レポート
教育実践・事例
創造性教育で「ものづくりの力」を育む瀧野川女子学園、生徒の「作りたい」が形になるまで
2026年9月15日 06:30
「なんでも好きに作っていいよ」と言われて、すぐに動き出せる子はどれだけいるだろうか。何を作るかを決め、材料を選び、手を動かす。ものづくりは、その最初の一歩がいちばんむずかしい。
東京都北区の瀧野川女子学園中学校・高等学校(以下、瀧野川女子学園)は、中高6年間をかけて独自の「創造性教育」に取り組んでいる。中1のジオラマ製作から始まり、中2のロボット製作、高2では模擬会社を設立して新商品の販売まで手がけるなど、デザイン思考と起業家精神を通して、「まだ世の中にないもの」を生み出す力を育てていく。
だが同校がそれ以上に重視するのは、ものづくりに向かう意欲やマインドを育てることだ。その入り口となる中1・中2の授業を見学した。
アイデアや想いを形にする力を育む、6年間の「創造性教育」
瀧野川女子学園は大正15年創立し、今年創立100周年を迎える伝統ある女子校だ。同校が掲げるキーワードは「創造性×起業家精神×デザイン思考」。最先端のデザイン思考を身につけ、世の中にまだないものを生み出し、それを仕事につなげていく創造性と起業家精神を育むことをめざす。
カリキュラムには、学校独自の中高6年間の「創造性教育」に加えて、中学課程3年間の「中学情報」、高校課程の「情報Ⅰ・Ⅱ」と「Code for Design」を設けている。
具体的には、中1ではデジタルものづくりを行う「理想の街を創ろう」をテーマに、デザイン思考を使って「誰か」にとっての理想の街をジオラマで製作する。中2は「大道芸ロボットをつくろう」で、こちらもデザイン思考を使って人々を、特に小さい子供を喜ばせるロボットを製作する。中3では個人で1年間独自の研究に取り組む。
高校でも、高1の「商品企画コンペティション」では、より市場に近い3つのプロジェクトでデザイン思考を実践し、オリジナル新商品の試作品まで作り、学内企画コンペを行う。高2の「事業化実習」では模擬会社を設立し、デザイン思考を使ったオリジナルの新商品を制作、販売し、ハワイ大学でチャリティーバザーを主催して、国際貢献する。高3の「自分の人生を創ろう」では、それまでの経験を大学以降のキャリア選択へとつなげていく。こうした6年間の学びを通して、自分が興味を持てる分野や好きなこと、成し遂げたいことを見つけていくのが大きな特徴だ。
同校の常任理事・副校長である東京科学大学ロボット研究室出身の山口龍介氏は、「ものづくりの領域である工学とは本来、『こんなものが欲しい』『こんなことがやりたい』という思いを形にする分野です。生徒がそこに面白さを見つけて飛び込めば、まだまだ男性が多い世界なので、分野そのものを変えてしまうほどの力があるのではないかと思っています」と語る。
テクノロジーを単に「利用する」ものではなく、自分のアイデアを形にし、世の中にまだないものを生み出すための道具として楽しんでほしい。そんな思いが、同校の創造性教育には込められている。なお、同校の創造性教育は、令和4年度に「キャリア教育優良学校」として文部科学大臣表彰を受賞している。
「やってみたい」をすぐ形に、手を動かして育む創造性の入り口
創造性教育では、実際にどのような授業が行われているのか。取材では、中1と中2の授業を見学することができた。
6年間にわたる創造性教育の入り口となる中1では、「理想の街を創ろう」をテーマにジオラマ製作に取り組んでいた。身近な題材である「街」をテーマに、デザイン思考や工学的な考え方の基礎を身につけることをめざしている。ブレインストーミングやフィールドワーク、ユーザーインタビューなどを通じて、街が抱える課題や「どんな街にしたいか」をチームで考え、アイデアを具体的な形にしていく。
授業では、生徒たちが13インチの大型iPadで必要な情報を調べながら、手を動かして試行錯誤する姿が見られた。自分たちで考えた構想を確認しながら役割分担して作業を進めたり、こだわりたい部分をどう表現するかアイデアを出し合ったりと、活発にものづくりに取り組んでいた。
また、教室のすぐ隣には素材や廃材、機材や道具をそろえた「創造工房」があり、生徒たちが「ちょっとやってみよう」と思ったことに対して、すぐに材料や道具を取ってきて、新しいことを試す環境も整えられている。
実際に、スチロールカッターから電動ドライバーまで、さまざまなDIY器具を自在に使いこなす生徒たちの姿も印象的だった。アイデアを思いつくだけで終わらせず、まずは自分の手で形にしてみる。そんな「ものづくり」が日常の中に根付いていることが、授業の随所から感じられた。
それを加速しているのが、東京科学大学のロボット技術研究会の学生だ。TA(ティーチングアシスタント)として来校し、生徒たちのロボット製作や動作調整などをサポートしてくれる、心強い存在となっている。
このクラスを担当した二方恵里奈教諭は、創造性教育について、自分たちが考えたものを、自分たちの手で作れるという実体験をもつことを大切にしていると話す。
「できないことにぶつかったときに、諦めるのではなく、できないなら次にどうするかを考えるようになってほしいです。みんなでものづくりをしていると、周りの挑戦する気持ちに引っ張られて、一生懸命取り組む生徒が多く、最初に考えていたものとは違うものが出来上がったりするのも面白いです。お互いに刺激を受けながら活動できていると感じます」と話す。
ものづくりの先にいる「人」を考える、ロボット製作
中2では、中1で学んだ内容にデジタルの要素が加わり、ロボット製作に取り組む。瀧野川女子学園では、中1から「技術」の授業でプログラミングを学んでいるが、創造性教育ではコンピューターの中だけで完結させない。ロボット製作を通して、プログラムと実際の動きを結びつけ、さらに人や社会とのつながりへと学びを広げていく。
その集大成が「大道芸ロボットコンテスト」への挑戦だ。一般的なロボコンは点数や勝ち負けを競うものが多いが、同コンテストで評価されるのは、いかに人を楽しませ、喜ばせることができるか。瀧野川女子ではこうしたマインドを重視しており、ものづくりを通して、その先にいる人や社会まで考えることが、中2の創造性教育の大きなテーマとなっている。
見学した授業では、ロボットのプログラミングではなく、本体部分の製作が進められていた。
生徒たちが作っていたのは、犬型と赤ちゃん型のロボットだ。犬型ロボットは、動いたり尻尾を振ったりするほか、舌が飛び出し、その舌で消毒ができるというユニークな仕掛けを考案。「かわいいもので消毒ができたらいい」というアイデアを形にしようとしていた。一方、赤ちゃん型ロボットは、ハイハイする動きを取り入れ、床の上だけでなくベビーカーに乗せることで、同じ動きでも見え方が変わるよう工夫している。この日は、そのロボットを乗せるベビーカーの製作に取り組んでいた。
このクラスを担当した田中真穂教諭は、創造性教育について、「一番大切にしているのは、生徒が『こんなものを作りたい』と思ったことを、自分たちの手で試行錯誤しながら形にしていくことです」と語る。そのためにも、まず「何をやりたいのか」を明確にすることを大切にしているという。
一方で、自由な発想を引き出すこと自体に時間がかかると田中教諭は話す。「最初に『何でもやっていいよ』と言っても、『先生、これをやってもいいですか』と確認する生徒が多く、自由に考えることに慣れるまでには時間がかかります。そこで、『どうしたいの?』『どうしたらいいと思う?』と問いかけながら、生徒自身が頭の中にあるイメージを具体化できるようにサポートしていきます」。
こうしたやり取りを重ねるうちに、生徒たちは少しずつ「自分はこうしたい」という思いが出てくるようになるという。
生徒たちの制作を技術面で支える電機メーカー出身の技術科 荒若浩行講師は、同校の創造性教育について、実際に素材や材料に触れながらものづくりに取り組む点を評価する。「生徒たちは最初、ものづくりといっても出来合いのキットを組み立てるという発想が多いのですが、取り組んでいくうちに、徐々に材料から作れるようになっていきます。ものづくりの達成感を得るうえでも、出来合いのものではなく、素材や材料に触れることが大切で、それを重視しているのが良いと思います」と語ってくれた。
学校の外へ、生徒たちが訪れたMaker Faire Tokyo
こうした授業での学びは、学校の外にもつながっている。同校は昨年(2025年)、課外活動として初めて「Maker Faire Tokyo」を訪れた。参加したのは、創造性教育に取り組む中1・中2の生徒30名弱だ。
引率した田中真穂教諭は、会場で受けた印象について、「想像していたよりも、いろんなものが混在していて、いい意味でカテゴライズされていませんでした。とても技術力の高そうなものもあれば、『うちの生徒でもがんばれば作れるかもしれない』と思えるものもあって、いろいろな発見があって面白かったです」と語る。中1の生徒たちは、「会場で見たロボットには、自分たちが思っている以上に細かい動きや形のつくり込みがあった」などと感想を書き、翌年のロボット製作に向けてイメージを膨らませていたという。
荒若講師も、Maker Faireには今後の活動につながるヒントがあったと話す。特に注目したのが、Arduinoなどの小型コンピューターを使った作品だ。「展示は多岐にわたっていて、電装系の作品も多くありました。Arduinoのような小型コンピューターを使った展示もあり、今後の参考になると感じました」と振り返る。
また、荒若講師がMaker Faireの価値として挙げるのが、「手を動かしてつくる」世界に触れられることだ。
「今の子供たちは、自分で手を動かしてものを作ったり、直したりする機会が少なくなっていると思います。でも、実際に手を動かして、ああいうものを作れるんだと知れば、興味を持つ子もはいるはずです。小学生から中高生まで、ものづくりを見る裾野が広がっていくことは重要だと思います」と語ってくれた。
Maker Faireの魅力は、様々な展示や作品が見られるだけでなく、自由な発想を楽しみ、自分の「好き」や「作りたい」を形にしている大人がいるということだ。子供たちに「好きなものを作っていい」と言葉で伝えるだけでなく、それを実践している大人の姿を実際に見る。そうした出会いや価値観に触れられるのが、Maker Faireの良さである。生徒たちは、そんな出会いを通して自由な発想を広げるきっかけになるのではないだろうか。
学校の外で出会う、「作りたい」を楽しむ世界
山口副校長は、「テクノロジーは利用するというより、楽しんでほしい。道具として使って、どんどん面白いものを生み出してほしい。それを一番実践している人たちがいる場所が、Maker Faireなんだと思います」と語る。
さらに、かつては大学生や大学院生が苦労して取り組んでいたようなことも、今では小中学生が実現できるようになったとして、これを「ロボット技術の民主化」と表現する。テクノロジーの進化によって、「やりたい」と思ったことを形にできる環境は大きく広がっている。
そうした変化は、同校の教育現場にも表れている。瀧野川女子学園でも、高校で生成AIを使ったバイブコーディングでプログラミングにかかる時間を大幅に短縮して、ロボットハンドを4時間で作って動かしており、3Dスキャナや3Dプリンタもどんどん導入している。
しかし、それ以上に大切なのは、その「やりたい」を自分の中に見つけることだ。瀧野川女子学園の創造性教育では、「何を作りたいのか」「誰を喜ばせたいのか」を考え、仲間と話し合い、自分の手で作って考え、試行錯誤しながら形にしていく。その積み重ねの先に、理工系をはじめとする将来の進路も見えてくる。
「なんでも好きに作っていいよ」と言われて動き出せないのは、作りたいものがないからではなく、それを自分の中から取り出す経験が足りないからなのだろう。作る側に回っていい、自分の好きやアイデアを形にしていい。6年間かけてその実感を積み上げていく同校の学びは、ものづくりの入り口をどう作るかという問いに、ひとつの答えを示している。






































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