トピック
京都府亀岡市に学ぶ、「授業を変える教員」を育てる仕組みと課題
【特集企画】活用から変化へ、その先の学びをつくる(中編)
- 提供:
- SB C&S株式会社
2026年3月10日 06:30
本特集では3回にわたり、その歩みを探る。前編では京都府の取組を整理し、中編では京都府亀岡市の実践事例から学校現場の変化を紹介。後編では、京都府とSB C&S株式会社との連携から、学びに変化をもたらすヒントを考える。
京都府がGIGAスクール構想を機に始めた、独自の教員研修「 エバンジェリスト育成研修 」。教員自身の授業観・教育観のアップデートをめざした同研修は、各市町村の小中学校教員や高校教員などを対象に6年間にわたって実施された。これまでに525名のエバンジェリストが誕生し、その取り組みは 前編 で紹介した通りだ。
実際にエバンジェリストの教員たちは、それぞれの地域や学校現場でどのように学びの変化を担っているのだろうか。本編では、京都府亀岡市に焦点を当て、その取り組みを探る。
●中編:京都府亀岡市に学ぶ、「授業を変える教員」を育てる仕組みと課題
●後編:行政と企業の協働で学びを変える、SB C&Sが貫く教育への向き合い方(3月11日公開)
学びの基盤としてICTを根づかせる、亀岡市が築いた推進体制
亀岡市は、京都府の中西部に位置する、人口約8万5000人の自治体である。市内には、小学校が14校、中学校が5校、義務教育学校が2校あり、約6,500人の児童生徒が学んでいる。「ふるさとを愛し、心豊かに、未来を共に切り開く」という教育理念のもと、ICTを学びの基盤として位置づけながら、思考の可視化や協働的な探究、表現活動などを通じて、学びの質の向上をめざしている。
そうした取り組みの一環として、亀岡市では早い段階からICT教育にも注力してきた。GIGAスクール構想が本格始動した令和3年度には、情報教育を市全体で推進する拠点として「 みらい教育リサーチセンター 」を開設。ICT環境整備から教員研修、さらには学校現場への伴走支援までを一体的に担う推進体制を構築した。あわせて、各校に管理職を含む3名以上の「ICT教育推進委員」を配置し、 学校組織としてICTを推進する分掌を設置 した。
みらい教育リサーチセンター所長の大石利之氏は、現在約7000台のiPadが、日常的に活用されていると話す。
「ICTを単なる機器導入にとどめず、教育の質の向上と学びの変革をめざしてきました。みらい教育リサーチセンターを軸に、ICT環境整備と研修機能の両方をスピード感をもって進め、ICT活用が授業改善につながるよう学校現場の伴走支援も重視して取り組んできました。 今ではICTは特別なものではなく、日常の学びの中で自然に生かされ学校現場に定着しつつあります 」と語る。
エバンジェリスト教員の学びを、地域で育てる体制づくり
亀岡市は、京都府の「 エバンジェリスト育成研修 」が令和2年度にスタートしたときから教員を送り出してきた。以来、同市では毎年1~3名の教員を選出し派遣している。当初は、情報教育に長けた教員を選んでいたというが、研修を重ねる中で、授業改善を進められる教員や、波及していく力のある教員を選ぶようになったという。
亀岡市みらい教育リサーチセンター 指導主事 広瀬一弥氏は、エバンジェリスト育成研修について、最初は「役割の理解」を得るのに苦労したと話す。
「亀岡市では当初から、『ICTをどう使うか』ではなく『いかに授業を変えるか』という課題意識を持っており、エバンジェリスト育成研修に期待をしていました。しかし現場には、『ICTのスペシャリストを作る研修』だと捉えられてしまいました。そこで、校長会や情報教育担当者会で制度の趣旨や位置づけを繰り返し説明し、『校内研修や授業づくりの核となる教員を育てる』ことが目的であることを丁寧に共有してきました」と語る。
当時はコロナ禍の大変な時期にGIGAスクール構想がスタートし、現場では操作研修が求められていたことも影響しただろう。ただ、広瀬氏は、「そうした時においても、 府が授業観の転換を促す方向性を示してくれたことで、市としてもそれに沿った研修を組むことができました 。授業改善の視点とICT活用の双方に強みを持つ人材育成に力を注げたことは、今の活用につながっていると感じています」と語っている。
亀岡市の取り組みで注目したいのは、エバンジェリストとなった教員が 地域で活躍できる「場」を意図的に設けてきたことだ 。府の研修で得た学びを教員が「持ち帰る」だけでは、市全体への波及はむずかしい。そこで亀岡市は、「 創造的な授業づくり講座 」を年3回程度実施し、エバンジェリスト自身による公開授業や実践発表、講演を行う機会を設け、市内全体への波及を図ってきた。
また、創造的な授業づくり講座への参加も工夫している。当初は情報教育担当の参加が中心であったが、令和5~6年度は、ICT活用が学習全体に関わることを踏まえ、校内の学力担当へと対象を拡大。さらに令和7年度からは、校長推薦による若手教員を中心とし、地域の将来を担う人材育成につなげている。
広瀬氏は創造的な授業づくり講座について、授業そのものについて考えることが、他の授業研究と異なるところだと話す。「授業研究といえば、発問の工夫や板書の書き方など細かい部分に議論が集中しがちですが、創造的な授業づくり講座では、そうした観点から離れて、『この授業で育つクリエイティビティって何だろう』とか、『小学校の授業を見て中学だったらどういう視点が必要だろう』というテーマで議論するのが特長です」と語る。
エバンジェリストが持ち帰った学びを、個人の経験にとどめず、市内の教員同士が授業について考え直す共通の土台とした。授業をどう変えるのか、全員が持てる問いを共有することで、エバンジェリストを起点とした学びの輪が、少しずつ市内に広がっていったといえる。
エバンジェリスト育成研修は、教員の探究学習そのものだった
亀岡市立亀岡川東学園 瀬野麻利衣教諭は、同市のエバンジェリストのひとり。今から5年前にエバンジェリスト育成研修に参加した。大学は情報系を専攻しており、初任の頃から授業にICTを取り入れたかったという。
「研修に行く前は、『最先端のICT活用が学べる研修』だと思っていたのですが、実際に行ってみたら違っていました(笑)。最初に示されたのは『クリエイティブな授業とは何か』『生徒の創造性を引き出すにはどんな授業が必要か』という問いで、 答えは用意されておらず、受講者同士が対話しながら考え続ける研修 でした」と語る。受講期間中は考えることや課題も多く、楽しさを感じる一方で、大変さもあったという。
しかし、この研修を通して、 答えのない問いを考える授業の大切さに気づいた という瀬野教諭。
「答えのない問いを考える中で、生徒たちが『なぜ、こうなるのだろう』と問いの連続が生まれるような課題設定が、主体的な学びに大事だと感じました。実際に数学の授業で試してみたのですが、そういう授業は数学の教科の中でおさまらず、教科を横断する探究学習の大切さもわかりました。そして、振り返ってみると、こうしたことを考え、実践に挑戦していた エバンジェリスト育成研修そのものが、教師の探究学習だった と気づきました」。
瀬野教諭のこうした経験は、その後の授業実践や市全体の普及にも生かされている。創造的な授業づくり講座では研究授業を行い、比例を使って社会問題を考える課題を設定し、生徒たちが自分の考えを伝えるために動画作成に取り組む授業に挑戦した。また学校では国語科と連携し、「走れメロス」を一次関数で捉える教科横断型の探究学習も実施。ほかにも、エバンジェリスト育成研修で得られたことを講演するなど、伝えることも注力してきた。
「エバンジェリストとして授業をするのであれば、何か新しいチャレンジをしたい、ありきたりのことをやっていては議論にならないと思い、 私が先頭に立ってやらないとという気持ちが芽生えました 。終わってから、資料を求められたり、他の先生同士が教科横断型の探究学習を始めていて、新しい刺激を与えられたかと思っています。これまで授業研究は一人でやるものだと思っていましたが、他の人と一緒に授業をつくる面白さに気づきました」と瀬野教諭は語る。教員の授業観・教育観の変化は、どこから生まれるのか。瀬野教諭の話から、教員自身も答えのない問いに向き合うことの重要性が伝わってくる。
戸惑いから共感へ。エバンジェリストの実践が学校現場に根づくまで
府のエバンジェリスト育成研修で学んだ教員が、その成果を市が実施する「創造的な授業づくり講座」で紹介する。こうした流れは一見すると順調に進んだように見えるが、広瀬氏によれば、当初から現場にすんなり受け入れられたわけではなかったという。
「エバンジェリストの教員が公開する授業は、従来の授業研究で想定されてきた枠組みとは大きく異なり、現場からは正直戸惑いの声もありました。そうした時に、『 これは京都府のエバンジェリスト育成研修に基づいた実践である 』という、いわばお墨付きがあったことは大きかったですね」と広瀬氏は振り返る。
一方で、当初は戸惑いを見せていた教員たちも、授業を見ることで少しずつ変化が出てきたという。授業を見た教員からは、『自分の教科としては違和感があるが、子供たちに力がついている』といった声も聞かれるようになり、教科の枠を超えて、 「子供たちに将来役立つ力を身につけさせたい」という共通の想いをベースに対話ができる ようになっていったという。こうした積み重ねの中で、次第に「自分の授業にも取り入れてみたい」という教員が徐々に増え、実践が広がっていった。
さらに、広瀬氏はエバンジェリスト育成研修の成果について、「 府の公式認定を受け、校務分掌上の役割と活動時間が保障された立場として研修に参加できる ことは、授業改善をリードする役割を担うと教員自身が自覚することにつながりました」と語る。研修を受けた教員が大きく成長し、その姿が周囲の教員にとって刺激となり、学校全体を巻き込んだ授業改善の機運を生み出したというのだ。
亀岡市の取り組みからは、授業改善を教員個人の熱意や努力に依存するのではなく、制度や役割、活躍の場を意図的に用意するという行政側のサポートが、現場に変化を根付かせるうえで欠かせないことがわかる。
課題は「教員同士のコミュニティづくり」、変化が続く組織文化へ
一方で、エバンジェリスト育成研修に対する課題は何か。広瀬氏は「 活躍の場の確保と市内でのコミュニティづくり 」だと指摘する。府の研修で多くを学んでも、それをエバンジェリストとして生かす機会が限られれば、本人のモチベーションや成長に影響しかねない。亀岡市では、創造的な授業づくり講座や市内研修での実践報告など、エバンジェリストが前面に立つ機会を意図的に増やしてきたが、市内のエバンジェリスト同士が交流する機会は十分とは言えないという。
「対面での情報交換会やオンラインでの交流の場を設けて、日常的に授業アイデアや悩みを共有できるコミュニティづくりを進めているものの、まだ理想の姿には至っていません」と広瀬氏。これから先も授業をアップデートをし続けるためには、教員同士が高め合う活動を組織文化として根付かせていく働きかけが必要だというのだ。
それでも、亀岡市の取り組みは、確実に児童生徒の学びに変化をもたらしている。GIGAスクール構想以降、ICT活用が日常的になり、児童生徒が自分の考えを多様な手段で表現し、仲間と比較しながら、対話を通して学びを深める姿が日常的になってきた。「特に小学校段階から探究的な学びや表現活動を経験してきた子供たちが中学校へ進学し、その経験をもとに、主体的に学びを進め、調べ、まとめ、意見交換を自然に行う姿は成果だと考えています」と広瀬氏は語る。
大石氏は亀岡市全体のこれからの教育について、すべての子供に学びの機会を保障するという点では課題が残っていると語る。「特別な支援を必要とする児童生徒や不登校の子供、日本語指導を必要とする子供など、多様な学びのニーズへの対応が課題です。またICTを活用したつながりや学びの確保など、ICTにはメリットがある一方で、児童生徒の活用ルールや過度な使用をどう考えるかについては、家庭や地域と丁寧に議論していく必要もあります。子供たち自身が適切に選択し、使いこなす力を育てる視点も今後はさらに重要になってくると考えています」と語る。
エバンジェリスト育成研修を起点に、授業改善を発展させてきた亀岡市。府と市が連携して進める研修を学校現場にどう根付かせるか。その試みは容易ではないが、授業を変えていくという方向性を共有できていれば、立場を超えて連携できる余地は大きい。府の研修が教員の内面に働きかけ、市がその学びを実践へとつなぐ場を支える。こうした役割分担による連携は、授業改善を継続していくうえで、有効な一つのモデルといえるだろう。











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