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知育菓子は学習に活用できる?ゲームやSNS、AI、新しいものを学びに取り入れる教育者の挑戦

――「Microsoft Education Day 2023」レポート

Microsoft Education Day 2023(主催:株式会社バザール、企画協力:MIEE Talks@admin.、共催:日本マイクロソフト株式会社)

ICTを積極的に活用する教育者は、これまでの常識にとらわれず、新しいものを柔軟に教育に取り入れ、学びの選択肢を広げている。

マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)の中にもそうした教育者は多く、2月に開催された教育カンファレンス「Microsoft Education Day 2023」では、ゲームやSNS、お菓子、AIといった教育に取り入れるのがむずかしいものを学びに生かす実践が語られた。また、知育菓子を使うめずらしいワークショップも実施。同カンファレンスの様子をレポートする。

※本文中の先生方の所属は2023年2月取材当時のものを記載。

伸ばしたい資質・能力を教育活動に落とし込むことがポイント

最初に行われたのは、「教育の油と水を混ぜてみたら…!? これからの子ども達の教育とは」と題したトークセッション。登壇したのは、立命館小学校 正頭英和氏、埼玉県立本庄特別支援学校 関口あさか氏、佐賀県多久市教育委員会 福島学氏、静岡県立掛川西高等学校 吉川牧人氏、青山学院中等部 安藤昇氏の5名で、いずれもICTを活用し先進的な教育実践に取り組んでいる教育者だ。

写真左から、正頭英和氏、関口あさか氏、福島 学氏、吉川牧人氏、安藤 昇氏
立命館小学校 正頭英和教諭

トークのメインテーマは、従来、水と油のように相性が良くないとされてきた教育とゲーム、お菓子やSNSの関係について。冒頭で正頭氏は自身が取り組んでいるエデュテインメントが、「なぜ今の時代に必要なのか?」という問いを掲げ、答えの1つとして今の子供たちは日常に多様な娯楽があり、「楽しくなかったら、やめればいい」という発想が定着しつつある現状について言及。その中で、エンターテインメントを教育化することが学びに前向きに取り組むきっかけとなる可能性は大いに期待できると語った。

佐賀県多久市教育委員会 ICT支援員 福島 学氏

しかし同時に、気をつける点として「子供たちはゲームが好き」と一括りにするのではなく、どんなゲームが好きで、何に興味があるのか細分化し、何かに没頭する体験が大切だと述べた。これを受けて福島氏は、自身がICT支援員として携わっている佐賀県多久市での取り組みを紹介。タイピングで算数を学ぶ教材や『桃鉄 教育版』で自由に学ぶ小学生の様子について語った。

埼玉県立本庄特別支援学校 関口あさか教諭

また、関口氏は、知育菓子と絵本を組み合わせた実践を紹介。「お菓子を教育に取り入れたことで、子供たちの意欲の向上や、学びの質の高まりを感じた」と語った。関口氏の取り組みについては、詳細を後述する。

続く話題は、ゲームや知育菓子、SNSを取り入れた授業を実際に学校に導入するための秘訣について。吉川氏は静岡県立掛川西高校で行った「歴史SNS」の事例を紹介し、学習のゴールや伸ばしたい児童生徒の資質・能力を明示し、それを教育活動に落とし込んでいることを説明することが大事だと語った。

静岡県立掛川西高校 吉川牧人教諭

「歴史SNS」の授業では「主体性、協働性、創造性、自己評価」の4つの資質・能力を伸ばすことを目的とし、「歴史上の人物が現代でSNSのアカウントを作ったら?」というテーマでTwitterやInstagramを活用した授業を実践。世界史で学んだ知識をもとに、グラフィックデザインツール「Canva」を使って偉人の投稿画面を作成するなど、創造的な活動を行った。

掛川西高等学校の生徒が作成した歴史SNS

同校ではさらに、生徒が学校公式「note」でリレー小説を公開するほか、ICT委員会を通して学校紹介を発信するなど生徒の主体的な活動が多数行われたという。吉川氏はこれらの実践を振り返り、「学校がSNSの発信を怖れるのではなく、どのような資質・能力を育てたいのかという狙いに基づきながら、正しく発信するトレーニングができれば、有意義な教育活動になる」と語った。

青山学院中等部 講師 安藤昇氏

青山学院中等部でChatGTPを取り入れた授業を行っている安藤氏は、これまで人間が行ってきた多種多様な作業をAIが代行できる時代になった。これからの教育で伸ばしていきたいのは「自分が何をしたいか」という主体性だと強調した。

実際、同校には自ら目的を定め、夢中になってプログラミングに取り組む生徒が多数いるとコメント。安藤氏自身もいかに生徒の主体性を引き出し、それに応えるカリキュラムを作成することに試行錯誤していると語った。

安藤氏がChatGTPを使って「テトリス」をイメージしたゲームを作る様子を紹介

一方、関口氏は特別支援教育の視点からAIに期待しているとコメント。一例として、「遅刻しそうな時に、どう連絡するか?」とChatGTPに質問すると、「電車が遅れている」や「体調不良」など何通りもの案が提示されるが、AIの技術を上手に使うことで、ソーシャルスキルトレーニングに取り組む児童生徒の助けになるという。

関口氏は「聞きたいことに臨機応変に答えてくれるChatGTPはとても便利。むずかしいトレーニングを重ねて自己肯定感を下げるよりも、AIで苦手を補い、得意なことを伸ばすことができるので前向きに活用したい」と語った。

トークセッションの最後には、参加者から「学校に来られなくなった児童生徒を、どうしたら教室に戻せるか?」という質問があがった。

正頭氏は「不登校の児童生徒を教室に戻したい」という教員の想いに共感したうえで、「大切なのは中庸の立場でいること」と発言。不登校であることを認め、レッテルを貼ることなく、「学校に行かなくても、明るい人生が待っている」という意識を持つことの大切さを述べた。そのうえで、不登校児が学校に「行きたい」と思えるような授業を考えることが、教員としての腕の見せどころになると回答した。

関口氏はその一環として、知育菓子や教育版マインクラフトなど子供たちが楽しめるものを取り入れることが有効な手段のひとつであると語った。

知育菓子で五感をフルに使い、立体的な学びを体感する子供たち

約20種類ほど開催されたワークショップの中でも、賑わっていたのが関口氏と吉川氏による、知育菓子を活用した授業実践のワークショップだ。当日は企業展示エリアにクラシエフーズ株式会社のブースも設置され、「ねるねるねるね」や「ねりキャンワールド」など、カラフルな知育菓子が並んでいた。

クラシエフーズ株式会社の知育菓子を使ったワークショップ
「ねるねるねるね」や「ねりキャンワールド」などの知育菓子

ワークショップでは両氏の授業例を紹介するほか、参加者が自由に知育菓子を手に取り、授業展開についてディスカッションを実施。また、専用のシートを使って「ねりキャンワールド」でコマ撮りアニメを作成する活動も行った。

関口氏は知育菓子を使った授業を行うことになった経緯について、クラシエフーズの協力を得て、「ねるねるねるね」を題材にした絵本を自ら制作したことや、オノマトペや五感を使って学習に取り組んでいたことを語った。

絵本の制作について関口氏は、付属の粉と水を混ぜ合わせるとふわふわに膨らむお菓子「ねるねるねるね」をモチーフにストーリーを考案。かねてから「絵本を読んだだけで完結したくないという想いがあった」と話す同氏は、ふわふわに膨らんだ「ねるねるねるね」を「雲」に見立て、主人公の子供が「ぐるぐるぐるぐるぐーるぐる」と呪文を唱えながらお菓子を混ぜるシーンを取り入れた。

こうした子供が没頭して楽しめる仕掛けを絵本に組み込んだことで、今まで途中で離席していた子供が、最後まで絵本に集中する姿が見られるようになったと関口氏は語った。

関口氏が制作した絵本をもとに、知育菓子を使った授業を紹介

絵本の読み聞かせに加え、関口氏が小学校で行っているのが「ねりキャンワールド」を使ったコマ撮り動画の授業だ。「ねりキャンワールド」は、粘土のように伸ばして、色を混ぜ、自由に形が作れるソフトキャンディ。この授業では「5W」を取り入れたストーリーシートを作成し、オリジナルの物語作りに挑戦する。シートには物語を読んだ人がどんな感情になるかを示す、表情のマークとその度合いを示す数字が記載され、作り手のイメージを駆り立てる工夫が盛り込まれている。

ワークシートで物語を作り、ねりキャンワールドでアニメーションを制作

普段作文が苦手な児童も、4つの場面を「起承転結」に分けて考えることで、スムーズに活動に取り組むことができたという。また、関口氏は「まだ読み書きができない未就学児、小学校低学年や特別支援学級の児童でも、ねりキャンワールドで実際に物語を作り、撮影することによって、想像力豊かに表現することができる」と語った。

高校で世界史を教える吉川氏は、高校1年生の授業で、「ねりキャンワールド」と「おえかきグミランド」を使って歴史を再現するグループ学習を行った。史実や有名な風刺画を立体物で表現し、デザインツール「Canva」を使って動画を作成するというもの。

ねりキャンワールドで動画制作する高校生たちの様子

生徒が作った作品は非常にバラエティに富んでいて、グミを使って海を表現したり、「大政奉還」をテーマに扱った作品ではタブレットの画面を動画の背景に使用するなど、想像力あふれる作品ができあがった。実際に授業に参加した高校生からは、「このような形で歴史を学べることに楽しさと面白さを感じた」という感想や、「他のグループの作品を見ることで、歴史が頭に染みつき充実した時間だった」といった感想があったという。

史実や風刺画を元に、ユニークな作品が多く生まれた

未就学児から高校生まで、幅広い年齢を対象に楽しい学びが期待できる「知育菓子×授業」の実践。クラシエフーズでは、公式サイトで知育菓子を活用した授業を行う教員・学校に対し、授業教材を無償で提供している。授業で活用できるスライドや指導シート、指導書を用意するほか、授業実践レポートを紹介している。

ほかにも、会場ではMIEEや共催企業が主催するワークショップが多数開催された。午前中は親子参加のワークショップも用意されており、未就学児から小学生までの子供たちがPCで教育版マインクラフトで音符ブロックに挑戦したほか、タンキュー株式会社が手がける漢字カードバトル「カンジモンスターズ」は対戦で賑わっていた。

漢字カードバトル「カンジモンスターズ」

また、教員向けのワークショップでは、micro:bitでプログラミングカーリングを体験するものや、Scratchから制御できる拡張ボード「AkaDako」をベースにしたSTEAM教材「AkaDako探究ツール」を先行体験できるものものあった。

「micro:bitでプログラミングかーリング」に挑戦
STEAM教材「AkaDako探究ツール」を先行体験

また、MIEEによる「ポスター実践発表会」では、全国から集まったMIEEの教育者たちがポスターを所狭しと並べ、自身の実践内容を紹介し合った。ここでは、教育者同士が直にコミュニケーションを取りながら、親交を深める場となっていた。

MIEEによる「ポスター実践発表会」

コロナ禍の行動規制もゆるやかになり、3年ぶりのリアル開催となった「Microsoft Education Day 2023」。GIGAスクール構想によってICT活用も進み、多くの教育者が会場に訪れ、刺激を与え合う貴重な機会となった。教育関係者の交流が活性化され、そこから生まれた学びの種が子供たちに届くように、ますますユニークな実践が増えることを期待したい。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。