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AI時代を生きる子供に伝えたい、学校経営者・教員・保護者が学ぶ「編集術」

~イシス編集学校で学ぶ、情報を活かす思考の「型」

イシス編集学校で学んだ皆さん。左から、本城慎之介さん、中谷佳世子さん、新坂彩子さん、吉村堅樹さん

生成AIの登場により世の中は以前にも増して、あらゆる情報が簡単に手に入るようになりました。今の子供たちは新たな価値を創出するための情報活用能力が必須のスキルとなる一方で、生活の中でも生き生きとした人生が送れるための自己肯定感が必要になっています。

しかし、教育現場に携わる人や子育て中の大人も、子供たちの情報活用能力の育成には迷いがあるのではないでしょうか。あふれる情報に囲まれ、多様な価値観と共生していく必要がある時代に、目の前の子供たちに情報との向き合い方をどのように教えていいのかわからない、そんな課題を抱えている先生方やご父兄は多いと思います。

そんな課題解決の大きなヒントになるのが、思考の方法である「編集術」です。「編集工学」を提唱する松岡正剛氏が設立した「イシス編集学校」のオンライン講座では、情報から価値を生み出す方法や物事を動かす方向性を判断する力を伸ばす編集術を学べます。どのような講座なのか、実際に受講された教育関係者と保護者に話を聞きました。

多様な年代が学び合う新しい学校のスタイル

東京都世田谷区にある編集工学研究所のブックサロンスペース本楼

株式会社編集工学研究所が運営するイシス編集学校は、2000年に開校したオンラインで「編集術」を学ぶ学校。これまで3万人の受講者を輩出してきました。一方的に送られてくる動画コンテンツを見て学ぶのではなく、インタラクティブな学びに特徴があります。住まいも年代も仕事も異なる受講生がオンライン上の教室に集まり、師範代が出すお題に沿って回答し、師範代からは一人ひとりに指南が返ってくる、お互いの回答や指南も見ながら「編集術」を学んでいく、というスタイルです。

編集という言葉を聞くと、文章編集や画像・動画編集をイメージされる方も多いでしょうが、イシス編集学校で学ぶ「編集術」はもっと広いものです。情報のインプットとアウトプットの間に起きているブラックボックスで起こっていることを“編集”と捉え、さまざまな場面や局面に活かせる思考の型(編集術)を学んでいきます。

イシス編集学校で学ぶ編集術の思考の「型」

「編集術」を身につける講座には、基本コース「守」・実践コース「破」・世界読書コース「離」という3つのコースが用意され、体系的かつ段階的にスキルを高めていきます。その入口となる「守」では、情報をいかに多様に集めるのか、どのように組み合わせて新しい意味をつくるのか、どうすれば独創的な発想が生まれ、相手に伝わる表現になるのかといった、情報の理解、記憶、発想、伝達の「型」を学びます。

大人から子供まで全国各地からさまざまな年代、職業の人々が集まり学ぶイシス編集学校では、どのような力を身につけ、これからの時代を生きる能力に変えていけるのでしょうか。実際に受講された方のエピソードをご紹介します。

編集術は、学びにも学校づくりにも活きる

学校法人軽井沢風越学園理事長 本城慎之介さん

1人目は、楽天グループ株式会社の元副社長で、現在は学校法人軽井沢風越学園の理事長である本城慎之介さん。本城さんは、2020年に風越学園を創立。同校の方針や学びに多くの保護者が共感し、教育関係者の注目も集めています。そんな学校をつくった本城さんが「編集術」を学ぼうと思った理由は何でしょうか。

最初に「守」のコースを受講したのは2006年、横浜市の公立中学で校長を務めていた頃でした。次のステップに向けて何か新しい力を身に付けたいと考えていた私は、大学院時代の恩師である金子郁容氏の勧めで編集学校に入門しました。ただ、この時は、恩師の紹介でやってみて楽しく終わったという感じでした。

その後、軽井沢風越学園を開校して3年目のときに、「もう一度、編集を学んでみよう」と16年ぶりに「守」「破」のコースを受講しました。当時、学園ではチャイムや固定席をなくしたり、異年齢やプロジェクトの学びなど新しい在り方に挑戦していたのですが、このまま進んでいいのかと迷子になるような感覚に陥ってしまったんです。

新しい学びをどういう風に育てたらいいのか、従来型のやり方のほうが楽なんじゃないか…。そんなふうにぐらついていた時に編集術をもう一度学び、どう学校をつくっていけばいいのか、物事の捉え方を広げ、深めていきたいと考えました。

イシス編集学校では、師範代がいて、一緒に学ぶ多様な年代や職業の仲間がいるのが魅力でしたね。他の人の回答を見て、そこから自分の見えていなかったものが見えたり、自分の見えていたものがさらにはっきりと見えるようになったり、物事の見方において解像度が上がり、自分自身が変化するのを実感しました。

今は、学校運営でも編集術が活かされています。風越学園が取り組んでいる「プロジェクト」という時間では、情報をどう取り込み、どう活用したらいいのかを子供たちも学んでいます。自分の手で情報を編集していくことが、学びであり、自分の可能性を広げて、新しい世界との出会いにつながっていきます。

編集術は探究学習の解像度を上げ、方針を明確にしてくれた

明星学園中学校・高等学校 総合探究科担当 新坂彩子教諭

2人目は、多くの先生たちが取り組む探究学習において、編集術が教育活動の質向上に役立つのではと挑戦した明星学園中学校・高等学校 総合探究科担当 教諭の新坂彩子さん。新坂さんは、守・破を終え、コーチ育成コースである花伝所を修了し、師範代を担当。探究学習を模索する新坂さんは、どのようなきっかけで「編集術」を学び、実際の授業ではどのように活かしているのでしょうか。

総合探究科を担当しており、探究学習の授業では、生徒の振り返りに対して、教員がフィードバックをすることを大切にしています。ところが、同じ授業をしているのにフィードバックがしやすい生徒と、そうでない生徒がいるんです。どうしてそうなるのか、私自身の経験や視野を広げていけば、もっといろんな生徒を柔軟に見られるようになるのではと思い、手に取った本が編集工学研究所が出版している『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)でした。そこでイシス編集学校の存在を知り、「ここに行けば私の欲しい答えが見つかるかもしれない!」と受講しました。

編集学校で学んだことはいろいろな場面で役立っていますが、たとえば授業では、「物事は、要素・機能・属性という部分を見ると全体像が見える」という方法が役に立っています。授業作りをしていくときに、必要な要素を集めて、その要素がどういうふうに機能すれば目的を達成できるのか、物事を分けて考えることで方針が明確になりました。

今までベタっと見えていたものが、一つ一つのパーツが見えてくる感覚で、これとこれを組み合わせれば化学反応を起こすのではないか、といった発展的な捉え方もできるようになりましたね。

また、生徒たちが発している言葉の裏側にある意味の多様さに気づくようになりました。そのことによって、こちら側が知識を伝達するのではなく、問いかけを通じて彼らの考えを引き出すという視点に立てるようになったように思います。

そんな時も、編集学校で学ぶ「地と図」という型が役立っています。相手がどのような「地」で考えているのか、情報の「地」がどうずれているのか。自分の価値観を超えて、いろんな生徒と相互編集をできるようになったことによって、生徒にとっても、私にとっても良い授業が生まれることになり、学校の財産になっていると思っています。

子育てに迷いがなくなる「編集」の目線。自己肯定感が上がった

専業主婦で、3人の子供を育てる中谷佳世子さん

3人目は、3人の子供を育てる専業主婦の中谷佳世子さん。中谷さんは守・破コースを終え、花伝所を修了し、師範代を担当されました。子育てに迷っていた中谷さんが、編集術を学ぶことで子供との向き合い方が変わり、さらには、ご主人もお子さんも編集術を学ぶようになって、子供の自己肯定感が上がったといいます。中谷さんにとって編集術の魅力は何でしょうか。

末っ子が幼稚園に入園した年、新しいことを学びたいと思っていた時に姉から勧められ受講しました。結果、編集学校は私にぴったりでした。その当時、育児に対して迷いがあったのですが、編集術を学ぶことで物の見方や、子育てに対する意識が大きく変わりました。

印象的だったのは、コーチ養成コース 花伝所で「相手を受容し、方法を評価して、新たな問いを渡すこと」を学んだことです。子供が困った言動をした時、どうしてその表現に至ったのか。そこには、その子なりのプロセスがあることを、感情ではなく、編集の目線で受け止められるようになりました。子供にも「こう思ってたんだね」と思考のプロセスに寄り添うと、子供の瞳がキラッと輝く瞬間があったんです。

また、3人の子供は性格も様々。「1人ひとりに合った接し方、声がけをしなくては」と思い込み、自分はそれができているかと不安でしたが、「受容・評価・問い」という編集の型を学んだことで、子供の性格は違っても、接し方の根本は同じだと思えるようになったんです。

我が家では、私だけでなく真ん中の子も小学5年生から編集講座を受講しています。自分自身の体験から「イシス編集学校に行けば、絶対に自己肯定感が上がるはず」と確信していました。キーボード入力の練習から始めて、難しい用語もありましたが、私がサポートしながら取り組むと、彼はどんどん自信をつけていき、学校の宿題の自主学習ノートに、編集学校で学んだ方法を使って、いきいきと文章を書いて提出し始めたんです。

母親に迷いがなくなれば、子供は伸び伸びと育ちます。編集学校に通っていた子供は今高校生ですが、漫画家を目指しながら母親から見ても面白い子に育っています。

中谷さんの長男が10歳の頃に作った自主学習ノート。オノマトペを使った日記や童話のパロディを創作している

情報を自分の知にしていくための「方法」がここにはある

株式会社編集工学研究所 イシス編集学校 学林局 林頭 主任研究員 吉村堅樹氏

編集術を身につける意義について編集工学研究所 主任研究員の吉村堅樹さんは、世の中に出来上がったものがあふれ、すでに編集されている情報が手に入る時代だからこそ編集術を身につけてほしいといいます。

「私たちは普段、商品やサービス、ニュースやSNSの情報など出来上がったものを見ていることが多いですが、編集術を身につけることで物事の捉え方や見方は変わってきます。いろいろな情報に気づいて発想を広げたり、自分の好き嫌いだけじゃなくて多様な見方ができるようになったり、さらには、あらゆる知に触れることで、好奇心の連鎖を広げることもできます。与えられた情報をそのまま受け止めるのではなく、プロセスに目を向け、自分の知にしていくために編集術が必要だと考えています」(吉村さん)。

現在、イシス編集学校では無料で試せる「編集力チェック」も提供しています。名前とメールアドレスだけで体験でき、回答には師範代から指南が届きます。「編集術」に興味を持たれた方はもちろん、ご自分の編集力を試してみたいという方も、ぜひチャレンジしてみてください。

第52期[守]基本コース、受講生募集 10月30日まで
イシス編集学校では、「第52期[守]基本コース」の受講生を10月30日 (月)まで募集中。定員になり次第、締め切られます。同コースは、情報編集のインプットからアウトプットまでのプロセスを「型」として取りだし、38のお題で身につけていきます。情報の理解、記憶、発想、伝達の基本的な編集術を学べます。オンライン講座のため、通勤時間やスキマ時間でも稽古できることで多くの受講生を集めています。

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