【連載】The Teachers' Voice
教育版マイクラ×PBL、初挑戦の実践で見えた課題は?
〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭がめざす学びのアップデート③
2022年3月31日 08:55
子育て、福祉、自然環境、さまざまな課題解決を表現した作品
高3情報の選択科目で、「大田区を住み続けられる街にするために」をテーマに、教育版マインクラフトを活用したPBL(課題解決型学習)に取り組んだ生徒たち。2学期の最後の授業では学習発表会を実施しました。
事前に生徒たちに求めたのは、ただ単純に“私たちはこれをつくりました”とマインクラフトの作品発表をするのではなく、「どのような問題に着目し、何の解決をめざして建築物をつくったのか」を伝えられること。現実にある問題に対して、自分たちの立場で考えて、自分たちが考え抜いた結論を言葉にできるかどうか。そうした部分もPBLにおいては大切なポイントです。
生徒たちが作った作品は、制作時間が限られていたものの、それぞれに街の課題を解決するものを作ってくれました。
緑や公園を増やし、子育てしやすい街をめざしたもの。子どもと老人がひとつの施設を共有する「児老館」。少子高齢化の問題に着目し、家族が過ごせる大型ショッピング施設や複合施設の建築物。さらには、きれいな海をめざして、海にゴミ処理場と水族館を併設した施設や、防災や再生可能エネルギーの観点を取り入れた施設もありました。
生徒たちの作品を見て、マインクラフトを活用することで、新しく何かをクリエイトしたり、代替案を出したりすることが、生徒の成長へつなげられると手応えを感じました。また、さまざまな表現方法がある中で、マインクラフトであればプログラミングの学習も効率化・自動化の話にとどまらず、表現の手段として発展できるのではないかと考えられるようになりました。
最後の授業では、今回の取り組みを振り返る時間を設けました。ただ感想を書いても、本人たちのフィードバックには有効ではないと考えて、他者も含めてコンピテンシーを計ることができるアセスメントツール「Ai GROW」を用いました。
「Ai GROW」を用いることで、自分はどんな力があるのか、他者から見た自分はどんな力があるのかを生徒たちは知ることができました。このことが自分を客観的に知ることへとつながるという手ごたえも感じました。
マインクラフトを授業で活用する課題とは
今回マインクラフトを活用してPBLを実践した結果、どの環境でも、どの先生でもマインクラフトを教材として利用できると感じました。また、それ以上にPBLをやって良かったと思いました。今回の授業のように、生徒が現実世界にある課題に向き合い、チームで協力して考えて解決策を出す学習経験が、今後の糧になるという手ごたえも感じました。
また私自身、授業設計をする段階で相当悩んだ時期もありましたが、生徒に対して「このように成長してほしい」「この力をつけてほしい」というところから考え、そのための手段としてマインクラフトを活用するという道筋をつくれたことで、学習の成果も感じました。
今後の課題としては、もう少しプログラミング学習において体系付けた内容を盛り込みたいと思います。具体的には、全体に対してマインクラフトを操作しながら教えるだけでなく、冊子やデジタル教材をつくって、自分のペースで取り組めるようにすれば、より効果的にプログラミング学習ができるのではないかと考えています。
また今回は1つのグループの中で役割を決めて、建築担当・スライド作成担当・発表担当などと分担していました。しかし、今後のバージョンアップを考えるならば、以下のように学習過程を体系付ければより良くなると考えています。
- 基本操作の習熟:「順次」「分岐」「反復」など 化学・英語などのエッセンスも盛り込むことも検討
- 企画:PBL・他教科との連携や教科横断型学習
- 製作計画:制作に先立ち必要な資料や設計などに要する時間などを計算・スケジュールを作成
- 基本設計の制作:制作計画に則って建築物の「設計図」を制作
- マルチでの制作:マインクラフトのワールドにマルチでログインして共同で制作作業を行なう
- ワールド完成とプレゼン資料制作:プレゼン資料をMicrosoft PowerPointや動画などで作成する
- 発表:上記で作成した資料や映像を発表
- 振り返り:「Ai GROW」などのツールを使って振り返りをする。
ほかにも、PBLの中で大学などの専門機関を招いて、やり取りをしていきたいと思います。そのようなことが結果、ユネスコスクールを目指す上での取り組みにつながるかもしれません。さらに、自分たちが立てた問いや答えが適切かどうか、他者からの評価はどうなのか、というところまで突き詰められたら深い学びへとつながっていくはずです。
色々なアプローチでPBLはできますが、私としてはマインクラフトは手段でしかありません。大切なのは、私学として自分たちがどうあるべきか、学習自体が建学の精神や私学の矜持につなげられているか、という点であり、これを実現する学習をめざしたいと考えています。これからも生徒たちに寄り添いながら、新たな学びにも取り組んでいきたいと思います。
The Teachers' Voice 目次
- 生徒たちが使う端末に制限はかけさせない。こだわり続けた自由度の高いiPad導入〜近畿大学附属高等学校 乾武司教諭(全5回)
- 読み書き計算に困難のある子の学びを支える"オーダーメイド”の支援 〜つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭(全3回)
- へき地が抱えるICT環境の課題と、教員の世界を広げるSNS活用 〜青森県 つがる市立育成小学校 前多昌顕教諭(全2回)
- コロナ禍で見えた新しい学びのカタチ「Face to Face の教育から、学びのSide by Sideへ」 〜東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹教諭(全5回)
- 英語を学ぶだけではない、ICTで生徒が自己発見できる学びとは? 〜工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭(全3回)
- ICT活用が進まない本当の理由は、教師の中に潜む“使命感”にある 〜聖徳学園中学・高等学校 品田健教諭(全5回)
- 教育版マインクラフトの学習に初挑戦。授業に落とし込む前に考えたこと〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭(全3回)