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東大・安田講堂でマイクラのワークショップ 「遊び」と「学び」の視点で語る未来の教育
2025年11月13日 06:30
子供たちに大人気のマインクラフトが、東京大学・安田講堂に登場した。
2025年10月18日、本郷キャンパスで行われた「東京大学ホームカミングデイ」では、特別企画として、教育版マインクラフトを活用したワークショップとトークイベントが開催された。テーマは「子ども・あそび・東大の未来」。子供たちとマインクラフトとの関わりを通して、「好き」を「学び」に変える教育の在り方が語られた。その模様をレポートする。
「遊び」はなぜ必要なのか?
「ホームカミングデイ」は、東京大学がキャンパスの活性化と校友ネットワークの強化を目的に毎年開催しているイベントだ。卒業生・修了生だけでなく、在学生や保護者、地域住民、子供など誰でも参加できるのが特徴で、この日は本郷キャンパスを中心に120以上もの多彩なプログラムが行われた。
その中のひとつ、安田講堂で実施されたのが教育版マインクラフトのワークショップとトークイベントだ。荘厳な安田講堂とマインクラフトという組み合わせは意外な感じもするが、子供たちは午前中からワークショップに取り組み、この安田講堂でマインクラフトの作品発表を行った。
作品発表の冒頭は、東京大学 理事 岩村水樹氏が登壇した。岩村氏は、テクノロジーの進化によって学びの形が大きく変わり、いま私たちは「答えがひとつではない」複雑な問題に向き合うことが求められていると語る。そうした時代に必要な力は、「自ら問いを立てる力」「課題解決の方法を考える力」「アイデアを実現する力」の3つであり、これらを育むうえで欠かせないのが “遊び” だと強調した。
「 遊びは重要な意味を持ちます。それは、失敗を恐れずにチャレンジできるということ 。遊びは、同じことの繰り返しでは面白くない。新しいチャレンジには失敗はつきもので、原因を探り、次はこうしてみようと考えること、そこに深い学びと成長があると私たちは感じています」と岩村氏は語る。
そして、マインクラフトについても岩村氏は、「マインクラフトはすばらしい。 頭の中にあるアイデアを試行錯誤しながら形に変えることを経験できる遊びだ 」と述べた。子供たちには、夢中になって遊び、失敗し、そこから学ぶ。それこそが未来を切り拓くチャレンジャーへの第1歩になると語った。
安田講堂・赤門・懐徳館などマイクラの東大で学びを表現
続いては、子供たちが午前中に取り組んでいたワークショップの作品発表が行われた。今回のテーマは、「東大150年の『できごと』を知って、マインクラフトで再現してみよう」。子供たちは、安田講堂や赤門、懐徳館や旧図書館、福武ホールなど東京大学にまつわる5つの建築物を題材に、当時の写真を見たり、東京大学にゆかりのある人物を調べたりしながら、学んだことをマインクラフトの世界で表現した。
安田講堂を担当したチームは、昭和後期の出来事を調べる中で、自動車の普及と学生運動に注目した。「勉強する場所がなくなったら大変だから」という理由で安田講堂の中に教室を再現。また東大出身のノーベル賞学者にも注目し、南部陽一郎、佐藤栄作、江崎玲於奈に模したキャラクターを配置した。調べる中で「当時の人の表情や姿をもっと知りたいと思った」と語ってくれた。
赤門を担当したチームは、明治時代に普及した人力車や、電気・ガスに注目し、赤門のまわりに人力車と街灯・電柱を配置した。また、懐徳館のチームはお客様をもてなすための茶室を作り、「当時は、お弁当をストーブで温めていた」と調べた内容を発表した。
旧図書館を担当したチームは、制作中にマインクラフトの図書館内で火災が発生するハプニングがあったと発表した。子供たちは協力して消火に挑み、「みんなで力を合わせて火を止めた」と振り返った。また、福武ホールを担当したチームは、平成になって建てられたことを知り、研究者が疲れたときに休めるようにと内部に保健室を作ったことを発表した。
このように、子供たちはチームで協力しながら、それぞれの視点で歴史を調べ、印象に残ったことや東大にまつわる人物をマインクラフトで表現した。この日が初対面だった子供たちであるが、マインクラフトを通して共通のミッションに取り組み、短い時間ながらも作品の中で学びの跡を見せてくれた。ゲストのタツナミシュウイチ氏や、Microsoft米国本社の千代田まどか氏、日本マイクロソフトの宮崎翔太氏、そして東京大学の渡邉英徳氏も子供たちを称える温かい言葉を贈った。
どのように遊び、どのように学びたいか
続いては、前述のゲストを囲んで、「遊び」と「学び」をテーマにしたトークイベントが行われた。ファシリテーターを務めたのは、東京大学の渡邉英徳氏。
渡邉氏は、長崎市で原爆資料館と連携し、マインクラフトやさまざまなテクノロジーを活用して、被爆地の記憶を次世代に伝えるための体験型イベントに取り組んでいる。子供たちが「戦争」や「平和」といった重いテーマでも自然に関心を持って学べるよう、テクノロジーを活用して難しいことへの入り口を広げる活動を行ってきた。
そんな渡邉氏からゲストに対して投げかけられた問いは、「 もし自分が子供だったら、どんな遊びをしたいか 」というもの。
マインクラフトの教育利用に詳しいタツナミシュウイチ氏は、「 ものを作ること自体が遊びで楽しかった 」と語る。子供の頃から、ないものを作ることに夢中で、現在もマインクラフトでつくることを仕事にしているタツナミ氏。これまでも、映像制作やイベント企画、専門学校の講師や声優などさまざまな仕事をしてきたが、いずれも共通していたのは、ものづくりだ。「買った方が安いでしょと言われても、自分で作るほうが楽しい。それが僕にとっての遊びです」と語った。
Microsoft米国本社のエンジニア 千代田まどか(ちょまど)氏は、「AIを完全に理解したスーパー小学生YouTuberとして活動してみたい」と発言し、会場を和ませた。「小学生だったら失敗を恐れずに何でも試せる。マイクラをAIにやらせて、すごいものを作ってみたいですね」と語る。
千代田氏がこのように語る背景は、遊びながら学ぶことで人生が変わった経験があるからだ。子供の頃からゲームが好きで、海外ゲームを英語でプレイ。大学では文系出身ながら独学でプログラミングを学び、気づけばマイクロソフトのエンジニアになっていたと話す千代田氏。「私にとってプログラミングは遊びだった」と語り、「 失敗してもやり直せる、挑戦できる遊びの場が子供たちの好奇心と創造力を育てる 」と語った。
日本マイクロソフト株式会社の宮崎翔太氏は、「マインクラフトのようなゲームで、みんなと一緒に遊びたい」と話した。クウェート生まれの宮崎氏は、戦争の影響で学校に通えない時期を経験したことから、「今の子供たちは離れていても、協力して何かを作り上げられる環境があって、本当にうらやましい」と語る。
そんな宮崎氏は現在、マイクロソフトで教育分野を担当。AIやテクノロジーについても「 今の子供たちにとって生きていくうえで欠かせない存在になっているが、人を支える道具であるべきだ 」という考えを述べた。マイクロソフトが提供する「Copilot」にもそうした想いが込められており、AIを取り入れながら、子供たちが主体的に学ぶ環境づくりを進めているという。さらに、マインクラフトでAIについて楽しく学べるコンテンツも紹介し、「テクノロジーを上手く使いながら、未来に必要な力(Future-Ready Skills)を育てていきたい」と語った。
ほかにも、渡邉氏は「 もし自分が子供だったら、どんなふうに学びたいか 」という問いを投げた。
宮崎氏と千代田氏は、どちらも「みんなで一緒に何かを作りながら、遊びながら学びたい」と語る。宮崎氏は「 勉強と遊びを分けずに、いつの間にか学んでいる環境が理想 」と話し、千代田氏も「 感情と結びついた経験は長く記憶に残りやすいから 」と理由を挙げた。
「勉強は苦手だった」と話すタツナミ氏は、「何のために勉強するのかが分からなかった」と当時を振り返る。「今思えば、 学びと社会がどうつながっているのかを教えてもらえたら、もっと前向きに取り組めたかもしれない 。だからこそ、マイクラでも子供たちに“なぜ作るのか”を伝えるようにしています」と語った。
逆に、「勉強が好きだった」と話す渡邉氏は、「今なら、学びたいことにすぐアクセスできる。先生に聞く前にChatGPTに聞けば答えが返ってくるし、 教科書しかなかった時代に比べて、今は学びたい人がどんどん学べるようになった 」と学習環境の変化を挙げた。AIの登場によって、受け身ではなく自ら学びを深める環境が格段に広がっていると述べた。
さらに、飛び入りで登壇した東京大学教育学部の博士課程学生である片山さんは、AI時代の学びについて、どうあるべきかを考えてしまうと語る。その中で「簡単には解けない素晴らしい問いに出会った人が人生の中で幸運だ」というネットの中で見つけた言葉を紹介。 答えのない問いを持ち続けて、自分なりの答えを出していくこと 。これがAI時代に意味のある学びになり、自分の人生を反映した学びになっていくのではないかと今は考えていると語った。
テクノロジーの進化が加速し、先の見えないVUCAの時代。だからこそ、好奇心を原動力に「遊びながら学ぶこと」の大切さを問い続けることが、これからの教育に求められているだろう。











































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