トピック

ICTが苦手な教員のホンネ、1人1台端末活用の心配や困りごとを語る!

~公立高校の教員によるICT活用座談会

ICT活用が広がるためには、どのような取り組みが必要なのか……

どの学校にも、ICTが得意な教員もいれば、そうでない教員もいる。しかし、授業改善や業務効率化のためには教員全体のICTスキルの向上が欠かせない。考えや立場の異なる教員をいかに巻き込みながら進めていくか、多くの現場で課題を抱えている。

そこで本稿では、「ICTが苦手な先生」「校内のICT担当の先生」「ICTが得意な先生(マイクロソフト認定教育イノベーター)」の3者に集まってもらい、1人1台端末の活用に関する座談会を実施。それぞれの意見に耳を傾けながら、どのようにICT活用を広げていけばいいか、そのヒントや秘訣を探る。

ご協力してくださったのは、愛媛県立西条農業高等学校の奥定智大教諭、篠原彩花教諭、野田昇吾教諭の3名。高校におけるICT活用は、小中学校に比べて課題も山積しているが、先生方の本音が語られ、気づきが多い座談会となった。

≫ICTの利活用と定着の秘訣がわかる無料セミナーはこちら(外部サイト)


生徒のICTスキルの差が、授業の遅れに影響しないか心配

愛媛県では2021年度より、全県立高等学校に1人1台端末として、公費でWindows端末が配備された。愛媛県立西条農業高等学校でも全学年の生徒に富士通のWindowsタブレット「ARROWS Tab Q5010」が導入され、現在は約230台の端末が稼働している。

愛媛県立西条農業高等学校

座談会の最初に話を切り出してくれたのは、地歴・公民担当で「ICTが苦手」だと話す奥定智大教諭だ。校務ではパソコンを活用しているものの、授業では地図や資料、動画を大型提示装置に映すといった補完的な活用に留まっているという。過去に1人1台端末の活用も試みたことはあるが、心配事があると話す。

愛媛県立西条農業高等学校 奥定智大教諭、教科は地歴・公民

奥定(敬称略): 1人1台端末の導入が始まってICTを活用しなきゃと思いつつも、授業はチョーク&トークで進めていて、ほとんど端末を使っていません。やはり、気になるのは、生徒1人1人のスキルの差ですね。パソコンを使ってどんどん調べられる生徒もいれば、ネットを使い慣れてなくて“どうすればいいの?”という生徒もいます。入力の速さも生徒によってかなり違うので、端末を使うと生徒のスキルの差が出てしまい、学習が進まないのではないかと心配してしまいます。

愛媛県立西条農業高等学校 篠原彩花教諭、ICT担当、教科は商業

篠原: そうですね。校内でICT担当をしている私から見ても、生徒たちはICTスキルの差が大きいなと感じます。本校で端末を使い始めた頃も、操作がわからない生徒のサポートなどで先生方の負担が増えてしまいました。

ICT担当としては、先生方に対しても活用を広げていきたいですが、予備機が5台と少ないことが課題です。端末が破損・故障した場合、生徒に貸し出すにも十分ではなく、端末がないまま授業を受ける生徒がいると、先生方のICT活用も進みません。高校生といっても、破損やトラブルは起きてしまいますし、生徒が端末を忘れたりもするので、もう少し予備機の台数があるといいなと思います。

あとは、破損・故障時の補償も課題です。今年度から無償修理が適応されなくなったため、各家庭に保険加入を案内していますが、すべての家庭が入っているわけではないので金銭的な課題も出てきました。こうした故障・破損時に備えて体制を整備していくことが、現場の活用を進めるうえではとても重要だと考えています。

愛媛県立西条農業高等学校 野田昇吾教諭、教科は農業。マイクロソフト認定イノベーター(MIEE)

野田: たしかに、予備機はもっとあるといいですよね。端末を忘れてくる生徒や充電切れの生徒も多いですし。それが理由で、生徒が授業についていけないからとICTを使わない先生もいるかと思います。ですが、どの授業でもICTを使う私から言うと、授業で毎時間使うことが習慣になれば、端末を忘れる生徒も減ってきますよ。やはり、とにかく使っていくことが大事だと思うんですよね。

奥定: そう、それは、わかっているんですけどね、ただ、正直なことを言うと、「ICTを使う」というところから入るのは違うんじゃないの?って思いますね。ICTはあくまで手段だから、そこから入るのも違和感がありますね。

野田: なるほど。私は新しいものに対して好奇心旺盛なタイプなので、ICTもすぐに飛びつきました(笑)。授業だけでなく、校務でもICTを活用することでかなり楽になるので、先生方には積極的に使ってもらいたいです。

奥定: たしかにICTを使えば、便利で楽になるというのは分かります。でも、いざ自分でやろうと思うと、どこから手をつけたらいいのか悩んでしまって。明確なニーズが最初にあれば、ICTを使うきっかけとして取っ掛かりやすいのかなと思いますね。


Formsを活用したアンケートは、苦手な教員にもインパクトあり

奥定教諭のように「ICTは便利だとわかっていても、何から始めていいのかわからない」という声は多い。学校内ではどのようなカタチでICT活用を進めていくのが良いのだろうか。

野田: 授業のICT活用から始めるのは理想だと思いますが、実際はかなりハードルが高いと考えています。そのため、本校では今まで紙で扱っていた校務をデジタル化するところから始めました。

その中でも、多くの教員にインパクトがあったのはMicrosoft Forms(以下、Forms)を活用したアンケートでした。今までのアンケートは、用紙の印刷から配布、回収や集計と膨大な時間がかかっていましたが、Formsを使うことで集計も瞬時にできるようになり、作業にかかる時間が大幅に削減されました。

奥定: たしかに。Formsを使ったアンケートはICTが苦手な私も便利だと思えました。Formsを使うようになって、アンケート結果を「正」の字で集計することからは卒業できましたからね(笑)。

野田: そう、それです! ICTが苦手な先生にこそ、校務でICTを使って「作業が楽になった」とか、「仕事が早く終わるようになった」と実感してほしいです。

篠原: 授業だとFormsは、小テストにも使えますよね。採点も楽になるので、どの先生もICT活用として使いやすいと思います。

Formを活用した小テストを実施している様子

野田: あとはやっぱりMicrosoft Teams(以下、Teams)ですね。本校では欠席連絡をTeamsで確認するシステムに変更し、教員が毎日1回はTeamsを開かざるを得ない環境にしました。毎日の業務に自然にICTを活用することで慣れていただきたいと思っています。

篠原: 実際にTeamsの使い方も広がってきましたよね。Teamsで校務連絡をしたり、職員会議の資料もTeamsにアップして共有・蓄積したりとデジタルに変わってきました。手元にパソコンがなくても、スマートフォンで確認できるのでいいですよね。

野田: さらに欲をいうと、本当は職員会議の議事録をMicrosoft OneNoteで作成して、変更点をすぐに書き込める共同編集ができるようになれば、かなり効率的に進められるのですが、そのためには教員全体のボトムアップが欠かせないですね。

奥定: 教員にもスキルの差がありますからね。でも、ICTが得意な先生はどんどん進めていけばいいと思いますし、逆に、苦手な人は自分のペースで進められたらいいですよね。たとえば職員会議の資料も、いきなりペーパーレスにするのではなくて、必要な人には紙で配るけど、いつの間にかデジタルにシフトしていた、といった進め方ならいいかも。そういう寛容な部分があればいいですよね。

西条農業高校では備品管理もデジタル化している


ICT活用は想定外だらけ。わからないことを話しやすい環境が大事

校務のICT活用を進めるとともに、教員は授業でも1人1台端末の活用が求められている。新しい挑戦には失敗もつきまとうが、どのような不安や課題があるのかを聞いた。

野田: 授業におけるICT活用は、教員の得意不得意にかかわらず、想定外のことが起きるものと思っています。私の場合は、今の生徒たちなら端末の操作もある程度できるだろうと思っていたら、大間違い。実際はログインにかなり時間を費やして、あたふたしてしまいました。生徒たち、自分のメールアドレスを入力するだけでも、すごく時間がかかるんですよね。

奥定: そういえば、野田先生のクラスは、ホームルームの時間を使ってタイピングの練習をされていましたね。

野田: やりました(笑)。そこで止まったら先に進めないと思って、苦手な生徒は放課後や朝に練習していました。

奥定: 私もそんな風に生徒のスキルを伸ばしたいのですが、「この時間はそれが目的じゃない」と思うことがあります。また以前、ネットで調べ学習をしたときに、まったく関係ないサイトを見ている生徒が何人かいて、「一旦、全員閉めろ~!」と言うくらいしか対応が思い浮かばず、どうすれば良かったのかと……

授業中に生徒が端末で余計なことをしたらどうすべきか。多くの教員が頭を抱える課題でもある

篠原: 私も想定外のことや、失敗経験はたくさんありますよ。全校集会をオンラインで配信したとき、ノイズキャンセリングをしたつもりが、前で話している野田先生の声まで消してしまい、生徒たちに届いてないことがありました(笑)。

ほかにも、情報科の部屋にいると、毎日いろんな先生が「Formsの使い方を教えてほしい」とか、「拡大表示したのに元に戻らない」など相談や困りごとを抱えて来られます。こちらも余裕があればいいのですが、業務や授業で忙しくなると、つい、「貸してください」と端末を取ってこちらでやってしまいます。本当はその場できちんとやり方や対処法をアドバイスしていくべきだと反省しています。

奥定: 私も情報科の先生にお世話になっている一人ですみません(笑)。でも、各教室のプロジェクターに「よくある質問リスト」を配布していただいたのは、本当に助かりました。簡単なトラブルなら、それを見ながら自分で解決できるようになり、情報科の部屋に走っていくことも減りましたからね。

野田: なるほど。でも一方で、研修を実施するのは、先生方も集まらないし、あまり効果的ではないんですよね。だから、先生方がそれぞれ好きな時間に学べるようにとMicrosoft SharePointで活用方法をまとめた動画を共有しているのですが、再生回数は少なくて……ICTを推進している立場としては、一体、どうしたらいい?と思っています。

奥定: 理想をいうと、すぐ近くに聞く人がいると嬉しいですよね。たまに私も「聞く相手を間違えていますよ」と思いながら、質問をされると調べて答えたりしていて(笑)、わからないことを話しやすい環境が大事なのかなと思います。

西条農業高校では農業の授業でタブレット端末を使うことが多い


ICTでやってみたい、生徒が楽しめる授業

このように、さまざまな課題に向き合いながらもICT活用を進めている西条農業高校。現在は、1人1台端末を使ってどのような授業が行なわれているのだろうか。

篠原: 私は商業科なので普段からPowerPointで資料を作成し、発表時はスライドを黒板に投映するのではなく、Teamsに画面共有をして提示しています。そうすればコロナで自宅療養している生徒も同じように授業に参加ができるので、便利ですね。

野田: 私の授業では、グループで調べた内容をPowerPointや動画にまとめて発表し教え合ったり、共同編集で意見を共有したり、発表することに主眼を置いています。こういう授業になると生徒がかなり主体的になってくれるので、このやり方がいいなと思っています。

特に、動画を作成したときは、“こんなに楽しそうにやるのか”と驚きました。やる前は、私がある程度、教える必要があると思っていたのですが、やってみたらテキストを音声に変えたり、映像を細かく切り替えたりと、生徒同士でサクサク作って、私が作るよりもはるかに良いものができあがりました。作品の展示場所としてSharePointを活用していていますが、VRを使うと、さらに生徒は積極的に参加してくれます。

最近は教育版マインクラフトと組み合わせた活用も始めました。生徒が作った理想の校舎や教室を3Dエクスポートしてみんなで観ています。何かを生み出すのはクリエイティブで生徒たちも楽しんで取り組みます。VR空間なら無限に環境を作るのでもっと突き詰めていきたいですね。

教育版マインクラフトを活用した授業

篠原: 商業科でも3Dを使った学習をしてみたいです。ビジネス英語の授業では毎年、興味のある国について調べて、ツアーを組む活動をしているのですが、今は画像をPowerPointに貼ってツアーを紹介するだけなので、何かもうひとつ、面白いことができないかと考えています。生徒たちには、もっとその国を楽しめるような体験の機会を与えたくて、野田先生の力を借りてバーチャルで海外旅行を楽しめるような授業をしてみたいです。

奥定: そのつながりでいうと、私は「桃太郎電鉄 教育版」を使ってみたいです。私自身「桃鉄」で地理を覚えた経験があるので、これを授業で使うことができたら、生徒たちはもっと楽しめるのではないかとワクワクします。ICTは苦手ですが、生徒たちが楽しく学べるツールならやってみたいと思いますね。

座談会を終えて……

今回お話を伺った3名は、それぞれICTに対する考えや立場は異なっていても、授業や生徒に対する想いは同じで、楽しく学ぶことに対しても共通理解があった。授業でのICT活用推進も簡単ではないが、校務のICT化から取り組みを始めた西条農業高校の事例は、どの学校にとってもヒントになるはずだ。

教員が持つICTスキルとそれぞれのアイデアを掛け合わせて、より充実した授業が行なわれるよう、多くの学校でICT活用が広がることを願ってやまない。

子どもたちの新しい学びと一人ひとりの幸せ(Well-being)を目指して
本記事でもお話を伺った野田教諭をはじめ、様々な立場と視点から授業や校務の変革を推進されている教育者の取り組みをご紹介するセミナーが、無料で公開されています。いつでも視聴可能ですので、お時間のある時にご覧いただき、これからの教育活動にお役立てください。
≫ワンチームで実現する GIGA スクール セミナー
~いつでもはじめられる ICT 利活用と定着の秘訣~ (教育委員会からの視点編)


また、高等学校でのWindowsデバイス選びの資料もこちらからダウンロードできます。あわせてご覧ください。