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府中市・草加市・南あわじ市が語る、ゼロトラスト導入の現場と課題
――「NEW EDUCATION EXPO 2026 東京」レポート
2026年6月22日 06:30
「USBメモリの順番待ち」「職員室でしか使えないメール」「画面が固まる」。これらはどれも、教育現場でよくあることだ。こうした状況を打開するための環境整備が求められているが、なかでも今進められているのが、ゼロトラスト環境だ。
2026年6月4日から3日間開催された「NEW EDUCATION EXPO 2026 東京」では、ゼロトラストを導入した府中市、草加市、南あわじ市の3自治体の担当者が一堂に会し、導入の背景から構築のポイント、運用の本音までを語り合うセミナーが開催された。ゼロトラストが現場の課題をどう解決したのか、3自治体の講演を紹介する。
府中市:8か月でゼロトラスト移行、世間で当たり前の環境を学校現場に
東京都府中市からは、隅内 裕氏(府中市教育委員会 教育部指導室 室長補佐 )が登壇した。
府中市が課題としていたのは、学習系と校務系を分離した境界分離型のネットワーク構成だ。これにより、教員は2台の端末が必要なうえ、校務系ネットワークは職員室でしか使えない状況だった。学習系と校務系のデータのやり取りもUSBメモリ経由に限られており、定期テストの時期は教員がUSBメモリの順番待ちをすることもあったという。
隅内氏は、「世間で当たり前になっているロケーションフリーの働き方を学校現場にも導入できないかと考え、新しいネットワーク構成を検討するところから始めた」と語る。
ネットワークの再構築プロジェクトは、令和6年4月から調査を開始。インターネット回線を10Gbpsベストエフォートに切り替え、文部科学省が推奨するゼロトラストセキュリティの要素技術を要件とした。また、授業ではChromebookを使う一方、校務系ではOffice文書が多いため、Microsoft 365 A5を採用。細かいところでは、既存の校内配線を流用して構築費を下げた。
新ネットワークではフルクラウドにし、2台必要だった教員の端末を1台に集約。校務でも授業でも無線LANを利用できるようにした。認証は、顔認証とPINによる多要素認証とし、SASEで校内外から安全にアクセスできるようになった。
なお、一部オンプレミスに残ったシステムもあるが、機器更新のタイミングでアプリごとにクラウドに移行していく考えだ。クラウド化が進むにつれて、IDとアカウントの管理が課題になるが、これに対応するためにIDaaSも導入した。
こうした移行について隅内氏は、「新ネットワークの構築は8か月という短納期に加え、インターネット回線移行も別プロジェクトとして同時進行させる必要があり苦労したが、内田洋行の支援により乗り切った。教員研修も年末の忙しい時期に実施したが、現場の協力を得て進められた」と振り返った。
さらに良かった点として、データ移行のミスや手戻りがなかったことを挙げた。1校に先行導入して課題を潰してから全校展開したことも、大きなトラブルなく移行できた要因だと話す。ほかにも、操作に不慣れな教員には、内田洋行のスタッフが立ち合ってサポートに入るなど、「安定するまで早かった」と隅内氏は語った。
その後の運用保守については、構築とあわせて一括調達した。運用保守の中には、コールセンターの役割を担うGIGAスクールサポートセンターや、ICT支援員、ネットワーク保守、ポータルサイトの構築が含まれる。これにより、GIGAスクールサポートセンターに寄せられたよくある質問をICT支援員と共有し、学校訪問時の支援に活かせる仕組みもできたという。
ポータルサイトは、教員端末でWebブラウザを開くと最初に表示されるページで、マニュアルや研修動画にアクセスできる。「導入当初は現場に戸惑いもあったが、これら3つのサポート体制で少しでも早く安定稼働につなげたい」と隅内氏は語った。
今後の展望としては、Microsoft 365の活用を広げるとともに、東京都の共同調達方針も見据えながら、フルクラウド化を進めていく考えだ。また生成AIの活用にも取り組んでいく。校務ではCopilotとCopilot Studioを導入予定で、Copilotはすでに各校7ライセンスを導入。主要な教員に体験してもらっている段階だ。Copilot Studioは、事務手続や入試要項などの質問に答えられる仕組みを構築し、業務効率化につなげていくという。
データ利活用は、デジタル教科書の利用状況の可視化から着手する。将来的には、学習系データと校務系の成績データを統合し、ダッシュボードで可視化することも視野に入れている。最後に隅内氏は、「先生の校務が楽になって生み出された時間が、少しでも本来の教育に活かされるよう、教育委員会としては進めていきたい」と締め括った。
草加市:ゼロトラスト×統合型校務支援で、センターサーバーから脱却
埼玉県草加市からは、秋本 貴弘氏(草加市教育委員会 指導課 主査 兼 指導主事)が登壇した。
草加市はこれまで、市のセンターサーバーに、校務系・校務外部系のデータを収納して、ネットワーク分離で運用していた。この環境における課題のひとつは、ストレージの偏りだ。校務系の使用率が1.8%にとどまる一方、校務外部系は85.9%に達し、校務系データの取り出しには管理職の承認も必要だった。また、庁舎の建て替えに伴い、センターサーバーを市内の公共施設に設置。不具合のたびに現地対応が発生したほか、オーバーヒートやエアコンの故障で部屋が水浸しになるトラブルもあったという。
校務用端末では、3月の異動期に校務系データを取り出す教員が集中し、USBメモリの順番待ちが発生した。外部メールも職員室の共用PCでしか使えず不便な環境だった。またGIGA端末との2台持ちの負担も大きく、GIGA端末を教室に置きっぱなしにする教員もいたという。
こうした課題に対し、秋本氏はゼロトラストが教育DXにふさわしいネットワーク環境だと語った。仕様書作成にあたって重視した点は7つで、端末の一体化、センターサーバーと専用線の廃止、校務支援システムの充実とデータ連携、教育情報セキュリティポリシーへの準拠、学習状況の把握、Windows 11への対応を挙げた。
こうして構築した現在のネットワークは、SaaS型の基盤システムと、統合型校務支援システムを導入したシンプルな構成だ。
校務系システムはMicrosoft 365 A5を基盤として、内田洋行の統合型校務支援システム「デジタル校務」と保護者連絡システム「すぐーる」を導入。デジタル校務の名簿をすぐーるにそのまま連携できるため、「年度更新が不要になり、負担が楽になったと学校から声が寄せられている」と秋本氏は紹介した。
学習系システムでは、内田洋行の学習eポータル「L-Gate」を採用し、Google Workspaceへの入り口として活用。「これもデジタル校務との名簿連携が非常に楽になったと感じている」語った。そして、両システムの共通認証基盤としてMicrosoft Entra IDを採用し、ゼロトラストを構築している。
校務系と学習系を一体化できた要因の一つが、データの暗号化だ。Officeファイルには自動的に暗号化ラベルが付与され、認証済み端末以外からは開けない。もし、教員が誤ってGoogle Workspaceに機密情報を置いても、児童生徒は開くことができないため安全に運用できるという。暗号化の解除はメール送信時などに教員が意識的に行う必要があるため、うっかり外部送信するリスクも抑えられる。学校からは「便利になった」という報告が届いていると秋本氏は紹介した。
ファイル共有にはTeamsを利用。教育委員会・校長会・学校などチームを使い分けて情報共有やチャットを行っている。以前は、職員室のPCでしかメールを使えなかったが、教室からもチャットで連絡ができるようになり、「子供たちと一緒にいられる時間が増えた」という声もあがっているとのことだ。
デジタル校務の機能として秋本氏は、教職員間のメール、アンケート、文書のデジタル化、児童生徒の記録・共有、名簿管理、掲示板を紹介した。名簿を作成するだけで、各種システムと連携できることも利点として挙げた。端末統合後は、校務用PCのChromeから学習系にアクセスできるようになり、利便性の向上も学校から報告が来ているとのことだ。
ここまでの取り組みで、草加市は文部科学省の「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト」において490点を獲得。「おおよそ目標は達成できた」と秋本氏は述べた。残る課題は、インターネット回線の推奨帯域への対応で、「令和10年には何とか滑り込めると考えている。使いやすい、ストレスフリーなネットワークを目指してやっていきたい」と語った。
南あわじ市:ゼロトラスト導入から3年、ネットワークの改善と運用の積み重ね
兵庫県南あわじ市からは、武田 照彦氏(南あわじ市教育委員会 学校教育課 主幹 兼 学校教育指導主事)と山口 実富雄氏(南あわじ市教育委員会 学校教育課 主査)が登壇。武田氏が学校側の状況を、山口氏がICT側の取り組みを語った。
南あわじ市の小・中学校では、令和2年度のGIGAスクール構想でLTEモデルのiPadを導入し、令和5年度にゼロトラスト環境を整備した。その後、令和7年度にiPadを更新し、令和10年度にはゼロトラストの更新を予定している。
ゼロトラストで実現した環境について、武田氏は教員の朝の様子を描いた動画を紹介した。教員が職員室の席につくと、パスワードとワンタイムパスワードトークンによる2要素認証でゼロトラストにログイン。校務支援システムへのアクセス時には再認証が求められるが、1台の端末で校務も授業準備も行う。ゼロトラスト導入前は、校務PCを職員室から持ち出せなかったが、現在では教室や自宅に持ち出せるようになり、9時まで残業していたのが6時に自宅で夕食をとれるようになったという。
ゼロトラストから3年、学校現場にいた武田氏は、「これ以上、何ができるのかと思うくらい使えていた。特別便利だとも思わなくなっていたが、教育委員会に異動してはじめて、現場を支えてきた仕組みがあってこそだ」と気づいたと話した。
その仕組みについて山口氏が紹介した。まず、現在のシステムは、校務系・学習系ともにクラウドが前提となっており、クラウドを安全に利用するためにゼロトラストを導入した。採用製品は、Ciscoとマイクロソフトで、CiscoのSASEと、Microsoft 365 A3にA5 Securityを追加したものを組み合わせた構成となる。
これにより、文部科学省が示すゼロトラストの要素技術11項目のうち10項目を実装。多要素認証にCisco Duo、シングルサインオンにMicrosoft Entra ID、通信経路の暗号化にCisco UmbrellaとSecure Clientを活用している。残る1項目として、Webサーバーへの攻撃を防ぐWAFは、クラウド事業者側の機能で対応した。
一方で、このクラウド環境につながるネットワークは、つながりにくい状況にあった。学校からの通信はすべて市役所に集約され、その回線は300Mbps。しかも公民館など他の施設と共用しており、市役所からインターネットへの出口回線は100Mbpsだった。現場からは「画面が固まる」「アプリが立ち上がらない」という声が教育委員会に届いていたが、端末・回線・ネットワーク機器・サーバーの事業者がそれぞれ別々で、不具合の原因を特定することも難しい状況だった。
そこで「ローカルブレイクアウト」「可視化」「窓口の一本化」という3つの対策を行った。ローカルブレイクアウトは、学校から市役所を経由せず、直接クラウドにアクセスするようにした。同時に回線も見直し、令和2年にはiPadアップデート用として職員室にのみ、オプテージの1Gbps回線(通信量上限あり)を導入していたが、令和5年のゼロトラスト導入に合わせてBELLNETの1Gbps回線(上限なし)をメイン回線として追加し、オプテージの回線をサブ回線に切り替えた。新しいメイン回線は実測の速度も速くなったという。
回線の増減を行うにあたり判断を支えたのが「可視化」だ。Wi-Fiなどネットワークをクラウドで管理するCisco Merakiを導入し、教育委員会からネットワークの状況を把握できるようにした。有効事例として山口氏は、全国学力・学習状況調査を挙げた。動画視聴もあり、学校全体のネットワークに負荷がかかるが、モニタリングによって様々な指標で問題なく通信できることを確認できた。
また、窓口の一本化にも取り組んだ。前述のように、ネットワークやサーバーなど事業者ごとに分散していたのを委託先に集約。現在では、不具合が生じた際に委託先へ連絡すると、調査から原因究明、改善再発防止、その後の運用まで一括して対応してもらえるようになった。
ただし、認証やツールが一度に新しくなると、現場の教員はすぐには追いつけない。そこで、ICT支援員が現場に入り、使えるようになるまで伴走した。また、学校と教育委員会、あるいは学校間をつないで、課題や取り組みを共有する場を設けるなど現場での工夫もしている。
再び登壇した武田氏は、「ICTは動いて当たり前」という言葉を強調した。「整備して終わりではなく、動いて当たり前の状況を作ってはじめてICTが現場に根付く。動くか動かないかわからないものを教員は授業に組み込めない」と語った。
府中市・草加市・南あわじ市の3自治体に共通するのは、整備をゴールとせず、教員が本来の仕事に向き合う時間を生み出すという視点だ。3者の講演からは、ゼロトラスト環境が教員の働き方に寄与することが伝えられた。















































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