レポート

トピック

悩ましい子どものタブレット利用、先生と保護者はどう考える?

――ICT CONNECT 21「GIGAスクール構想 先⽣と保護者の懇談会」オンラインイベントレポート

学校で子どもたちがタブレット端末を使うようになり、保護者や教師は新たな心配事を抱えるようになったが、両者が向き合って課題を共有できる機会は少ない。

そうした課題に対して、一般社団法人 ICT CONNECT 21は「GIGAスクール構想 先生と保護者の懇談会」のオンラインイベントを継続的に実施し、教師と保護者が、GIGAスクール構想により登場した新たな課題に対する考えを語り合う場をつくるいう。

昨年12月に開催された第1回は「情報リテラシー育成を学校と家庭でどう分担すべきか?」がテーマ。当日の模様について、イベントを主催したICT CONNECT 21の利用促進部会 研修サブ部会よりご寄稿いただいた。

登壇者
・津下哲也 氏︓岡⼭県備前市⽴⾹登⼩学校 教諭
・浅井公太 氏︓静岡市・⼩学校 教諭
・稲垣忠 ⽒︓東北学院⼤学⽂学部 教育学科 教授
・⿊澤絵⾥⾹ 氏︓⼩5・⼩2・年⻑3⼈の保護者、福島市在住
・阿部智 氏︓中2の保護者、宮城県在住
・野本 ⻯哉 ⽒(司会)︓ICT CONNECT 21 GIGAスクール構想推進委員会 利⽤促進部会 研修サブ部会

※)登壇者の意見はあくまで「個人」として答えのない中で意見を述べているものであり、所属組織であったり、教員・保護者全体の意見を代弁しているものでないことには留意されたい。

家庭におけるタブレット端末の活用に関する工夫と悩み

黒澤絵里香さん

――まずは、家庭でタブレット端末をどんな風に活用しているか教えてください。

黒澤さん(保護者): 自宅でiPadを使うときの約束事として、「リビングで使うこと」「何時何分まで使うのか、子ども自身が決めること」の2つを決めており、「この2つを守れたら次も使える」というカタチでうまくいっています。また、学校から持ち帰るiPadは、基本的に学習にしか使えないので自分の部屋で使っても良いとしています。

阿部智さん

阿部さん(保護者): 自宅のiPadを使う機会が多く、学習よりはYouTube利用が多いです。また学習に使っていたはずが、いつの間にかゲーム実況動画を見ていたこともあり、iPadに時間制限を設けています。ただ、制限しても、子どもが調べものや勉強したい時にGoogle Chromeすら使えなくなるので、要望があれば適宜解除しています。

――情報リテラシーについては、どのように考えていますか?

黒澤さん(保護者): YouTubeにもよい学習系動画があるように、どの情報が良いのか、正しいのか、子どもたちの判断力がつくまでは、小さな怪我ならいっぱいして良いと考えています。ただ、木登りのように危険が目に見えるのであれば、大怪我をする前に”危ないよ”と言えますが、ICTは危険が見えないのが親としても怖い部分があります。その辺りのバランスにいつも悩みますね。

阿部さん(保護者): iPadだけじゃなく、最近はテレビもYouTubeにつながっていることを覚えてしまいました。テレビの方は夜間の利用制限が難しく、注意しても際限なく見てしまうことがあります。一方で、自分のやりたいことでもあるので、「すり抜けていこうとする情熱」みたいなものはすごく強い。こういう情熱をメディアを操作する力だけじゃなく、自分のためになるようなことに使ってほしいと思っています。

子どもの自主性に委ねながら活用を広げる

――先生方は、子どもたちのタブレット端末の活用について、どのような考えをお持ちなのでしょうか。

津下哲也氏(岡山県備前市立香登小学校)

津下氏: 勤務する自治体は7年前から1人1台環境が揃っています。子どもたちのリテラシーを高めるためには活用経験が必要で、活用が進むと「こういうイベントをしたいから端末をこう使いたい」と自主的に使えるようになっていきます。

7年間の経験の中で感じていることは、自分たちのやりたいこととICTの活用が結びつくこと「が」大切で、それができるようになると、本当の意味で“使える”ものになっていくと感じています。だからあまり制限はせず、むしろ上手に子どもたちのやりたいことを押していくという感じを大切にしていますね。

浅井公太氏(静岡市・小学校)

浅井氏: 私のクラスでも基本的に、あまり制限をせずに、休み時間も触ったり、授業中も自由に触ってよいという形でやっています。一方で、子どもたちは失敗もよくしますね。私自身も、教室という安全な空間で使って、失敗して悩んで、そういう経験が子どもたちの学びにつながると思い2年間やってきました。

去年の話ですが、端末の持ち帰りをした時、夜にチャットルームが開かれ、「今日何食べた?」「ハンバーグだった」みたいな学習に関係のない会話が2時間ぐらい続いたことがありました。2〜3日様子を見ましたが、盛り上がる一方だったので子どもたちに使い方について聞くと、「まずいと思います」とやっている本人が言う。

そこで、子どもたちで話し合って学級のルールを決めることになりました。一番印象的だったのは「ふざける言葉を使いすぎない」というルール。「使わない」のではなく「使いすぎない」というのが子どもらしく、そこからは荒れずに、正しい言葉を使うようになりました。

稲垣忠氏(東北学院大学文学部 教育学科 教授)

稲垣氏(有識者): 私が関わっていた福島県新地町の小中学校では、GIGAスクール前から端末の持ち帰りに積極的に取り組んでいたのですが、使い方はドリル系のソフト、授業の事前学習として家で動画教材などをみてくる、自分の作品を作ってくる、といったものが多かったです。学校ではお互いが自宅で作ってきたものを共有したり、事前に考えてきた内容で交流し合う時間もたくさんありました。

一方で、端末の持ち帰りは、はじめから全員が納得していたわけではありませんでした。理解が広がったのは、保護者が自宅で、子どもが学習に活用する姿を見るようになってから。授業の続きをやったり、事前課題に取り組んだりと、自宅で子どもたちが端末を使って学ぶ様子を見てはじめて、学校で何をしているのかがわかるようになり、学習のために端末を使うという理解が広がったという状況がありました。

利用時間の制限は、意味のあるルールなのか

――端末利用については、学校でも、家庭でもルールを設けていると思います。ルールについては、どのようにお考えでしょうか。

津下氏: なぜルールがいるのか、そのルールは誰のものか、守らせたいのは誰か、ここを大事にしたいと考えています。

たとえば、うちの子どもは、週末はメディア漬けなのですが、よく物事を知っているんですね。「いつ、そんな知識を仕入れたの?」と聞いても「わからない、いつの間にか」「YouTubeとか」とかサラっと言う。そういう姿を見ていると、机に座って1~2時間勉強することと、YouTubeなどで知識を得ているのと、どちらが効果的で価値があるのか、最近よく考えます。

YouTubeで学べるようになった今、「YouTubeを禁止にする」ルールを作った場合、これは誰にとってメリットのあるルールだろうと考えざるを得ません。ルールにはメリットとデメリットが必ずあるので、親、子ども、学校など、誰にとってメリット、デメリットになるのかを常に意識しながら判断し、決めていく必要があると保護者としても、教員としても思うところです。

野本氏(司会): 確かに、その通りですよね。立場が違えば求めたいルールも異なります。参考になりそうなのが、新潟市教育委員会の事例でしょうか。

新潟市は最低限の端末利用ルールだけを決め、あとは各家庭の判断に基づいて、保護者が機能制限を設定できるように、iPadのスクリーンタイム(端末上の機能制限)の設定方法を市のホームページで公開しています。学校の制限だと足りないと考える家庭もいるので、これも良い事例だと思います。

「新潟市教育委員会『GIGA SUPPORT WEB』へようこそ」のページ。家庭に向けてスクリーンタイムの設定方法のマニュアルが公開されている

稲垣氏: 先行して1人1台端末に取り組んできた学校を見ていると、使い慣れていくと、ただの道具になってしまう、という状況をよく目にします。授業の中で使うのはもちろん、日々の連絡だったり、大人が仕事や生活でスマートフォンを使うのと同じように、子どもも当たり前のように使います。そういう状況になった時、果たして時間で制限することに、どれくらいに意味を持つのでしょうか。

例えば、遊びで動画を見たり、ゲームをしたりするのは家庭でコントロールした方がいいでしょう。しかし、本当に日常の道具として使うようになれば、単純な利用時間で制限するのはむずかしいし、考え方も変わっていくと思います。今は大学生も、PCでレポート書いたり、プレゼン作ったりするのが当たり前になっています。時間帯の制限は考える必要があっても、“1日何時間まで”といったルールのあり方は変わっていくでしょうね

ちなみに我が家の子ども(小4)は、動画やゲームのほかに、小説を書いたり、プレゼンを作ったりと、クリエイティブなことに使っています。こういうのって、親がモノを作り出すことに、端末を使う姿を見ていることも関係あるのかなと思っています。

野本氏(司会): 子どもたちがタブレットで何をやっているのかを知ろうとする前から、画面を長時間見ることが悪いみたいな文化ができてしまうのは、GIGA端末の活用の中でもすごくもったいないと思いますね。

保護者が持ち帰り学習に求めたいことは?

――持ち帰り学習については、どのようなお考えをお持ちですか?

阿部さん(保護者): 先生が子どもたちに課題を出すことによって、家庭で端末を使わざるを得ない状況が発生しますが、「家庭で自由に使っていい」という投げ方だと、ウチみたいにYouTubeのゲーム実況だけをずっと見続けるみたいなことが起きそうです。

学びのために使うという意識を持たせるためにも、宿題や課題に活用し、使えるようになるまでのガイドは必要だと思います。そうした積み重ねが「タブレットは遊びだけじゃなく、学ぶために使える」という認識になり、さらに自分の知識が増えた実感が伴ってくると何かが変わるような気がします。

浅井氏: 実は、この冬休み、持ち帰りをどうするか自分も悩んでいて、子どもたちに聞いてみたんですね。すると「端末を持ち帰ると生活リズムが崩れる」という意見のほか、「デジタルドリルが使えるのは勉強になる」「調べたことをまとめて中学校まで持ってきたい(※中学も同じアカウントを使う)」と意見が異なり、結局、自由選択にしました。

ほとんどの子は持ち帰りましたが、子どもたちは話し合いで「学習のために持ち帰る」と提案し、認識を合わせることができました。ほかにも、故障や紛失は避けよう、使用時間は1日1時間にしようという提案もありました。

ただルールだけを決めて持ち帰っても学びに繋がらないので、自由に選んで取り組める課題を用意して、“学びのために冬休み使ってね”と教員から手だてを打ちました。そんな形で、子どもたちが話し合い、使い方の方向性を決めて、学校がそれをフォローし、保護者にお願いする形で家庭に端末を持ち帰ることにしました。

黒澤さん(保護者): 確かに、子どもたちが課題を選んで取り組めたら、主体性が高まるでしょうね。うちの子どもたちは、ただ与えられたものに取り組むために端末を使っているように思います。子どもの様子を見ていると何か楽しいからやる、知りたい、使ってみたいという「want」の気持ちがあるから主体的に取り組んでいくと思います。

――先生方はタブレット活用で課題に感じている部分はありますか?

津下氏: 学校の文化の中で「休み時間は外で遊ぶもの」みたいな共通認識が教師にはあります。しかし、使えるようになってくると、休み時間に端末を使おうとする子が出てきます。そういう子に対して教師はどうアプローチするのか。外で遊ばせた方がいいけど、主体的に使おうとしているのを認めた方がいいのではないか?、という具合に、当初は私の中に価値観の揺らぎもありました。

他にも、何かを検索したとき、ある程度のフィルタリングはかかってサイトにはアクセスできないのですが、検索結果だけは表示されて、漫画の絵がずらりと画面に並ぶことがあります。そうしたときに、それを学校で見せていいのか、教師の価値観の揺らぎが出てきます。

一方で、それを乗り越えると、子どもたちが様々な活動や学習を自分で考えてやるようになっていく、という経験も私にはあるので、教師としてはそこを乗り越えるのが、ひとつのステップなのかもしれないと思います。

黒澤さん(保護者): それは、保護者も同じだと思います。自分の今までの価値観では対応できないところは、いっぱいあります。子どもと一緒に楽しめるポジティブさで乗り越えながら、情報リテラシーを身につけて、使い方の良し悪しを話しながら考えていけると思います。

親は、子どもの端末を制限するといっても、時間ぐらいしか基準がわからないのが正直なところです。使っている内容が、遊びなのか、学習なのか、曖昧な部分をどういう線引きでルール作りをしていけばいいのか、その方法すら保護者は分からないですが、一緒に学んでいくことが大切だと思います。

浅井氏: 保護者の方の思いをこうやってダイレクトに受け取る機会はなかったので非常に勉強になりますね。自分のクラスもすべてがうまくいっているとは思っていなくて、まだまだ悩みながらですが、やっています。保護者の方の悩みを共有できる、こういう場を増やしていきたいなと思いました。

ICT CONNECT 21 GIGAスクール構想推進委員会 利用促進部会 研修サブ部会から

ICT CONNECT 21ではこのように、先⽣と保護者がGIGAスクール構想後のICT活⽤を⼀緒になって考える企画を募集しています。教育委員会や学校、PTAの⽅、地域で学校と共に活動をされている⽅は、ぜひ以下のフォームからご連絡ください。

応募フォーム
https://forms.gle/ckqCXpYu3U5wskbY7
ICT CONNECT 21 GIGAスクール構想推進委員会 利用促進部会 研修サブ部会