【連載】高橋暁子の「親と先生の気になるネット」

12月施行スマホ新法、保護者が恐れるべき最悪のシナリオとは

ネットは日々変化し、子供たちを取り巻く環境も大きく変わっています。本連載では、ITジャーナリスト・高橋暁子さんが、保護者や先生が知っておきたい最新のネット事情をわかりやすく解説します。

12月18日に全面施行となった「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」、通称「 スマホ新法 」。これによって保護者や教員が懸念すべきこと、これから考えられる最悪のシナリオと対策についてお伝えしたい。

スマホ新法はスマホ限定、GIGA端末は対象外

「スマホ新法」は、Apple(iOS)やGoogle(Android)による市場の寡占状態をなくし、競争を促すための法律だ。

2024年6月に成立しており、「OS」「アプリストア」「ブラウザ」「検索エンジン」が対象。スマホに限定した法律なので、 学校で貸与されているタブレット(GIGAスクール構想端末)やPC等は対象外 となる。

同法によって、新しいサービスが生まれたり、ユーザーがアプリを安価に利用できたりすることが期待されており、ユーザーにとっては良いことばかりの法律のようだが、そうではない。当初から大きな課題があることが指摘されてきた。

スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法)(出典:公正取引委員会)

大きく変わる3つの点とメリット・デメリットとは

スマホ新法で変わる点は多いが、その中でも保護者や教員が知っておきたい重要な部分は、以下の3点だ。
  ①アプリストアが選べる
  ②公式アプリストア以外で課金ができる
  ③自由なブラウザが利用できる

では、それぞれのメリットとデメリットについて見ていこう。

その1:アプリストアが選べる

(画像:編集部にてGeminiで作成)

アプリストアによっては、App Store、Google Play Storeで行われてきた同等のアプリ審査が十分に行われるとは限らない。実際、Androidでは過去に、銀行アプリを乗っ取ったり、暗号資産を窃取したり、個人情報を盗み出すアプリ等が見つかったことがある。審査が甘いアプリストアを利用することによって、マルウェアに感染したり、フィッシング詐欺に悪用されるリスクがあるのだ。

またスマホ新法に近い法律である「デジタル市場法(DMA)」が施行されたEUでは、すでに問題が明らかになっている。これまでiPhoneでは、ポルノアプリは完全に排除されていたが、EUでは、iPhoneでもポルノアプリが入手できるようになってしまっている。著作権侵害を引き起こしかねない問題あるアプリも同様だ。法的に規制される国でも、ギャンブルアプリが提供される事態になっているのだ。

その2:公式アプリストア以外で課金ができる

従来、子供のアプリ内課金は、スマホのペアレンタルコントロール機能で制限可能だった。たとえば、iPhoneの「スクリーンタイム」にある「承認と購入のリクエスト」で、課金を許可制にしているご家庭は多いだろう。ところが、これが機能するのはApp Storeを通した購入のみ。外部の決済システムを使えば、子供が勝手に高額課金することも可能となってしまうのだ。

さらに、詐欺的なサブスクリプションや悪質な決済手段に騙されてしまうリスクもあると言われている。返金や不正利用時の問い合わせ対応についても、事業者ごとに体制が異なるため、十分なサポートが受けられない、あるいは対応が遅れるといった懸念が残る。

その3:自由なブラウザが利用できる

危険な原因は「抜け道を探す子供たち」

大人ならばこう考えるだろう。それなら、公式アプリストアのみを利用し、課金も公式アプリのみに限定。ブラウザもこれまで通り、フィルタリングがかかるブラウザを使えば問題ないのではないか。

確かにその通りだ。しかし、これが通用するほど甘くないことも、保護者や教員なら容易に想像できるのではないか。子供は抜け道を探し、何とかして制限をかいくぐる。想定しない使い方をする。

子供を守るには、 ペアレンタルコントロール機能やフィルタリングサービスの活用が有効だ 。利用時間、アプリのダウンロード、課金等に関して制限をかけて問題となる使い方を防ぎ、フィルタリングサービスによって違法・有害サイトへのアクセスから守ることができる。

ところが、これを危険から守ってくれることではなく、単にやりたいことを邪魔するものと感じてしまう子は、ありとあらゆる手段を使って制限をかいくぐってくる。

子供のやりたいことがやりたいという情熱は驚くほど強い。しかも、実はありとあらゆる制限手段にはバグ的な抜け道があり、ネット上で共有されている。探し出す力がある子なら簡単に見つけ出すし、年上の兄や姉がいる友達から裏ワザを聞きかじってくることもある。

その結果、「制限していたのにいつの間にか解除されていた」「パスワードがいつの間にか破られていた」「ペアレンタルコントロール上ではまったく使っていないはずなのに、自室でこっそり使っている」という事態が起きる。多くのご家庭で覚えがあるはずだ。

考えられる最悪のシナリオとは

ここまで見てきた内容を踏まえると、いくつかの「最悪なシナリオ」が容易に浮かんでくる。ここでは、特に想定される3つのケースを挙げてみたい。

その1:SNSで知った違法アプリをインストール、被害が拡大する
SNSでインフルエンサーが取り上げたり、バズっていたりすると、「人気があるから」「無料だから」という理由で、マルウェアの仕込まれた違法アプリをインストールしてしまう。その結果、個人情報の流出や端末の不正利用など、被害が拡大するおそれがある。

その2:こっそり公式ストア以外で課金してしまう
保護者に課金を制限されている子供が、ネットで裏ワザを検索する。「公式ストア以外なら制限されず課金できる」という情報を仕入れて、実行する子供が出てくる。インフルエンサー等が収益目的で使える裏ワザとして広める可能性もある。これまでは公式ストアからの領収メールや利用履歴等で課金を一元管理できていたが、知らぬところで思わぬ課金をしているかもしれない。

その3:フィルタリングが機能しないブラウザを使用する
あえてフィルタリングが通用しないブラウザを使い、違法・有害サイト、アダルトサイトなどにアクセスする子供が出てくる可能性もある。刺激的なものとして口コミで広まるかもしれない。このシナリオが絶対に起きないと思う保護者や教員はいるだろうか。むしろ、「如何にもありそうだ」と心配する気持ちが強まったのではないか。

リスクを適切に伝えることが抑止力につながる

スマホ新法自体は、既に施行されてしまっている。我々は、子供を守るためにできる限りのことをするしかない。子供のためを思って制限しても、子供自身が同意していなければ、前述のようにかいくぐられる可能性が高い。子供が制限を解除したりしないためには、 子供たち自身が制限のメリット、解除するリスクを知っている必要がある のだ。

子供たちには、スマホ新法によって以下のリスクがあることを伝えたい。

  • 公式ストア以外で配布しているアプリには、マルウェア等が仕込まれた違法アプリも混じっており、インストールすると個人情報が流出するなどのリスクがあること
  • 公式ストア以外でこっそり課金しても、クレジットカードの利用明細などを見れば分かってしまうこと。お金がかかるのに変わりはないこと
  • 違法・有害サイトを見ることで、フィッシング詐欺等に引っかかるなどのリスクが高まること

問題ないアプリストアやアプリを見極められるのであれば話は別だが、まだ不安が残る未成年のうちは、公式アプリストアに利用を限定する方が無難だろう。前述のようなリスクをしっかりと伝え、制限するメリットを知り、約束とすることで、子供たちもあえて制限をかいくぐった使い方をしづらくなるのではないだろうか。子供への声かけの参考にしていただければ幸いだ。

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α新書)、『スマホで受験に失敗する子どもたち』(星海社新書)ほか著作多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/