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マインクラフトで”本気”を見せる子どもたち。作品をつくる熱量が未来を拓く力になる!

――「Minecraftカップ2021全国大会 最終審査会・表彰式」レポート

子どもたちの力作が勢ぞろい。「Minecraftカップ2021全国大会 最終審査会・表彰式」で大賞を受賞した作品は?

教育版マインクラフトを使った作品コンテスト「Minecraftカップ2021全国大会 最終審査会・表彰式」が2022年1月30日に開催された。第3回目となる今回のテーマは、「SDGs時代のみんなの家、未来のまち」。地球上で人々が豊かに暮らし続けるためには、どのような家やまちが理想なのか。健康や福祉、環境問題などSDGsの目標を取り入れて未来の世界をマインクラフトで表現する。

今回は幼稚園児から高校生まで、3,087人が大会にエントリーし、応募総数はチーム・個人合わせて484作品に達した。その中から1次審査、2次審査を通過した20作品のファイナリストたちが最終審査会に登場し、最終プレゼンテーションを披露。どのような作品が賞に輝いたのか。大会の結果とともに会場の様子をレポートしよう。

表彰式会場はマイクラの中!「小林さんち」でトロフィーの授与

配信会場は、積水ハウスの「Tomorrow’s Life Museum 関東」

今回のMinecraftカップも前回大会に続き、ファイナリスト20組は全てオンラインでの参加となった。一方、配信会場は、大会のゴールドパートナーである積水ハウス株式会社の体験ミュージアム「Tomorrow’s Life Museum関東」(茨城県古河市)に設けられた。ここは、積水ハウスの巨大展示施設のひとつで、7つのモデル住宅と、広場中央にはツリーハウスがある。そんな贅沢な空間の一画に配信会場が設けられ、最終審査会が進められた。

配信会場には、審査員、大会関係者、メディアのみが集合。厳重な感染対策のもと開催された

今回の最終審査会では、各チーム/個人に7分のプレゼン時間が与えられた。最初の3分間で事前に収録した動画を披露し、続いて2分間のライブによるワールド説明、最後に審査員との質疑応答という流れで発表する。審査基準は「構想力・調査力・技術力・計画力・作品完成度」の5つで、ファイナリストたちはこうしたポイントも踏まえて、最終プレゼンで作品の魅力をアピールする。

ちなみに表彰式は、7つあるモデル住宅のひとつ「小林さんち」がマイクラの中で再現され、「小林さんち」のリビングでトロフィーが授与されるという憎い演出が用意されていた。前回大会でお目見えしたマイクラ世界のコロッセオ会場に、ファイナリストらが集結し、受賞者はこの会場からテレポートして「小林さんち」まで移動し、トロフィーを受け取る。この家も、審査員であるプロマインクラフターのタツナミシュウイチ氏による力作で、実に精巧に再現されていた。

表彰式は前回同様、マイクラ世界に作られたコロッセオ会場にファイナリストたちが集結する。受賞者はここから小林さんちに移動してトロフィーを受け取る
マイクラの中に作られた「小林さんち」
実際の「小林さんち」
トロフィーの授与は「小林さんち」のリビングで…という憎い演出

マイクラの作品づくりを通して、どれだけテーマに向き合えたかがポイント

今回のテーマは「SDGs時代のみんなの家、未来のまち」。まだ社会との接点が少ない子どもたちにとって、「SDGs」を知り、課題解決のアイデアを考えて、それをマイクラで表現することは簡単なことではない。しかし、ファイナリストたちの作品は、どれもSDGsについてよく調べられており、作品の出来栄えに審査員は驚いていた。

大賞・建築賞のW受賞:熊谷武晴さん「EREC -地球蘇生実験都市」

熊谷武晴さん「EREC -地球蘇生実験都市」。動画はまるで壮大なSF映画のような世界観。

大賞に輝いたのは、中学3年生、熊谷さんの作品「EREC -地球蘇生実験都市-」。ERECとは、「Earth Revival Examination City(地球蘇生実験都市)」の略で、地球を再生するためのヒントは地球外にあるという発想をベースに、今の世の中には存在しない数々の施設や超未来的な世界を表現。人が農耕社会に回帰することで自然との共生を試みる施設「人類旧化施設」やオゾンホールの課題を解決する「オゾン散布超高高度航空機」、また、SDGsが実現した社会の価値観にも考えを発展させ、「知恵の神殿」「命の墓」などスピリチュアルな施設も作成した。

「オゾン散布超高高度航空機」。オゾンを散布するというアイデアに審査員もびっくり
人間と動物が同じ場所で眠る「命の墓」

熊谷さんが発表した3分のプレゼン動画は、まるで壮大なSF映画のような世界観。審査員一同、吸い込まれるように見入っていた。また審査員をさらに驚かせたのは熊谷さんの構想力。「制作の前にたくさんの絵を描いて構想を練った」という熊谷さんのデッサンが映し出されたときは会場もどよめいた。鈴木寛審査委員長は、「構想力や建築が素晴らしいのはもちろん、SDGsについて入念に調べ、地球を蘇生するという独特のコンセプトのもと、人類の旧化や命の墓などSDGsの深い部分まで考えられた作品であることに感銘をうけた」と称えた。

「たくさんの絵を描いて構想を練った」という熊谷さんのデッサン

優秀賞(個人部門):はやぶささん「ふクリンシティ」

小学1年生・はやぶささん「ふクリンシティ」。SDGsを広げたいとオリジナルキャラクターも制作

優秀賞の個人部門に輝いたのは、小学1年生のはやぶささんの「ふクリンシティ」。風力発電や太陽光発電、車椅子のまま入れるお風呂のあるバリアフリーハウスやバイオ発電など、SDGsの9つの課題を解決する施設を数多く作った。また町のシンボルとしてオリジナルキャラクター「ふクリン」を生み出し、なんとも可愛い世界観を見せてくれた。

作品の見どころは、何度も試行錯誤したという、回るプロペラや水車。クロック回路とコマンドブロックで動く仕掛けを作った。またバリアフリーハウスは、実際に車いすを体験してから作るなど、小学1年生ながらこだわりのある作品づくりに取り組んだ。審査員からは「学んだことを楽しく表現し、多様な人を幸せにするワールドであることが伝わる」と評価された。この作品は三菱地所賞とのW受賞。個人的にはプレイヤーのスキンにも、この「ふクリン」が入っていて、「それ、教育版マイクラどうやって作るのかちょっと教えて欲しい」と思った。

実際に車いすを体験してから作ったバリアフリーハウス
クロック回路とコマンドブロックで作った回るプロペラ

優秀賞(チーム部門):Coderdojo Ishigaki(11人)「つなげるココロ ~人も動物も植物も笑顔のまち~」

Coderdojo Ishigaki「つなげるココロ ~人も動物も植物も笑顔のまち~」 。今回も緑と水の美しい世界観を見せてくれた

団体部門の優秀賞は、11名からなるCoderDojo Ishigakiの作品。CoderDojo Ishigakiとしては、2019年の第1回大会から個人/チーム含めて3回連続の受賞となった。審査員のKazuさんも「毎年の成長を親戚の人のような感覚で見てしまう」とコメント。常連チームとして、今年も地元愛にあふれた壮大なスケールの作品を見せてくれた。

Coderdojo Ishigakiのみなさん

作品では、SDGsの達成に必要な人のココロの進化を、街と住居内を循環する清流として表現。清流が流れる山、滝、湖、川などの自然も制作し、住宅で浄化された水が街中を流れることで、人間や動物、植物がスマイルでつながるという、美しい世界を築いた。制作では、最初の1ヶ月間はしっかりコミュニケーションの時間にあてる徹底ぶり。建築物のベースは全てプログラミングで作成してマス目を配置したり、SDGsについてもフィールドリサーチを行なうなど、ワールド建築、プログラミング、動画制作まで含めてチームの厚みが光る納得の受賞であった。

最初の1か月はひたすら話し合い、ワールド内にマス目を設置し、誰でもいつでも制作できる体制を整えた
住宅で水が浄化され、循環することで植物や動物、人が幸せにつながるSDGsの世界を表現

アイデア賞:SDGs クラフト Kids(4人) 「みんながしあわせに暮らせる家と街 〜空中道路でいきものたちを傷つけずに暮らす〜」

幼なじみで結成したSDGs クラフト Kids。自動レジスーパーや捨てられた動物たちの譲渡会など、チームで協力してSDGsに向き合った

8才の幼なじみチームによる作品。動物たちが怪我をしないようにと、道路を全て空中に設け、優しさあふれる世界のアイデアが評価された。また、ゴミを持っていくとリサイクルできるかどうかを判定して、金ブロックがもらえるプログラミングにも挑戦した。

クリエイティブ賞:Coding Lab Japan(19人) 「New CodeTropolis」

プログラミングはテストワールド(写真右)で何度も試行錯誤をしたという

ワールド内の全ての建築をプログラミングで進めた。19名の多国籍なチームによる作品のクリエイティビティが評価された。シンガポールの公共住宅やフランク・ロイド・ライトの建築から着想を得るなどリサーチも素晴らしかった。

コーディング賞:佐伯優樹さん「トイレをつかったTNT発電」

TNTをワールド内で利用するにあたり、Kazuさんの動画を参考にしたという

TNTが大好きという佐伯さん。住んでいる土地で電気を発電できる方法として、トイレの排泄物からTNTの原料を生成し、その爆風で発電をするという凄いアイデアを表現した。ほかにも、法律や火薬、発電方法についてもよく調べていたと評価された。

チャレンジ賞:雄太朗さん 「資源を大切に使う町 ~ゴミを有効活用しよう!~」

作品の見どころは、地下に埋め込まれたゴミを自動で運ぶ仕組み

CO2削減をめざして、ゴミ収集車を走らせないでゴミを焼却するにはどうすればいいか。ゴミとエネルギーの問題を一挙に解決する方法として、ゴミを自動で収集する方法を考えた。レッドストーン回路をきれいに張り巡らせ、見学者も楽しめるゴミ焼却施設に仕上げた。

インプレス「こどもとIT」賞:チーム逸般人(4人) 「私たちが考えた理想の街」

チーム逸般人(4人)「私たちが考えた理想の街」の作品。美しい街並みと丁寧な作り込みでセンスが光る

教育版マインクラフトの取材に長年携わる「こどもとIT」編集部は、マイクラで輝く子どもたちを応援すべく、今回の大会から「インプレス『こどもとIT賞』」を用意。「遊んでみたくなる工夫にあふれ、マーケットプレイスに出品できるくらい完成度も高いワールドに贈られる賞」だという。

この賞に選ばれたのは、5000キロ離れた場所に住む4人がひとつになった、チーム逸般人の「私たちが考えた理想の街」 。街の中心部にそびえたつツインタワーをSDGsの象徴として、細部まで作り込みが光る完成度の高いワールドであることが評価された。木材で作られたマンション、ヒートアイランド現象を防ぐために地下に埋められたクール道路、公園など、さまざまな施設を建築。ひとつ、ひとつが、中まで丁寧に作られていて美しい。

木材で建てられたマンション
地下に埋め込まれたクール道路
緑の配置も美しい公園

秀逸なのは、プログラミング。レッドストーン回路やコマンドブロックを使用して、大きくても動く空中電車を表現。またMakeCodeを使用してオリジナルの建築ツール「Axefiller」を開発したり、曲線や直線を描くアプリケーションも開発して、効率よくワールドを建築した。

受賞の際は、チーム逸般人を代表してそうまめさんが「自分たちは学校に行きづらい子が集まった、でこぼこのチームで、正直、ここまでの作品ができるとは思っていなかった。それでも『逸般人』という名前をつけて、でこぼこがあってもここまで頑張れたのは、マインクラフトのおかげだと思っている」と語った。

チーム逸般人のみなさん。メンバーは5000キロ離れた場所に住む

その他のアワードの結果は、以下の通りである。
・Microsoft賞 :てだこマインクラフター(9人)「がじゅまぁるランド」
・積水ハウス賞:浦和マイクラ部(CoderDojo 浦和)(9人) 「SDGsで未来を変えろ」
・日本ユニシスBIPROGY賞: 7人のクラフター(7人)「自然と共に育む未来 〜動物達と仲良く暮らすまち〜」
・農林中央金庫賞:吉川岳人さん(1人)「歴史が溶け合うSDGsの街~過去・現在・未来の交差点~」

広がる教育版マインクラフトの活用とさらなる可能性

Minecraftカップ実行委員長 鈴木 寛氏

最後に締めくくりとして、大会委員長の鈴木寛氏が挨拶。3087人の子どもたちがエントリーし、そこから484の素晴らしい作品が生まれましたことを改めて称えた。また、「子どもたちの活動に周囲の大人たちも巻き込まれていってほしい」と語っていたのが印象的だった。

年々、作品のレベルが上がってきたマイクラカップ。特に今年はSDGsという大きなテーマに対して、いかに自分事として捉えられるかが大切なポイントだったといえるだろう。またプロジェクト全体を通して、入念な情報収集や調査、下準備など、制作の進め方が重要になってきたと感じた。

今回、全ての作品をご紹介することはできなかったが、当日の詳しい様子は、現在も公式YouTubeチャンネルから見ることができるので、是非、じっくりご覧頂きたいと思う。子どもたちの作品は、本当に多様で、総合的な活動として成立していることがお分かりいただけるだろう。教育版マインクラフトは「新しい学びのプラットフォーム」であり、子どもたちの活動に大人も巻き込まれていくのが、良い学びにつながると思う。まだやったことがない人たちへの門戸は開かれはじめているので、皆さんも是非ご一緒に。

新妻正夫

ICT教育ジャーナリスト/ICTコンサルタント。2021年よりGlobal Minecraft Mentor、Microsoft Esports Leader。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主宰、STEAM分野で豊富な経験を持つ。コワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーター他、多方面で活動中。 教育版マインクラフトを活用した緩(ゆる)イースポーツ「はちみつカップ」の普及が最近のマイブーム。