トピック

高校生が挑戦する「DX」ー実社会で使われるIoTセンサーをどのように活用したのか?

ノーコードツール「Gravio」を活用した岐阜工業高等学校の実践

AI搭載IoT統合エッジウェア「Gravio」を使って、高校生がCO2濃度測定システムの構築に挑戦

今やAIやIoTの技術は生活の中に入り込み、ビッグデータを活用したサービスが次々に生まれている。さらにコロナ禍でDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速し、さまざまな現場で変革が求められるようになった。教育現場も例外ではなく、情報技術を学びに活用する動きがある。

岐阜県立岐阜工業高等学校 設備システム工学科では、この変化に柔軟に対応するために、テクノロジーによる課題解決を手軽に低コストで行なえるノーコードツールに注目した活動を実践している。それがアステリア株式会社の「Gravio(グラヴィオ)」だ。

Gravioは、エンジニアでなくとも簡単な操作でAIやIoTを活用したシステムを構築できるエッジ型のサービスだ。センサーによるデータ測定が容易で、カメラAIも可能な高度な技術をノーコード(※)で活用できるため、オフィスや店舗などで利用が進んでいる。このGravioの導入スピードの早さと問題解決手段としての価値に注目し、生徒たちがCO2の濃度測定をもとに"密回避"のシステムを構築した同校の取り組みを紹介しよう。

※ノーコード:プログラミング言語を使わずにシステムやアプリケーションを開発できる手法のこと

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コードの記述からの解放で、本当にやりたいことを重視

岐阜県立岐阜工業高等学校(岐阜県羽島郡)。大規模工業高校として90年以上の歴史がある

岐阜県立岐阜工業高等学校の設備システム工学科は、2002年に設置された比較的新しい学科。設備の分野でも特に空調に主軸をおいた教育を行ない、大手空調設備企業にも毎年多くの生徒が就職している。

同校設備システム工学科主任の山口剛正教諭は、生徒たちがテクノロジーを使い、楽しみながらモノを作り出す機会を大切にしている。例えば、プロジェクションマッピングにはもう7年ほど取り組んでいて、現在では人の動きに反応するインタラクティブな仕掛けにも取り組んでいるところだ。

そうした活動を続けていく中で、山口教諭は一つのジレンマを抱えてきた。それは「コーディングとその習得にかかる時間」だ。

デジタルなモノ作りには、プログラミングが必要になることが多い。しかし、そのプログラムを組むためにコードの書き方を教えたり、コードを書くという行為自体に多くの時間を取られる。その間に、本質的な「目的、目標」すなわち「やりたいこと」から、 生徒たちの気持ちが離れてしまう。

岐阜県立岐阜工業高等学校 設備システム工学科主任 山口剛正教諭

「プログラミングでは、アウトプットがどう出るかが一番重要で、面白いところですから、もっとその過程を単純化したものが欲しいと思っていました」と山口教諭。授業時間は限られており、本来力を入れたい部分に時間を使いたいというのだ。

そうした課題感を解決したのがAI搭載IoT統合エッジウェア「Gravio」だ。同製品は、ノーコードでAIやIoTの設計が可能なソフトウェア部に加え、センサーの提供までがサービスに含まれており、簡単かつスピーディーにやりたいことができる。

「Gravioは、自分の作ったものの結果をすぐ手元で確かめられるのがいいところです。トライアルアンドエラー、ビルドアンドスクラッチがすごくやりやすいです」。山口教諭は数あるセンサーの中からコロナ禍の実情にマッチするCO2濃度の測定センサーを採用し、2021年度後半からクラブ活動での活用をスタートした。


リアルなCO2濃度のデータを活用し、警告を促すシステムを構築

GravioでCO2濃度測定に挑戦したのは山口教諭が顧問を務める同校の設備システム研究部。室内のCO2濃度を測定し、一定の濃度に達したら警告を出して換気を促すシステムの構築に取り組んだ。

Gravioは、CO2濃度測定、温湿度センサー、人感センサー、振動センサー、距離センサーなどさまざまなセンサーデバイスと、LEDマトリックス(以下、LED表示パネル)やGravioライト(警告ライト)などの表示系デバイスと、それらの設定や動作を簡単に設計することができるノーコード型のソフトウェアがセットになっており、データの収集、活用が簡単にできる。クラブ活動では、これらのラインナップからCO2濃度測定デバイスとLED表示パネルを使用した。

Gravioのデバイス類。CO2、温湿度、人感などのセンサーと、LED表示パネル、警告ライトなどの表示デバイスがある

活動はまず、CO2の濃度測定の値を取得するところからスタート。センサーが取得する生のデータはGravioの各種設定を行なうアプリケーションGravio Studio上で確認できる。さらに取得したデータをもとに動作をノーコードで設定し、LED表示パネルに数値を表示した。

GravioのCO2濃度測定デバイスとLED表示パネル

情報教育において、データをさらにグラフなどの見やすい形にしたり、クラウドを活用して共有することはDXを意識した学習の上では重要。データを取得したままにせず、Gravioが連携できる「Microsoft Power BI」を使ってグラフ化して分析した。リアルタイムで取得データがグラフ化される様子は、静的なデータをグラフ化するのとは異なる臨場感がある。

Gravioのデータビューア画面(左)とPower BIでグラフ化した画面(右)

山口教諭によれば、コロナ禍以前から学校環境衛生基準で二酸化炭素濃度1500ppm以下に保ち換気をすることが望ましいとされているが、コロナ禍では飲食店に対して1000ppm以下が一定の基準として示された。これを受け、学校でも活動に応じて換気を強化するよう文部科学省から示されている。そんな実社会の動きを学習に取り入れ、生徒たちが実際に使えるシステムを簡単に開発できるのもGravioのメリットだ。

値を確認したら、いよいよ警告を促すシステムの構築だ。ノーコードで設定できる「アクション」と「トリガー」を設定していくことで、やりたい「しかけ」を作成する。それぞれ設定画面から必要な項目を選んだり指定するだけの操作で、プログラムのコード記述いらずで論理的思考力をフルに活用して設定できるのが特徴だ。

警告の方法として、1000ppmを越えたらLINEグループにメッセージを送るという仕組みと、LED表示パネルに「カンキスグニ」という文字を表示する仕組みを作成して警告システムを完成させた。

さらに、ネットワークカメラを設置して、AIによる画像解析で人数を測定する仕組みにも挑戦。Gravio Studioの設定に使うアクションには多種多様なコンポーネントが用意されており、人数の測定にはGoogleのTensorFlowをベースに開発されたオリジナルの画像認識AIを簡単に利用できる。

クラブ活動では、カメラから認識した人数データをPower BIで可視化するところまで行なった。この人数カウントとCO2濃度のデータの関連性から、新たな仕組みを生み出すことができそうだ。


「自力でできた!」喜びが、大きな学習効果につながる

実際にCO2濃度による換気警告システムに取り組んだ生徒たちは何を感じたのだろうか。設備システム工学科で設備システム研究部に所属する3年生の松田菜津美さん、多和田彩花さん、山本怜佳さん、平山晴大さんに話を聞いた。

設備システム研究部3年生のメンバー。左から松田菜津美さん、多和田彩花さん、山本怜佳さん、平山晴大さん

初めてGravioを使ってみて、最初は驚きの連続だったという。「全然知らないことばかりでした」(多和田さん)と話す部員たちにとって、Gravioの小さなデバイスでCO2濃度が測定できるということも、画面操作だけでさまざまな仕組みが作れるということも、新鮮な体験だった。

山本怜佳さん

一方で、いくらGravioがノーコードで構築できるからといって初めから簡単にできたわけではない。

「機能が豊富すぎて、どこを触っていいのかわからず、仕組みを理解するのに最初は苦労しました」と山本さん。そんな感想を皆持ちながらも、Gravioのブログなどを参照しながら自分たちの手で調べて、システムを構築していった。

多和田彩花さん

そうした過程の中で、生徒たちは自然と教え合いや協力体制が生まれていったようだ。多和田さんはその時の様子について「初めて聞く単語が多く慣れるまで時間がかかりましたが、探り探り考えたり、ブログで調べながら学んだり、4人で意見を出し合いながら理解を深めることができました」と語ってくれた。

また平山さんも、「全くわからない中で、調べたり協力したりしながら自分の役割を見つけてやっていくことで、少し自信を持つことができました」とコメント。Gravio未経験の高校生であるが、ブログの情報を活かしながら、自分たちで試行錯誤し、主体的に取り組んだ様子が伝わってくる。

そして、出来上がった自前のCO2濃度測定システム。実際にデータが表示されたり、警告の仕組みが動いたときは、「うれしい!」「すごい!」「楽しい!」「やっとできた!」と手応えを感じたという。「自分たちで学んでできるようになって、周りの人にもこういうものがあるんだよと伝えたくなりました」(山本さん)。まさに、山口教諭が生徒たちに味わってほしかったアウトプットの面白さを、生徒たちは体験できたといえる。

松田菜津美さん

さらに生徒たちの感想で注目したいのは、"密防止"というまさに今の社会課題に直結するソリューションを作ったことで、社会に役立つモノづくりをしたいという気持ちを醸成できたところ。

松田さんは、「コロナ禍の今、社会で役立つものを作ることができました。他にもCO2センサー以外のものも使って何か役に立つものを作りたいです」と意欲的なコメントをくれたほか、山本さんも「人が多い病院などではさらに役立つと思います」と、生徒たちが思いを広げているのがわかる。

平山晴大さん

また平山さんは、「換気が必要なときに、実際に窓を開けたかどうかまでCO2濃度測定ですぐにわかるわけではないので、ドアや窓の開閉をセンサーで連携させれば、さらに換気の状況がわかるようにできると思いました」と発展的な具体案も語ってくれた。システム設計の醍醐味は機能を付け足したりどんどんアレンジしていけること。その面白さを実感できたようだ。

平山さんは以前からプログラミングに少し興味はあったものの、難しそうで何から手をつけていいのかわからなかったという。今回の挑戦でノーコードツールを活用して、やりたかったことができてうれしかったそうだ。こうしたノーコードツールで仕組みを作り上げる感覚を得ておくと、ビジュアルプログラミングツールや、より習得に時間のかかるプログラミング言語に挑戦する際の気持ちのハードルが下がりそうだ。

話を聞く中で、生徒たちが語る中に繰り返し出てきたのは「楽しかった」という言葉だ。できることが楽しい、わかることが楽しい、知ることが楽しいと感じられる体験的な学びの姿が見えた。


授業でGravioを活用する価値〜体験的な学びと情報科でのポテンシャル

今回紹介したのは部活動での取り組みだが、山口教諭は高等学校の教科「情報」でGravioを活用する授業案も検討しているという。2022年度より実施された高等学校の学習指導要領では「情報」の内容が大きく再編され、誰もが学ぶ必履修の「情報I」にプログラミングやデータの活用、情報デザイン等の内容が入ってきたからだ。

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後半では、通常の授業にGravioを活用する意義や、クラブ活動での取り組みを実践する手順など、山口教諭にお聞きします。この続きはアステリア株式会社のサイトにてご覧ください。印刷可能な事例PDFもダウンロードできます。

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※製品に関するお問合せは、岡谷エレクトロニクスGravio製品紹介ページをご覧ください。