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生成AIは児童生徒と先生のパートナー! 授業効率化と探究心を育む私立小中高3校の最新事例と成果レポート

私立校最新事例セミナー『生成AI授業実践の効果と課題』

ChatGPTの登場から早2年。生成AIの普及は教育現場にも大きな衝撃を与えた。どの段階からどのように活用すればよいのか。子供たちの学びにどんな影響をもたらすのか。試行錯誤で実践を進めている先生方もいる。

10月27日に「こどもとIT」がオンラインで開催した「私立校最新事例セミナー『生成AI授業実践の効果と課題』」では、積極的に生成AIの活用に取り組む私立校の3人の先生が登壇。生成AIを活用した最新の実践紹介や教材作成のデモを行った。

AIの活用で「異次元の思考力」を得られる:近畿大学附属高等学校 乾武司先生

近畿大学附属高等学校 乾武司先生

近畿大学附属高等学校は、2013年から1人1台のiPadを導入し、いちはやくICT活用を実践してきた。その中心を担ったのが、乾武司先生だ。

乾先生が生成AIに出会ったのは、2022年の12月。「まずは使ってみよう」と早速個人で使い始め、その利便性に気付いた。ほかの先生方に紹介したものの、「生徒には使わせないほうがいいのか」「AIで出力できるようなレポートにはそもそも意味がない」「これからAIが必須になる時代に、うまく付き合う必要がある」といった議論があったという。

その後、近畿大学と国際バカロレア(IB)がそれぞれ生成AIに関する指針を示したことで、現在、同校ではこの2つを柱に運用を行っている。具体的な活用については、教員と生徒、それぞれの使い方を乾先生は紹介した。

教員用の活用事例

  • 事務的使用:案内文書作成や教材作成の補助に活用
    教員向けの案内文書作成にChatGPTを活用したところ、「まるまる使えるわけではないが、自分では思いつかない示唆的な文章が出てくるので重宝している」と、乾先生は話す。「自分で1からつくったら時間も手間もかかる文章が、一瞬でできあがる」と、利点を伝えた。
  • 評価的使用:生徒の文章を自動添削し、フィードバック
    大学進学における生徒の自己推薦文や志望理由の添削には、ChatGPTが絶大な効果を発揮する。従来であれば、担任がクラス全員の文章に目を通し、添削を行っていたため、膨大な時間がかかっていた。そこで、生徒の自己推薦文をChatGPTで添削し、AIからの改善ポイントやアドバイスを生徒にフィードバックしたところ、添削にかかる時間が激減したという。
    生成AIによる改善ポイントとアドバイス
  • 教育的使用:授業計画や教材の自動作成しヒントを得る
    担当する教科のカリキュラムを考える際、ChatGPTにサンプルを出力させ、それをヒントに組み立てていくことも有用だ。乾先生は、「生成AIの出力を丸々使うことは現実的ではないが、『こんな授業のやり方もあったのか』という新しい気付きがあり、ヒントとしては非常に面白い」としている。

生徒の生成AIの活用としては、自主学習の支援や、探究活動におけるサポートなどがある。特に探究活動においては、「生徒が興味関心をもつテーマを選んだ際、教員が専門ではない分野で生成AIを“できる仲間”として活用してほしい」と話す。

生徒のAI活用の可能性

さらに、AI を使った絵や音楽などの創作活動にも、乾先生は期待を寄せている。「生徒たちの活動を具現化する際、これまでできなかった多方面のアウトプットができる。絵や音楽といった技量が必要でハードルが高い分野でも、AIが助けになってくれる」と話した。

最後に、乾先生は「将棋の世界では、AIの与えてくれる答えに対して、さらに人間が考えることで、今まで見えなかった“異次元の思考力”の領域に突入できる可能性を感じた。学校で生成AIを活用し、AIが仲間・アシスタントになることで、生徒が知識を与えられる側から、どんどん知識を使う側の立場に変われるのではないか」と、期待を伝えた。

中学生の個別英語教材を生成AIで簡単作成:聖光学院中学校高等学校 髙木先生

聖光学院中学校高等学校 髙木俊輔先生

続いて発表を行ったのは、神奈川県横浜市の聖光学院中学校高等学校の髙木俊輔先生。髙木先生は中学1年生の英語を指導している。

髙木先生は、生成AIの活用は「自分で学ぶ力の習得に役立つことが大前提」であると話す。そして、そうした活用ができるようになるためには、普段の学習から教師が適切なインストラクションを設計し、生徒が生成AIを使う目的や使い方を理解できるように促すことが重要だという。

また髙木先生は、AIの活用を4象限に分けて解説し、「まずは、指導やカリキュラムなどを学習者のニーズを考慮して調整する『差別化した指導』から始めて、自律的学習を目指すとよい」とした。

生成AIを活用する目的

次に、髙木先生は複数のAIを活用しながら、「学力差のある学習者集団に対応した教材」を作成するデモを行った。髙木先生が利用している生成AIは、主に以下の6種類だ。

  • ChatGPT(チャットジーピーティ)
    万能で、汎用性が非常に高い。カスタム機能「GPTs」を活用することで、さらに利便性が高まる。
  • Claude(クロード)
    文章生成が非常に強い。長い文章を扱うことに長けている。
  • Gemini(ジェミニ)
    画像、音声、動画等を含めたマルチモーダルに対応。Googleのワークスペースとの連携がスムーズなため、業務関係で使用している。
  • Perplexity(パープレキシティ)
    Web上の情報をもとにしており、信頼性が高い。
  • IIElevenLabs(イレブンラブス)
    音声を生成する「テキストスピーチ」機能を搭載。
  • ELSA Speak(エルサ スピーク)
    英会話に特化したAIアプリ。同校では、生徒が各家庭で契約している。

このうち、学校で契約しているのは教員が使うChatGPTのみで、IIElevenLabsは有料版の機能が必要な時だけ自費で購入している。それ以外は無料版を使用したり、キャンペーンを利用したりしているという。ただし、無料版は有料版に比べてAIの性能が落ちてしまう。また、「AIがつくるのは、0から1にする部分なので、あくまで材料としてきちんと見直す必要がある」と、髙木先生は話す。

デモでは「Claude」を使い、長文の英語の記事を題材に、レベル別の英文作成からスタートした。この時、カギとなるのが「プロンプト」だ。今回は「外国語として英語を学ぶ日本の中学生への指導経験が豊富な英語教師」とした。さらに、レベルの異なる教材をつくる場合は、最初の教材を「バージョン1」とし、「英語が苦手な学習者向けに、もっと簡単なバージョン2を作成して」というプロンプトを入力した。

髙木先生はプロンプトの解説を行いながら、「読解問題の作成」「解答が正しいかを確認」「単語リストの作成」「穴あき英文の作成」「和訳作成」「音声作成」「音読用教材の作成」「音読の発音確認」を生成AIで次々と作成。複数の教材が20分ほどで完成した。

ChatGPTで教材作成のデモを行う髙木先生

髙木先生にとっての生成AIは、「今までは、労力的に諦めていたことを実現できるパートナー」であるという。「学習者がその気になれば、今回のデモでやっていたことを全て自分でできる。そういう時代になった時に、教員ができることは何かを、常に考えて行かないといけない」と、髙木先生は参加者に伝えた。なお、髙木先生は実際に活用しているChatGPTプロンプトを自身のサイトで公開しているので、ぜひ参考にしてほしい。

生成AIをアドバイザーにする小学6年生の授業:大阪信愛学院小学校 高橋脩先生

大阪信愛学院小学校 高橋脩先生

大阪信愛学院小学校の高橋脩先生からは、小学6年生の生成AIの活用が紹介された。20年以上前から情報教育を実施している同校では、教科「情報」を1年生から設置し、「デジタル・シティズンシップの育成」をベースに、情報社会で通用する能力の基礎を養う。

全学年の情報を担当している高橋先生は、生成AIの活用を考えた際、「個々の児童のアドバイザーとして使うことができれば、主体的対話的で深い学びをつくっていけるのではないか」と考えた。特に、個別対応に追われることが多いプログラミングの授業に生成AIを導入すれば、教員の負担が減り、児童の活動を広げられるのではという期待があった。

「これまでプログラミングの中で画像認識などのAI機能は使っていたものの、生成AIについては半数の児童が知らなかった」という状態から、授業はスタート。小学6年生「情報」授業の、「生活とプログラミング・自分の考えたシステム」の中で生成AIを活用することにした。

最初の1時間目で、「AIとは何か」を座学で学んだ。「AIの特徴を知らないと、児童はすべて信じてしまい、答えをまるまる使ってしまうことがあった」と、高橋先生は話す。特に、「AIは100%正解を言うわけではない」ということと、「答えを出してくれるアンサーではなく、アドバイザー。うまく使って一緒にシステムをつくれるようになってほしい」ことを、児童に伝えた。

また、一般的な生成AIには年齢制限があることから、今回は13歳未満も利用できるコニカミノルタの「tomoLinks『チャッともシンク』」を利用。さらに生成AIへの聞き方のアドバイスなども行った。

全8時間の授業計画

2時間目は、生成AIと遊ぶ時間とし、「チャッともシンク」で児童の聞きたいことを高橋先生が入力し、どのような答えが返ってくるかを確認した。「その際、あえて生成AIが間違いを誘発させるような聞き方をしたことで、児童も『AIも間違えるんだ』ということを感じてもらえた」という。

4時間目から班ごとの課題出しを行った際は、児童が出した問題について生成AIに聞き、解決策を探っていった。高橋先生は授業を行っていくなかで、児童の生成AIへの取り組みには、3つの段階があることを発見した。

1段階目は、無邪気に「思いついたことをどんどん質問」し、慣れてくるにつれ、「生成AIとの会話」の段階に進む。目指すのは、3段階目の「生成AIをアドバイザーとして使う」ことだが、実際には会話までで留まっている児童が多いという。

「どの段階でも、自分のアイデアをどんどん広げていく『思考の拡散』が見られたが、2段階目以降は『自分の考えを収束させていく』様子が見られた」と、高橋先生は話す。

こうした児童の活動を見たうえで、高橋先生は「教員の声がけで、児童の段階を進めていくことができる」と考えた。この時、重要なのが質問の方向性を定めることだという。「大事なところはどこだった? それをもう1回聞いてみてみましょう」「キーワードについて自分でどういうふうに問い掛けに持っていけばいいのかな」といった声がけを行った。さらに、2学期はグループ活動から個人活動に変え、生成AIへの質問について考える時間を増やし、質を上げることを試みた。その結果、児童が3段階目へ進んでいく変化も見られたという。

質問の質を高めるための工夫

授業後の、児童からのアンケート評価はおおむね好評だったものの、「多くの児童が質問をすることに難しさを感じていた」と、高橋先生は話す。一方で、「最初に目的としていた『聞いたこと以上の情報を教えてくれた』という繋がりが、児童の試行の中で出てきた」と成果を伝えた。

13歳未満でも安心安全にAI活用ができる「チャッともシンク」:コニカミノルタジャパン 石黒広信氏

コニカミノルタジャパン株式会社 ICW事業統括部 教育DX事業開発部 石黒広信氏

最後に、コニカミノルタジャパンの石黒広信氏が登壇。大阪信愛学園小学校でも導入されている同社の学習支援ツール「tomoLinks」の新機能である2つの生成AIサービスについて、その特徴などを紹介した。

「tomoLinks」の学校向けAIサービスは、生成AI学習支援「チャッともシンク」と「学習伴走型AI」があり、いずれも13歳未満の児童でも、安心かつ簡単に生成AIを思考ツールとして利用できるのが特徴だ。フィルタリング機能や、先生が児童生徒の生成AIへの活用状況を見守る機能を備えている。

「チャッともシンク」は、2023年末から約100校のモニターを経て、2024年10月に正式販売され、大阪市をはじめとした多くの学校で導入されている。石黒氏は、「社会の授業で歴史上の人物に設定した生成AIにインタビューしたり、美術では、生成AIを編集者にして、漫画のストーリーやキャラクターを相談しながらアイデアを深掘りしたりするなど、様々な教科や学年で使われている」と、事例を紹介した。授業支援システムとしてデジタルワークシートなどを標準装備しており、共有や、教員が活用ログを参考にしてフィードバックを行うことも可能だ。

tomoLinks「チャッともシンク」

さらに大阪市では、レベルの異なる3種類の生成AIを用意し、児童生徒が主体的に生成AIを選んで課題を進めていく単元内自由進度学習に繋がる活用方法も、実証が行われている。

もうひとつの『学習伴走型のAI』は、学び直しが必要、あるいは不登校や外国籍などの児童生徒に、生成AIとの対話を通じて学習意欲の喚起をしながら個別学習の支援を行える。教科書単元に対応したデジタルドリルや確認テスト、動画などの教材が標準で用意されており、対話内容にあわせて興味関心を惹くドリルが出題されるという。現在は大阪市など一部の地域や学校限定で導入されており、正式販売は2025年度の予定となっている。

「まずは使ってみて体感すること」からスタート

質疑応答の時間では、「生成AIを活用することで、どれだけ効率化できたのか」という質問が参加者から寄せられた。

生成AIの活用に関する質問に様々なアドバイスも

乾先生は、「今回紹介した志望理由の添削であれば、1か月かかるような作業が1日で終わるレベルで、圧縮効果は高い」と回答。さらに、「自分が思いつかないような教材のアイデアを出してくれる。0から1を目指す際、自分では生み出せない1が出てくる可能性がある」と、時間効率以外にもメリットがあることを伝えた。

司会を務めた「こどもとIT」編集長の神谷加代氏が3人の先生にアドバイスを求めたところ、共通していたのが、「まずは、先生自身が使ってみる」ということだ。髙木先生はさらに、「紙には紙の良さがあるように、それぞれのメディアの強み弱みがある。生成AIは数ある手段の1つなので、その有用性を感じた上で使うのがよい」と話した。

また、高橋先生は小学校での活用について、「どこまでを基礎的な学習として、どこからAIを使うかを改めて考え直し、授業をつくる必要がある」とし、「そこが面白い」と生成AIを活用する教員ならではの楽しさを伝えた。

コニカミノルタジャパンでは、「tomoLinks『チャッともシンク』」を導入したトライアル校を対象に、学校教育における生成AIの実態調査をまとめている。生成AIが子供たちの学びにどのような変化をもたらすのかをさらに知りたい方は、ぜひこちらも参照してほしい。

【学校教育における生成AI活用の実態調査報告書】を無償提供中!

本セミナーでも登場した、年齢制限なく生成AIを活用できるtomoLinks「チャッともシンク」。このトライアルプログラムに参加された先生方の、学校教育における生成AI活用状況についてまとめたレポートを、コニカミノルタジャパン株式会社のサイトから期間限定で無償ダウンロードいただけます。

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