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OKI、体育の授業を運動データで変える「VISMONI」を発表 一律の評価から一人ひとりに合った学びへ

運動データをリアルタイムに収集する「VISMONI(ビズモニ)」を装着し、心拍数を表示した様子(撮影:編集部、以下同じく)

 沖電気工業株式会社(OKI)は、体育の授業などで教育DXを推進する新たなソリューション「VISMONI(ビズモニ)」を2026年7月23日に発表した。児童生徒がリストバンド型のセンサーを装着することで、心拍数・歩数・消費カロリー・体表温度といった 運動データをリアルタイムに収集して可視化 できるサービスだ。

 子供の運動不足が社会問題となるなか、OKIの無線通信やデータ分析などの技術を学校教育の現場に生かせないかということから始まったこのプロジェクト。担当者に開発のきっかけから特徴、実証校における活用効果など聞いた。

心拍数などをリアルタイムで確認でき、運動の個別最適化を実現へ

 OKIのVISMONIは、リストバンド型センサーで「心拍数」「歩数」「消費カロリー」「体表温度」をリアルタイムに測定するシステム。モニターでリアルタイムにデータを得ることができ、数字を見ながら心拍数を維持して持久走を走ったり、体力差を考慮した個別指導をしたりすることが可能になる。

VISMONIの概要(資料出典:沖電気工業株式会社、以下同じく)
タブレットなどでリアルタイムにモニターできる

 学校のクラス単位や部活動で利用することを想定しており、基本セットとして40人分のリストバンドと基地局、リストバンドの持ち運びにも使える充電器ボックス、そして管理システムの利用ライセンスをセットで提供する。

 基地局とリストバンドの間は、920MHz帯無線技術を採用。省電力ながら到達距離が比較的長い無線方式でスマートメーターなどに活用されている。校庭に面した職員室に設置すれば、校庭はもちろん、校庭に面した体育館まで 1台の基地局でカバーが可能 だ。しかも、 基地局にLTE通信機能を内蔵 しているため、校内ネットワークへの接続設定なしに導入できる。

広い屋外でも通信が途切れず、クラス全員の運動状態を可視化できる
運動データの計測とリアルタイム表示、履歴管理、分析・出力を一体化

 リアルタイムデータを活用することで、OKIが強くアピールする最大の教育効果は、体育の授業でタイムや距離といった一律の指標ではなく、 個々の体力に応じた「個別最適な学び」の実現 。運動が苦手な児童生徒でも「目標心拍数の維持」という自分に合った指標で達成感を得ることが可能になるからだという。また、一方で心拍数などをリアルタイムに管理することで、児童生徒の体調の変化もとらえ、授業の安全にもつながる。

なぜ、OKIが教育分野に参入したのか

 では、これまで、ATMや交通インフラ、消防システムといった社会インフラを手がけ、教育分野と接点の少なかったOKIがなぜ参入したのだろうか。グローバルマーケティングセンター イノベーションビジネス開発部の伊藤真弥氏が説明する。

沖電気工業株式会社 グローバルマーケティングセンター イノベーションビジネス開発部 部長の伊藤真弥氏

 「OKIは1881年に電話からスタートし、長年、社会インフラを担うシステムやソリューションを扱ってきました。現在はグローバルマーケティングセンターにおいて、新規領域の事業立ち上げをミッションとしており、その1つがヘルスケア・ウェルネス領域です。

 2031年に向けて、従来の社会インフラに加え、生活インフラの領域でも自社の知的資本をベースにした安全・便利な未来型のインフラをパートナーと共に作り上げることを目指しています。

 今回のVISMONIは、教育DXの観点からの取り組みですが、これは単なるスマートデバイスの提供ではありません。弊社が長年培ってきたエッジ端末の技術、無線技術、そして データを分析・見える化する技術を一通りパッケージ化 することで、学校教育に貢献できないかというチャレンジなのです」

グローバルマーケティングセンターでは、OKIの技術や知見から安全・便利な未来型のインフラの創造を目指す
OKIのプラットフォーム技術でデータ収集や蓄積を行う

 VISMONIの開発で特徴的なのは、製品をつくってから学校に持ち込むのではなく、2019年の開発当初から教育現場に入り、先生や児童生徒が抱える課題を確かめながら、サービスの価値を検証してきたことだ。この進め方は、OKIがイノベーション・マネジメントシステムの国際規格「ISO 56001」の認証を取得した際にも、新規事業創出の実践例として高く評価されたという。こうした地道な開発からは、OKIが教育を「未来の社会を支えるインフラ」と捉え、現場の課題をITで解決しようとする強い意思が感じられる。

児童たちのデータが「学び合い」につながった

 製品の特徴と活用法について語ったのは、同開発部の川本康貴氏。子供たちの運動不足や体育の授業において、GIGAスクール構想で導入された端末が十分に活用されていない現状を指摘、VISMONIがもたらす新しい評価指標について語った。

沖電気工業株式会社 グローバルマーケティングセンター イノベーションビジネス開発部 ビジネス開発第四チームの川本康貴氏

 「学習指導要領では、運動を生涯楽しむことが目標に掲げられています。しかし、これまでの持久走などはタイムや距離といった一律の指標でしか評価できず、運動が苦手な子は目立ちにくいという課題がありました。

 VISMONIを使えば、リアルタイムで心拍数などのデータを確認できます。教員はデータに基づき、『君は十分に頑張っているから、もう少しペースを落として走ろう』といった、 個々の体力に合わせた適切な指導 ができるようになります」

VISMONIの活用例
実証校での学習成果

 実証校では、運動強度の改善結果が確認されたことのほか、川本氏が特に強調したのは、単にデータを取るだけでなく、それが 「学び合い」につながった ことだ。児童チームを「ランナー」とデータを監視する「マネージャー」に分けて授業を進めていたが、大人が教えなくても「心拍数が上がりすぎているからペースを落とそう」や「心拍数が落ちてるけど、少しペースが落ちてない?」といった対話が自然に発生したという。

VISMONIによる新しい体育授業

 走り終わった後も、データを見ながら「最後にバテてしまったのは、心拍数が上がっているのに走るペースを上げたからでは? 次走るときは、もうちょっとペースを下げながら走るのを考えたらいいんじゃない?」といった議論も飛び出した。

 また、特別支援の児童が 心拍数を一定にした走り方を工夫することで、大きな達成感が得られた というエピソードも紹介した。興味深いところでは、VISMONIのデータから消費カロリーが算出できることから、中学校で女子生徒が体育授業で行う運動量と消費カロリーの関係を覚えようとしたこと。

 このように、VISMONIによって記録や順位に加わる「第3極」ともいえる心拍数や歩数といった 客観的なデータを活用した新たな学習の指標 が登場。個人個人に合った走り方や学びを考えることができ、川本氏は「個別最適であり、対話型で深い学びにつながる」と語った。

学校での使いやすさを追求し、運用負荷を軽減

 VISMONIの技術的な強みは、Bluetoothではなく920MHz帯の無線通信を採用している点だ。Bluetoothは20~30メートル程度の範囲でしか通信できないが、OKI独自の通信制御技術によって、 920MHz帯無線における通信の安定性が向上 。干渉を回避し、効率的なデータ伝送を図ることで半径約200メートルをカバーする。障害物にも強く、校庭が見渡せる職員室の窓際に基地局を置くだけで一般的な広さの校庭内データを収集できる。

VISMONIの基地局。校庭に面した職員室に置けば校庭全域をカバー

 さらに、基地局にLTEモジュールを内蔵し、校内ネットワークから独立してインターネットに接続できる。川本氏は「導入の大きな壁となるセキュリティの手続きやネットワークトラブルを回避し、現場の先生がすぐに使える簡便さを実現しています」と導入しやすさも強調した。

児童生徒のモニター画面。40人をまとめて表示でき、状態による色分けも可能。取材時は2人分のデータを表示

 児童生徒が腕に付けるリストバンド型センサーは、バッテリーの容量をやみくもに増やすのではなく、1日の授業で利用できるように設計。 5年後もバッテリーが持つ持続性 を重視した。さらに、屋外で行う体育の授業を想定し、太陽の下でも見ることができ、なおかつ低消費電力で動作する反射型の液晶を採用している。

 使い終わったときも専用の充電機能のあるアタッシュケース状のケースに収納してまとめて持ち運ぶことができ、ケースに収納してまとめて充電ができるようにしている。

歩数を表示
消費カロリーを表示。右上の小さな数字はリストバンドの番号で、どの児童生徒が使うかを区別

 ハードウェア面のほか、ソフトウェア面でも校内利用を配慮したものとなっている。身体情報は個人情報になるため、 名前とVISMONIが取得するデータをひも付ける以外は、分けてデータを格納するように配慮 した。

 運用面においては、リストバンド型センサー40台を1クラスで使えるように想定しているが、クラスの情報をあらかじめ設定しておけば、1時間目は1組、2時間目は2組の生徒が使うという場合でも、簡単にデータを切り替えられる。

 Webブラウザーから利用でき、 専用アプリのインストールや特別な設定が不要 なため、教員用の端末や生徒の学習用端末でも利用しやすい。

LTE通信機能があるので、電源さえあれば遠征先でも利用可能

探求学習や理科・算数への応用も

 実証校において、体育以外の活用事例を紹介してくれたのは、イノベーションビジネス開発部の濱上卓磨氏だ。算数のグラフの授業で使った事例もあるという。

沖電気工業株式会社 グローバルマーケティングセンター イノベーションビジネス開発部 ビジネス開発第四チームの濱上卓磨氏

 自分の 心拍数の変化を折れ線グラフ にすれば、自分の変化だけでなく、他人のデータと比較しながらグラフの使い方を学べる。架空の数字と異なり、自分自身のデータだからこそ、より興味や関心が湧くことになる。データの変化を理由や事象を振り返ることで、STEAM教育的な観点での学びの可能性も出てくる。

VISMONIの導入効果

 濱上氏によると、取得したデータをもとに探求学習への活用も検討している学校もあるという。

 授業や学びのシーンでVISMONIの利用が広がりそうだが、その一方で、活用に迷ったときのためにVISMONIを使った 授業マニュアル も用意している。VISMONIの開発にあたっては、和歌山大学 教育学部 教授の村瀬浩二氏と共同研究を実施。この授業マニュアルは村瀬氏が作成したもので、武道、ボール運動、体作り運動、陸上運動などで、心拍数や歩数という観点を盛り込むことでどういった授業ができるのかを解説している。

大阪教育大学や和歌山大学と共同研究をして開発

データを共通言語にした学びの拡大へ

 VISMONIを正式導入する学校では、さまざまな活用が期待できそうだ。OKIでは、体育の授業はもちろんのこと、教室で行う授業でも集中力の測定を行うなどの活用も検討しているという。

 また、体育測定と連動して、どのような運動をすると体力が上がるなどの提案機能への結び付けも考えられる。また、リアルタイムに心拍数や体表温度がわかるため、体調不良をいち早く察知して、子供の安全につなげていくとしている。

 今後、ハードウェア面では、血中酸素濃度の測定機能の追加を検討するという。データによって子供たちの「頑張り」を正当に評価し、教員の負担を減らしながら、個別最適な学びを提供する。OKIの「VISMONI」は、教育現場のウェルビーイングを実現する可能性を秘めている。

正田拓也