レポート

教育実践・事例

Rubyを使ったゲーム作品が勢ぞろい、常連校のプログラミング文化を感じて

――第11回中高生国際Rubyプログラミングコンテスト in Mitaka 最終審査会

最終審査会に挑んだファイナリストたちと審査員

「つくりたいが世界を変えていく」をスローガンに毎年開催されている「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト in Mitaka(以下、ルビコン)」。去る12月4日、第11回目となる今年度の最終審査会がオンラインで行なわれ、一次審査を通過したファイナリストたちがプレゼンテーションと質疑応答に挑んだ。

今回は2つある部門のうち「クリエイティブ部門」は、残念ながら該当作品が選出されなかったものの、もう1つの「ゲーム部門」では最終審査に計7つの力作が並んだ。

ルビコンならではだが、今回もRuby業界の重鎮たちと若いクリエイターたちとの暖かい交流が見られた。当日の様子を振り返りながら、レポートをお届けしたい。

”遊んでみたい”と思わせてくれるゲーム7作品

今回の最終審査会に残ったのは、3校の中から中学生チームが2組と個人参加の高校生5名となった。ファイナリストたちは、6分のプレゼンテーションと4分の質疑応答に挑み、審査は技術力、独創性、発表能力、総合力といった観点で評価される。審査員は、毎年恒例であるが日本のRuby業界を代表する面々、Rubyの生みの親Matzさんこと、まつもとゆきひろ氏を筆頭に、以下の7名のメンバーとなる。

(順不同敬称略)
まつもとゆきひろ 一般財団法人Rubyアソシエーション 理事長
野田 哲夫 島根大学Ruby・OSSプロジェクトセンター長 教授
田中 和明 九州工業大学大学院 情報工学研究院 准教授
笹田 耕一 クックパッド株式会社
高橋 征義 一般社団法人日本Rubyの会 代表理事
森 正弥 デロイトトーマツコンサルティング合同会社執行役員
山内 奏人 当コンテスト2012 U-15の部最優秀賞受賞者、WED株式会社CEO

岩手県滝沢市立滝沢第二中学校 科学技術部からは2チームの作品が選出

まずは、ルビコンではお馴染みの岩手県滝沢市立滝沢第二中学校の科学技術部から。今回は中学生チーム2組が通過。以前のプレゼンで、グラフィック制作が大変だったと語っていたが、今回は、チームメンバーにグラフィック担当を加えて挑んでいたのが印象的だった。

・チーム「鰤が素振り」:作品名「芋がポテッと落ちたんじゃが」
一番手は、チーム「鰤が素振り」、作品名は「芋がポテッと落ちたんじゃが」。チーム名といい、作品名といい、誰もが聞いて笑顔になってしまう。とにかく"だじゃれ"にこだわっているようだ。ゲームは、アクションやシューティングなど異なる種類のミニゲームを3つを遊ぶことができる。だじゃれの提供者として、「3年生の皆さん」「先生たち」とスタッフロールに書かれていたのが、なんとも微笑ましい。楽しい学校生活が目に浮かぶようである。

だじゃれが溢れる「芋がポテッと落ちたんじゃが」

・チーム「IWATE」:作品名「Memento mori」
続いては、チーム「IWATE」、こちらのリーダー兼プログラマーの飛鳥さんは、前年度の優秀賞受賞者でもあり、グラフック担当2名とチームを組んでの参加となった。作品名は、ぐっと変わって「Memento mori(めめんともり)」。某アニメに出てきた巨大衛星兵器他、多数の作品のモチーフにもなっているラテン語の言葉で、「死を忘れる事なかれ」という意味。質疑応答の中でもMatzさんが、「どうしてこの名前にしたのか?」と質問していた。そりゃ、気になりますよね。

2011年の東日本大震災から10年が過ぎても、なお爪痕も残る岩手県。その記憶を留めたいという思いから、この言葉を選んだそうだ。ゲームは地元、岩手の広いマップの中をスゴロクで巡りながら各地の名産や名所について学んでいくというゲーム。ともかくデータ量が豊富で、同じシステムを使って、他の都道府県版も作成したら面白いだろうなと思った。プログラミングで、まだ習っていない逆三角関数を調べる必要があったとの苦労談も。ゲーム開発に数学は必要なようである。

Memento moriという作品名に込められたチームの岩手への思いが伝わる作品

愛媛県立松山工業高校からは個人3作品が選出

続いて、こちらも伝統ある愛媛県立松山工業高校メカトロ部から、個人参加の3作品が選ばれた。いずれも、ユニークな発想で、プレゼンの様子がともかく見ていて楽しい。

・松浦天斗さん:作品名「タイプスゴロク」
同校一番手は、松浦さん。今回で3回目の出場となる猛者である。作品のテーマが、タイピングが苦手な人や初心者の人でもスゴロクを組み合わせて楽しく練習できるゲームである。タイピングは小学校の間でも取り組んでいる学校が増えているようなので、是非とも配布してほしいと思った。

まさかの?タイピングとスゴロクの組合せ!

・村上 美乃里さん:作品名「睡眠冒険」
続いては、村上さんの「睡眠冒険」。作品名の重々しさに比べると、ゲームのグラフィックはとても親しみやすいものになっている。棒人間を動かしてミニゲームをクリアし、最後に気持ちよく寝かせてあげるまでがゴール。ゲームが苦手な人でも楽しいゲーム作りがコンセプト。睡眠不足に悩む大人たちにも喜ばれそうだ。

ほのぼのした画面デザインに親しみが湧く睡眠冒険。棒人間キャラが可愛い

・藤枝 侑瑞樹さん:作品名「Escape from Space」
同校最後のプレゼンは、1年生の藤枝さん。作品は、弾幕系ゲームの「Escape from Space」。シューティングではなく、弾幕を回避しまがらスタート地点からゴールまで移動するシステム。マップの構成が、難しそうだが、はまってしまいそうだ。

なかなか強烈な弾幕よけゲームの Escape fron Space。休み時間に遊んでみたい

島根県立出雲商業高校からは個人2作品が選出

3校目は、島根県立出雲商業高校。こちらも個人参戦が2名。しかも驚くなかれ、どちらもプログラミングとしてRubyを始めたのは高校入学後からで、Ruby歴は1年3ヶ月とか。まったく異なるテイストの2作品が並んだ。

・山岡 愛咲さん:作品名「TITLY」
山岡さんの作品は「TITLY」。いわゆる「いらいら棒」ゲームの一種。自分でも作ってみたいと思ったものの道具がなかったのでゲーム化したそうだ。見た目のデザインはとにかくシンプルで親しみやすく、誰でも楽しめそうだ。プログラムにも工夫が光る。この主のゲームでは、「あたり判定」をどう実装するかが1つの肝。座標を駆使しつつ、シンプルなコードを実現したそうだ。

ともかくシンプルなデザインに好感が持てるTITLY

・玉井 由大さん:作品名「出商喫茶」
玉井さんのゲームは、レトロ感もある喫茶店が舞台のミニゲーム。ここに出てくる店長さんのモデルが先生というのも楽しい。プレイヤーは店員になり、お客さんの注文を効率よくさばいていくというゲーム。これも展示しておいたら楽しそうだなと思った。お店のマップデザインのために、リアルなお店を調べてみたといった苦労談も。

レトロな感じも楽しい喫茶店が舞台の出商喫茶

最優秀賞は山岡さんの作品「TITLY」が受賞

審査を経て、最優秀に輝いたのは、出雲商業高校の山岡さんの作品「TITLY」。誰が見てもわかりやすいシンプルなデザインと、「誰もが楽しめるゲーム」としてしっかり作られていることやコードの内容も評価されたようだ。

最優秀賞に輝いたのは出雲商業高校の山岡さんの作品「TITLY」

また、優秀賞と複数のスポンサー賞にはチームIWATEの「Memento mori」が選ばれた。結果、最優秀賞と優秀賞に女子生徒たちの作品が選ばれたことになる。彼女たちの活動に、今後も注目していきたいところだ。

優秀賞とスポンサー賞2つを獲得したのがチームIWATEの「Memento mori」

その他、各賞、スポンサー賞の内訳は以下の通り。

最優秀賞 山岡 愛咲(島根県) TITLY
優秀賞 岩手県滝沢市立滝沢第二中学校科学技術部 チーム「IWATE」(岩手県) Memento mori
審査員特別賞 岩手県滝沢市立滝沢第二中学校科学技術部 チーム「鰤が素振り」(岩手県) 芋がポテッと落ちたんじゃが
審査員特別賞 松浦 天斗(愛媛県) タイプスゴロク
審査員特別賞 村上 美乃里(愛媛県) 睡眠冒険
審査員特別賞 藤枝 侑瑞樹(愛媛県) Escape from Space
審査員特別賞 玉井 由大(島根県) 出商喫茶

ソニックガーデン賞 岩手県滝沢市立滝沢第二中学校科学技術部 チーム「IWATE」(岩手県) Memento mori
Wantedly賞 岩手県滝沢市立滝沢第二中学校科学技術部 チーム「IWATE」(岩手県) Memento mori
エルソウル賞 玉井 由大(島根県) 出商喫茶
パーソルプロセス&テクノロジー賞 玉井 由大(島根県) 出商喫茶
ピクシブ賞 岩手県滝沢市立滝沢第二中学校科学技術部 チーム「鰤が素振り」(岩手県) 芋がポテッと落ちたんじゃが

最後に実行委員長のMatzさんから締めくくりのコメントが。ほとんどの人がゲームをプレイする側にいる現状の中で、つくる側に立つことができた参加者を賞賛。同じようにさまざまなソフトウェアが誰かの手によって作られていることに触れ、今後も継続してプログラミングを続けて欲しいと、にこにこ顔で語っていた。

いつにも増してにこにこ顔のMatzさんこと、まつもとゆきひろ氏

11回目となった今大会。結果として、継続的に取り組んできた地域や学校からの参加者が並んだ。地道に取り組みを続けられている関係者には頭の下がる思いだ。これは筆者の勝手な想像だが、先輩から後輩へとプログラミングの経験が受け継がれているのではなかろうか。

今回、最終審査に残った7作品。どれも個性的で、「ちょっとやってみたい」と思わせるような作品ばかり。取材しているこちらも、気づけば笑みがこぼれ、「あそんでみたいなぁ……」と何度もつぶやいてしまった。

中高生たちはそもそもポテンシャルが高く、きっかけと環境さえあればプログラミングを楽しみつつ、しっかりと作品を世に送り出せるのだなと思った。Rubyのお膝元島根県を筆頭に、毎年審査通過者を出している岩手県と愛媛県の各校で、どのように取り組まれているのか興味が湧くところである。コロナが落ち着いたら是非現地を訪れてみたいものだ。

最終審査会の模様はアーカイブで視聴できる