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LINEみらい財団、10年間の情報モラル教育活動の内容を報告
~子どもたちが自分事化できる教材「SNSノート」などを無償提供
2022年7月13日 06:30
LINE株式会社のCSR活動として、デジタルリテラシーの向上やプログラミング教育に取り組む一般財団法人LINEみらい財団(以下、LINEみらい財団)は7月7日、10年間継続してきた情報モラル教育活動を紹介する記者説明会を開催した。
LINEみらい財団は、2019年12月に設立した一般財団法人。LINEでは、同財団の設立前から学校や企業、自治体などと協力し、情報モラル教育活動を実施してきたが、そのノウハウを広く社会に還元し、永続的に活動していくことを目的に同財団が設立された。
研修・出前授業の累計実施回数は1万回を突破
説明会に登壇したLINE株式会社/財団企画室 副室長の西尾勇気氏は、同財団が考える情報モラルの定義から言及した。
「文部科学省では、『情報社会で適切な活動を行うための考え方や態度の育成』と定義されており、我々はさらに『日常におけるモラル』『ネットの特性の理解』『想像力と判断力』という、3つの力を伸ばすことで、文部科学省が掲げる定義を実現できると考えている」と西尾氏は語る。
また西尾氏は、サービス提供者としての責任と社会課題への対応を挙げ、「我々としてはサービスや機能の見直しだけでなく、ソフト面への取り組みが必要と考え、情報モラル教育に取り組んでいる」と、LINEが情報モラル教育に取り組んできた要因を説明した。
LINEみらい財団では、情報モラル教育を具体的に推進するために、「教材開発」「出前授業」「調査・研究」「教育機関との取り組み」、という4つを軸に進めている。
教材開発については、静岡大学教育学部の塩田真吾准教授との共同研究をもとに開発に取り組んだ。教材は小学校高学年から中学生向け、中学生から高校生向け、保護者向けの3種類が用意されており、対象ごとに様々なシチュエーションを取り扱った内容となっている。
また、この教材を使った出前授業も実施。コロナ前は現地に出向いて授業を行なっていたが、現在ではオンラインに切り替えて全国各地で実施している。すでに授業と研修を合わせた実施回数は累計1万回を超えるという。
さらに各地の教育委員会や警察機関と協力し、青少年のネット活用についての実態調査や研究を実施。その成果をエビデンスとして情報モラル教育の活動推進を行なっている。
教育機関との取り組みは、教員が情報モラル教育を実践できるように、教員向け教材「SNS東京ノート」を東京都教育委員会と共同開発し、無償で提供。2017年3月から都内の公立学校の児童生徒全員に配布している。
2018年9月からは、全国版「SNSノート」の無償提供を開始し、教員向け研修会も実施。「SNSノートは東京都以外からも引き合いが多く、大阪、仙台市、静岡、長崎などの地域で教材として活用されている。どの地域でも利用できる汎用版も用意している」と西尾氏は説明する。
他者との“ちがい”に気づくことを重視した教材
LINEの情報モラル教育が各地域から評価されている要因について西尾氏は、教材がもつ3つの特徴「児童・生徒主体型」「自分事化の工夫」「考えるを重視」を挙げる。「情報モラル教育において、そもそもの答えは子どもとたちが持っていると考え、対話の中でお互いの考えに触れ、理解を深めることを重視している」と西尾氏。そのうえで、トラブルの起因を考え、自分事として考えるように工夫されているという。
実際にどのような教材なのか。いくつか中身も紹介された。全体的に教材は、小学校であれば45分授業、中学校・高校であれば50分授業で完結する内容で、スライドで進行し、児童・生徒は教材やカードを使って進める形式となっている。
たとえば、スマートフォンを初めて持つ年齢層であろう小学校3年生から中学生をターゲットにした教材では、「あなたがクラスの友達からいわれて、『イヤだな』と感じる言葉はどれ?」という質問が投げかけられる。選択肢として「まじめだね」、「おとなしいね」、「一生懸命だね」、「個性的だね」、「マイペースだね」という5つが提示されるが、答えは回答者によって異なる。
「これは正解を求めているわけではなく、自分がイヤだと思った言葉が友だちにとっては褒め言葉になるといった、“ちがい”を実感してもらうことが狙い。どんな意見を持っているのか、周りの友達と話し合って、自分と他者との“ちがい”を体感していく」と西尾氏は説明する。
別の教材として、「すぐに返信がない」、「なかなか会話が終わらない」、「知らないところで自分の話題が出ている」、「話しをしている時にケータイ・スマホをさわっている」、「自分が一緒に写っている写真を公開される」という5枚のカードを、友だちにされたらイヤな順番に並べるという課題も紹介された。
「言葉の受け止め方が人によって違うのと同じように、さまざまな行動も個人によって受け止め方が違うことを実感してもらうことが狙い。場面もネットの中、リアルの世界のどちらかを限定せず、どういう場面でどういう気持ちになるのか、話し合って実感してもらう」(西尾氏)。
「悪口編」という教材では、グループトークのやり取りにどんな返信をするのか考えてもらう。文字で答えず、「スタンプを送る」「無視する」といったこともリアクションの1つ。正解を導くためのやり取りではなく、テキストやイラストのやり取りには、様々な受け取り方があることに気づき持ってもらうことが狙いの1つ。「インターネット上は相手の表情がわからないので、空気を読むことがむずかしいことを理解してもらいたい」と西尾氏は語る。
LINEではこうした実際に起こりそうなシチュエーションをベースに教材を用意。誰でも自由に利用可能で、教員向けにも用意されており、LINEみらい財団のサイトから無償で利用できる。
学校現場で起こるネットトラブルへの対応が課題
西尾氏は、今後の展望の前提として、コロナ禍やGIGAスクール構想によって急激に進んだ学校現場のICT環境を指摘。「1人1台端末での学びが本格化し、ネット利活用も当たり前になった今、我々の調査では、ネットトラブルが家庭内だけでなく、学校でも起きていることが明らかになっている。情報モラル教育の必要性が今まで以上に高まっている」と指摘した。
これを受け、LINEみらい財団ではこれまで提供してきた「SNSノート」をアップデートした「GIGAワークブック」という新しい教材の開発を進めているという。第一弾として鎌倉市教育委員会と共同で作成した「GIGAワークブックかまくら」を公開予定。SNSノートの内容に加え、社会の変化にあわせ、情報活用能力を養う内容となっている。また、これまで45分授業、50分授業で活用する教材であったのに対し、GIGAワークブックは15分程度で学べる教材へと進化している。
最後に西尾氏は、10年継続してきた情報モラル教育活動を振り返り、その間に社会も変化し、新たな課題も出てきたと指摘。「今後も社会変化に合わせて教材をアップデートさせながら、子どもたちが生きていくデジタル社会を、より良いものにする活動を継続していきたい」と抱負を語った。