トピック

『せっていのとびら』で子どもに寄り添う端末へ、Dynabookが目指した誰一人取り残さない教育環境

―島根県益田市の実践事例

個別最適な学びや協働的な学び、探究学習など子どもたちが主体的に学ぶ場面でICTは欠かせない。一斉授業のスタイルが変わりつつある中、子どもたちの可能性をさらに引き出すためには、どのようなICT環境やサポートが必要なのか。

島根県益田市とDynabook 株式会社は、すべての子どもたちにとって学びやすい環境を目指し、Windows PCで使用できるアクセシビリティ向上ソフトウェア「せっていのとびら」を開発した。多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが増えている今、求められる学びの環境を益田市の実践から探る。


一貫して目指してきたのは、子ども主体の学び

島根県西部にある益田市は、人口約4万3000人の自然豊かな街。市内には小学校が15校、中学校が9校ある。山間部には「過疎」という言葉の発祥地とされる旧匹見町もあるなど人口減少が進んでいる地域で、中心部以外の学校では複式学級が増えている。

島根県西部にある益田市

こうした背景から、益田市はGIGAスクール構想以前より、積極的にICT活用に取り組んできた。2016年度からは、Windows PCによる1人1台端末の実証実験をDynabookと協働研究で進めている。

益田市教育委員会 学校教育課 主任 田村陽介氏

益田市教育委員会 学校教育課 主任 田村陽介氏はICT活用について、当初から目指してきたのは、教師主導から子ども主体の授業へ、学びを変えていくことだったと話す。

「子どもたちがもっといきいきと主体的に、子ども同士で対話をしながら学びを進めていく、そんな授業に変えていけるよう、一貫して取り組んできました。ICTは、子どもたちのできることを広げてくれるツールであり、教師主導の授業が変われば、子どもたちは端末を使いながらよりいっそう活動的になれると考えています」と語る。

こうした教育を実現するために、益田市が採用した端末はWindows PC「dynabook K50」だ。Windowsの選択理由について田村氏は、教員が慣れていること、社会で広く使われていること、Microsoft 365 Education A1ライセンスで使えるアプリが豊富なことを挙げた。

「dynabook K50」について田村氏は、画面とキーボードの付け外しが自由なデタッチャブルタイプが子どもたちの主体的な学びに合っているという。「音楽室や理科室に行ってタブレットで撮影したり、砂埃の校庭の中で使ったり、学校の外に持ち出したりと、タブレットとしても使えるからこそ、子どもがどこにでも持ち歩くようになり活用頻度が高くなると思います」と語った。オフィスで使うビジネス用PCと、子どもたちの多様な活動に応えるPCは異なるというのだ。

教室外でも使うからこそ活用が広がる


教師の指示ではなく、子どもたちが考えて使う

全国的にも早い時期からICT活用に取り組んできた益田市。子ども主体の学びを目指す中で、授業はどのように変わってきたのだろうか。

益田市立鎌手小学校では、タブレットが文房具として定着し、子どもたちは授業や休み時間、放課後など、いつでも持ち歩き、必要に応じて使っているという。

たとえば、理科や社会では、実験や校外学習で見たものを動画や写真に記録したり、体育では実技を録画して友達と作戦を考えたりする。習字のときは、自分の作品と手本を写真に撮り、画面内で横に並べたり重ねたりして見比べながら改善点を探す児童もいる。このような使い方は教師が指示をしなくても、子どもたちが自分で判断しながら使っているという。

さまざまな学びにタブレットは活用されている

また総合的な学習の時間では、子どもたちが自ら見つけた課題に対して、タブレットを使って情報収集したり、考えたことをアウトプットして発表する機会も増えた。同校の教諭 岡本 博氏は、「タブレットによって自分の考えや表現したいことを先生や友達に共有しやすくなり、学習意欲が上がってると感じます。見た目もきれいにまとめられるので楽しんで取り組む姿が見られます」と語ってくれた。

益田市立鎌手小学校 教諭 岡本 博氏

ほかにも、複式学級の多い益田市ではMicrosoft Teamsで複数の学校をつなぎ、オンライン合同授業を実施している。子どもたちが多様な意見に触れられるよう対話する機会を設けたり、家庭との連絡にもMicrosoft Teamsを活用したりと、ICTを通して、学校間・学校外のつながりを築いている。

岡本氏は、このような学びを支えるdynabook K50について、「子どもにとって使いやすく、壊れにくいのが良いと思います。授業内容によって異なりますが、通常の使い方であれば授業中にバッテリーが切れて困ることもありません。安心して使えるのがいいですね」と語った。


自分の文房具をさらに使いやすく「せっていのとびら」

タブレットが文房具として定着しつつある益田市であるが、岡本氏は活用が進む中で、ひとつの課題を感じていたという。

「個別最適な学びと言われていますが、そこにたどり着く前段階で画面が見えづらい、文字が読みづらいなど、学びづらさを抱えている児童がいます。これだけ学校でタブレットを使うようになった今、自分で使いやすいように設定を変更できることは大切だと考えていますが、子どもたちがWindowsのアクセシビリティにアクセスするのは階層が深く、むずかしいと感じていました」(岡本氏)。

そもそもアクセシビリティとは何か。子どもや大人、障がいの有無に関係なく、自分の見え方や聞こえ方などに合わせてPCを使いやすくする機能を指す。Windows 11に標準搭載されており、文字の大きさやマウスポインターだけでなく、画面のコントラスト、カラーフィルター、音声読み上げなど自分が使いやすいように設定できる。

Windows 11に標準搭載されているアクセシビリティの一部

岡本氏は、このアクセシビリティの設定に子どもたちがすぐにアクセスできるよう、Dynabookに相談を持ち掛けた。そして、実現したのが、「せっていのとびら」だ。

「せっていのとびら」の画面。ソフトウェア自体はdynabookの専用ページからダウンロードし、Microsoft Intuneで児童生徒の端末に配布することも可能

結果、子どもたちはデスクトップにある「せっていのとびら」のアイコンから簡単にアクセシビリティにアクセスできるようになった。

岡本氏は「Dynabookが私の相談を真摯に受けてとめてくれて、できあがったときは嬉しかったですね。子どもたちに『せっていのとびら』でこんなことができるよと教えたら、すぐに触り始めました。自分以外の誰かが、こういうアプリを必要としていることを知る良い機会にもなりました」と語る。

田村氏は、「せっていのとびら」で救われる子は相当数いると話す。「タブレットは文房具の存在を超えて、これがなければ学校生活が成り立たないツールになっています。その入り口で、使いづらさを感じている子どもたちのハードルを軽減できることは大きい。外国籍の子どもが動画を見るときに読み上げ機能が使いやすくなると、とても助かると思います」と語った。

子どもだけでなく、教員もアクセシビリティを知ることで使いやすくなったという声があったという。

Dynabookが公開している「せっていのとびら」の動画。資料も用意されている


とことん子ども目線を大切にした「dynabook K70」

Dynabook株式会社 西日本支社 中国支店 支店長 筒井裕之氏

Dynabook株式会社 西日本支社 中国支店 支店長 筒井裕之氏によると、「せっていのとびら」は、すべての子どもたちが違和感なく触れるよう、デザインに配慮されていると話す。

「教室で『せっていのとびら』にアクセスした児童・生徒が、障がいや発達特性があるからアクセシビリティを使っていると思われないよう、すべての子どもたちが抵抗なく触れるデザインになっているのが特徴です。多様なバックグラウンドを持つ児童・生徒が何らかの理由でタブレットを上手く使えない状況を回避でき、文部科学省が掲げる『誰一人取り残さない教育』に適したものだと思います」と筒井氏は語る。

「せっていのとびら」で使いやすく

開発にあたっては、マイクロソフトや岡本氏にも協力を依頼し、設定項目を絞り込み、より使いやすく、より設定しやすく、検討を重ねて現在の形になった。小学校低学年でも読めない漢字がないよう、文字もわかりやすく、見た目にも親しみのあるデザインになっている。

DynabookはGIGAスクール第2期において、「せっていのとびら」が物語っているように、「子ども目線」を重視し、GIGA端末も子どもたちが活用しやすい製品を複数そろえている。Windows PCでは「dynabook K70」がそうで、落下に強くて滑りにくい堅牢性を備えるとともに、本体重量約1,097g、ディスプレイのみの重量は約590gという軽量化を実現した。見た目も子どもたちが文房具として愛着が持てる、温かみのあるデザインだ。

GIGAスクール第2期対応のWindows PC「dynabook K70」

筒井氏はWindows PCについて、「インターネット環境がなくても、パソコンとして使えることが最大のメリットです。Windows 11であれば、校務用と学習用のパソコンを1台にまとめられるので先生方の働き方改革、校務DXにも貢献できるのも魅力です」と述べた。


子どもたちの可能性を広げられるICT環境を

益田市では今後、GIGAスクール第2期において、小中高の12年の学びを蓄積する学習eポートフォリオの活用や、学校や地域を越えた横に広がる学びに注力してくと田村氏は語る。

「過疎地であるがゆえに小さい学校で、子どもたちは皆がよく知っている関係性の中で温かく見守られながら育っています。それは良い環境ですが、見知らぬ世界に飛び込んだときに子どもたちがやっていけるか。どんな世界に行っても、将来困らないような体験をさせてあげたいですし、自分の夢を叶えていけるような力を伸ばしてほしいと考えています。ICTで子どもたちの可能性を広げていきたいですね」と語った。

GIGAスクール第2期では、単なる端末の更新ではなく、学びの変革が求められている。タブレットが子どもたちの日常的な道具となった今、子どもに寄り添いながら活用を進めることで、学びが進化することを益田市の取り組みが示している。子どもたちの視点に立ち、寄り添えるかどうかが、学びを変える鍵になると言えるだろう。