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生成AI時代に向き合う酒田東高校の探究学習~主体性を育み、広がる未来の選択肢~

探究学習では、問いを立てる力や課題を発見する力が重視される。しかし、問いを立てただけで、生徒がすぐに動き出すわけではない。探究を自分事として深めるためには、その背中を押す“原動力”が必要だ。

こちらの記事 で紹介した山形県立酒田東高等学校 国際探究科(以下、酒田東高校)の実践は、この問いに対するヒントがある。同校が取り組む探究学習では、活動の一環として企業や社会人との接点を設けており、探究のテーマにとらわれない対話を通じて、生徒の視野を広げている。

同校の探究学習を継続的に支援してきたのが、マイクロソフトである。同社は、英語プレゼンテーションなどの活動を支援してきたほか、企業訪問の機会も提供。そこでは、生徒たちが社員とAIについて議論を交わし、将来のキャリアを広げる話を聞いた。こうした大人との本気の対話は、10代の生徒たちに何をもたらすのか。卒業生の声にも耳を傾けながら、探究学習を動かす“原動力”を探る。

AI時代の働き方に触れ、英語で自分の未来を語る

酒田東高校の国際探究科では、高校2年次に企業や施設を訪問する東京研修を実施している。この研修のテーマは、「自分自身の未来を考え、伝えられるようにすること」と「新たな世の中の動向を自分事として捉えられるようにすること」。東京・品川にあるマイクロソフト本社もその訪問先のひとつで、今回が3回目となった。

日本マイクロソフト品川本社での企業訪問

訪問の当日、生徒たちはまず、マイクロソフトの企業規模や歴史、製品、カルチャー、働き方について話を聞いた。同社のすべての製品に「Microsoft Copilot」が組み込まれているという説明から、AIがすでに身近なツールになっていることを実感。また、同社が重視する「 Growth mindset(成長する考え方) 」も紹介され、失敗を学びに変えながら成長し続けることの意味を学んだ。仕事において重要なのは、スキルだけではない。新しいことに挑戦し続けるマインドや、他者とコラボレーションする大切さも語られた。

マイクロソフトが重視する「Growth mindset(成長する考え方)」

続いて、生徒たちはグループに分かれ、マイクロソフト社員を前に自分の未来を英語で語った。事前に準備した約1分間のスピーチを一人ひとりが発表し、質疑応答も英語で実施。社員からは内容や伝え方へのフィードバックがあり、海外での実体験を交えながら、英語で伝えることの意義や難しさが共有された。

社員と名刺の交換からスタートし、英語で1分間のスピーチ
最初は緊張していた生徒たちも、話すうちに笑い声が聞こえてきた

AIによる課題解決のアイデアと人間の強み、高校生が語るAI議論

その後は、生成AIに関するディスカッションが行われた。生徒たちは事前にマイクロソフト社員から生成AIの基礎知識を学んでおり、この日は「生成AIが解決できる身近な社会課題」や「AI時代の人間の強み」について議論した。

あるグループでは、身近な先生の負担に着目し、部活動などで生成AIを活用できるシーンがないか生徒目線で議論。ほかにも、高齢者の話し相手や選挙への活用、介護のシフト管理、外国語の練習、体調管理、熊の出没予測など、身近な課題解決につながるアイデアが挙がった。なかには、フェアトレードに向けた情報格差の解消という国際的な視点からの提案も見られ、大人からの問いかけを受けながら、生徒たちの思考が広がっていく様子がうかがえた。

グループに分かれ、AI活用や人間の強みについてディスカッション

AI時代の人間の強みについては、個性や経験、感情、共感力に着目した意見が多かった。「 AIは人間のような経験がないため、欠ける部分がある 」「 人は体と感情を持つからこそ共感が生まれ、人を支えることができる 」といった意見が挙がったほか、「 試行錯誤できることが人間の強みであり、そこから得られる失敗や苦しみの経験に価値があるのではないか 」という踏み込んだ問いかけも生徒の言葉で発せられた。

そのうえで生徒たちは、「生成AIの特性を理解して上手く使うことが大事」「最終的な判断は人間が担うべきだ」と語った。「AIと人間の境界を理解したい」「人間特有の能力にこそ付加価値が生まれる」「人にしかできないことを考え続けたい」という言葉も聞かれ、社員との対話を通じて、AIと人間がどう共存していくか、議論が深まったことも感じられた。

各グループの代表がディスカッションの内容を発表した

経験は後から意味を持つ、社員5人が高校生に語ったキャリアの話

ディスカッションの後、社員5人によるキャリア紹介が行われた。登壇した社員たちは、それぞれ異なる経歴を持ちながら、現在はマイクロソフトで多様な業務に携わっている。女性が活躍できる場を求めた社員、学生時代の海外経験をきっかけにキャリアを広げた社員、大学でのゼミ活動が現在の仕事につながったと語る社員など、その歩みはさまざまだ。

日本マイクロソフト株式会社 カスタマーサービス&サポート本部 Windows Commercial & Developer Azure Services サポートエスカレーションエンジニア 黒田 隼氏

山形出身で地元を離れてグローバルな環境に飛び込んだと話す黒田氏は、「未来の選択肢は、皆さんが思っている以上に広い」と語りかけた。また5人それぞれ、受験での経験や大学時代に挑戦したこと、それが今のキャリアにどのようにつながっているかを紹介。共通していたのは、「 経験は、後から意味を持つ 」という点だ。当時は気づかなかったことや、一見役に立たないと思われる経験が、時を経てキャリアや自身の土台になっていることを伝えた。

日本マイクロソフト株式会社 パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 教育戦略本部 アカウントエグゼクティブ 西谷 亜希子氏
日本マイクロソフト株式会社 Elevate統括本部 初等中等教育戦略本部 インダストリーアドバイザー 今野拓哉氏
日本マイクロソフト株式会社 カスタマーサービス&サポート本部 Windows Commercial & Developer Azure Services サポートエンジニアリングマネージャー 清水 磨(おさむ)氏

こうした機会を通して、教員を目指していた生徒が企業への就職に興味を持ったり、国際協力関連の機関を目指していた生徒がグローバル企業での働き方もあると気づいて視野が広がるといった変化があるという。学校の外にある「大人の言葉」が生徒たちの将来に対する見え方を広げているのがわかる。

AIとキャリアを通して広がった視野、社員との対話で高校生に届いたもの

三橋航汰さん

生徒たちは、マイクロソフト社員との関わりをどのように受け止めただろうか。

将来は公認心理師を目指しているという三橋航汰さんは、「自分たちの考えを話す機会も多かったので、充実した時間を過ごせました。 生成AIはこれまで課題で使う程度でしたが、自分の考えを話す中で社員の方からさまざまな視点をいただき、考え方が変わっていくのを感じました 」と話してくれた。AIに対するイメージが広がり、社員との対話が刺激になったようだ。

佐藤 弦さん

将来は自治体で地域づくりに携わりたいという佐藤弦さんは、「一般的な企業のイメージとは異なる職場でしたが、完全に外国というわけでもなく、グローバル企業の雰囲気を知る貴重な機会になりました」と振り返る。普段からAIを活用しているという佐藤さんにとっても、今回のグループワークは新たな気づきの場となった。「 AIは自分を手伝ってくれるものと捉えていましたが、“AIに働いてもらう”という考え方をする人もいて、視点の違いを知ることができたのが面白かったです 」と語ってくれた。

菅 心緒さん

教員を目指しているという菅 心緒さんは、「これまで企業への就職は考えていませんでしたが、社員の皆さんのキャリアを聞く中で、 海外と関わる素晴らしさを感じ、自分の将来ももっと考えて、楽しんでいきたいと思いました 」と気持ちの変化を語った。AIについても「 思っていた以上に無限大の未来が広がっていることが分かりました 」と話す。経験や失敗が人生の分岐点になることも知り、将来の選択肢をもっと広げていきたいと語った。

「今から考えれば、転機だった」──渡部敦大さん×宮崎翔太氏 対談

では、こうした体験や探究学習は、高校生の進路や考え方にどのような影響を与えるのか。その答えを探るべく、マイクロソフトの宮崎翔太氏と、酒田東高校卒業生の渡部敦大さんが対談をした。二人の縁は在学中にさかのぼり、宮崎氏が同校の英語プレゼンテーションに審査員として訪れた際、渡部さんが自ら声をかけたのが始まりだった。

(左)日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長 宮崎翔太氏、(右)酒田東高校国際探究科の卒業生で、東北大学経済学部に通う渡部敦大さん

宮崎: 改めて、あの時、弊社にお越しいただいた際の思い出があればお聞かせいただけますか?

渡部: もちろんです。今から考えれば、東京研修でのマイクロソフトのワークショップが自分の転機になったと思っています。それまで高校で勉強していることが社会でどう活かされるのか、自分もわからないまま学んでいたんです。それがここに来て、「自分が学んだことには、こういう活かし方があるんだ」という学びになりました。

宮崎: 一番印象に残っていることは何ですか?

渡部: 社員の方との話の中で、「積極的に学び、 自ら情報を取りにいく力 が大事になる」という話が印象的でした。当時はAIという言葉を知っている程度でしたが、「 これからはAIを使って舵取りをしていく時代になる 」という話は心に残りました。

東北大学経済学部に通う渡部敦大さん。高校の探究学習がきっかけでツーリズムとインバウンドの経済学を専攻

宮崎: 渡部さんとの最初の出会いは、酒田東高校で英語プレゼンテーションの審査員として学校にお伺いした時でしたね。帰りがけに追いかけてきてくださって、とても嬉しかったです。でも、高校生が知らない大人に声をかけるのって緊張しませんでしたか?

渡部: すごく緊張しました(笑)。その時は、掃除の時間で「審査員の方たちはどこにいらっしゃいますか」って先生に聞いて、掃除を抜け出して話をしに行ったんです。「何しに来たの」って言われたらどうしようとか、忙しくて話できなかったらどうしようってせめぎ合いながら、「とりあえず行っちゃえ」と思って行きました。

宮崎: ありがとうございます。話しかけていただいて、こちらはとても嬉しかったですよ!

マイクロソフト宮崎翔太氏。酒田東高校との交流を6年にわたって支えてきた

渡部: 自分はもともと積極的に手を挙げて発言するタイプでもないですし、どちらかといえば、先生の話を黙々と聞きながらやる受け身なタイプだったんですよね。でも、マイクロソフトを訪問したとき、「 やるかどうか迷ったら、一度やってみる 」という話をしてくださった社員の方がいて、社会はそういうモチベーションで動いていると感じたんです。それで、自分も声をかけてみようと思えました。

宮崎: 酒田東高校を卒業したあと、大学ではどんなことを学んでいるのですか?

渡部: 東北大学の経済学部で、ツーリズムとインバウンドの経済学を専攻しています。高校時代の探究活動で酒田市の観光振興に取り組んだのですが、大学にはその延長線上の授業もあるんです。

宮崎: 高校時代の探究がそのまま大学の研究につながっているんですね。そもそも、酒田の観光振興をテーマにしたのはなぜだったんですか?

渡部: 元々、中学生までは地元のことをそんなに意識していなかったんです。でも高校に入って探究活動を通して、そういえば、祭りのたびに人が減っているなとか、シャッター街が増えているなとか感じるようになって、地元に対して寂しさを感じるようになりました。探究活動では、実際に観光地に足を運んで、お店の人に「外国人の方がどれくらい来ているか」「対応の課題はあるか」を直接聞いて回って、地元の現状に目を向けるきっかけをくれました。

宮崎: 高校生が社会人に話を聞きに行くのはすごく良い経験ですね。

渡部: そうですね。高校生として見ている社会は、結局、子供の視点でしかなかったということに気づきました。社会で働いている方たちは、世の中の情勢を実際に感じながら働かれている。そのシビアな見方を知れたのはすごく貴重でした。

宮崎: なるほど。高校生でその視点に気づくことって大切ですね。世の中の情勢という視点では、今、AIが社会に普及してきましたよね。大学ではどのようにAIを使っていますか?

渡部: 授業のレジュメや課題をまとめたり、情報整理をしたり、サークルの会計管理にも活用しています。基本的には、効率化できるところでAIを使って時間を確保して、自分の知識として身に付けるべきところに時間を使うようにしています。一番意識しているのは、 主導権を自分で持ちながら道具としてAIを使う ということです。課題をそのままコピペして送っても意味がないし、学びも得られない。自分の中で考えをまとめてから、それをAIで整えるという使い方をしています。

宮崎: 素晴らしい意識だと思います。そういう考え方は、どこで培われたんでしょうか。

渡部: 高校の探究活動の中で、 自分で意欲的に学ばないと何も研究が進まないという経験 をしたことが大きいと思います。結局、自分で考えて、自分の知識として落とし込んでいかなければ学びにならないことを感じました。

宮崎: 渡部さんにとって、AIはどのような存在ですか。保護者や先生の中にはAIの利用を心配されている意見もありますが、渡部さん自身はAIを使うメリットはどういうところにあると思いますか。

渡部: 自分たちの世代はネットもスマホも最初からある環境で育ってきました。だから、テクノロジーが発達すれば、環境が変わるのも自然なことで、AIを使うことがマイナスになるとは思えません。たとえば、ゲームに興味があればAIを使うことでどんどん深掘りできますし、自分にとっては、 AIは好奇心を加速させてくれるツール です。子供や学生から見れば、AIを使ってみて便利だな、面白いなとか、そんな単純なことから将来が見えたりするので、使ってみて学べることはあると思います。ただ、AIは進化が速いのでどこまで使うかを見極めるのは自分です。そういうのは、結局、使って慣れていくしかないかなと思います。

宮崎: 大学生になって、高校時代を振り返ってみて新たな気づきはありましたか?

渡部: 大学に出て初めて気づいたんですが、 酒田東高校でやっていた探究活動は当たり前のことじゃなかった んですよね。周りの大学生に話すと「うちの高校は全然そんなことをやらなかった」と言われて、改めてすごく貴重な体験だったんだなと思いました。高校の授業で、日常の中に社会に対する問題意識を持てるような学びや、いろんな人に会う機会を作ってくれたことはとても有難いと感じています。

宮崎: そうですね。私たちもAIに関わる仕事をしていますが、高校生には様々な出会いや経験の中で、 AIの「外」にある大切な価値観を感じてほしいと思っています。AIをはじめとするテクノロジーは手段であって目的ではない。皆さんが実現したいこと、達成したいこと、そのための手段の一つとしてAIも活用いただきたいですし、より良い社会を一緒に創っていってほしいと思います。

それに、大人が想像している以上に、高校生の皆さんご自身がAIが社会にもたらす影響について真剣に考えているように感じます。そのことも、世の中に広く伝わってほしいですし、AIを使うためのルール作りにも当事者として意見を発信していただきだいですね。

渡部: 正直、AIやテクノロジーが重宝される時代なので理系が有利だと思っていたときがあります。でも、マイクロソフトの社員の方たちの話を聞いてると、この会社を支えているのはエンジニアだけじゃないと気づきました。人と話して、社会との関係を作っていく人たちも活躍していて、文系の自分も必要とされるんだって思いました。

だから、後輩たちには自発的に行動してみてほしいです。失敗したらどうしようとか、勇気もいるし怖い気持ちもある。でも一回挑戦してみると、「あ、楽しいな」という部分が大きくなって、自然と行動へのハードルが下がっていきます。最初の一歩を踏み出して積極的に動いてみると、紆余曲折でいろんなことがあっても自分のためになると思えるようになるので、どんどん挑戦してほしいです。

不確実性の高い問いに一歩踏み出す力を育てたい

酒田東高校で探究学習を担当する本間健寛教諭は、「先が読めない時代だからこそ、不確実な課題に対して、一歩を踏み出す力をつけてほしい。その解決策がなかなか見えなくても、根気強くアプローチしていく姿勢を育てたい」と、生徒に身につけてほしい力を語った。

また、その手応えも少しずつ感じ始めているという。「地域の人に話を聞きにいったり、いろいろな人を巻き込んで研究を進めることも、年々ハードルが下がっているという印象も受けています」という。ただ、単発の行動で終わらせず、発表や振り返りもしながら意味ある形まで落とし込めるようにしていきたいと述べた。

山形県立酒田東高等学校 探究学習企画推進部 本間健寛教諭

マイクロソフトはかねてより、21世紀を生き抜く力として「 Future-Ready Skills 」を掲げており、テクノロジーを手段としながら、学びの変革や人材育成に取り組んできた。そして今、AI時代に突入し、学び方が大きく変わる中で、生徒たちが主体的に学ぶ探究学習に力を入れ始めている。問いが生まれる「原点」から、自ら動き出す「主役」へ。マイクロソフトは生徒の成長と共に探究学習に寄り添う教育ビジョンを描いている。

酒田東高校の東京研修のテーマは、自分の未来を言葉にすること、そして世の中の動きを自分事として受け止めること。この二つは、生徒が社会へ羽ばたくための問いでもある。

同校の取り組みが示しているのは、大人との本気の対話が、その問いに向き合うひとつの場になるということだ。AIを使いこなすスキルだけでなく、なぜAIを使うのか、AIとともに生きる人間はどうあるべきか。生徒たちはこれからの社会で避けて通れないAIに向き合い、社員との対話の中で何かを見つけただろう。ここで学んだ生徒たちが、これからどのような大人へと成長していくのか楽しみである。