設置している。
創業者のPaul Symons氏は、もともと高校の教員であり、当時、教育現場に配備されたデスクトップPCの盗難防止ケーブル(セキュリティワイヤー)を自宅の裏庭で自作。それが評判になり、近隣の学校に配布を開始していたが、徐々にオーストラリア全体で知られるようになり、事業化することを決意。教職を離れて、LocknChargeを設立したという経緯がある。
デスクトップPCやノートPCの盗難防止のセキュリティワイヤーのほか、教育現場のノートPCを保管する保管庫を商品化。その後、保管時に充電したいという要望にあわせて充電保管庫を開発して、販売を開始し、現在の事業につながっているという。教育分野のほか、医療、飲食サービスなどにも充電保管庫の販売を広げている。
日本では、Lock and Charge Japanの山川雅弘氏が取締役を務めるグレイスリンクス・エンタープライズが、2019年10月から取り扱いを開始し、2020年にLock and Charge Japanを設立。「レノボジャパンは、日本の教育分野におけるバッテリー劣化の課題に対して、自社のモバイルバッテリーによる提案を行っていたが、複数のモバイルバッテリーを充電することができる充電保管庫が自社製品にはなく、Lock and Chargeの製品に着目し、問い合わせをもらったのが、商品化のきっかけだった」という。
Lock and Chargeの本社では、iPhone用の充電保管庫を開発段階であり、これを使って検証したところ、レノボのモバイルバッテリーを収納できるサイズであることがわかり、これを流用することを検討しはじめたという経緯がある。
だが、もともとの企画では、内部の仕切り板には弾力性のあるプラスチックを採用し、収納したiPhone本体に傷がつかないようにしており、厚みがあるモバイルバッテリーの収納にはぎりぎりのサイズとなっていた。「iPhoneの薄さで設計していたため、厚みがあるモバイルバッテリーを充電する際には、仕切り板に挟まれる格好になり、モバイルバッテリー本体に熱を持つ可能性があるなど、適していない部分があった。そこで、鉄板に変更することで仕切り板を薄型化。空間を開けながら、充電できようにした」という。
また、仕切り板の変更によって空間を設けたものの、レノボのモバイルバッテリー12個を一斉に充電開始すると、庫内の温度があがり、モバイルバッテリーの保護回路によって、充電が停止することがわかり、本社側では、さらなる改良を検討した。
「排熱用の冷却ファンを搭載し、強制換気を行うことで、庫内の温度上昇を抑えて、充電ができる設計変更を行った。これにより、夏場においても安定した庫内温度環境での充電が可能になった」という。結果として、iPhone用として販売されている充電保管庫にも冷却ファンが採用されることになり、運用時の安定性が増した。
このようにLLPPは、日本におけるニーズをもとにして生まれたものであり、現時点では日本市場だけで販売されている。2022年末から本格的な営業活動を開始しており、千代田区のほかにも、全国の自治体で導入実績がある。
さらに、Lock and Charge Japan では、iPadやChromebook用の充電保管庫である「Putnam(プットナム)」の販売も開始しており、本体そのものの充電を行うといった提案を開始。学校分野だけでなく、PC教室や各種教室などでの利用提案も進めていくという。
Next GIGAが本格化し、端末が入れ替わるまでにあと1~2年。その間のバッテリー劣化問題を解決するための手段として、モバイルバッテリーへの関心は高まることになりそうだ。