トピック

子どもたち自身がデータを活用する未来へ、「まなびポケット」がめざす2030年の学び

【特集企画】これからの教育データ利活用を考える(後編)

子どもたちが1人1台端末で学ぶようになり、さまざまな学習活動がデータとして蓄積されている。国は、こうした学習履歴を教育データとして利活用する施策を進めているが、それによって子どもたちの学びはどのように変わるのか。本特集では3回にわたって、有識者、自治体担当者、企業担当者に話を聞き、教育データ利活用の未来について考える。

学習履歴や学習記録などの教育データは、これまで主に教職員が閲覧するものであり、子どもや保護者からは見えにくい存在であった。しかし、個別最適な学びや協働的な学びの実現をめざす中で、子ども自身が自らの学びを深める手段としてデータを活用するという考え方も広がりつつある。実際に、 前回記事 で紹介した枚方市教育委員会でも同様の教育観が語られていた。

こうした流れの中で、「子ども自身がデータを活用して学ぶ世界」を描いているのが、NTTドコモビジネス株式会社(※1)だ。同社は、クラウド型教育プラットフォーム「 まなびポケット 」を通じて、 子どもたち自身がデータを活用し自己調整学習を支援する「AARポータル」機能 のリリースを順次進めている(※2)。まなびポケットが描く学習の未来について、同社スマートエデュケーション推進室 室長・宮原理夏氏に話を伺った。

※1 NTTコミュニケーションズ株式会社は、2025年7月1日付で社名をNTTドコモビジネス株式会社に変更しました。
※2 2025年春以降順次リリース

📊 【特集企画】これからの教育データ利活用を考える
前編「勘・経験・教育データ」で子どもに寄り添う、個別最適な学びの実現に向けて
中編子どもたちが主役になる学習をめざして 枚方市が考える教育データ利活用の姿
後編:子どもたち自身がデータを活用する未来へ、「まなびポケット」がめざす2030年の学び


2030年、子どもたち自身がデータを活用する世界へ

まなびポケットは、2025年3月時点で全国1,200以上の自治体・15,000校以上の学校で導入されている業界でトップクラスのシェアを誇るサービスだ(※)。同サービスの特長は、ドリルや動画形式の豊富な学習コンテンツとの連携のほか、保護者や子どもへ連絡可能な機能や、出欠席およびコンテンツの利用状況を簡単に把握可能なダッシュボード機能など、教職員向けの豊富な機能を無償で提供していること。また教職員だけでなく、保護者向けにも、学校への出欠連絡や自身の子どもの学習状況確認が可能となる機能を提供しており、子どもたちの個別最適な学習に加え、保護者の利便性向上や教職員の業務負荷軽減も実現している。

※NTTドコモビジネス調べ

まなびポケットの全体像

このまなびポケットを提供しているのが、NTTドコモビジネスの「スマートエデュケーション推進室」だ。同室は2019年に設置された教育分野に特化した部署であり、2022年からはNTTドコモグループの一員として活動を展開。以来、まなびポケットをはじめ、学習者用・校務用端末やモバイル回線を用いたICT環境整備支援など幅広いサービスで学校現場を支えている。

同チームがめざしているのは、「誰もが自分らしく学び、支えあい、共に成長する社会」の実現。また、「メンバーは教育課題の解決に意欲を持つ者が多く、元教員や専門性を持つ中途採用社員など多様な人材が在籍しています」と、宮原理夏氏は話す。サービス開始当初から、学習者起点のサービスづくりを重視しながら、まなびポケットをここまで発展させてきた。

NTTドコモビジネス株式会社 ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス本部 スマートエデュケーション推進室 室長 宮原理夏 氏

そうした中、同チームはGIGAスクール構想第2期に向けて、まなびポケットを進化させるべく、2030年の学びについて議論を重ねてきたという。宮原氏は次のように語る。

2030年にどんな世界を実現したいかを考えた結果、「子どもたち自身がデータを活用する世界」にたどり着きました 。これは、まなびポケットがめざす「誰もが自分らしく学べる社会」を実現させるためには、教育データの利活用の促進が必須であるほか、文部科学省がめざす「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現にもデータ活用が求められており、めざす方向は同じだと考えています。

私たちは、一人ひとりの学びたい気持ちに寄り添いながら、“データのチカラ”で子どもたちの自己理解をサポートし、自己実現を後押ししていきたいと考えています。また、 子どもたちだけでなく、先生方、保護者の方々も学習者のひとりと捉え、私たち企業も社会の一員として、子どもたちの学びや学校の支えになることをめざしています。


見通しを立て、学び、振り返る、AARポータルで実現する学び

この「子どもたち自身がデータを活用する世界」を具現化したのが、まなびポケットの新機能「AARポータル」である(2025年春以降順次リリース)。

AARとは、Anticipation(予測)、Action(行動)、Reflection(振り返り)の頭文字で、学習者自らが「見通しを立て」「学び」「振り返る」というステージを繰り返すことで、思考力や行動力を養う学びのフレームワークだ。この考え方は、OECDの「The Future of Education and Skills 2030 project(教育とスキルの未来2030プロジェクト)」においても、「AARサイクル」として示されている。

まなびポケットのAARポータルは、このフレームワークを可視化・活用できる機能であり、 子どもが自ら「見通しを立て」「学び」「振り返る」経験を繰り返すことで、より主体的に学ぶ力を育み、「自分らしく学べる」状態をめざす 。具体的には、一単位時間ごとの授業写真の記録や振り返りの記入により、子どもたち自身が時間割をベースに授業の見通しを立て、学習を記録し、振り返ることができる。

まなびポケットの新機能「AARポータル」(2025年春以降順次リリース)
AARポータルがめざす未来(※開発中の機能も含まれるため、画面イメージ等は変更になる可能性があります)

また、今後は、写真やスタディログから学校での取り組みを分析して、保護者へ配信する機能や、データ連携によって様々なスタディログを分析・可視化できる「 ダッシュボードとの連携 」機能などを拡充していくことで、保護者を含めた関係者全員で子どもの学習を見取れるような状態を作り上げていくという。

宮原氏はAARポータルについて、子ども自身によるデータ活用の世界を実現するだけでなく、忙しすぎる教職員の負担軽減に加え、「主体的・対話的で深い学び」をめざす教職員をエンパワーできるサービスになると考え、開発に至ったという。

「子どもたちの振り返りや授業の記録をAARポータルに蓄積していくことで、先生は評価のタイミング等で簡単に見返すことができるようになります。これらのデータは先生方の経験やスキルによる見取りを裏付けるエビデンスとして活用いただけます。また、 簡単に見返すことができる点が先生方の負担軽減となり、子どもたちと向き合う時間の創出に貢献できる と考えています。こうした体験を通じて先生方が教育データの利活用の有用性を実感するきっかけになることも期待しています」と、宮原氏は話す。


先進的な実証事業に取り組み、行動変容につながるダッシュボードの開発へ

NTTドコモビジネスが、子どもたち自身によるデータ活用の世界観を提示できた背景には、これまで現場の教職員や学校・自治体と連携し、教育データの利活用における先進的な取り組みに挑戦してきた実績がある。

たとえば、2023年は福岡市の「教育データ連携基盤プロトタイプ試行検証及び要件定義(調達支援)に係る業務委託」を受託した。同市がめざす「自ら問題を発見し、学習を調整しながら学ぶ子ども」の実現に向け、子どもたちに関する様々なデータを連携する基盤を構築し、有効活用できる環境を整備している。

また、2024年には鹿児島市と協力し、デジタル庁の「スタディログの活用に関する調査研究」に挑戦。同研究では、市内の小中学校2校で自己調整型の学び(自由進度学習)を実施し、子どもたちが学習計画表の作成から振り返りまでを通して、 データを活用しながら主体的に学ぶ教育実践に取り組んだ。

さらに宮原氏は、こうした実証事業に加えて、 各種データを一元的に可視化できるダッシュボードの開発にも力を入れてきた という。国は現在、2029年度までに自治体における次世代校務支援システム導入100%をめざしているが、情報の一元化に欠かせないダッシュボードの実装については設備投資や専門知識が必要であるため、自治体担当者の負荷も大きく課題となっていた。宮原氏はダッシュボードについて、次のように語る。

私たちはこれまでの取り組みを通じて、負荷を軽減しながらも、学校現場で利活用され、行動変容につながる「真に求められるダッシュボード」を探究し続けています。 まなびポケットのダッシュボード機能は、初期構築やシステムに関する専門知識は不要で、導入後すぐにご利用可能 であるとともに、今まで教育委員会、学校管理職、教職員それぞれが互いに共有しづらかった情報が共有・蓄積されるため、教育現場がワンチームとなり、それぞれの立場からより深く子どもたちを見取ることが可能です。

まなびポケットのダッシュボード機能(※画面イメージは変更になる場合があります)

今後はさらに、気にかけたい・頑張っている子どもが一目でわかる「 生徒ピックアップ機能 」や、データを細かく読み解かなくても、指定期間の子どもたち個人の様子を自動で総括してくれる「 生徒カルテ機能 」などの提供を予定しているという。宮原氏は「システムがデータを読み解き、ヒントをくれるので、忙しすぎる先生方が朝の限られた時間の中でダッシュボードを見て、その日のアクションがイメージできるようなものになっています」と語っている。

まなびポケットのダッシュボード「生徒ピックアップ機能」(※画面イメージは変更になる場合があります)


保護者と共に、子どもたちのデータ活用を考える

宮原氏は改めて教育データ利活用のメリットについて、「 子どもの学習の質向上 」だと話す。子どもたちが自分の学習を客観的に把握しつつ、他の子の振り返りを参考にするなど、子ども自身が学習のアプローチを学べる。そこに楽しさが結びつけば、学びに向かう姿勢を引き出すことも可能だ。

さらに教育データ利活用は、学習だけでなく、子どもを守ることにもつながると話す。「まなびポケットが提供する心の健康観察機能を利用されている自治体では、毎日の心や健康の記録を子どもたちに記録してもらうことで、いちはやく一人ひとりの心の変化に気付き、ケアを行うことができたという事例もあります。 子どもの命・健康を守ることにもデータ活用が有効 であることを知っていただきたいです」と宮原氏は話す。

一方で、子どもたちのデータ活用を進めていくうえで、保護者の中には企業のデータ管理を不安視する声もある。宮原氏はこれについて「弊社では、子どもたちの貴重なデータを預からせていただいているという意識のもとで、セキュリティと安全策を徹底し、データの管理を行っています」と語る。

そもそも、 教育データは学習者である子どものものであり、その保護者のもの でもある。「AARポータルにおいても、 子どもの活動を家庭に配信する機能を今後リリース予定 であり、保護者の方々も巻き込みながらデータ活用を進めていきたい」と宮原氏は話す。


教育データ利活用が拓く学び、未来に向けた想い

宮原氏は、スマートエデュケーション推進室がめざす今後の展望について、将来的にはAARポータルでの保護者へのデータ提供を含めて、学校や保護者、企業などが一体となって、「社会」として子どもたちに関わる仕組みづくりを進めていくという。

「これからは正解がない中で、それでも答えを導き出す力が、大人にも子どもにも求められていきます。 子どもたち自身がデータを活用する世界に向かう上では、私たち自身も成長していかないとその世界は作れない でしょう」と宮原氏は話す。そのうえで、「その世界へ向けて、先生や保護者の方々の後押しになれるサービスを提供することをめざします。社会の一員として、皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います」と未来への思いを語った。

社会全体で教育データの利活用に対する理解と実践を深めていかなければ、子どもたち自身による有効なデータ活用にはつながらない。まなびポケットやAARポータルを羅針盤として活用し、子ども・保護者・教職員それぞれが意味あるデータの使い方を見つけ出し、子どもたちの学びをより豊かにしていきたい。