トピック

Windowsを選んだ高校、中学校GIGA環境と大学進学後を見据えた学びの姿とは

――兵庫県⽴⻄宮今津⾼等学校 1人1台端末活用レポート

兵庫県では2022年4月より、全県立高校でBYODがスタート

今年の高校1年生は、中学校でGIGAスクール端末が整備され、1人1台端末による学習を経験した最初の生徒たちだ。高校に進学しても同様のICT環境で学べるようにと、高校でも今年度から1人1台端末を導入した自治体は多い。

兵庫県もそうした自治体のひとつ。この4月から県内すべての高校で1人1台端末を導入した。国の予算で進められた小中学校のGIGAスクール構想とは異なり、各高校が端末を選定し、保護者が費用を負担するカタチではあるが、公立高校でも生徒が1人1台の端末を活用する時代がやってきた。

では、実際どのように整備が進められ、活用されているのだろうか。Windows端末を導入した、兵庫県立西宮今津高等学校の様子を紹介しよう。

BYODだからこそ、進学後も見越してWindowsを選択

兵庫県立西宮今津高等学校(兵庫県西宮市)は、単位制の総合学科で「家庭」「情報」「体育」「音楽」「美術」「英語」の6つの専門教科を設置

兵庫県立西宮今津高等学校(以下、西宮今津高校)は、2007年に普通科から、さまざまな専門科目を学べる総合学科へと変わった公立高校。生徒一人ひとりが希望をもち、多様な夢が実現できる教育をめざして、高校2年生から情報や家庭科、体育、美術など、さまざまな分野の専門科目が用意され、ユニークな授業を受けることができる。

兵庫県では2022年度の新高校1年生より、すべての県立高校で1人1台端末の導入を決定した。県からは、MDM(Mobile Device Management)として「Microsoft Intune」か、学校が費用負担する他のMDMのいずれかで管理できる端末、という条件が提示され、端末の選定自体は各学校の判断に委ねられた。各高校はその条件をもとに端末を選定。学校として必要なスペックや学校推奨端末を提示し、それに準ずる端末を各家庭で用意するというカタチで県内一斉にスタートした。

西宮今津高校の端末選定に関わった情報科の白井美弥子教諭は、「使えるMDMがMicrosoft Intuneだったので、まずはWindowsとiPadのどちらを選ぶかを考えました」と語る。重視したのは、中学校のICT環境と高校を卒業してからも使える端末であること。西宮今津高校は、生徒の9割が西宮市在住のため、多くの生徒が中学校から慣れ親しんでいる端末を使いたいと考えた。西宮市はGIGAスクール構想でWindowsを選んでおり、このことは白井教諭の端末選定に大きな影響を与えたようだ。

兵庫県立西宮今津高等学校 情報科 白井美弥子教諭

一方で、「家庭負担で購入する高校の端末選びは、大学でも使えるかどうかを考えることが重要」と白井教諭。「進路先の大学を調べていくとWindows端末を必携にしているところが多く、高校のうちから大学生になっても困らないスキルを身につけておくことや、購入した端末が大学でも使える方が望ましいと考えWindowsを選定しました。生徒によっては大学入学時のタイミングで買い替えがむずかしい場合もありますからね」(白井教諭)。

こうした点を踏まえて、白井教諭は端末をWindowsに決定。「GIGA端末を上回るスペック」を学校としての最低要件とし、この要件を満たしていれば、生徒たちの好きな機種を使うことも可能とした。

西宮今津高校が生徒に提示した1人1台端末の最低要件。
※この要件以外に、3年保証と持ち手のついたケースの購入が必須となっている

・OS:Windows(Windows10、あるいは、Windows11とする)
・形状:タブレット型、あるいは2-IN-1型
・ストレージ: 128GB以上
・メモリ: 8GB以上 
・画面:10.0インチ以上、13.0インチ以内(タッチパネル機能付き)
・無線:IEEE802.11a/b/g/n/ac 以上
・カメラ:インカメラを備えること
・外部接続端子: USBポート2つ以上(1つはUSB3.0対応のものが望ましい)
・重さ:1.3kg未満(バッテリーパック、キーボード込)

これらの要件を元に学校推奨端末として選んだのが、10.1型2in1デタッチャブルPC「dynabook K60」だ。白井教諭は選択理由として、「dynabook K60はヒンジの部分がしっかりしていて、机からすべり落ちにくく安定感があるのが気に入りました。自転車通学の生徒が多いので、リュックサックに入れて持ち運びしても丈夫で安心できるのが良いですね」と語る。

西宮今津高校が学校推奨端末に選んだのは、10.1型2 in 1デタッチャブル「dynabook K60」。保証込みで7万円を切る価格帯

また、情報の授業では学校のUSBメモリにインストールしたい実行ファイルを入れて生徒に配ることもあるため、USB Type-Aのポートを備えていることも必須条件だったそうだ。さらに総合学科として実技や演習など専門科目の学習で映像を使う機会も多いと考え、タブレット状態でデジタルカメラとして使えるよう、2in1のデタッチャブルにもこだわった。

結果、240名の生徒のうち234名が「dynabook K60」を選択。残りの6名はSurface Proなど別の機種を選んだが、多くの生徒が学校推奨端末を選び、学校指定の業者から購入したという。

ちなみに、西宮今津高校のICT環境は、パソコン教室が2教室あり、そのうち1教室には3Dプリンターも整備されている。ほかにも2020年に整備された共用パソコンのSurface Go 2が120台整備されており、これらの端末は主に2~3年生が普通教室で活用している。

パソコン教室と3Dプリンター。西宮今津高校では情報システム実習や情報コンテンツ実習などで、ユニークな授業が行なわれている
図書館にある充電保管庫で管理されている共用パソコンのSurface Go 2。主に2~3年生が活用している

小テストの採点時間は1/5に大幅軽減。成績処理の正確性も向上

この4月から高校1年生の1人1台活用が本格的に始まった西宮今津高校。半年弱しか経っておらず、まだまだ手探りの段階と白井教諭は話しているが、さまざまな場面で活用を試みている。その中でも多くの教科で利用が進んできたのは、「Microsoft Forms(以下、Forms)」を活用した小テストと、「Microsoft Teams(以下、Teams)」を活用した課題配信だ。

Teamsの課題配信機能でFormsのテストを配布し自動採点。一覧で管理できる

白井教諭の場合、今年から高1「情報I」の小テストはすべてFormsに切り替えた。作成した小テストは、Teamsの課題配信機能で生徒の端末に配り、生徒は計算が必要な場合は別用紙に手書きし、Formsに答えを記入して提出。小テストは瞬時に自動採点されるため、その結果を見ながら生徒たちの理解度を把握し、間違いが多かった問題については授業内で解説することも可能になった。

Formsで作成した小テスト

「今まで小テストの返却は、次の授業でできたら良いほうで、悪いときには祝日などが重なり20日くらい経ってしまうこともありました。それが今は瞬時に採点ができて、あとは見直すだけ。今まで生徒40人分の小テストを採点するのに1時間くらいかかっていましたが、1/5くらい時間短縮ができています」(白井教諭)。

ほかにも、Formsを使ったテストのメリットとして、部分点が配分できるところを挙げる。たとえば、3問正解で5点の選択問題という場合、2つ正解していれば3点の部分点をカウントするなど、教師の裁量で点数の配分を変えることができる。さらに選択式の問題については、カンニング対策として生徒の端末ごとに選択肢をランダムに表示することも可能。小テストの結果もインサイトを使ってデータを生徒に表示することで、「“この問題を間違えた生徒はこういう部分も間違えるから気をつけて”とデータを見せながら説明すると、生徒たちも納得できるのか、間違いが減る傾向も見られます」と白井教諭は語る。

Formsで作成した選択式の問題。部分点の配分も可能。カンニング対策として、選択肢は生徒端末ごとにランダムに表示される
Formsで作成した小テスト。回答ごとにインサイトが設けられ、データを見せながら生徒にフィードバックできる

そして何よりも、小テストをFormsで行なう一番のメリットは、「採点の正確性が増すことだ」と白井教諭は話す。今までは小テストを実施した後、校務パソコンで成績処理をする際に、入力ミスや転記ミスが発生していた。それが今では小テストの結果をデータで書き出し、校務系の所定の場所にアップロードするだけ。入力ミス・転記ミスを事前に防ぐことが可能になった。

「Formsを使った小テストは、自動採点によって採点作業が効率化されたことも良いことですが、教員の入力ミス、転記ミスを減らせるほうが大きなメリットです。高校は一つひとつのテストが生徒の進路に関わるため、こうしたミスを事前に防ぎ、成績処理の正確性が増したことに価値を感じています」と白井教諭は語った。

一方、効率化によって生まれた新たな時間はどのように使われているのか。教師によっては、生徒と話す時間や教材研究の時間に使えているようだ。そもそも小テストの採点は多くの教員が定時を過ぎてやるか、休日に学校に来てこなしていた業務だという。その分の時間が短縮され、教員の働き方改革につながりつつあるという。

Whiteboardやmicro:bitを使ってプログラミングの考え方に触れる授業を

白井教諭は高2・高3の情報システム実習の授業で、思考やブレインストーミングの際に「Microsoft Whiteboard(以下、Whiteboard)」を利用している。このツールは、文字通りホワイトボードに付箋を貼ってアイデア出しをするようにカジュアルに使えるのが特徴。複数人で話し合いをしながら付箋を並べ替えたり、自由に書き込んだりしてアイデアをまとめていくことができる。

Whiteboardでプログラミングの手順を可視化して考える

白井教諭は、プログラミングの前段階の学習としてアルゴリズムを考える場面で活用。「まっすぐにしか進まないちりとりロボットを動かしてゴミを取るためには、どのような動き方が効率的か」という課題を与え、生徒たちはどういう手順でロボットを動かせばいいのか、アイデアを出し合う。生徒一人ひとりがWhiteboardの付箋でアクションを書き、それを画面上で動かしたり、並べ替えたりしながら手順を可視化して考えた。

「Whiteboardでは、付箋にどんどんアイデアを書き込んで、間違ってもすぐに消したり、見づらいときは付箋を大きくしたりしながら、グループのメンバーが一緒に作業できます。生徒たちの姿を見ていても、いろいろなアイデアを出しやすくなったと感じます。コロナ禍で学校に来られない生徒もいるので、離れた場所にいても教室と同じような作業ができるところも良いですね」(白井教諭)。

ほかにも高3情報システム実習の授業では、micro:bitの無線通信機能を使ったプログラミング学習に挑戦。無線通信の信号を受信したときに音が鳴る仕組みをつくり、複数のmicro:bitを制御して輪唱のようなメロディーを再現した。

今の高校3年生はプログラミングを学んでいない生徒が多く、micro:bitなど活用して、少しでも社会で使われている仕組みやプログラミングに触れてほしいと白井教諭は思いを語る。今後は、Pythonの学習にも挑戦してく予定だ。ロボットのセンサーで収集したデータをどのように活用するのがよいか、Pythonで分析するような授業をつくっていきたいと話す。

micro:bitを活用したプログラミング画面

生徒たちの直感的な振り返りから見つける新たな気づき

白井教諭は、今後もっと活用していきたいツールとしてTeamsのインサイト機能を挙げた。なかでも、生徒が自分の気持ちや感情に合ったマークを送ることができる機能「Reflect(リフレクト)」を活用したいという。

Teamsに設けられた「Reflect(リフレクト)」。小学校などでは朝の会で今日の気分を伝えたりするのに利用している

白井教諭はこのReflectの機能を授業の振り返りに利用。生徒たちは、その日の授業をどのような態度で取り組んだのか、自分の気持ちに近いマークを選んで答えていく。もちろん生徒たちには、どのマークを選んでも成績が不利になることはないと伝えておくと、意外にも正直に答えてくれるという。

ある授業の振り返り。「疲れた気持ち」「集中」「好奇心」「不安な気持ち」など、同じ授業を受けても、生徒たちの受け止め方はさまざまであることがわかる

白井教諭はReflectについて、この4月から高校に導入された観点別評価に活用できないかと利用を試みているようだ。新しい評価では、生徒自身が主体性を自分で評価することが求められており、Reflectでは直感的に自分の気持ちを選べる点が良いというのだ。

「生徒は授業の振り返りを書くことが多いのですが、いいことしか書かない傾向があります。主体性については、生徒自身が自分で正確に振り返ることが大切で、その手段としてReflectのようなマークを使って直感的に自分の気持ちを選べるのは良い方法ではないかと考えています」(白井教諭)。

一方、Reflectは教員と生徒の接点を増やすきっかけにもなるようだ。授業ごとに前後のデータを比較できるので、連続してネガティブなマークを選んでいる生徒には、“何かあったの”と教員の方から声をかけられる。「高校の教員は、担任や部活動の顧問をやっていないと生徒との接点はそれほど多くありません。こうしたツールを使って生徒たちの気持ちにきづき、何か困りごとがあれば声をかけていきたい」と白井教諭は述べた。

授業ごとにReflectの結果を表示。前後で比較し、ネガティブな気持ちが続いている生徒には声をかけるきっかけになるという

“自分の学習ツール”として使っていく、今はその土壌をつくる段階

白井教諭は4月から始まった1人1台の活用について、「今はさまざまな利用を通してサンプルを集めており、まだまだ手探りの状態だ」と話す。生徒たちも中学の時にGIGAスクール端末で1人1台を経験しているものの、高校入学当初は自分の端末にもかかわらず「使っていいの?」という雰囲気が続いていたようだ。

しかし、今は徐々に端末を使うことにも慣れてきて、分からないことがあったら、サッと端末で調べる生徒も出てきた。国語や家庭科の授業でデジタル教材を副読本として利用したり、Teamsを使って教科や部活動の連絡をしたりと、“自分の学習ツール”として活用する姿が見られるようになるにつれて、生徒の主体的な使い方も広がっていくだろう。校内では教員研修も行ない、「~をやってみたいけどどうすればいい?」といった質問も教員から出るようになり、学校全体でICTを使っていこうという土壌ができつつある。

今後の課題について白井教諭は、Windows 11へのアップデートをあげた。現在の高校1年生はほとんどがWindows 10を利用しており、どのようなカタチでアップデートするのかが課題だ。学校のネットワーク下で実施すると回線がパンクするため、それぞれ個別にやってもらう仕掛けをつくる必要があるという。

全国的に始まった公立高校の1人1台環境。教育委員会主導で進められたGIGAスクール構想と異なり、高校の場合は学校が舵取りをしなければならず、むずかしい部分もあるかもしれない。しかし、社会に近い高校生ほどICTを思う存分活用しておくことが重要だ。高校から飛び出したその後の世界では、ICTを創造的に使っていくことが求められる。貴重な高校3年間のうちに、さまざまな活用で世界を広げてほしい。