トピック

行政と企業の協働で学びを変える、SB C&Sが貫く教育への向き合い方

【特集企画】活用から変化へ、その先の学びをつくる(後編)

今までの延長線上にあるICT活用では、学びは変わらない。京都府はこうした問題意識のもと、GIGAスクール構想の初期から大胆な組織改編と独自の教員研修で教育の在り方を問い直してきた。

本特集では3回にわたり、その歩みを探る。前編では京都府の取組を整理し、中編では京都府亀岡市の実践事例から学校現場の変化を紹介。後編では、京都府とSB C&S株式会社との連携から、学びに変化をもたらすヒントを考える。

京都府が実施した「 エバンジェリスト育成研修 」は、教員の教育観・授業観を問い直し、府内全体に授業改善の機運を広げた。 前編 では、京都府の制度設計や狙いを、 中編 では、その学びを地域で生かす亀岡市の実践をお届けした。

本編では、こうした取り組みを支えてきたSB C&S株式会社(以下、SB C&S)に焦点を当てる。教育現場の課題が複雑化する中、企業の支援は不可欠であるが、一方でその関係性が学びの質に影響を与えることもある。教育現場と企業は、パートナーとしてどのような関係性であるべきか。京都府とSB C&Sの取り組みからそのヒントを探る。

📊 【特集企画】活用から変化へ、その先の学びをつくる
前編育みたい「人間像」を起点に、京都府が取り組んだ変化の火種をつくる教員研修
中編京都府亀岡市に学ぶ、「授業を変える教員」を育てる仕組みと課題
後編:行政と企業の協働で学びを変える、SB C&Sが貫く教育への向き合い方

現場と一緒に、一つのチームのように働く

「新しいテクノロジーをいち早く、より使いやすい仕組みやかたちにして全国にお届けする」というソフトバンク創業以来の役割を担うSB C&Sは、国内外のIT製品やクラウドサービスの提供から、導入後の運用支援までを展開するIT流通事業を担う企業。

教育分野では、2012年から「エデュケーションICTチーム」が参入し、教育機関へのiPad導入を中心に、Apple製品の技術面や活用面の双方を支援してきた。教育現場への深い知見とノウハウが求められるAppleの公式パートナー「 Apple Premium Education Partner 」および「 Apple Professional Learning Provider 」に認定されており、「 Apple Professional Learning スペシャリスト基礎インストラクター 」も国内最多となる7名が在籍。Apple製品を導入した教育機関に対して数多くの継続性のある活用サポートを提供し、全国400以上の教育機関への導入・支援実績を持つ。

SB C&S エデュケーションICTのWebページ

SB C&S の教育事業は、導入の先にある「 現場がめざす教育の実現 」に重点を置いている。端末などの環境整備をゴールとせず、教育機関が掲げるビジョンやめざす教育の姿を深く理解したうえで、その実現に向けて現場を支えていく姿勢を一貫してきた。SB C&S エデュケーションICTチームを統括する古泉学氏は、同チームの取り組みについて次のように語る。

「教育事業に参入して14年が過ぎましたが、振り返って思うのは、企業が自治体を『伴走する』というよりも、自治体と『 一つのチームのように一緒に働く 』という感覚を大切にしてきました。単に要望を聞いて支援するのではなく、 現場の方々とめざす教育の実現に向けて一緒に悩み、考え、プロジェクトを進めていく 。私たちが目指しているのは、そうした関係です。ただ、正直に言えば、まだ理想のところまでたどり着けているとは思っていません。だからこそ、関わる人たちと一緒に、最後まで突き詰めていきたいと考えています」。

SB C&S エデュケーションICTチームを統括する古泉学氏

教育現場と企業の関係は、ともすると「支援する側/支援される側」という構図で語られがちであり、ビジネス視点になると、損得で教育が語られてしまう危うさもある。そうした中で、SB C&Sが重視してきたのは、どちらかが主導する関係ではなく、 同じ課題を共有するチームとして向き合うこと 。現場がめざす教育の実現に向けて何ができるか。その問いに向き合い続ける姿勢が、SB C&Sの教育事業の根幹にある。

「気軽に相談できる窓口」から始まった関係

こうした「チームとして向き合う」という姿勢は、SB C&Sが当初から理念として掲げていたものではない。14年にわたる教育現場との関わりの中で形作られたものであり、その象徴的な事例が京都府との取り組みである。

SB C&Sと京都府の関係は、2016年の京都府立清明高等学校へのiPad導入が出発点だった。この頃はまだ、公立高校でiPadを1人1台端末として整備する事例は少なく、これをサポートしたのがSB C&Sだった。

2016年、京都府立清明高等学校で使われていたiPad(画像:筆者提供)

当時、京都府が直面していたのは、ICT環境整備に関わる全体像が見えづらいことだった。個々の事業者はそれぞれ専門領域の提案を行うが、ICT環境全体をどう設計し、端末をどう運用していくのか。この問いに答えられる存在がいないことに、府は課題を抱えていた。

「京都府が求めていたのは、府立高校のiPad導入に向けて全てのことを中立的に相談できる窓口がほしいという要望でした」と古泉氏は語る。「当時は、私もコンサルタントのような立場で関わり、 まずは『気軽に相談できる窓口』に立つことから始めました 。iPad導入の技術的な支援に加え、運用や活用も含めて、京都府がどのような教育をめざしているのかを理解しながら一緒に考えていく。企業と自治体の役割を切り分けつつも、めざす方向は同じだという気持ちでやっていました」。

SB C&Sは京都府と「京都府立高等学校におけるICT環境の整備に関わる協定書」を締結。その後、GIGAスクール構想が本格化し、SB C&Sは京都府の「GIGAスクール構想 事業全般のコンサルティングアドバイザー」に就任し、京都府におけるICT環境整備から活用支援を一手に担うことになった。結果、分断されがちな課題や現場の困りごとに行政と同じ目線で向き合ったことが、相互の関係性や取り組みに生かされていく。

教育現場の「多様な視点のひとつ」として存在する

「相談できる窓口」としての関わりを重ねる中で、両者が着手したのはGIGAスクール構想初期の「エバンジェリスト教員育成研修」の立ち上げだった。府内に導入されたiPadを現場で生かすために、教員研修の在り方が重要なテーマになっていた。

ところが古泉氏によると、研修計画を立てて実施すること自体が目的化している側面があったという。そこで、「 そもそも何のために研修をやるのか 」という問いを京都府に投げかけ、議論を重ねていった。

「京都府の皆さまと一緒に考えたのは、子供たちの学びをどう変えたいのか、という問いでした。そして、学習指導要領や教育施策を踏まえつつ、たどり着いたのが『創造的な学びを育む』という指針です。そこから逆算し、研修の在り方を考え、操作を教えるのではなく、 先生方のマインドセットを変える研修を目指しました 。新しい挑戦のハードルを下げ、先生方がワクワクしながら授業デザインを描けるようにしたかったのです」(古泉氏)。

こうして生まれたのが、「エバンジェリスト育成研修」である。前編でも紹介した通り、同研修は、教員のマインドチェンジを起点に、課題発見、対話、実践を重ねながら、教員自身が教育観・授業観のアップデートをめざすもの。SB C&Sが抱える実績豊富な専門家が講師を務め、各市町村から選出された教員を対象に、学びの変化を担う教員育成を狙いとした。

古泉氏は、エバンジェリスト育成研修について、「一番高いハードルは、新しいことの内容ではなく、新しいことに挑戦する心理的な壁です。だから研修では、先生方が『やらなくてはならないこと』と受け止めて取り組むのではなく、 子供たちのために先生が、授業がどう変わるべきか、という前向きな視点を大切にしました 」と語る。

エバンジェリスト育成研修の様子

このように、企業が教育現場と共に教員研修を設計するのは、決して多くない。ましてや、マインドチェンジを軸に教員の意識改革に踏み込む事例はめずらしい。しかし古泉氏は、こうした研修が実現したのは、教育現場において企業が「 多様な視点を与える存在 」として関われたからだと説明する。

「先生がICTを活用して授業スタイルを変えることは大変な挑戦です。だからこそ、その挑戦が子供たちの学びを良くするものかを、教育委員会も、先生方も、企業も、 多様な意見を持ち寄りながら一緒に考えることが大切 だと思っています。企業は答えを持つ存在ではありませんが、外部の視点が入ることで新たな気づきが生まれ、先生方の前向きな挑戦を後押しできます。このような関わり方を許容された京都府の姿勢にも大きな意味があると思います」(古泉氏)。

成果よりも「目の前の人」を優先する、その先に生まれた新たなビジネス

一方で、こうした自治体との関わり方は、企業の立場から見れば、必ずしも合理的とは言い切れない側面がある。企業が求める成果に直結するわけではなく、数字として可視化しにくい取り組みでもあるからだ。しかし古泉氏は、その発想そのものを否定する。

「ビジネスの世界では、『これをやったら損か得か』と考えるのが当たり前です。でも、その判断軸が一番上に来てしまうと、自治体や教育現場との関係は続きません。大切なのは、 いま目の前にいる人のために何ができるかを第一に考えること 。その姿勢を貫けば、結果は必ずあとからついてくると私は信じていますし、チームにも同じことを伝えています」。

実際、SB C&SがGIGAスクール構想第2期から提供を開始した、技術サポートと活用支援を一体化したサービスは、多くの自治体で採用されているという。同サービスは、長年にわたり 教育現場と向き合う中で培ってきた考え方やプロセスを、他の自治体でも活用できる形に体系化したもの で、技術面の支援に加え、年4回の研修を組み込み、その内容は各自治体の課題や状況に応じて設計される。

いわばオーダーメイドの研修というわけだが、古泉氏は長年の経験から、「現状を把握できれば、課題は必ず見えてくる」と語る。具体的には、アンケート形式でiPadの操作スキルだけでなく教員のキャリアや年齢、意識状況を分析する。抽象的なばらつきや教員の意識をデータとして可視化したうえで、めざす教育の実現にむけて研修を設計し、共にチームとして働くというのだ。

まさに、自治体と同じ方向を向いていなければ成立しないサービスであり、SB C&Sがこれまで大切にしてきたマインドを体現しているといえる。

アンケートの分析結果イメージ

AI時代にこそ問われる「見取る力」、本質に立ち返る視点の重要性

GIGAスクール構想第2期を迎えたいま、現場が直面する課題は複雑化し、教育そのものを変えていくことが、これまで以上に問われている。

そうした状況における課題点について、古泉氏はAIの活用だと語る。「国や学校がどれだけ準備をしようとしても、テクノロジーの進化の方が圧倒的に早いです。これからAIを禁止したり、抑止する動きも出るでしょうし、事故やトラブルも起きると思います。そのとき、教育現場と企業がどのように向き合うのかが非常に重要な課題だと考えています」と語る。AIは大きな可能性を秘める一方で、同時にリスクも抱えている。また、子供たちのAI活用もどんどん広がり、その勢いを止めることは難しい。

「AIをどう授業に使うかではなく、 AIと向き合っている子供たちをどう見取るか。その“見取る力”の方が本当は大事 だと思っています。結局は人間力ですね。これはDXも然りで、活用効率化や率を目的化するのではなく、『 それによって何が生まれたのか 』『 誰がどのように豊かになったのか 』を問われなければなりません。教育現場も企業も、その本質に立ち返れるかどうかが重要になってくると思います」。

左より)SB C&S エデュケーションICTチーム 渡邊兼太氏、古泉学氏、掃部関健太氏

教育現場と企業は対立する存在ではなく、同じ方向を向くことができれば、学びの質を高められることがSB C&Sの取り組みからわかる。主役はあくまでも教育現場だが、先が読めない激動の時代において、社会の多様な視点を持ち込める企業の存在も大きな意味を持つ。何を導入するかではなく、学びを変えるために、誰と、どんな議論をするか。教育現場と企業が信頼のもとに協働することで、学びをより豊かなものへと深化できる。

Apple, iPadは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。