レポート

教育実践・事例

授業でボードゲーム、「遊び」と「学び」の中で意欲を育む

――東京都板橋区立板橋第十小学校の取り組み

小学4年生の総合的な学習の時間で、ボードゲームの制作者と交流する児童たち

ゲームやYouTubeなど子供たちの娯楽はデジタルへと変わっているが、一方で電源を使わない、企業や個人が制作するボードゲームも世界的なトレンドになっている。最近では、ボードゲームが持つ教育効果に注目する教育者も増えており、学校の授業や教育活動での活用も見られるようになってきた。

そうした中、子供たちや教育者の間でじわじわ広がっているボードゲーム「カンジモンスターズ」をはじめとしたボードゲームの制作者が、板橋区立板橋第十小学校でゲストティーチャーとして登壇した。子供たちと制作者の交流を通して、ボードゲームが持つ教育的価値について注目してみたい。

アナログな世界に触れながら、エンターテインメントの視野を広げてほしい

板橋区立板橋第十小学校では、小学4年生の総合的な学習の時間で、1年間を通してキャリア授業カリキュラム「3Mプロジェクト」を実施している。3Mは、meet(多様な大人と出会う)、make(多様な大人と形にする)、mix(多様な人と生き方と混ざり合う)。児童が1,000人の大人と出会い、人生設計を聞くことで自らの将来について考える取り組みで、今回はボードゲームの制作者がゲストに呼ばれた。

授業に参加したのは、「カンジモンスターズ」を手掛ける株式会社tanQ 代表 森本佑紀氏と森山晴介氏、ボードゲームの販売や実店舗を展開する株式会社ピチカートデザイン 白坂翔氏、ボードゲームの制作やイベント運営などを行う株式会社アークライト 野澤邦仁氏、小池淳皓氏、そしてボードゲーム作家の伊藤誠人氏、という面々だ。

写真左から、白坂翔氏、小池淳皓氏、野澤邦仁氏、森本佑紀氏、伊藤誠人氏、森山晴介氏
板橋区立板橋第十小学校 教諭/一般社団法人まなびぱれっと 代表理事 小泉志信氏

4年生を受け持つ小泉志信教諭は、この授業のねらいについて「普段からゲームで遊んだり、Scratchでゲームづくりを楽しんだりする児童たちが、ボードゲームというアナログな世界に触れながらエンターテインメントの視野を広げてほしかった」と語る。デジタルが当たり前になっている児童たちが、ボードゲーム制作者との関わりを通して新たな気づきを得て、自分もいろいろなゲームが作れるんじゃないかと、やりたい気持ちを高めてほしいというのだ。

授業は、ボードゲームで遊ぶ体験の時間と、ボードゲームの制作者にインタビューする時間の二部構成で進められた。約100人の4年生が数グループに分かれ、ボードゲームの制作者と共にゲームに触れた。

黒板の前に並べられたボードゲーム、一同に揃うとワクワクする

tanQ株式会社の森本氏は、「カンジモンスターズ」を使って児童と交流した。カンジモンスターズは、漢字の部首を合体させ、それによって生まれたモンスターの力を使って戦うバトルカードゲーム。漢字や部首に因んだモンスターのイラストが可愛く、色分けされたカードで直感的にプレイできるため、小さな子供でも簡単に遊べるのが特長だ。

漢字の部首がモンスターになったバトルカードゲーム「カンジモンスターズ」(株式会社tanQ)

板橋第十小学校では、カンジモンスターズを導入しており教室の遊びコーナーに設置してあった。なかにはマイカードを持参した児童もおり、男子だけでなく女子も積極的に対戦して楽しそうに遊んでいる。ゲームの作者である森本氏と対戦できる机には、多くの児童が順番待ちをする賑わいぶりだ。

tanQ社の森本氏と一緒にカンジモンスターズをプレイする児童たち

後半は、森本氏が児童に向けて、カンジモンスターズを作った経緯や自身のキャリアについて語った。

カンジモンスターズは「漢字が学べる」ことが出発点ではなく、ゲームとして面白いもの、親子で楽しめるゲームを作りたいと思ったことがスタートだったと森本氏は述べた。子供の頃に経験したことが自分の生き方に大きな影響を与えることから、子供たちが「熱中できる」体験が得られ、そこから学びが広がるものを作りたかったという。また誰もが参加できるゲームであることも重視しており、カンジモンスターズを導入した学校の中には、支援級・普通級の垣根なく、時には支援級に通う子が輪の中心になって遊ぶシーンも多く見られると語った。

カンジモンスターズの制作経緯などについて話を聞いた

ほかにも、遊びながらゴミの分別について考えるクイズゲーム「poi」の机も児童生徒の声でにぎわっていた。

遊びながらゴミの分別について学べる、クイズゲーム「poi」(株式会社アークライト)

poiのコンセプトは、「ワイワイ楽しく遊んでいるうちに、自然とゴミ分別に詳しくなっている」こと。ゲームで使うカードの素材は再生紙を使用しており、制作にあたって、新宿清掃事務所や在中国日本国大使館、NYC(The Official Website of the City of New York)など、公的機関への確認・調査を行った。東京、ニューヨーク、北京、ベルリンの4都市のゴミ分別がわかる。

poiは協力型のクイズゲームで、1人が山札からゴミカードを引き、ほかの参加者が場にあるどの分別カードに置くのが正しいかを考え、話し合う。

「poi」をプレイ、机に並べられたカードを夢中で覗き込む

poiの編集に携わった小池氏は、「ゲームは子供たちに興味を持たせること、褒めることが得意で、実際に手を動かして遊ぶボードゲームは、人を動かすノウハウの塊」とコメント。遊びを通して成功体験が得られるだけでなく、間違えて失敗できる環境があるのも魅力。「自分が子供の頃は一方的に話を聞くだけの授業が苦手だった」と語る小池氏であるが、ボードゲームのメリットはプレイヤーを飽きさせることなく、遊びの中で目標の立て方や自主性を促せることで、教育との親和性が高いと語った。

「はあって言うゲーム」(幻冬舎)、企画 白坂翔氏(JELLY JELLY GAMES)
「Make your choice!」(クー・ドゥー・ラパン)

人間関係の構築や非認知スキルの定着に期待できる

ボードゲームと教育の相乗効果について、小泉教諭は「ボードゲームを教育に取り入れることによって、子供たちの人間関係の構築や、非認知スキルの定着に期待できる」とコメント。ボードゲームは参加人数の上限が決まっていない物も多く、「私もやりたい」とそれまでになかった交友の広がりにつながるという。また、遊びの中できっかけが得られるメリットを生かし、教員自身が授業の導入を工夫すれば、学びの入口を広げられると語ってくれた。

板橋第十学校では現在、さらに授業を展開して「大人と共に形にする」をテーマに、Scratchで低学年向けのゲーム開発に取り組んでいるほか、林業の紙芝居を作成して幼稚園や保育園に届けるプロジェクトを実践している。また3学期は今までの集大成として、児童1人ひとりが、自分らしい人生設計に挑戦。ボードゲームを通して、遊びと学びの中から得られた新たな刺激を元に、自分がわくわくできる未来を設計してほしい。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。