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文部科学省に聞く、教育は「生成AI」とどう向き合い、どのような未来を描くのか
2026年2月2日 12:03
教育現場における生成AIの存在感は、この数年で急速に高まっている。校務を中心に便利さを実感する場面が増える一方で、授業での活用については、現場で戸惑いも少なくない。
こうした中、次期学習指導要領の改訂に向けた議論も進んでいる。本格的なAI社会を前提に、学校教育は何をめざし、どのような力を子供たちに身に付けさせるべきなのか。今まさに、その問いに向き合う段階にある。
そこで本記事では、生成AIの現在地を整理しながら、未来の教育をどのように描くべきか。そのヒントを探るべく、文部科学省 初等中等教育局 学校情報基盤・教材課長の寺島史朗氏に話を聞いた。
■大人が使う「効率化のAI」と子供の「学びのAI」は違う
■生成AIは「黒船」ではない、教育を支える「渡りに船」
■パイロット校の実践からひも解く、生成AI活用の可能性
■「学びが深まらない使い方」への危機感、プロンプト職人に頼らない未来
■次期学習指導要領で生成AIはどう扱われる?
大人が使う「効率化のAI」と子供の「学びのAI」は違う
―文部科学省では、教育現場における生成AIの状況をどのように捉えていますか。
寺島(以下、敬称略): 率直な印象として、想像以上の速さで社会に浸透してきたことを感じます。この2年間だけを見ても、生成AIに対する受け止め方や見方も変わってきました。
文部科学省として初めて生成AIと向き合ったのは、令和5年7月に公表した「初等中等教育段階における生成AIに関する暫定的なガイドライン」のときでした。当時は夏休み前に「子供たちがChatGPTで読書感想文を書いてきたらどうするか」という議論が象徴的でしたが、そこから技術はさらに進展し、今やどこにAIが組み込まれているのか分からない状況になっています。
こうした中で、私たち自身も生成AIに対する知識や視点をアップデートしなければ対応できないと感じると同時に、 これからの時代を生きていく子供たちとAIを「断絶」させることはもはや現実的ではない と考えています。
ただし、子供のAI活用については気を付ける点もあり、 大人が業務効率化のために使うAIと、子供の学びに関わるAIは同じではない と捉えています。大人はAIで効率的に答えを出したいですが、子供の場合は、早急に答えを出さないAIの方が教育的な価値が見られる場合もあります。教育においては大人と子供を区別したうえで、AIをどのように適切に扱うか、どんな距離感で向き合うべきなのか、そこが重要なポイントになってきたと考えています。
―生成AIに対する向き合い方として、文部科学省ではメリットとリスク、どちらに重きを置いているのでしょうか。
寺島: どちらか一方に比重を置くというより、ニュートラルに捉えています。これは、ガイドラインVer.2.0でも示している通り、生成AIには良い面もあれば、注意すべき面もあるという考えです。
そして、私たちが最も重視しているのは、 生成AIが子供の資質・能力の育成に本当に寄与するのか、教育活動の目的を達成するうえで効果的な利活用になっているのか 、という点です。この考え方は、なにも生成AIに限った話ではなく、GIGA端末の活用とも共通しており、道具を使うこと自体が目的ではないのと同じです。生成AIが良いか、悪いかという二項対立ではなく、その活用が学びとして意味を持つのかどうか、そこに立ち返ることが大切だと感じています。
テクノロジーは「黒船」ではない、教育を支える「渡りに船」
―生成AIの教育利用において、文部科学省として最終的に目指しているものは何でしょうか。活用の先にどのような姿を描いているのでしょうか。
寺島: 生成AIの活用について、今後さらに技術が進歩する未来を見通してあらかじめ一つの明確なゴールを描き切るのは難しいと思っています。ですが、 出発点は常に同じで、子供たちにどのような力を身に付けさせたいのか、 という点です。
現在、次期学習指導要領の議論も進んでいますが、私たちが目指しているのは、知識量を競ったり、覚えたことをそのまま再生したりする力ではありません。自ら課題を発見し、情報を整理・分析しながら、多様な他者と関わり、協働して解を生み出していく力です。この目指す姿が明確であれば、生成AIもその時々で選び取る道具の一つにすぎないと考えています。
―生成AIは道具である一方で、教育を大きく変えてしまうインパクトもあります。教育現場で守るべきものは何だとお考えですか?
寺島: GIGAスクール構想のときもそうでしたが、生成AIのようなテクノロジーは「黒船」のように、教育を根底から一変させるものとして語られがちです。しかし私は、むしろ「渡りに船」だと捉えていて、 生成AIなどのテクノロジーが入ってきても、先生方の「これまでやりたかったこと」が変わるわけではない と考えています。
例えば、先生方は以前から、机間巡視を通して子供たちの理解度やつまずきを見取ってきましたが、端末やクラウドを使うことで、子供たちの状況をリアルタイムで把握できるようになり、次の手立てを打ちやすくなりました。また、紙の時代には難しかった個別学習も、AIを活用すれば対応しやすい環境ができつつあります。
つまり、どんなに道具が変わっても、先生方が持っている「一人ひとりの良さを見つけて伸ばしたい」という想いや、日本の教育が大切にしてきた個別最適な学びや協働的な学びといった軸は揺らがないということです。
一方で、どれだけ道具や環境が整っても、授業のねらいや見るべきポイントが明確でなければ意味はありません。目的が先にあり、道具はそのために使われるものです。意味がなければ使わなくていいし、従来の方法で子供たちの力が伸びるのであれば、それで構わないと思います。ただ、一人一人に応じた支援や学びを実現する場面では、生成AIやデジタルの力が大きく生きてくる。その可能性をどう生かすかが、これからの教育に求められていると感じています。
パイロット校の実践からひも解く、生成AI活用の可能性
―文部科学省では現在、生成AIの活用に対してどのような施策や取り組みを進められていますか?
寺島: 令和5年度に暫定的なガイドラインを公表して基本的な考え方を示し、1年を経てガイドラインVer2.0を策定しました。その2年間に並行して、「生成AIパイロット校事業」を進めています。
生成AIは、教育現場でどのような使い方が可能なのか、どこに注意すべきかなど、実際にやってみないと分からない部分も多い。そのため、パイロット校での事例を積み重ねながら、今後の展開を検討している段階です。
パイロット校は、教員の働き方改革を含めた校務を中心に取り組む学校と、学習場面での活用方法に取り組む学校の大きく2つに分けています。全体としては、校務を中心に取り組む学校の方が数は多くて、まずは先生方が生成AIに触れ、理解を深めるところから進めていきたいと考えています。生成AIパイロット校事業は補正予算も通過しましたので、令和8年度も継続する予定です。
また先生向けの研修素材や研修動画等も用意していて、全体として適切な利活用が進むようにサポートをしています。
―ガイドラインの策定や生成AIパイロット校の取り組みを通して、学校現場ではどのような変化が見られますか。また、生成AIパイロット校の事例の中で良い活用、良い実践だと思われたAIの使い方を教えてください。
寺島: ガイドライン策定やパイロット校の取り組みによって、生成AIの活用が一気に広がったかというと、まだそういう状況ではありません。ただ、ガイドラインを策定したことで、自治体が自分たちのポリシーを作る際の拠り所として使われることが多く、共通の土台として位置づけられていると認識しています。
一方で、校務分野では少しずつ動きが出てきたように感じますね。校務は大人が担う業務なので、子供が使う場合とは注意点も異なり、比較的始めやすい。そこは、ガイドラインで校務活用を前向きに位置付けたことも効果としてあるのかなと感じています。
また全体的な傾向としていえるのは、 GIGA端末を日常的に活用してきた地域や学校ほど、生成AIの活用についても早く取り組んでいる傾向 があります。例えば、茨城県つくば市や愛知県春日井市などは、授業でのICT活用の蓄積があり、その延長として生成AIにも取り組みやすい。リーディングDXスクール事業などで集中的に取り組んできた学校は、生成AIへの対応も比較的早い印象があります。
生成AIの良い使い方は、先ほども述べた通り、授業の目的に対して効果的に使えているかという視点が重要になってくるのですが、 可能性を感じている活用は、一人一人に応じた場面で生成AIを使うとき でしょうか。
例えば、パイロット校でもよくあるのですが、授業の振り返り。児童生徒がそれぞれ書きこんだコメントに対してAIがフィードバックをしてくれる。もちろん、そのAIには学習指導要領の見方・考え方や先生が大切にしている授業のポイントが組み込んであるわけですが、そうした点を考慮してAIがフィードバックしてくれることで、子供たちの思考が循環していきます。今までだったら、自分で書いて、先生に出して、すぐにフィードバックをもらうことなんてできなかったわけで、それに比べると生成AI相手ではありますが、子供たちがすぐにフィードバックを得られる点は意味があると思います。もちろん、最終的には先生がきちんと子供たちに向き合い、フィードバックすることが前提です。
「学びが深まらない使い方」への危機感、プロンプト職人に頼らない未来
―教育現場における生成AI利用が進む中で、今、課題に感じられていることは何でしょうか。
寺島: 大きくわけて二つあります。一つは、生成AIを使った結果として 「学びが深まっていないことに無自覚な使い方」が出てきている こと、もう一つは、今の生成AIの活用は 先生が「プロンプト職人」になることによって支えられており、それを前提に活用し続けるのは現実的ではない 、という点です。
まず一つ目の「無自覚な使い方」ですが、これは、AIが綺麗に表現を仕上げてくれることで学びが深まったと混同してしまうケースです。例えば総合的な学習の時間や探究学習で、AIを使えば、誰でも見栄えのよい成果物を作ることができますが、これを持って「しっかり探究しました」「うまく表現できました」と評価してしまうことを危惧しています。本当に子供自身の内側から生まれた問いなのか、途中で立ち止まり試行錯誤を重ねた結果なのかは、別問題です。
AIによって表現が整っただけなのに「表現が深まった」「良い学びだった」と受け止めてしまうと、思考のプロセスが十分に育ってないことを見落としてしまいかねません 。そこに自覚的でいられるかどうかが非常に重要だと感じています。
もうひとつ感じているのは、現在、パイロット校などでは、先生方が非常に工夫しながら生成AIを使っています。これはこれで素晴らしいのですが、 かなり職人芸に近い状況で、こういう先生はどの学校にもいるわけではありません 。だからといって、すべての学校にプロンプト集を配布すれば、どの先生も生成AIを使いこなせるようになるかというとそうではない。同じ指示でも、学級の実態や授業の中での位置づけによって結果は大きく変わるので、同じような成果が得られるとは限らないわけです。
そうしたことから、民間の力を借りながら 教育分野に特化したAI を育てていくことも必要ではないかと考えており、現在も予算を取って実証研究に取り組んでいます。これは来年も補正予算で継続的に取り組んでいく予定です。
―教育分野に特化したAIというのは、どういうものになりますか?
寺島: 今取り組んでいるのは、特別支援における個別指導計画のひな型作成や、探究学習や総合の時間などで、子供の問いに応じた教科書データやニュースデータを示しながら、多様な視点を提供できるAIなどです。
ただし、先ほども述べたように、教育現場で使うAIは、「大人にとって便利かどうか」と「子供の学びに合っているか」は、評価軸がまったく異なります。パイロット校の実践を見ていると、子供のAI利用については「できるだけ答えを出さない」「対話や新たな視点を促す」という方向へ活用の軸が移ってきています。現場の知恵が事業者に共有され、教育に適したAIが育っていく。その循環をどう作るかが、これからの大きなテーマだと感じています。
次期学習指導要領で生成AIはどう扱われる?
―次期学習指導要領では、生成AIはどのように扱われますか。また、どのような議論が進んでいるのでしょうか
寺島: 現在、まさに議論の途中段階ではありますが、生成AI単体をどう位置付けるかというよりも、今回の 学習指導要領改訂の大きなテーマのひとつは、情報活用能力を抜本的に高めること にあります。
これまで十分に扱う時間が確保されてこなかった小学校段階から、情報をしっかり取り上げ、中学校では教科再編も視野に入れながら情報技術を体系的に学ぶ。さらに高校では、小・中学校での積み上げを前提に「情報Ⅰ・Ⅱ」へとつなげていく。その結果として、高校段階では、高等教育段階での数理・データサイエンス・AI教育の動向とも連動し、文理を問わず生成AI時代に不可欠な基礎的素養である「特性の理解」を身に付けられることを目指しています。
議論で重視しているのは、情報活用能力を、 情報技術の「①活用」「②適切な取扱い」「③特性の理解」 という3つの側面から、バランスよく育てることです。その中で、生成AIは情報技術のひとつとして扱われていくことになります。
まず特性の理解として、生成AIとは何か、どのような仕組みで動いているのかを、発達段階に応じて学ぶことが重要です。中学校の「情報・技術科(仮称)」などでは、これまで扱われてこなかった生成AIの仕組みを、科学的・技術的に理解する学びも入ってくる可能性があるでしょう。その上で、バイアスや権利侵害といったリスクを含め、適切に取り扱う力を育てていくことになります。
また情報活用能力を高めていくことが、 探究的な学びの基礎になる と考えています。探究というと、テーマ設定や発表の仕方に目が向きがちですが、実際には、課題をどう設定するのか、どの情報を集め、どう整理・分析して、どう表現するのかという一連のプロセスそのものが、情報活用能力なんですよね。
生成AIを含む情報技術は、その 探究のサイクルを回していくためのツールの一つ だと思っています。ただ、単に便利に使えばいいという話ではなくて、その仕組みや特性を理解した上で、どう使うのが適切なのか、どんな影響があり得るのかまで含めて考える必要があります。
例えば、情報が本当に正しいのか、偏りはないのか、誰かの権利を侵害していないか。そうしたことを意識しながら情報と向き合う力がなければ、探究は表面的なものになってしまいます。逆に言えば、情報活用能力がしっかり身についていれば、生成AIのような技術も、思考を深めたり、多角的に考えたりするための強力な支えになります。
探究的な学びの基礎となるのが、情報を適切に取り扱い、判断し、活用する力であり、だからこそ情報活用能力の充実が重要だと考えています。
―文部科学省として、なぜ、ここまで情報活用能力の抜本的な向上に注力しているのでしょうか。その課題感や危機感は何でしょうか
寺島: 情報に関する知識や活用が、子供たちにとって重要であることは以前から言われてきましたが、私たちが強い危機感を持っているのは、 今ここで情報活用能力を高めていかなければ、公正な民主主義そのものが揺らぎかねない という点です。直近のワーキング資料では「 確かな民主主義 」という言葉も使われましたが、AIをはじめとする技術の進展は、単に便利かどうかという話にとどまらず、社会の成り立ちそのものに影響を及ぼします。
社会は一人ひとりの個人によって形成されていますが、情報技術を正しく使う力や、情報を正しく解釈する力がなければ、意思決定のあり方そのものが変わってしまいます。民主主義は単純な多数決だけで成り立つものではなく、多様性や包摂性を考慮し、さまざまな立場を理解して、対話を通じて納得解を探っていくことが欠かせません。その際に何の情報を取捨選択し、どう議論し、どう判断するのか。個人の情報活用能力が社会形成や価値観に大きく関わってきます。
デジタル情報があふれる時代においては、情報との付き合い方や距離を置く力、曖昧さに耐える力も重要になります。情報活用能力というと、「IT社会を生き抜くためのスキル」として語られがちですが、次期学習指導要領では、個人が集まって社会を形成していくという視点から、この力を捉え直したいと考えています。
技術を使いこなせるかどうかではなく、情報社会の形成者として、主体的に判断し、他者と対話しながら社会をつくっていく。そのための基礎となる力として、情報活用能力を位置づけていきたい、というのが今回の改革の背景にあります。





































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