【連載】The Teachers' Voice
教育版マインクラフトなら、生徒が目的を持てるプログラミング学習ができる
〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭がめざす学びのアップデート②
2022年3月30日 08:55
生徒全員がマインクラフト初学者という認識で…
高3情報の選択科目の授業で、教育版マインクラフトを活用するにあたり、PBL(課題解決型学習)をベースにプログラミングによる建築を実践しようと考えました。テーマは、「大田区にこんな施設があれば、もっと住みやすくなる」というもの。グループで地域の課題に目を向け、SDGsを考慮して”住み続けられる街”に必要だと思う建築物をプログラミングで制作します。
また今の高3は、小中学校のときに、マインクラフトを遊びとしてやったことがない生徒も多いため、基本的に全員がマインクラフト初学者という認識で授業を進めました。PBLはグループを組み、みんなで協力して足りないところを補い合いながら学習を進められるようにしました。
全員がプログラミングを体験するところからスタート
授業の最初は、私がマインクラフトを使ってどのような授業をしたいのか、全体のイメージを見せながら、生徒たちに説明するところから始めました。
また、プロマインクラフターであるタツナミシュウイチ先⽣にもアドバイスを頂き、「全員でつくって全員でプレゼン」「各担当を決めて役割分担」「得意な分野を頑張る」「初学者には手厚いフォロー」を大事にすることも生徒に伝え、グループで取り組むことも意識させました。
そして、まずは生徒たちがマインクラフトを使った学習のイメージが持てるように、マインクラフトの「Hour of Code」で練習をしました。
その次に、マインクラフトの操作感を掴んで欲しいと思い、教育版マインクラフトの体験版で1人ずつワールドを作り、実際に触ってもらいました。
「右クリックでブロックを置く」「Wキーで進む」などの基本的な操作から始めて、さらには「L字型の建物をつくるには、どのようなプログラムを組めばいいか?」という具合に簡単なコードづくりにチャレンジしました。手動でブロックを積むよりも、プログラミングを使うほうが効率的であることを体感してもらうためです。
実際にやってみると、マインクラフトを使うプログラミング学習は生徒のモチベーションが上がる、と実感しました。
たとえば、プログラミングの「順次」「反復」「分岐」などは、文法を学ぶ学習になってしまいがちですが、マインクラフトは目的を持たせやすいのがメリットです。カタカナの「ロ」の字で10段を組み立てるのはプログラミングが効率的であることも、マインクラフトならイメージしやすいです。目的を持って楽しみながらプログラミング学習ができると思いました。
ちなみに、授業ではこの段階からクオリティの高い作品を求めているわけではない、と生徒には強調しました。まずは自分たちが考えたもの作り、それが完成してから他のもの作って、クオリティを高めていこうと話をしました。
マインクラフトができる生徒は凝った作品を作りたくなりますが、授業はそれが目的ではありません。これが正しいマインクラフトの指導法とは思っていませんが、生徒の実情を踏まえながら舵を取ったことで、後の学習も順調に進み、結果としてベストな選択をしたと思います。
全員が完成イメージを持てるように設計図を描く
グループ活動は、「問題を発見する」→「問題解決する建築物を提案」→「ラフスケッチを描く」→「設計図を描く」→「共同建築」という流れで進めていきました。大田区の街を良くするためには、どのような施設があればいいのか。生徒たちはネットでさまざまな情報にアクセスしながら、大田区が抱える街の課題をリサーチしました。
その後、どのような建築物をつくるのが良いか考えていきます。生徒たちからは、太陽光エネルギーなど環境問題に関するもの、女性や子どもにやさしい街づくりなど、さまざまなアイデアが出てきました。
そして、何を作るのかが決まったら、今度は設計図にアイデアを書き込んでいきました。PBLでは、自分たちのグループで何を作るのか、全員が完成形のイメージを共有し、どのようにプロジェクトを進めていくのか、計画を考えなければなりません。こうした思考を持つのに、設計図を描く作業はとても重要であると考えています。
マインクラフトのデータは、Googleドライブに保存
教育版マインクラフトの活用について、データの管理についても触れておきましょう。
また共同作業で建築をする際は、毎回の授業で制作したデータを保存して管理しなければなりませんが、高校生なのでこちらは生徒に任せました。データの管理は、グループ全員で操作できるように、グループごとにGoogleアカウントを取得。「Googleドライブ」の中に保存させることにし、グループ内の誰かが欠席したとしても問題がないようにしました。
基本的にマインクラフトの制作は授業内で完結するようにしましたが、授業以外でも“もっとやりたい”という生徒がいても、データがクラウドにあれば、自宅のパソコンで取り組めますし、さらにコロナ禍でもあったので、オンライン授業期間や夏休みでも作業ができる環境をつくりました。
ちなみに、本校の生徒は昨年度のコロナ禍の状況でオンライン授業において、Google Workspace for Educationを活用していました。そのため、この運用に対してもスムーズに対応してくれました。今後、生徒が大学生・社会人になった時もクラウドでデータ共有というシチュエーションは出てくると思いますので、高校時代からマスターしていてよかったと考えています(3回目に続く)
The Teachers' Voice 目次
- 生徒たちが使う端末に制限はかけさせない。こだわり続けた自由度の高いiPad導入〜近畿大学附属高等学校 乾武司教諭(全5回)
- 読み書き計算に困難のある子の学びを支える"オーダーメイド”の支援 〜つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭(全3回)
- へき地が抱えるICT環境の課題と、教員の世界を広げるSNS活用 〜青森県 つがる市立育成小学校 前多昌顕教諭(全2回)
- コロナ禍で見えた新しい学びのカタチ「Face to Face の教育から、学びのSide by Sideへ」 〜東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹教諭(全5回)
- 英語を学ぶだけではない、ICTで生徒が自己発見できる学びとは? 〜工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭(全3回)
- ICT活用が進まない本当の理由は、教師の中に潜む“使命感”にある 〜聖徳学園中学・高等学校 品田健教諭(全5回)
- 教育版マインクラフトの学習に初挑戦。授業に落とし込む前に考えたこと〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭(全3回)