トピック
教育版マインクラフトなら、児童生徒の”主体性”で学びが広がる
―校種を超えた学び、特別支援、地域の課題解決、プログラミング、さまざまな学習に活用
- 提供:
- 日本マイクロソフト株式会社
2022年4月22日 06:35
プログラミング学習や課題解決型学習のツールとして、学校で活用が広がる教育版マインクラフト。GIGAスクール構想をきっかけに広く導入された「Microsoft 365 Education A3/A5」なら追加費用もなく使えるとあって、さまざまな教育現場で活用が広がっている。その導入方法や小中学校における活用事例などもお届けしてきた通りだ。
本稿では総集編として、さらに活用が広がる教育版マインクラフトの実践事例を列挙していく。特別支援や高校、学校や地域を超えたつながりの中で活用される事例など、新しい学びを拓くツールとして多様な取り組みが始まっている。
プロマインクラフターがつないだ、中高生×支援学級の校種を超えた学び
トップバッターは、校種・地域を超える教育版マインクラフトの実践研究。この研究は、プロマインクラフターであり明治大学・慶應義塾大学の研究所員のタツナミシュウイチ氏が発案・企画し、大阪市立水都国際中学校・高等学校(以下、水都国際)と茨城県つくば市立学園の森義務教育学校の特別支援学級(以下、学園の森支援学級)の2校が協力校として取り組んだ。タツナミ氏は2018年より、学園の森支援学級の山口禎恵教諭(現:茨城県教育庁特別支援教育課 指導主事)と共に、特別支援教育におけるマインクラフトの活用について取り組んできた。
今回の実践研究は、水都国際のマインクラフト部(以下、マイクラ部)が、学園の森支援学級の児童のために授業で使えるマインクラフトのワールドを制作するというもの。コミュニケーションがむずかしい特別支援学級の児童たちが、仲間と楽しく協力できることを体験するためには、どのようなワールドを作成すればいいか。マイクラ部の生徒たちが提供側の視点を持ち、制作することに成長の機会を見出す。
生徒たちが考案したのは、「世界樹」という大木を中心に4つの浮いた島をつくり、それぞれの島のクエストを全員でクリアすれば脱出できるというもの。チーム全員で協力しないと前に進めない仕掛けを作ることで、特別支援学級の児童たちが自然発生的に協力できる機会を促す。
ただ、このような壮大なワールドや仕掛けを生徒たちだけで実装することはむずかしいため、タツナミ氏が技術的にサポートした。アイデアの具体化、作業の進め方、どのようなポイントに気をつけて制作をすればいいのか、プロの目線で生徒たちにアドバイスをする。
水都国際の芦部洋一郎教諭は、マインクラフトの制作力も大切であるが、これだけのワールドをつくるとなると、計画的に進め、締め切りまでに完成させる実行力が大切だという。「それぞれの得意不得意に合わせてチーム内で作業を分担したり、リーダーシップや互いに褒め合うなどチームワークが重要です。生徒たちは途中で挫けそうになる場面もありましたが、協力して最後までやってくれました」と語る。
タツナミ氏も、「生徒たちが作った建築物は多くの資料を参考にして作っており、システム面においても高度なコマンド技術が使われていました。さまざまな情報サイトや動画などを参考に制作した事が見受けられます」と高く評価している。
そして、完成したワールドは学園の森の支援学級のもとへ。実践研究のメンバーだった山口教諭は、「自分じゃない、マインクラフトを触ったことがない教員でも支援学級で指導できるように」と授業で使える指導案を作成。実践は支援学級の神田千明教諭、稲葉美穂子教諭、櫻井雅子教諭が行なった。
山口教諭は「水都国際の生徒たちが作ってくれたワールドで支援学級の子どもたちの交流も活発になりました。実践した教員たちはその姿を見て、コミュニケーションに必要な基本スキルは持っていると気づいたようで、マインクラフトを知らなくても教員は児童の変化を捉えられると思いました。ある児童の感想に、”クラスでやるよりもコミュニケーションは取れていたと思う”とあり、児童も自分が協力できたことを実感できた様子が伺えました」と語る。
不登校の児童生徒をつなぐ、安心空間のマインクラフト
長野県教育委員会スクールカウンセラーとして、発達障害や不登校の支援に関わる両川晃子氏は、子どもたちに「家で遊んでいるゲームは?」と聞くと、決まって「マイクラ」という答えが返ってくることに疑問を感じていたという。「形を捉えたり、記憶をする力が弱いために書きの障害が起こるという研究者もいるなか、マインクラフトのような視空間認知を使うゲームを子どもたちが好むのはなぜか、不思議に思っていました」(両川氏)。
そんな時、両川氏はサポートしていた不登校の児童たちがマインクラフトのワールドで一緒に遊べたら、心地良いコミュニティを築けるだろうと考えた。そこで保護者にも協力してもらい、離れた児童2人を互いにオンラインでつないでひとつのワールドに招待し、両川氏も初心者ながら一緒に遊ぶようにした。すると、今までカウンセリングでは、声を出さなかった児童が両川氏に飛び方を教えたり、相手の様子を知らせてくれるようになったという。
2回目以降は、オンラインで音声だけをつなぎ、毎週末マインクラフトで遊ぶようにした。ただし、2人で一緒に何かをつくることは強要しない。発達障害の児童は「平行遊び(同じ空間でそれぞれが好きな遊びをする)」を好む傾向があり、2人の児童もマインクラフトの中でそれぞれがやりたい遊びをできるようにした。
そんな時間が続いたある日のこと。マインクラフトの中で2人が一緒に家を作り始め、テラスにテーブルと椅子を置き、休憩している姿が両川氏の目に留まった。しかも、まるでそこに暮らしているかのように、ケーキを出してくつろいでいたという。
両川氏は「友だちと遊びたくても登校できず、いつも一人でマインクラフトをやっていた児童2人ですが、共同作業をしたくないわけではありません。それを可能にするためには、発達障害・不登校の児童たちにとって安心できる空間が必要であり、マインクラフトの空間がまさに心の健康を取り戻せるような安心空間ではないかと考えるようになりました」と語る。
閉校する学校をマイクラで残し、学びを深める活動へ
北海道北見市立上仁頃小学校の野尻育代教諭(現:北見市立三輪小学校)は、同校が閉校を迎えるにあたり、子どもたちの大好きな学校を残そうと、教育版マインクラフトで学校の校舎を再現するプロジェクトに取り組んだ。学校の校舎をマインクラフトで再現するのは、教育版マインクラフトの事例としても多く、児童生徒が制作したワールドを文化祭や学校説明会などで披露する学校もある。
野尻教諭自身、マインクラフトは未経験だったそうだが、導入の経緯については、「協働作業を通して相互理解、思いやり、協調性や達成感など児童たちの道徳的意識を高めたり、今まで学んだ知識を活用して横断的な学習ができることに可能性を感じました」と語る。
プロジェクトは、5~6年生を対象に2年かけて実施。1年目は校舎の再現、2年目はMinecraft カップへの応募もめざして、SDGsを意識した建物のへリノベーションや閉校後の校舎活用方法を提案した。
また野尻教諭はマインクラフトの学習を通して、教科の学びを取り入れた活動も数多く実施。算数では校舎を計測して縮図を作成したり、音楽では音ブロックを使って校歌を再現したり、また国語ではYouTubeで公開することを目的に「伝える」ための言語活動も行なうなど、学んだ知識を活かす場面をマインクラフトで作った。
野尻教諭はプロジェクトを振り返り、児童同士が教え合い、スキルアップしていく姿を見て、改めて学習の主体は児童にあることを再認識したという。「失敗を恐れて挙手できない児童が笑顔で何度も挑戦していて、子どもたちの満足な表情と自信をにじませる言動を見ることができました。閉校というネガティブな出来事でしたが、見方を変えることで児童の深い学びにつながり、ここで学んだことを誇りに巣立ってくれると思います」と語ってくれた。
数学×プログラミング、21世紀型スキルはマイクラで伸ばせる
甲南高等学校・中学校の村上仙瑞教諭は、教育版マインクラフトの実践に取り組んで3年になる。きっかけは、数学を活かしたプログラミングで、21世紀型スキルを伸ばすSTEAM教育に挑戦したいという想いがあったから。
「マインクラフトは、ほとんどの生徒が知っていますし、ブロックプログラミングを使うことができます。同じワールドに入って共同作業がしやすく、数学の授業でもコミュニケーションやコラボレーションを伸ばしやすいと感じました」と村上教諭は語る。
初年度は、中3数学で文字式の利用・応用として「ピラミッド」を作成するプログラミングに挑戦。すると、生徒から “放課後もやらせてほしい”、“プログラミングが面白い”と嬉しい反応があった。「授業中も、“先生できました!”と楽しんでいる声が聞かれ、授業の中で生徒が成長している手応えを感じることができました」(村上教諭)。
2年目は高校2年の数学と情報の授業で、「奇数の和をブロックで表現するプログラミング」で公式を視覚化したり、プログラミングや同じワールドに入ってのコラボレーションで前方後円墳を作り、古墳時代を再現したりした。モルジブの小学生と日本の古墳時代の家を共同建築する学習にも取り組んだ。3年目は、いろいろな国の国旗をプログラミングで作るとともに、これまで学んだプログラムを使って日本の世界遺産を作る建築に挑戦した。
生徒がゲームを使った勉強に疑問を持たないよう、村上教諭は“4C”を伸ばすためにマインクラフトを活用していることを生徒たちに何度も伝えたという。4Cとは「Communication(コミュニケーション)」「Collaboration(コラボレーション)」「Critical Thinking(クリティカルシンキング)」「Computational Thinking(コンピュテーショナルシンキング)」の頭文字を取ったもの。その甲斐あってか、授業の反応は好意的なものが多く、「数学や芸術など、楽しさで消化しながら進めていけるのは画期的なものだと思った」と語る生徒も。
「マインクラフトで21世紀型スキルは育成できると明確に感じています」と村上教諭は語る。
高校情報の選択科目で「PBL×プログラミング」学習に挑戦
大森学園高等学校の杉村譲二教諭(現: 中村中学校・高等学校)は、高校3年情報の選択科目で教育版マインクラフトを活用したPBLを実施。「大田区を住み続ける街にするために」というテーマのもと、街の課題を解決する建造物を考え、プログラミングで制作するという学習に取り組んだ。杉村教諭は「マインクラフトは新しいものを創造する力や、問題発見力・課題解決力の向上につなげられるのが良いと思いました」と導入の経緯を語る。
授業では、生徒全員が初学者向けの「Hour of Code」を使って、マインクラフトによるプログラミングを体験するところからスタート。その後、グループで大田区の都市開発の資料等を見ながら、街が抱える課題を発見し、それを解決するための建造物を考えていく。そして、作るものが決まったら、アイデアを設計図に落とし込み、全員で完成形を共有した。
最後は学習発表会で作品を披露。生徒たちが作った作品は、環境や子育てにやさしい街、防災や公害問題を解決する建造物などさまざま。なかには、子どもと老人がひとつの施設を共有する「児老館」や、きれいな海をめざして、海にゴミ処理場と水族館を併設した施設など、実在すれば本当に社会課題の解決につながるのではないか、と思わせてくれる斬新なアイデアもあった。
杉村教諭は、「生徒たちの作品を見て、マインクラフトは新しく何かを創造したり、代替案を考えたりすることで、生徒の成長へつなげられると手応えを感じました」と語る。またプログラミングについても、単に効率化・自動化の手段ではなく、「マインクラフトであれば表現の手段として発展できるのではないかと考えられるようになりました」と述べている。
公立高校eスポーツ部の活用から、情報技術科のプログラミング授業へ
茨城県立常陸大宮高等学校でeスポーツ部の顧問だった星野智紀教諭(現:茨城県立土浦工業高等学校 電気科)は、生徒たちがマインクラフトの動画制作に取り組む様子を見て、「これは食いつきが違う」と感じていたという。
その後、マインクラフトでPythonを活用したプログラミングができると知った星野教諭。「情報技術科の授業でうまく取り入れたら、より主体的で、面白いプログラミング学習ができる」と考え、茨城県の「プログラミングエキスパート育成事業」に応募。見事採択され、補助金でマインクラフトとPythonが扱える環境を整備した。
授業は「実習」の全12時間で実施。最初の3時間でPythonの文法を学び、その後、多重ループを活用した巨大ピラミッドを作るプログラミングに挑戦するという学習だ。
星野教諭は学習のねらいについて、「多重ループの知識は、高校生がつまずきやすい部分ですが、マインクラフトであれば結果が可視化されるので理解しやすいと思いました」と語る。従来は、コードを書いて実行するだけだったというが、マインクラフトを使うことで、「生徒たちの食いつきもよく、過去一番の集中力を見せてくれました」と星野教諭は手応えを述べた。
さらに、同じ多重ループのプログラムを使って市松模様をつくる問題では、星野教諭が用意していた解答よりも、はるかに短いコードで完成させる生徒たちも出現。星野教諭は「生徒たちは、しっかり考えることができたら、答えを導き出せると改めて感じました。他の教材でこうした生徒の姿を見たことがなく、マインクラフトでは生徒の学ぶ姿に感動する場面がありました」と語ってくれた。
一方で、全員が理解できたわけではなく、今後はマインクラフトを活用してより高度なプログラミングスキルを伸ばしていけるかが課題だという。星野教諭は「国家試験取得や、プログラムコンテスト等で受賞するような人材育成に力を入れていきたい」と展望を語ってくれた。
ちなみに、星野教諭はJava Editionのマインクラフトで環境を整備したというが、同様のことは、教育版マインクラフトのMakeCode環境でPythonを選択すれば実施できる。教育版マインクラフトなら標準でPythonも用意されており、環境構築の煩わしさもないので、教育機関にはJava Editionよりも教育版の方が使いやすいだろう。
教育版マインクラフトは、時代が求める新しい学びを拓く
ここまで、さまざまな教育者や学校で実践されている教育版マインクラフトの活用を紹介した。読んでお分かりいただけると思うが、どの教育者も、新しい学びを実現するツールとして教育版マインクラフトを活かし、児童生徒らの”今まで見せなかった姿”を目の当たりにしている。これは一体、何を意味するのか。
昨今、学校現場は1人1台環境が整備され、ICT活用が当たり前になった。日々の学習がデジタル化され、効率化され、学びも生産性も向上しているだろうが、果たして、そのICT活用の延長線上に今までの学びを変えるビッグイベントは起きるのだろうか。
教育版マインクラフトなら、間違いなく、学びを変えることができる。過去の事例でも取り上げたが、児童生徒がこれほど教え合い、協力し合い、もっと良いものを作りたいと思える教材は他にない。そんな児童生徒の学ぶ姿に、教育者は自身の教育観の転換を迫られるだろう。
ぜひ一度、教育版マインクラフトで学び合う児童生徒の姿を見てほしいと願う。新しい学びに向けて、大きな前進が求められている今、”マイクラ”ほどインパクトを与えてくれるものはない。