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「使わないリスク」が高まる教育AI、Googleと大学DXが示すGemini活用のリアル

―「EDIX東京2026」レポート⑱

EDIX東京2026、Googleの特別講演の様子

2026年5月に開催された「第17回 EDIX(教育総合展)東京」。Googleはブースを出展し、GeminiやNotebookLMをはじめとしたソリューションの体験やワークショップなどを開催した。その様子は、こちらの記事で紹介している。

また、Googleによる特別講演では、Geminiのベースにある教育特化型モデル「LearnLM」の設計思想について語られたほか、ブースのセッションでは、大学で急速に利用が広がるGeminiやNotebookLMについて、京都大学・東北大学の担当者が現場のリアルを語った。

「LearnLM」はいかにして設計されたのか。そして、大学DXにおいて、AIはどのような変化をもたらしているのか。2本の講演からその実態に迫る。

「AIは能力の拡張」Google DeepMindが語るAIチューターの最前線

5月15日、EDIXの特別講演「AIと教育の最前線 - Google DeepMindとGeminiがもたらす新たな学びの可能性」が行われた。同講演では、学校現場で業務効率化や学習意欲の向上を実現しているGeminiの最新事例を紹介。囲碁AI「アルファ碁」を生み出したDeepMindの知見が、「LearnLM」という教育特化型AIチューターへとつながった過程など、科学的実証に基づいたAI教育の最前線が明らかになった。

最初に登壇したのは、Google for Education マーケティング日本統括の塙 真知恵氏だ。塙氏は2025年の東京都のデータをもとに、「都内の公立小中学校に通う児童生徒の約38%が家庭学習においてAIを取り入れており、前年比で2倍以上に増加した」と家庭での現状を伝えた。

「教育だけでなく、企業でもAIスキルが求められている」と語る塙氏

AIは人間の代替品ではない。Geminiがもたらす「能力の拡張」

続いて登壇したのは、Google for Education マネジング ディレクターのケビン・ケルズ氏。同氏は、AIが教育にもたらす影響について「人間の代替品ではなく、人間の専門性のより良い活用を可能にするパートナーである」と強調した。

日本の事例として紹介された駒澤大学では、Geminiを全学的なAI活用の柱に据え、議事録作成やデータ入力などに活用。その結果、 職員の66%が定型業務の時間を削減し、80%が「仕事の質が向上した」と回答 した。

駒澤大学では、同大学のAI推進プロジェクト「K-AI」の一環として、GeminiやNotebookLMなどを導入

神奈川県の精華小学校では、児童がGeminiを単なる答え合わせのツールではなく「思考パートナー」として活用している。「AIを使うことで、孤立してしまうのでは?」という懸念に対し、ケルズ氏は「子供たちは、AIからの回答をもとに友だちと話すことで、積極的に協働している」とし、人間同士のつながりが活発化していることを伝えた。

また、群馬県の新島学園では、AIティーチングアシスタントの導入により、 教員の教材準備時間を90%削減 し、空いた時間をクリエイティブな授業計画や子供たちとの直接的な関わりに使えるようになったという。ケルズ氏は、「AIティーチングアシスタントが重労働や準備作業を処理することで、教育者は指導の本質に戻ることができる」と語った。

さらに、新たに追加された機能として、日本語版がリリースされたばかりの「Gemini in Google Classroom」の機能も披露された。Google Classroom内で、直接Geminiを使って授業計画や小テストを生成することができる。

Google Classroom内でGeminiの活用が可能に

囲碁AIよりもはるかに難しい「AIチューター」の開発

講演の後半では、Google DeepMind プリンシパル サイエンティスト・東京拠点リードの全 炳河(ぜんへいが)氏が登壇した。同氏は、次世代モデル「DeepThink」や「Gemini 3.1 Pro」が日本数学オリンピックの本選で金賞水準を記録するなど、AIの学術的推論能力が極めて高いレベルに到達していると紹介した。

2025年、AIの使用目的で「学習」が初めて世界1位に。「AIのもたらす変革の中で、人々が最も価値を見いだしているのが、学習の可能性の拡張である」と話す

一方で全氏は、「現在のAIの多くはユーザーの要求を迅速に処理する便利なアシスタントであり、優れたチューターの在り方とは本質的に相反する」と指摘する。「優れたチューターは学習者の代わりに作業をこなすのではなく、自ら考えさせ、試行錯誤させ、学ばせるものだ」と同氏は語った。

この哲学に基づき、学習科学を基盤として開発されたのが教育特化型AIモデル「LearnLM」だ。アクティブラーニングの促進や認知負荷の低減、メタ認知の深化といった教育学的原則を設計の根幹に取り込んでいる。全氏は、個別最適なチューターを構築するのは、無限の質問パターンがあり、評価基準が不明確なため「囲碁で世界チャンピオンに勝利することよりもはるかに難しい」と明かした。

「2016年の『AlphaGo(アルファ碁)』の成功体験が、汎用AIの土台となった」と語る全氏。AIチューターを実現するための技術的な課題を囲碁AIと比較して解説

自力での問題解決率は5.5%向上! 実証されるAIチューターの効果

この困難な課題を乗り越えるため、DeepMindのチームは、AIに特定の指導スタイルを固執させるのではなく、教育的・科学的な指導方針をプロンプトとして与え、学習者に問いかけを促すようトレーニングを行った。 この知見は「LearnLM」単体にとどまらず、GeminiアプリやGoogle検索、YouTubeにも組み込まれている。

LearnLMの学習科学は、Geminiモデルをはじめとした、Googleの製品に組み込まれている

中でも、Geminiアプリの「ガイド付き学習」機能は個別学習の形の1つだ。「単に答えを教える便利なアシスタントではない。問題を段階的に解決することで、学習パートナーとして問題や概念を分解し、学習者が自力で理解へとたどり着けるのをサポートする」と、全氏は解説する。

その成果は、イギリス全土で実施された数学の個別指導に関するランダム化比較試験で実証されている。この試験では、AIのメッセージにおける事実誤認はわずか0.1%にとどまった。人間の教師はAIの提案の80%以上を、そのまま、あるいは微細な修正のみで採用したという。さらに、LearnLMによる個別指導を受けた生徒は、人間のチューターのみから学んだ場合と比較して、次回以降に同じような問題を 「自力で解決できる確率」が5.5%向上 した。

2025年11月に発表したイギリスでのランダム化比較試験の結果。現在、アメリカやインド、シエラレオネなどでもテストを行っており、AIのグローバルな影響を検証しているという

全氏は、「AIは教師の代わりになるものではなく、深く自立した理解を促進させるための『フォース・マルチプライヤー』、すなわち、能力を何倍にも引き上げる存在として機能した」と語った。

最後に、「教育や学習という最も人間的な活動において、人間同士のつながりが常に中心であり続けることは疑いない」とした上で、「AIを信頼できるパートナーとして活用することで、教育の未来を担う一人一人が、学習者の無限の可能性を開くこと。これが私たちが目指す真のインパクト」と力強く語り、講演を締めくくった。

京大と東北大が語る、大学DX実装のリアル。教職員が自らAIツールを開発

Googleブースのプレゼンテーションシアターからは、5月15日に開催された「大学DX最前線! 京都大学・東北大学が明かす、大学業務におけるGoogle AI活用事例と導入効果」と題したセッションを紹介する。登壇したのは、京都大学 情報環境機構 ITアーキテクトの古村隆明氏と、東北大学 経営戦略本部 データ戦略室の藤本一之氏だ。

左より、モデレーターのGoogle for Education 高等教育AI 戦略・活用推進部部長の河林祐司氏、京都大学 情報環境機構 ITアーキテクトの古村隆明氏、東北大学 経営戦略本部データ戦略室 主任経営企画スタッフの藤本一之氏

大学の現場では、教職員によるAI活用が業務のあり方を大きく変えつつある。

例えば、東北大学では、教職員向けの翻訳ツールとして、GeminiのGemを活用したグループウェアが採用されている。同大学は2024年に国内初の「国際卓越研究大学」に認定・認可されており、日常的な書類の英語化が急務となった。

そこで、組織目標など日本語で作成された文書をアップロードすると、大学の文脈や固有名詞を正しく認識した上で英訳してくれるツールを開発したという。驚くべきは、これを情報の専門部署ではなく、国際系の部署の職員が自ら構築したという点だ。現場レベルでAIツールを生み出す、組織的なAIの「民主化」が進んでいる実態が明かされた。

東北大学の、GeminiのGemを活用した文書生成ツール。メールや通知文書などを日英の2言語で作成できる

京都大学でも、Google WorkspaceやGeminiを活用した効率化が進められている。Google Meetを使ったオンライン会議では、Geminiの要約機能が非常に重宝されており、対面での会議でも、Meetを立ち上げて議事録作成に役立てているという。古村氏は、「学内向けマニュアルの作成でもAIのサポートを受けている」と、活用事例を紹介。作成したドキュメントをNotebookLMに読み込ませて、学内向けの「対話型マニュアル」として公開し、大幅な省力化を実現していることを語った。

京都大学では、NotebookLMの共有機能を使い、学内の問い合わせに自動応答できるシステムを導入

学生の生産性が10倍に! 激変する学習環境

パネルディスカッションでは、AIの導入によって学生の学びのスピードや質にも劇的な変化があったことが語られた。

東北大学の藤本氏は、「AIの活用で、学生の生産性が10年前の10倍になった」と話していた教員のエピソードを紹介。さらに「これは、AIに丸投げしているのではなく、学生がAIの特性を理解して使いこなしているからこそ実現している結果だ」と語った。

京都大学の古村氏は、プログラミングの授業において「これまで3週間かかっていた内容が1週間で余裕で終わる」と話す。以前はプログラミング言語を理解するという準備があったが、現在は、最初からAIを使って動くプログラムを作り、そこから修正を加えていく。全く異なるスタート地点に立っているため、授業の進度が劇的に早まっているという。

また、京都大学が行った学生アンケートでは、学生がAIを利用して主体的に学習の質を高めようとする姿勢が見られた。「『理解が浅くならないように確認作業を意識するようになった』『学習内容を自分で調べる時間が増えた』など、自らAIの使い方を工夫しているのがわかる」と、古村氏は結果を踏まえて語った。

京都大学が2026年3月に行ったアンケート調査。Gemini導入前だったにもかかわらず、ほとんどの学生が「AIを使っている」と回答

禁止ではなく「使う前提」へ。両大学がこだわるAIへのスタンス

学生へのAI環境の提供にあたり、両大学のスタンスには興味深いアプローチの違いと、共通の哲学が見られた。

京都大学では、2026年4月から学生にGoogle WorkspaceとGeminiの提供を開始するにあたり、事前に「生成AIの利用に関するガイドライン」「AIイニシアティブ」などのドキュメントを整備した。そこには、ハルシネーションや情報漏えいのリスクだけでなく、知的財産権や肖像権、さらには思考力の低下、創造性の衰退といった懸念事項が盛り込まれており、学生・教員双方に注意を促す内容になっている。

古村氏は「これらのドキュメントの制作にもGeminiを活用したが、『学修におけるAI利用について』と題した学生向けのメッセージは、思いを込めて教員が書き上げた」という制作過程を明かし、AIと人間との使い分けを実践している「共創」の事例を伝えた。

京都大学 教育改革戦略本部が公開している資料(出典:京都大学 教育改革戦略本部「学修におけるAI利用について」)

一方、東北大学では、2023年に生成AIに関する留意事項を作成して以降、「気をつけながら使い倒す」というシンプルな方針を貫いており、ガイドラインでガチガチの制限を設ける雰囲気はないという。藤本氏は「大人は、どんどん理解して前に進んでいる学生たちの邪魔をしてはいけない」と語り、学生の自主性を重んじる姿勢を示した。

東北大学の「ChatGPT等の生成系AI利用に関する留意事項」(教員向け学生向け

「新しいものは、使わないから怖いだけ」

新しいツールの導入に対して慎重になる人々に向けて、藤本氏は「使ったことがないから不安に感じるだけで、実際に導入すれば、慎重だった人が一番使うようになる怖がらずに検討してほしい」と力強く呼びかけた。古村氏も、「AIの導入や活用については壁がなくなることはない」としながらも、「壁を低くする広報活動は続けている。変えたい人が増えていってほしいという思いで、活動を続けている」ことを語った。

また、AI活用の基盤となるクラウド環境について、古村氏は「Google Workspaceは設定や制御がしやすく、知らないところで情報が公開されてしまうような心配が少ない。提供者側として安心してデフォルトで使えるバランスの良いサービスだ」と高く評価している。

2つの大学の導入スタンスは異なるが、「学生にも教職員にも、積極的にAIを活用してほしい」という思いは共通している。AIはすでに大学の教育や研究、そして業務において不可欠なインフラになりつつある。「AIを使わないリスク」を強く問いかける、示唆に富んだセッションであった。

📌「EDIX東京2026」関連記事まとめ
5月13日~15日に開催されたEDIX東京2026の関連記事をまとめています。製品レポートや各社ブース、セミナーの内容など今年の教育トレンドをチェックできます。
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相川いずみ

教育ライター/編集者。AIをはじめとした教育におけるデジタル活用を中心に、全国の学校を取材・執筆を行っている。一児の母としてPTAでのICT活用や、親子向けのプログラミング体験教室を開催した他、現在は、シニア向けのスマホサポートを行う渋谷区デジタル活用支援員としても活動中。