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府中市、8か月でゼロトラスト対応次世代校務DX基盤を構築 約2.1万人を支える環境とは
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2026年8月28日 06:30
校務PCは職員室に固定で、教室へ持ち出せない。成績処理の時期にはUSBメモリの順番待ち……。こうした光景は、教員が校務用と学習用の端末を2台使い分ける現場では日常的に起きていることだ。
府中市では、これらの課題を解決するためにゼロトラストに基づくネットワーク基盤を整備した。教員用端末を1台に集約し、場所に縛られず、安全に校務と授業を行き来できる環境を実現。わずか8か月で市内の全小中学校33校への展開も完了した。
「先生方が意識しなくても、安全で当たり前に使える環境にしたかった」。短期間で次世代校務DX基盤を整えた府中市教育委員会と内田洋行に、その道のりや現場での変化を聞いた。
成績処理の時期に起きていた「USBメモリの順番待ち」
府中市では従来、校務系と学習系を分離した境界分離型のネットワーク環境を採用しており、教員は用途に応じて2台の端末を使い分けていた。校務用端末は主に職員室でしか利用できず、校務用端末で作成した教材を授業で使うには、USBメモリで学習用端末へデータを移す必要があった。USBメモリの本数にも限りがあり、成績処理の時期には順番待ちが発生することもあったという。
府中市教育委員会事務局 教育部指導室 学校支援係の容貝和弥氏は、「業務に応じて端末を複数取り扱うことで作業が煩雑になるだけでなく、USBメモリを使う運用が前提となるため、情報漏えいのリスクも課題でした。一方で、教員用端末を1台に集約するためには、校務と学習のデータを安全に使える環境が必要であり、セキュリティ面の両立が欠かせませんでした」と話す。
こうした課題を解決するため、府中市が整備をしたのがゼロトラストを用いたネットワーク基盤だ。教員用端末を1台に集約し、「先生方が意識しなくても安全性が確保され、利便性も高められる環境をめざしました」と容貝氏。職員室でも教室でも場所を問わず、多様な働き方ができるロケーションフリーの環境を、学校現場で実現しようとしたのだ。
調達にあたっては、文部科学省が推奨するゼロトラストセキュリティの要素技術に加え、Microsoft 365 Educationの導入、メールセキュリティの強化と脱PPAP、既存の校内配線の活用なども盛り込んだ。
教員端末1台を支える、ゼロトラスト基盤の3つのポイント
府中市が構築した次世代校務DX基盤は、大きく3つのポイントがある。
1つ目は、 校務系と学習系のネットワークを統合 したことだ。府中市はこれまで校務用端末は有線接続が前提で、職員室の決められた席でしか使えなかったが、ネットワークが無線になったことで自席以外の場所で業務が可能になった。
2つ目は、ネットワークとセキュリティをクラウド上で一体的に運用する SASE(Secure Access Service Edge)を用いてゼロトラストを実現 したことだ。接続元を無条件に信頼せず、利用者や端末を確認したうえでアクセスを許可する。これにより、教員用端末を1台に集約しても安全性を保てる仕組みを実現した。
3つ目は、 統合ID基盤の導入 だ。教員は複数のクラウドサービスを活用しているが、サービスごとに異なるIDやパスワードでのログインは煩わしい。そこで、統合ID基盤を活用し、“ひとつのID”で各種サービスへログインできるようにした。加えて府中市では、この認証基盤を教員だけでなく、将来の多様な教育活動を見据えて児童生徒にも適用した。これは全国的にも珍しく、先進的な取り組みだという。
容貝氏は同市の環境整備について、これまで教員一人ひとりの注意に頼っていた情報セキュリティ対策を、 仕組みで制御できるようになった と話す。「メールの誤送信や、個人のクラウドサービスへのデータの持ち出しなど、これまで注意を呼びかけることで防いでいました。一方、新しい環境では、誤って個人情報を添付してメールを送信した場合でも相手がファイルを開けられないなど、仕組みで制御できるようになっています。 先生方が意識しなくても安心して使える環境 が実現したと考えております」。
教員端末はIntel vPro®プラットフォーム対応PCを採用
府中市では、新システムの整備にあわせて約2000台の教員用端末も更新した。採用したのは、Intel vPro®プラットフォーム(以下、Intel vPro®)に対応した富士通2in1型ノートPC「LIFEBOOK U9314X/S」だ。端末は約891gと軽量で、タッチ操作やペン入力にも対応する。校務支援システムやOffice製品、デジタル教科書などを1台で利用することを想定し、メモリは16GBを搭載した。Intel vPro®の機能は現時点で限定的な活用にとどまるものの、「管理者側でできることは多いのがメリット」と容貝氏は語る。将来的に端末管理の効率化や運用の高度化につながることを期待している。
全33校への短期展開を支えた、先行運用と現場伴走
府中市の取り組みで特筆すべきは、全国的にも先進的な校務DX基盤を構築しただけでなく、その環境を 8か月という短期間で市内全33校へ展開 したことだ。新基盤の構築に着手したのは2025年4月。同年10月に1校で先行運用を開始し、その後わずか2か月で残る32校へ新システムと教員用端末の切り替え作業を行った。
しかも、全校展開の時期は中学校で3年生の進路指導が本格化するうえ、学期途中でもあった。日々の業務に追われる教員の負担を抑えながら、混乱なく移行できるのか。システム構築を担当した内田洋行の永山達也氏は、「本当にこの日程で進められるのか、不安もありました」と振り返る。
そこで府中市と内田洋行は、まず1校をパイロット校として試験運用することから始めた。端末や認証の動作だけでなく、実際の校務や授業で無理なく使えるか、どのような課題が生じるかを検証した。毎週打ち合わせで課題を洗い出し、対応手順へ落とし込んでいったという。
「実際に学校で使っていただくと、設計段階では分からなかった動きも出てきます。先行校で見つかった課題を約1か月で解消し、切り替えの手順を固めました。その成果もあり、全校展開ではデータ移行のミスや手戻りもなく進めることができました」と永山氏は話す。
また、8か月での全校展開を支えたのは、システム構築だけではない。内田洋行が重視したのは、端末とシステムを切り替えた翌朝から、教員が普段どおりに仕事を始められる状態まで支えることだった。
内田洋行の本田愛賀氏は、「研修担当も各校を回り、約90分かけて端末の基本操作や顔認証などの初期セットアップ、システム概要を説明しました。稼働初日は、担当者が朝7時前に学校へ入り、端末の起動や認証、各システムへの接続を確認し、先生方が通常通りに業務を始められるようサポートしました」と話す。
顔認証が夕方の光で認証しづらくなるケースには、登録や設定を個別に調整。また研修に参加できなかった教員にも、その場で一緒に端末を操作しながら対応した。こうした細かな困りごとを一つずつ解消したことが、現場の混乱を抑え、短期間での移行を支えた。容貝氏は内田洋行のバックアップ体制について、「情報共有も速く、一つ一つの課題に真摯に向き合ってもらいました。導入して終わりではないので、これだけのチームがバックについている安心感があります」と語る。現場に寄り添う手厚い支援もまた、全校展開を実現した要因だった。
Microsoft TeamsとCopilotで広がる、教員のつながりと校務効率化
新しい環境によって教員の働き方はどのように変わったのか。府中市教育委員会 教育部指導室 教育情報システム担当 ICT指導員の笹川 敏氏は、教員間のコミュニケーションが変わったと語る。これまでの校務環境では、情報共有の手段はほぼメールに限られ、チャットのように気軽に相談したり、グループでやり取りしたりすることは難しかった。一方、学習系ではGoogle Workspaceを利用していたものの、校務とは分断されていたため、十分に活用できていたとは言えなかった。
新たな環境では、Microsoft Teamsを導入したことで、個人のレベルはもちろん、学年や校務分掌ごとのチームで情報共有できるようになった。研究会や研修で得た情報も、その場からすぐ学校へ共有できるようになり、教員同士のつながり方そのものが変わったという。
「 授業は情報が命 なんです。教育に関する情報を教員間で共有し、それを授業へ生かしていくことが何より大切です。以前は研究会へ行っても、その場で学校と情報を共有することはできませんでした。でも今は、離れた場所にいてもすぐにやり取りできます。本当にありがたい環境になりました」。
さらに府中市では新しい基盤を生かし、「 Microsoft 365 Copilot 」を活用した校務効率化も始まっている。現在は、市内全33校で、校長、副校長、主幹教諭、ICT担当教員など各校7人が利用している。主な用途は、通知文や保護者向け案内、会議資料の作成、議事録の要約、表の集計などだ。
当初は、生成AIの校務利用に慎重な見方もあったが、使う中で、文章作成を任せるのではなく、考えを整理し、伝わる形に整える道具として受け止められるようになったという。「文書作成の負担が減れば、保護者に何を伝えるか、授業をどうつくるかといった、本来力を注ぎたいことに時間を使えます」と笹川氏は話す。
一方、全校で使い始めたからこそ見えてきた課題もある。容貝氏は、「8か月で整備したため、安定的な運用への途中だと思っています。新たな課題が出てきており、一つずつ対応しています」と率直に語る。
そこで府中市では、学校現場で生じた疑問や課題を継続的に拾い上げ、次の支援へつなげる体制を整えている。GIGAスクールサポートセンターやICT支援員による学校訪問に加え、 教員向けポータルサイト「ふちゅナビ」 を活用し、操作方法やよくある質問、各校で見つかった課題への対応などを共有している。
内田洋行の飯田さとみ氏は、「学校から寄せられた声を個別の対応だけで終わらせず、教育委員会と共有し、ほかの学校への支援や『ふちゅナビ』の情報更新に生かしています。蓄積した知見を還元し、先生方のICT活用や授業改善をステップアップできるような支援をしていきたいと考えています」と話す。
府中市では、基盤構築から運用保守までを一括調達したことで、継続的なサポート体制を整えることができた。一つの学校で見つかった課題や工夫をほかの学校にも共有できる背景には、学校現場と継続的に関わる企業の存在があるといえる。
校務DXのその先へ、AIとデータを子供たちの学びに生かす
全校で新しい環境が動き始めた今、府中市が次に見据えるのは整備した基盤を校務効率化にとどめず、子供たちの学びにどうつなげていくかだ。
その一つとして具体的に検討しているのが、 Microsoft Copilot Studioを使ったAIエージェントの活用 である。校内規定や申請手続き、セキュリティポリシーなどの情報をSharePointに集約し、教員が自然な言葉で質問するだけで必要な情報にたどり着ける仕組みを構想している。容貝氏は、「先生方が何度もクリックして文書を探すのではなく、やりたいことを言葉にして質問できるようにしたい」と話す。
さらに同市では内田洋行と共に、デジタル教科書の利用状況を可視化するダッシュボードの開発も進めている。数字の背景から見える授業の姿や子供たちの学びの実態を捉えることで授業改善につなげたい考えだ。
笹川氏は、「私たちが目指しているのは、文部科学省が示す個別最適な学びの実現です。そのために最も大切なのは、子供たちの情報活用能力を育てることだと考えています」と話す。「先生方が1台の端末を当たり前に使いこなし、その延長線上で子供たちにもICTを自然に活用できる環境をつくっていきたい。それは1年でできることではありません。時間はかかっても着実に前進し、学校全体で育てていくものだと思っています。教育委員会としてその過程をしっかりと支えていきたい」と語る。
府中市の実践から見えてきたのは、校務DXで重要なのは、単に業務を効率化することではなく、教員が安心して使い続けられる環境を築くことだ。その基盤があってこそ、生成AIやデータ活用といった新たな挑戦が生まれ、やがて子供たちの学びへと還元されていく。ゼロトラストによる安全性も、柔軟な働き方も、日々の「当たり前」として根付いてこそ、本当の価値を発揮する。



































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