【連載】The Teachers' Voice

教育版マインクラフトの学習に初挑戦。授業に落とし込む前に考えたこと

〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭がめざす学びのアップデート①

今までの学びをどのように変えていくべきか。本連載『The Teachers' Voice』では、学びのアップデートをめざす先生自身の言葉をお伝えしていく。子どもたちの大好きな「教育版マインクラフト」を授業で使ってみたい、と思う教育者は増えているが、実際にマインクラフトをやったことがない教育者にとってはハードルが高い。どのように授業に組み込めばいいか。今回は、初めて高校情報の授業で教育版マインクラフトの活用に挑戦したという、大森学園高等学校の杉村譲二教諭の実践を紹介しよう。
大森学園高等学校、情報の授業で教育版マインクラフトを活用

情報科で取り組む探究学習に課題感

マインクラフトは子どもたちに人気のあるゲームだと知っていましたが、私自身は触ったこともありませんでした。そんな私が、情報科の授業でマインクラフトを使おうと思ったのは、“マインクラフトを使ってみたい”という想いが先にあったのではなく、“情報の授業でどのような探究学習を取り入れたらよいか”という課題を抱えていたことが背景にありました。

私は現在、高1の「情報の科学」と高3の選択科目「PC活用講座」を担当しているのですが、後者の「PC活用講座」の授業では、P検(ICTプロフィシエンシー検定試験)の対策として、Microsoft Wordの文書作成やMicrosoft Excelで関数を用いた表計算を中心に授業をしていました。

もちろん、この内容を学ぶことも生徒のICT活用能力につながり、大切なことではありますが、情報科の向かうところは資格取得が第一ではありません。高校の学習指導要領も変わることを考えると、もっと新しい取り組みにチャレンジしなければ生徒のためになりませんし、学校も発展していかないと感じていました。

そうした考えから、私はどのような新しい授業に取り組めばいいだろうと考え、次第に「大森学園としてオリジナリティーある授業をしてみたい!」という思いを持つようになりました。

資格取得のだけが目的ではない。新しい情報の授業に挑戦したい

創造力、課題解決力の育成、PBLにマインクラフトが使える!

マインクラフトが情報の授業に使えるのではないか、と思ったのは、私がマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)であり、MIEE同士の情報交換がきっかけでした。

MIEEに選ばれている先生方の中には、すでに小学校の総合的な学習の時間で教育版マインクラフトを活用された事例があり、取り組みを聞いていくと、マインクラフトはPBL(課題解決型学習)に向いていると分かり、そこに魅力を感じました。

なぜなら、PBLは本校の建学の精神である「社会に貢献できる有為なる人材の育成」につながり、めざす生徒像の育成に必要な学習だからです。これまで培ってきた教科の知識やICTスキルを活かし、目の前の問題に対して、どのように応用するのかを考えながら、自分たちで結論や代替案を導き出す、そうした学習は教科書通りに学んだ学習を高次な学びへ発展させることができます。

その点、マインクラフト活用したPBLは、「新しいものを創造する力」や「問題発見力および課題解決力」を伸ばすことにつなげられるのが良いと思ったのです。

ただ、いざ高校の情報の授業でマインクラフトを使おうとすると、事例が少なくて困りました。さらに授業設計をしていく中で、最終的なテストにどのように落とし込むか?、成績評価をどうするか?、ただマインクラフトを使うだけなら意味がないので、高校生の学びにつなげるためにはどうすればいいか?など、さまざまな悩みも出てきました。

しかし、テストや成績のための授業ではないし、やる前から無理と決めつけても何も進まないと思いました。とりあえずやってみよう!そこから見えてくるものがあるし、やりながら軌道修正していけばいいと考え、強気で臨みました。

マインクラフトは触ったことがない。とりあえずやってみよう!からスタート!

マインクラフトを使うことが目的ではない

マインクラフトは、高3の選択科目の授業で実施することにし、そこからPBLにマインクラフトをどのような形で活用するのか、日々考えました。

いろいろと構想を練る中で、マインクラフトで何か建築物をつくろうと思いましたが、ただつくるだけでは、マインクラフトのための授業になってしまう。そこで、何か大きな目標を設定して、マインクラフトの中で建築物を効率的につくるプログラミングを学習しようと考えました。

プログラミングは写経のように黙々と学習しても生徒のモチベーションが上がらないのですが、マインクラフトで建築物をつくるという目標があれば、意欲を持つことができます。

そこでSDGsやESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)に関連させ、自分たちが通学する大田区の問題解決を考え、マインクラフトで表現するという学習を思いつきました。実際に私が大田区役所の訪れて、都市開発課に相談したところ、職員の方に大田区の都市開発の資料をいただき、その資料をもとに、SDGsやESDと関連付けることを思いついたのです。

具体的には、SDGsの11番目の目標にある「住み続けられるまちづくりを」を達成するために、“こんな建築物があれば私たちが住む大田区はもっと良くなる”ことをテーマに学習を進めていくことにしました。

授業で実施する上では、生徒たちはゲームとして親しんでいるので、もしかしたら私より生徒のほうが詳しいかもという懸念はありました。しかし、いろいろと独学で勉強し、MIEEの方にアドバイスをいただきながら、授業が始まる4月には、効率良く建築するためのプログラミングができるまでレベルを上げることができました。

あくまでも授業の目的はマインクラフトの操作を極めることでなく、マインクラフトを活用して、問題発見力・課題解決能力をつけること、さらにプログラミングの素地をつけることですから、教師はマインクラフトを完璧に使えなくてもいい、と考えました。

こうして、私の授業でマインクラフトの活用が始まったのです(2回目に続く)

大森学園高等学校(東京都大田区)
2019年に創立80周年を迎えた伝統校。「社会に貢献できる有為なる人材を育成する」を建学の精神に掲げ、人や社会とのつながりを大切に、たくましく生きる力と他者を思いやる心をそなえる人材育成をめざす。普通科と工業科に分かれており、生徒一人ひとりの意欲を引き出すための教育プログラムなどの導入に力を入れている。
杉村譲二(大森学園高等学校 教諭)

大森学園高等学校 情報科教諭。「マイクロソフト認定教育イノベーター」「Apple Teacher」「Apple Teacher Swift Playgrounds」「ロイロ認定ティーチャー」「MetaMoJi ClassRoom認定 先生」等。大学卒業後、各私立学校で情報科教員として従事。趣味・特技はバスケットボール。大学時代はインカレでベスト4に入賞。