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「AIとの対話だけで終わらせない」、デザインプロンプトで考える力を育てる相模原市立中野中学校の学び

ChatGPTを審判役にして、ディベートを行う生徒たち。相模原市立中野中学校にて(撮影:編集部、以下同じく)

生成AIを授業に取り入れると、子供たちの学びはどう変わるのか。活用が広がる一方で、AIに頼りすぎて、自分で考える機会が減るのではないか、という懸念もある。

現在改訂が進められている次期学習指導要領においても、AIとの向き合い方は重要な論点の一つだ。使い方を覚えるだけでなく、その特性を理解し、自分で考えながら活用する力が求められている。

こうした中、生成AIを授業に取り入れ、生徒の思考や対話を深める実践を進めているのが、神奈川県の相模原市立中野中学校(以下、中野中)だ。

本稿では、ChatGPTを「審判」役にしたディベートと、Geminiとの対話による1学期の振り返り、二つの授業をレポートする。

AIとの対話だけで、学びを終わらせない

中野中では、生成AIとの対話だけで学びを終わらせず、そこで得た気づきや考えを、人との対話や自分の言葉による表現につなげることを大切にしている。

その学びを支えているのが、同校の総括教諭・教務主任 梅野 哲先生が考案した「デザインプロンプト」だ。ここでいう「デザイン」とは、プロンプトの書式ではなく、授業そのもののデザインを指す。授業の目標や目指す生徒像、評価の視点、AIからどのような問いを返すかといった教員の意図を、一連のプロンプトに落とし込んでいる。

中野中では、授業のねらいに応じて教員がデザインプロンプトを作成し、生徒にも中身が見える形で渡している。生徒はそれを使ってAIと対話しながら、考えを広げたり深めたりしていく。

相模原市立中野中学校 総括教諭・教務主任 梅野 哲教諭

梅野先生は、「 学習者主体の授業デザインの一部をプロンプトに落とし込んでいます 」と説明する。生徒はこうしたプロンプトを使いながら、学年に応じてAIとの対話の仕方を身につけていく。

実践の内容も学年によって異なる。2年生ではChatGPTを「審判」にしたディベートを実施。1年生では、Geminiとの対話を通して1学期を振り返り、自分の経験を言葉にする活動に取り組んでいた。

1年生のうちから、生成AI活用における「プロンプト」の役割や大切さを学ぶ

ChatGPTが審判、「修学旅行にスマホを持っていくべきか」

筆者が取材したのは、2026年の6月末に行われた「情報の授業」。この日、2年生はChatGPTを活用したディベートに取り組んでいた。テーマは、「修学旅行に個人のスマホを持参することに賛成か、反対か」。生徒たちは3~4人ほどのグループをつくり、その中で賛成派と反対派に分かれて議論した。

このディベートでのChatGPTの使い方は、こうだ。使用する端末は3台。うち2台は賛成派と反対派が1台ずつ持ち、ChatGPTを「 アドバイザー 」役として活用する。自分たちの主張に十分な根拠があるか、相手からどのような質問が予想されるか。ChatGPTと対話しながら議論を組み立てていく。

ChatGPTを音声入力にしたままディベートを開始。終了したら、入力された内容を投げかけ、判定や主張の改善点についてアドバイスを受ける

残る1台は、ディベートの「 審判役 」だ。教員があらかじめ用意したプロンプトを入力して使う。プロンプトはまず「あなたはディベートのスペシャリストです」と役割を与え、主張、質疑、回答、最終主張というディベートの流れを示す。そのうえで、音声入力された討論の内容を踏まえて勝敗を判定し、その理由と双方へのアドバイスを返すよう設定されている。

ChatGPTを審判役として使うために入力したプロンプト

授業では、ディベートを2回行う。1回目の勝敗とChatGPTからのアドバイスを踏まえて作戦を練り直し、改めて2回目の議論を行う。そうすることで自分たちの主張や伝え方を改善していくことが狙いだ。

1回目のディベートが始まると、まず賛成派から「緊急時に家族と連絡が取れる」「写真を撮ったり、現地で調べたりできる」「スマホを正しく使うマナーを学ぶ機会になる」といった主張が出た。

これに対し、反対派は「スマホに気を取られ、景色や友達との時間を楽しめなくなるのではないか」「紛失した場合は誰が責任を取るのか」「ルールを作っても全員が守れるとは限らない」などと反論した。

ChatGPTの審判を間に挟み、賛成派・反対派が主張を展開

1回のディベートは14分。双方が最初の主張を述べた後、相手への質疑、回答、最後の主張へと進む。準備してきた内容を読み上げるだけでなく、相手の発言を聞き、その場で質問や回答を考える場面もあった。

ディベートが終わると、審判役のChatGPTが判定を返す。あるグループでは、賛成派80点、反対派88点という僅差の結果になった。勝った反対派は、主張に一貫性があること、理由が具体的だったこと、相手への反論ができていたことが評価された。

結果を見て、負けた側から「8点差、悔しい!」と声が上がると、勝った側も「次はもっと点差を付けて勝ちたい」と気合を入れる。僅差だった理由をChatGPTに問い返す生徒もおり、点数まで示されることで、勝敗だけでなく次にどう改善するかへ意識が向いていた。

1戦目を終えて作戦タイムに入ると、生徒たちはChatGPTが示した判定理由やアドバイスを読み返し始めた。なぜ点差がついたのか。相手に指摘された部分を、次はどう返すのか。主張の説得力を高めるために、何度も問いかけながら理由や具体例を補う様子も見られた。

ChatGPTのフィードバックをもとに、2戦目に備える

そうして迎えた第2戦では、1戦目を踏まえ、主張の根拠や具体性を強めたグループが多く見られた。あるグループでは、「問題なのはスマホそのものではなく、使い方だ」と論点を整理し、SNSへの投稿ルールなど、情報流出のリスクを減らす手立ても加えた。ChatGPTのフィードバックをもとに仲間と相談しながら、より伝わる表現へと工夫していく姿が印象的だった。

一方で、ChatGPTの判定に疑問を持つ生徒も。あるグループでは、判定に納得できなかった生徒が、自分たちの主張が十分に反映されていないと考え、ChatGPTに問い返していた。するとChatGPTは、「私の整理が正確ではありませんでした」と回答。再評価では勝敗こそ変わらなかったものの、点数が修正され、両者の差が縮まる結果となった。

判定に対し、音声入力で十分に拾われていなかった発言を指摘すると、評価が見直された

「ちゃんと聞き取ってくれてたら、勝てたかもしれないのに…」と悔しそうにつぶやく姿からも、ChatGPTの回答を鵜呑みにせず、判定を自分なりに吟味する姿勢が伝わってきた。

「自分の考えの一個上」、生徒が感じたAIの強みと限界

ChatGPTのフィードバックをもとに、意見を交わす生徒たち

授業後、生徒たちに生成AIを使ったディベートについて聞くと、AIの便利さだけでなく、その限界や使い方への意識も見えてきた。

先ほど、ChatGPTが自分たちの発言を十分に聞き取れていなかったことに悔しさを見せていた男子生徒も、AIとの対話には良さを感じていた。AIは「 自分の考えの一個上」を示してくれる存在 だといい、「自分の考えの補足にもなるし、自分の考えを変えるきっかけにもなる」と話す。

一方、審判役として使ったことで、AIの限界にも気づいた。「公平な判断をもたらしてくれることもあるけど、聞き取ってくれない部分とか、判断してくれない部分があるのは、 人間より足りない部分 だなって思いました」と振り返る。

別の生徒は、AIを使うことで、人間同士だけで話すよりも「いろんな観点」から考えられるところに良さを感じていた。 相手の意見を尊重しながら、疑問に思ったことはしっかり問い返すことができた という。AIを使うことで、自分たちだけでは気づかなかった視点にも目を向けられたようだ。

便利だから使うのではなく、どこまで頼るのか、返ってきた答えをどう受け止めるのかを自分で判断する。生徒たちは今回のディベートを通して、 AIの強みと限界の両方 に触れながら、その付き合い方を考えていた。

1年生は、AIとの対話から自分の経験を言葉にする

1年生の教室では、Geminiを使いながら1学期を振り返る授業が行われていた。

テーマは「AIとともに1学期を振り返る」。4月の入学からこれまでを思い返し、自分が頑張ったことや課題、2学期や夏休みに取り組みたいことを、Geminiとの対話を通して言葉にしていく。

生活や学習面など、さまざまな観点から1学期を振り返る

中学校生活が始まってまだ数カ月。振り返ればいろいろな出来事があっても、それをうまく言葉にできない生徒もいる。そこでAIから問い返しを受けることで、「そういえば、こんなことがあった」と経験を思い出し、自分の考えを少しずつ整理していく。

Google Geminiとの対話を通して、考えを整理していく

梅野先生は、生成AIとのやり取りを通して「 自分の内面にある情報を引き出し形にする 」ことができると話す。自分ではうまく書き出せなかったことも、問いかけを重ねることで、少しずつ文章にできるようになるという。

授業の途中では、生徒同士で端末を交換し、Geminiとの対話を通してまとめた互いの振り返りを読み合った。

授業の後半には、Google スプレッドシートで互いの振り返りの内容を共有

クラスメイトの文章を読みながら、「自分もこれ分かる」と共感し合う生徒たち。自分の経験をAIとの対話で言葉にし、それを人と共有することで、さらに別の気づきが生まれていたようだ。AIから得た気づきや考えを人との対話につなげることで、さらに考えを広げ、深めていく様子がうかがえた。

AIとの学び方を身につける3年間、教員に問われる「見取り」

中野中では、3年間を通してAIとの対話の仕方を学び、自分の目的に合わせて 問いを立て、考えを深められるようになること を目指している。

相模原市立中野中学校 鈴木啓史総括教諭

2学年主任の鈴木 啓史先生は、生成AIを「書くための材料として 共同作業するパートナー 」と捉えている。AIの支援を受けながら書き始めた生徒も、学年を重ねるにつれて自分で表現できるようになっていく。

3年間継続して取り組んだ学年では、文章で表現する力の伸びも見られたという。「とにかく書くためのサポーターとしてAIを使ったことで、 生徒たちが諦めなくなった 」と、その変化を語る。

こうした学びを支える一つが、冒頭で紹介したデザインプロンプトだ。中野中では、教員が作ったプロンプトを生徒にも中身が見える形で渡している。梅野先生は、デザインプロンプトには「目指す生徒像や、何を身につけさせたいのかという教員の意図が反映されています」と説明する。だからこそ、生徒がその意図を理解し、「自分たちで使えるように、あえて見せて渡している」という。

梅野先生が考案した「デザインプロンプト」の考え方

最初は教員が用意したデザインプロンプトを使うが、学年が上がるにつれて、生徒はその仕組みを自分の学習にも応用していく。3年生では、国語や社会などの学習内容に合わせてプロンプトをアレンジしたり、定期テストに向けた学習用のプロンプトを自分で作ったりする生徒もいる。デザインプロンプトは、生徒が自分で学びを進めるための足場にもなっている。

生徒が作成したプロンプト。歴史的背景を学びながら、ゲーム感覚で用語を覚えられるよう工夫している

一方で、生成AIの活用が広がる中では、考える前にAIへ答えを求めたり、本来自分で考えられる部分まで任せたりすることで、学びが浅くなるのではないかという懸念もある。だからこそ、梅野先生は「 教員による見取りが重要だ 」と語る。

「AIの支援が生徒の学びを後押ししているのか、それとも、考える過程までAIに委ねてしまっているのか。その違いを見極め、 一人ひとりに合った使い方を促すことが教員の役割 」と梅野先生。「AIとの付き合い方は一律ではなく、それぞれが自分に合った使い方を身につけていくことが大切」だと話す。

こうした考え方は、生徒の姿にも表れている。2年生のある生徒は、「使い始めた頃は思うような返答を得られないこともあった」と教えてくれた。しかし、先輩から使い方の工夫を教わるなどしながら試行錯誤を重ね、今では、求める返答を意識して自分でプロンプトを組み立てている。

「最初はプロンプトの使い方も作り方も分からなかったけれど、ちゃんと勉強してからは使い方が分かってきた」。さらに、先輩から別の使い方を教わったときには、「こんなやり方もあるんだ」と驚いたという。

教員が用意したデザインプロンプトを使うところから始まり、授業や周囲との関わりを通して、自分なりの使い方を少しずつ身につけていく。中野中の実践から見えてきたのは、生成AIを使う力そのものではなく、AIをどう使えば自分の学びが深まるのかを、生徒自身が考えられるようになることの大切さだった。

本多 恵

フリーライター/編集者。ゲーム誌・Web媒体、育児系メディアでの執筆を経て、現在は教育ICT分野を中心に取材・執筆。学校現場のICT活用や教育DX、生成AI、特別支援分野でのICT活用を追う。ゲームや遊びを学びにつなげるエデュテインメントにも関心を持つ。小学生2人を育てる母として、保護者の視点を大切にし、AI時代の学びの今を現場の空気とともに伝えている。