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「答えじゃなくてヒントをくれるからいい」、大阪市生成AIパイロット校1年目の現場から
2026年5月12日 12:03
生成AIを授業にどう取り入れ、どのような資質・能力を育むのか。現場の教員たちが活用を模索するなか、大阪市は生成AIパイロット校を選定し、その学習効果と指導方法の検証を進めている。
パイロット校として1年目を終えた大阪市立豊里南小学校(以下、豊里南小)は、「 自律した学習者の育成 」を研究テーマに掲げ、学びの振り返りや伴走支援の手段として生成AIを活用してきた。
どのような実践が行われているのか。2026年3月に実施された授業を紹介する。
小学生も利用できる、教育現場に特化した生成AIを活用
大阪市における生成AI活用は、令和5年度に文部科学省のリーディングDX事業に参加したことがきっかけで始まった。当初は校務利用など教員の活用が中心だったが、令和6年度からは、大阪市独自に生成AIパイロット校を指定し、児童生徒が活用する実践に力を入れている。
この取り組みに合わせて、大阪市教育委員会とコニカミノルタ株式会社は連携協定を締結。同社が提供する学習支援サービス「tomoLinks」内の生成AI学習支援機能「チャッともシンク」の活用を開始した。これは、 教育現場に特化した生成AI で、小学生でも安心して使えるよう 安全フィルターが設けられている ほか、教員が 授業の目的に応じてAIのふるまいを設定できる のが特長だ。自治体や学校ごとのキャラクター設定も可能で、豊里南小ではチャッともシンクが「ねば〜る君」のキャラクターで親しまれていた。
AIは「ちょっと頭のいい友だち」、まずは自分の考えをしっかり持とう
豊里南小は、令和7年度にパイロット校に指定された。目指してきたのは、児童が自分の学びを振り返り、考えを深め、自分で調整しながら学習を前に進める「 自律した学習者 」を育てること。その手段として、生成AIを位置付けている。
具体的には、チャッともシンクを使った探究学習での思考の深化と、算数の学力向上を目的とした「学習伴走型AI(※)」の活用という、2つの柱を軸に実践を重ねてきた。京都教育大学の黒田恭史教授の協力を得ながら、校内にICT教育部を立ち上げ、授業実践のたびに全教員で討議会を開き、事例を共有・蓄積してきたという。
導入にあたり、最も重視したのが児童のマインドセットだ。森元貴子校長は、「 AIに頼るのではなく、まず自分の考えをしっかり持つこと。AIは間違えることもあるから、100%信用してはいけない。『ちょっと頭のいい友だち』として相談し、答えではなく解き方のヒントをもらう相手にしよう 」と児童に伝えてきたと語る。
答えを探す便利ツールとしてではなく、一緒に考えるツールとして児童に意識づけることを出発点とした。
※tomoLinksに搭載された生成AI機能のひとつ。tomoLinksのAIドリルと連携し、答えを教えるのではなく考え方を説明する生成AI
3年生:1年の活動の振り返りでAIを活用、アイデアが広がる
この日は、3年生と5年生が「ねば〜る君」との対話を通じて、1年間の学びを振り返る活動に取り組んでいた。
3年生は総合的な学習の時間で、「思いやりのある幸せな街」をテーマにした学習だ。自分たちが住む大阪市東淀川区の特徴を踏まえ、お年寄りや妊婦など対象となる立場ごとにチームを組み、老人ホームでミニ万博を開くなど地域と関わる活動を重ねてきた。
授業では、自分たちの活動が思いやりのある幸せな町につながったのかを、生成AIと対話しながら振り返る。改めて理想とするゴールについて深く考え、「3学期の残りの時間で何ができるか」を生成AIと相談しながら考えることが狙いだ。
児童たちは、先生が提示したプロンプトを参考に、自分の考えをまとめてねば〜る君に投げた。すると、「どうしてそんなことを思ったのかな?」「ほかに気をつけることは何があると思う?」といった問いが返ってきて、対話が深まっていく。
その後、児童たちはねば〜る君との対話をもとに、自分の考えをシートにまとめて共有した。AIとのやり取りといっても、一人の世界で完結するわけではなく、友達と相談する姿も見られ、児童同士で交流が生まれていたのも印象的だ。
児童に話を聞くと、「先生が他の人と話していると質問できないけれど、生成AIがあればすぐに聞けるので学習の手助けになります」「文章がもっと分かりやすくなって、レベルが上がった感じがします」と話してくれた。
担任の中村惇哉先生は、「妊婦やお年寄りなど立場の異なる人に、自分たちは何ができるのか。3年生が一人で思いつかないことも、 生成AIに聞くことで『こんなこともできるんだ!』とアイデアが広がります 。また、作文の授業で思考の整理にAIを活用したときも、子供たちの考えと理由が明確になって、以前に比べると文章を書けるようになったと思います」と語ってくれた。
5年生:AIとの対話で自分と向き合う。考えを言語化するツールとして活用
5年生の探究テーマは「学校をより良くする」。児童たちはグループごとに「読書をする人を増やしたい」「外で遊ぶ人を増やしたい」といったテーマを決め取り組みを重ねてきた。ただ、活動の手応えに対しては、楽しんでいる一方で、成果や充実感を得られていない児童が多かったという。
そこで担任の金本麻友美先生は、一人ひとりが自分のゴールを言語化する時間が必要だと考えた。今取り組んでいる活動が、より良い学校づくりにどうつながるのかを見つめ直すため、生成AIとの対話を授業に組み込んだ。
「いつもはグループで話し合う活動が多いのですが、一人で自分の考えと向き合う機会がなかなか作れていなかったので、その手助けとしてAIを使いました」と金本先生は話す。
児童たちは、自分たちの活動内容をねば〜る君に伝えながら、めざすゴールを確認し、計画を振り返りながら言葉にしていった。ねば~る君にはあらかじめ教員が設定したプロンプトが入力されており、児童が打った内容に対して選択形式の質問が3つ表示される設計になっている。
校庭の切り株をなくすプロジェクトに取り組んだ児童は、その活動が「学校をより良くする」ゴールにつながるかをねば〜る君に問いかけたが、「切り株を抜くときに気を付けること」と意図とは異なる返答が返ってきた。それでも、「切り株は僕が抜くから、その話は大丈夫。切り株を抜くことが、より良い学校をめざすゴールにつながるかを教えて」と即座に言い直し、知りたいことをより明確に伝えていた。
授業後に児童に話を聞くと、「 答えじゃなくてヒントをくれるからいい 」「 自分の考えがどうなのか確かめながら進められた 」という声が聞かれた。一方で「自分の思いがうまく伝わらないこともある」と正直に話す児童もいたが、これは大人が生成AIを活用するときにも、直面する課題である。自分の頭にあるモヤモヤした考えを言語化することの難しさを、子供たちも感じているようだ。
金本先生は、総合的な学習の時間以外の場面でも、生成AIが力を発揮していると話す。たとえば社会科の調べ学習では、教科書や動画を読み解く中でわからない言葉が出てきた時、児童が各自でねば~る君に意味を確認しながら学習を進めているという。
「児童の中には、『こんな内容を聞くのはダメかもしれない』と、先生に聞くことを遠慮してしまう子もいます。AIの場合は、そういった 心理的なハードルが低い ので、気軽に聞けるのが良いと思います。 クラス全員の個別の疑問に教員が対応するのはむずかしく、その点をサポートしてもらえるのは助かります 。教員は児童の思考を深めるための対話や観察に時間を使えるようになりました」と金本先生は語る。
1年間の実践から見えてきた、3つの活用の場面
森元校長は1年間の実践を振り返り、教員に言われた通りに動くのではなく、AI活用を通じて自分で調整しながら学ぼうとする芽が育ちつつあると手応えを語る。「 AIに問いかけるためには、まず自分が何を知りたいのかを整理しなければなりません。その過程自体が、自分の学びを自覚することにつながっているんです 」と語る。
また、生成AIの活用場面について、「 知識の習得 」「 思考の整理・深化 」「 習熟 」という、大きく3つに分かれることが見えてきたと森元校長は語る。
インターネットや本で調べていたことが、AIを使うことで、早く、詳しく調べられる。さらに、AIを壁打ち相手にすることで、子供たちは様々な観点で考えられる。「一人ではたどり着かなかった『そういう考え方もあるな』という気づきが生まれます」と森元校長。書く前に考えが整理されることで、アウトプットの質も上がっていく。
ほかにも、算数の練習問題を解くときに「もっと難しくして」「図で説明して」とやり取りできれば、一人ひとりに合った形で学習内容を定着させていくことも期待できる。
教員によるプロンプトの設計も、活用の精度を左右する重要な要素だ。森元校長によると、理解を支える場面では、誤った知識に引きずられないよう一定の枠を設けたプロンプトを使う。一方で、探究学習や振り返りのように子供の考えを引き出したい場面では、あえて余白を残した問いかけを設定するという。森元校長は2年目に向けて、「 どの学年のどの教科・単元で、どの場面に生成AIを使うことが効果的かを、さらに明確にしていくことがテーマになる 」と語った。
集団の高まりと個人の向上、両方のバランスが大事
同校の生成AI活用について、京都教育大学教育学部 黒田恭史教授は、以下のように語る。
教育とは、集団としての高まりと、個人としての向上の双方をねらいとして、限られた時間の中で両者を紡ぎ育む活動と言えます。その際、いずれかに重きを置くのではなく、そのバランスを取ることが重要です。生成AIの教育利用は、一斉授業という集団の構造を保ちつつも、個人に寄り添いながら、それぞれの課題と回答を個別に提供することのできる可能性を有しています。豊里南小学校の取り組みは、その最前線にチャレンジしています。
生成AIとの対話を通して自分の考えを言語化し、振り返り、必要に応じて学びを修正していく児童たち。「AIを使って学習すると何が良いと思う?」と訊いたところ、「たくさん文章を書けるようになった」「算数がわかりやすくなった」と学びに前向きなコメントが返ってきた。教育現場では、まだまだ生成AIの活用は過渡期であるが、学びを伴走する手段として今後の実践に期待したい。
@Office710 / MIRIM



































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